08 嫌でもやってくる孤児達の成人。
いつもは裏方で走り回っている孤児たちが今日は大人しくしている。
今月成人する孤児が二人、いるからだった。
最年長の二人に甘えることはもうできなくなることに、孤児達は涙をこらえている。
一人は近くの商家に気に入られて、実務の仕事を任せてもらえるという大出世した、お兄さん。
もう一人は、この孤児院のシスターになると勉強を続けていて、その頑張りが認められて、シスター見習いとなることになった、お姉さん。
側にいても、これからはもう立場が違う。
成人に近い孤児達は自分たちの将来を心配し、小さな孤児達は、いなくなる寂しさを噛み締めていた。
商家に行くお兄さんは、みんなが心配していた。
騙されているのではないかと。
そんないい話などあるわけ無いと。
神父様が何度も商家へと足を運び、確認を取って、心配ないよといった言葉を、孤児達は信じるしかない。
たまには会いに来てね。と伝えても、本当に会いに来てくれるのはほんの一握りのお兄さん、お姉さん達だけだ。
それは仕事が忙しくて会いにこれないのか、もうこの世にいないからなのかは、孤児達には解らない。
孤児でいる以上、幸せな未来など、そう簡単には思い描けない。
現実は厳しいものだと知っている。
この教会では孤児は働き手になるので、小さい時に貰われていく子は少ない。
神父様が言うには、貰われて行く子も幸せになる可能性は低いんだよと、寂しそうに言っていた。
外に出ると、この孤児院に居るときほど安全に生活出来ることなどないのだ。
死んでも誰も連絡してくれるものなどいない。
成人していくお兄さんが言った。体を使う仕事より、頭を使う仕事のほうが、外の世界ではまだ、安全なんだと。
だから、勉強を嫌がらず、しっかりと学ばなければならいよ。と。
お姉さんが、孤児院の服からシスター見習いの格好になって、それからしばらくするとお兄さんが商家へと働きに出ていった。
持っていけたのは着替えが数枚だけだ。
それでも孤児達みんなの小遣いを出し合って、継ぎ当てのない中古服をプレゼントした。
お兄さんはとても喜んでくれ、涙を流しながら協会から出ていった。
さぁ、素敵な門出に涙は不要ですよと神父が言い、孤児達に説教をしようとしたから、孤児達は慌てて逃げ出した。
明日は結婚式の予定がある。
また何がしかの問題が起こって振り回されるのだ。
何時か、ここから出ていった誰かの結婚式をしてみたいと孤児達は思った。
そして、ここを借りるだけでどれだけの金額が必要か思い出し、一生ありえないなと思った。
今いる仕事ができる一番のちびっこ、四歳二人が、新郎新婦の真似をしている。
なんだか微笑ましくて、仕事をしなさいと怒ることができなくて、孤児達は手を止めて眺めている。
そっと背後に忍び寄って、おめでとうと声を掛けた。
ちびっこ二人は文字通り飛び上がったけれど、恥ずかしそうに笑いながら、いじわる!!と言って手を繋いで走って逃げていった。
この教会で初めて結婚式を上げた孤児かもしれないと思った。