第7話 それぞれの想い②
突風と地響き、地面が大きく揺れる。
ユズと琥狼の男の近くいたアンデッドたちは、一瞬にして消え去ってしまう。
「マジかよ」
「吹き飛ばされるなよ」
地面に手をつき、離れた場所にいる2人に目をやる。
同じ髪、同じ瞳をした、男と女。
色の輝きが2人の違いを教えている。
力は男の琥狼が押しているように見えるが、上手く受け流している彼女の姿が見えた。
瞳の色の違いだけで別人に思えたのに、髪の色が加われば、それは伝承に残っている、もう一人の琥狼。
500年前、ライズン大陸をほぼ焦土に変え、人間を消し去った存在。
ザールの町、その周辺、国境の先まで影響が出ているかもしれない。瓦礫が舞い、砂埃がたつ。
2人を避けるように、アンデッド達はどんだん広がり続ける。
アルベルトは光の魔法をジルウィートは双剣を構え、アンデッドをあるべき闇に戻していく。
「ジル、もしお前があの姿のユズを見て、少しでも恐れるのであれば、今後は姿を現さない方がいい。誰も咎める者はないぞ」
「それ、今言うこと?」
背中を合わせながら、限りなく出てくるモノに嫌気がさす。
「あっ、もしかして妹とか言ってたくせに…、俺、邪魔者にしてるでしょ?」
器用にくるっと反転すると、アルベルトを指差す。
「なんだと?興味ねぇーとか言ってたのは、ジルだろう」
「いつの話しだよ」
「こないだ女に囲まれてただろ」
「それはアルさんも、同じだったよ」
アルベルトは自分達がいる場所から、光の防御壁を構築し発動させる。
「いっときますけど、俺、引かないよ」
「それは僕もだ」
「大者を忘れてんでしょ。アルさん」
「大者って何だよ」
光の防御壁を乗り越えて、さらに先に進もうとするアンデッドにジルウィートが剣を振るう。
「ルイさま」棒読みの様に聞こえる。
「あーそれ、キツイな」
思わず顔を見合う2人。
軽口を叩き合っているが、状況はすぐさま変わってしまう。
少しでも戦闘に集中できるよう、周りを一掃していくしかない。
一番近い所にいるのに、助けてやれない。
逆に自分達がユズの足手まといになってしまう。
腹立たしく、自分達が苛立たしい。
ドサっと勢い良く飛ばされて来た者を、2人で受け止める。
起き上がろうとして、足に力が入らないようだ。
美しく輝く白銀の髪が、アルベルトとジルウィートの顔にふれる。2人を支えにして立ち上がると、少し振り返った。
白銀と琥珀の瞳にうつる2人をユズは、少しあどけなさを残す笑みで見た。
表情などない無機質で凍る琥狼たるユズ。
でも、今、この瞬間のユズは、2人にとって何者にも変えることの出来ない大切で仕方のない存在だ。
「ありがとうございます。何を言ってたか分かりませんが、声が聞こえてました。ものすごく落ち着きました。不思議ですね。…こいつの相手は、私が任せられた任務です」
まるで自身に言い聞かせているようだ。
青い剣を構え前を睨みつけると、
「ずっと、みんなで一緒にいたかった」
その声は泣き声に聞こえた。
小さな小さな、つぶやきにも似ていた。
『ユズ』
アルベルトとジルウィートは同時に名前を呼んでいた。
手を伸ばした先には、もう彼女の姿はない。
ふと足元を見ると、少し先に丸い小さな濡れた後が数ヶ所残っている。
「涙のあ…と?」
指で触れたアルベルトが、信じられないとばかりに唖然となっている。
「…まさか…、命をかけるつもりか!」