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06 神父の説教は孤児には役に立たない

 休日だというのに珍しく何の予定もない、一日の始まりだった。

 何も予定がない休日は忙しい。

 お菓子作りが得意な者が集まって、クッキーやマドレーヌなどのお菓子を沢山焼いて、来ていただいた方々に食べていただく。


 久しぶりの神父の説教に、沢山の人が訪れた。

 椅子をすべて出しても間に合わず、教会にある孤児たちの椅子全てを設置しても足りなかった。


 孤児たちは悪びれもせず、神父の説教など何の役にも立たないのに。と心のなかで思う。


 神父は何時かの結婚式の話をした。

 ずいぶん古い話だ。もう、話してもいいほどの時間が経ったということだろうか。


 愛し合っていて、結婚を約束して、宣誓書にサインするところにまできて、サインができずに破談になってしまった結婚のことだった。


 二人は何故結婚をできなかったのか。

 あれほど愛し合っている二人は居ないと思えるほど二人は愛し合っていた。

 ただ、互いの両親のことを知らなかった。


 母は、相手の父と関係を持っていて、新婦は新郎の父親と、実母との間の子供だった。

 そう、二人は異母兄妹だったのだ。

 二人は気が付かなかったことにしようとした。

 けれど、二人は兄妹で結婚する罪深さに恐れを抱き、結婚という名で結ばれることはなかったのだと話して聞かせた。


 思い合った二人の結婚は認められるべきものなのか?

 思い合っていても、異母兄妹だから結婚は許されないのか?


 神父は選べませんでした。と話して聞かせる。

 二人が結婚を選んだならば、心からお祝いを告げました。

 けれど二人は別れを選んだ。

 この二人の未来はどうなったと思いますか?


 幸せになった?不幸せになった?


 二つの家庭はぼろぼろになりました。

 片方は妻が、片方は夫が浮気をしていたのです。

 妻に至っては、夫の子供として他人の子供を育てさせたのです。

 

 夫は怒り狂いました。

 ですが、苦しみましたが娘への愛は変わりませんでした。

 妻を放り出しても、娘は我が子として手元に置きました。

 娘は父親に感謝しました。

 数年後、新たに愛する人が現れ、結婚しました。

 今は穏やかに暮らしています。その結婚を執り行う機会を私は頂くことができました。


 今は三人の子供に振り回されているそうです。

 血の繋がらない父親は、いいお祖父さんになり、孫たちを可愛がってくれるそうです。

 母親は娘に金の無心をしてくるそうです。

 どんな顔をして金の無心が出来るのか我が親ながらわからないと言っていました。


 他人の子供でも、実の子以上に愛せることもあるのです。

 今、隣に座っている方を愛してください。

 困った時には助けてあげてください。

 神はその時の行いを見ています。



 新郎側の話をしましょう。

 夫が浮気をしていた事を、妻は許しました。

 許したことで、母親は息子を失ってしまいました。


 息子さんは今も元気に暮らしてらっしゃいます。

 ですが、ご両親とは会おうとはされません。

 息子さんは父親のことが許せませんでした。

 自分がこんな目に遭うのは父親のせいだと言いました。


 実際、息子さんの苛立ちを持っていく場所は無かったのでしょう。

 私の目の前で息子さんが父親を殴るのを見ました。

 何度も、何度も殴っていました。

 

 私は、普段なら暴力はいけませんと、身を挺してもお止めいたします。

 ですがこのときだけは、止めることができませんでした。

 息子さんは涙を流しながら、妹を愛したんだぞと言って父親を殴りました。


 私は神の子です。何があっても暴力を認めてはいけないと解っております。

 ですが、私は、人の子です。

 いけないことでも認めてしまうこともあるのです。


 息子さんは、今でも異母妹の事を愛したまま、人生の足踏(あしぶ)みをしていらっしゃいます。

 苦く笑って、異母妹より愛せる相手と出会えないのだと、未だに涙を流していらっしゃいます。


 ほんの一時の過ちで、何人もの人生を潰してしまうことがあります。

 過ちを起こさないように律して生きていきたいと思います。

 人を不幸にしないため、留まることを知りましょう。



 孤児たちは思った。

 今日の説教は難しいと。

 孤児たちには、兄弟がいるのか、両親が生きているのかもわからない。

 将来結婚することがあって、その相手が兄弟だったとしても気がつくことはないだろうと思った。


 神父の説教は相変わらず役立たずだと孤児たちは笑った。

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