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琥珀と銀狼  作者: シロ
第二章
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第7話 それぞれの想い①

移転先に着いた場所は、集落の見える何もない所だ。

しかし、空気が張り付くように感じる。生きる命の音がまったく聞こえない。


 不気味だ。


少し先に見えるのが、たぶん、ジェスの村だ。


「一緒に来た騎士達はどうした」

「ザールに飛ばした。先にあっちの住民の避難を優先させた」


村に向かい歩いている途中に、ムーランに尋ねた。キールの姿も見当たらない。


「あっちはキールに任せたからな」

「そうか」


村の入り口に着くと、馬借が『あっ…』と口を開けたまま腰を抜かしている。


 あれは…。


「尋ねるが、その馬と幌の荷台は私の部下が預けたのか?」

「は、はい」


そう答えるのが、やっとのように見える。


「マリベルはここで待機だ。怪我人がいたらすぐ治療を頼む。他の者はキーグの指示に従い、村の者を誘導し避難させろ」

「御意」



墓場に縄で縛られた男達がいた。その後ろには小屋が建っていて、入り口の引戸は壊されていた。


「アルの硬化魔法が働いているな。こいつらに話しを聞こうじゃないか」


ムーランは男達に近付いていく。

小屋の中から、杖をつき腰を曲げた年老いた男が出てくる。


「あなた様方は、マリーちゃんの…」


不自由の足を地面に付き、頭を下げる。

ルイは老人の前に行き、片膝をつけると頭を上げさせる。


「ご老人、マリーを知っているということは、3人の私の部下も知っているか」

「はい。私共を助けて頂きました。その縛られている者から」

「マリーは?」

「中で眠っております。旅で疲れた様子でしたので」

「詳しいことを教えてくれ」


陽も傾き、周りは暗くなっていた。



老人の話から、だいたいは予想は出来た。ムーランも男達の記憶を見てから、話しを聞いたようだ。その後の事は、伏せておこう。


 話しはもう、出来なさそうだしな。


老人とマリー抱えたキーグには、先に避難させるようにと任せた。ルイとムーランは村長の家に行き、地下へ通じる部屋の片隅を見ていた。


「吸うなよ。一応、元は消したが残留分まではどうにもならんからな」


ポンっと自分の羽織っていた上着を投げて寄越した。


「お前は?」

「私を誰だと思っている」

「アル達は大丈夫だったんだろうか」

「ここにユズの脱ぎ捨てられた服がないのだから、どうにかしたんだろ。あいつでは、まだこれは消せん」

「……」


ここに微量に残る匂いの後。

そして、地下にいる若者達。


「おい」

「怒るな。見ろ、ガラスの壁が砕け散っている。これはユズだな」


地下へ降りると、一ヶ所、壁が壊れていた。ガラスで出来た壁だ。砕け散るというより、爆ぜた後だ。


「こいつらはもうダメだな。まともな生活は出来ん」


虚な目で、ただそこにいる若者たち。

奥に円陣がある。


「魔法陣だな」


ルイが赤く光っている円陣を見ながら、『なんのだ』と問う。


「だいぶ粗いな。転移用に置かれたものだ」



その時だった。


ゴーと激しい轟音が響く。

慌てて外に出ると、暗かった空が一気に明るくなる。

突風が吹き、周りの物を巻き上げていく。


「ザールの町の方向だ…、始まったな」


轟音が鳴り響くたびに、大地が揺れる。立っていられない程だ。


「ルイさま」


ザールの町の住人の避難を任せていたキールが、息を切らせながら走ってくる。


「避難は?」

「今回の無関係な者のみ完了しました。しかし、大変な事態になっております」


キールは剣を片手に持ったままだ。


「外には大量の死霊が徘徊しております」


再び大地が揺れる。空に炎の雨が振り落ちようとしていた。

後から追うものがある。炎は氷に掻き消されてゆく。

死霊達は、炎で焼かれ氷で凍らされて崩れ始める。


「ルイさま、集まった者はすべて、西の修道院へ転移させました。私たちも…」

「お前達は避難しろ。俺はユズ達の所へ行く」

「何を言っておられますか!」

「任せるしか、ありませんでしょ!」


マリベルとキールに必死に止められる。


「お前に何かあった時、一番取り乱すのは誰か分かっているのか」


ムーランがルイを見据える。


「だからと、俺だけ安全な所にいろというのか!無能でここにいるわけじゃない。…守りたいんだ。どんな時も側にいてやりたいんだ。好きな女を守ってやる自由も俺にはないのか!」


叫んでいた。

心の内を誰に見られようが、どうでもよかった。

初めて思うがままに、自分を曝け出した。



ある者の姿とルイが重なる。


『ーーは私の最愛の女だ。彼女を守るのは私だけだ。愛しているーーを守る自由も、私にはないというのか!』


マリベルとムーランの中に、鮮やかに蘇る。


助けられなかった、親友の大切な人。

助けられたのに、制約に縛られ守れなかった愚かな自分。


ルイの言葉が、その記憶を思い起こさせる。



「あははっ…。お前は良く似ている」


ムーランがつぶやく。答えるようにマリベルが空を見上げた。


「本当ですわ。まるで生き写し…」

「何がだ?」

「いいえ、何でもありません」


何もなかったように、平然とした顔に戻っていた。


「仕方ないな。主の言葉は絶対だからな」


諦めた顔でムーランが言った。「ほとんど魔力尽きたがな…まったくだ」とぼやきながら。

そして、誰も引き返す者はいなかった。


 守るべき者を間違えるな。


 守るべき命は、他の誰かじゃない。


 ユズ、お前そのものだ。


 今、そこへ行くから……。


ルイの想いが『そら』を舞う。



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