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04 顔も見たことのない二人の結婚式

 葬式の後片付けを急ぎながら、結婚式の準備を大急ぎで孤児たちは頑張っていた。

 一つのミスもしないように、皆がフォローしながら結婚式の準備をしていた。


 今回の結婚は、強い親の意向があっての結婚で、当人同士は顔も知らないと聞かされていて、これはまた揉める元だなと、孤児だけではなく、神父までもが思っていた。


 両親の意向で、結婚式まで新郎新婦の顔合わせはしないことになり、神父が少しでも顔を合わせたほうがいいのではないかと進言したが、子供のように悪ふざけした両親は、その時が来るまで会わせない。と言い切ってしまった。


 小さな問題が山のように溢れ出てきて、やはり、この結婚はただでは済まないと孤児たちも神父も腹をくくった。

 花嫁が一番最初に文句を言い始めたのはブーケだった。

 花嫁は紫を基調にして欲しいとお願いしていたのに、届けられたブーケはオレンジが基調で、紫が少し混ざっている程度だった。

 

 そのブーケを持ってきた花屋に聞くと、新郎の瞳の色がオレンジだそうで、新婦にどうしても自分の色を持ってほしいのだと言っていたのだとおしえられ、それなら仕方ないわね。と少し嬉しそうに言ったので、もしかしたらこれは順調に進むかもと考えたのが間違いだったのか・・・。

 

 ものの一分も経たない内に、新郎と新婦の母親が取っ組み合いの喧嘩をし始めた。


 その理由は二人のドレスが似通っていたことだった。

 神父は「息が合っていて素敵ですね。今日の主役は新郎と新婦ですよ」と言って諌めた。

 母親たちは大人気なかったですと謝罪して、諍いは簡単に収まった。


 それからは入場者が予定より多くなり、席が足りなくなって、慌てて孤児たちが走り回って用意していたけれど、これなどは、問題のうちにも入らないので神父は澄ました顔で、孤児たちの働きに満足していた。


 時間が差し迫ってきていたが、少しくらい遅れても席がないよりマシだろうと、神父の顔からは笑顔は消えない。

 なんとか時間より早く席の用意ができて、開始の時間と同時にパイプオルガンの音色が教会内に響いた。


 神父の前に立つ新郎はソワソワしていて、落ち着きがない。

 神父は、少し落ち着いてもらうために、新郎の手に、手を数度当て、目を見て微笑んだ。


 カチリと音がして、ドアが開き、花嫁と花嫁の父が一緒に歩いてくる。

 問題があったブーケがあれかと眺め、新郎の瞳を見て、納得した。


 新郎は所々に紫の小物を身に着けていて、孤児たちに聞いたところ、花嫁の瞳は綺麗な紫色らしかった。


 花嫁の父から新郎へと花嫁が渡され、賛美歌が歌われる。

 聖書が朗読され、誓約を交わし、新郎と新婦はベール越しに見つめ合って「誓います」と約束をした。

 指輪の交換をして、ここで初めてベールを上げて、互いの素顔を見ることになる。


 神父も孤児たちもドキドキである。

 どちらも美男美女だとは思ったけれど、人の好みなどわからない。

 この瞬間に、なんだこんなのみたいな反応をしては一生の傷になる。


 新郎が新婦のベールに手を掛け、そっとベールを上げ、素顔を見た途端、二人は涙をこぼし始めた。

 神父と孤児は戸惑った。

 この涙は嫌なのか?嬉しいのか?どちらなんだ?と。


 二人が少し落ち着くまで待って、結婚証明書にサインを勧めるのだが、二人は見つめ合ったまま、時間は過ぎていく。

 神父は何度も咳払いをして、二人に結婚証明書にサインするように少し大きな声で伝えると、ハッとした二人は、新郎がペンを取りサインをして、新婦にペンを渡して新婦もサインした。

 神父が新郎と新婦が結婚したことを宣誓した。


 神父も孤児も新郎と新婦の顔色をうかがい見ることをやめられない。

 この反応はいい反応だと思いたいが、何が起こるか予断を許さなさい。


 指輪の交換が始まり、新郎が新婦の指に指輪をはめ、新婦が新郎の指に指輪をはめた。

 ここまでは何の問題もない。

 最難関だが、なんとかなるはず。

 誓いのキスをと神父が告げると、新郎は、どこにキスすればいいのか悩み、角度的には唇に見える頬にキスをしてお茶を濁した。


 神父はそれでいいのですと。ウンウンうなずきながら、無事に終われそうなことを神に感謝した。


 新郎と新婦が腕を組んで仲良く神父に背を向けて歩いて出ていった時は、神父と孤児たちは疲れ果てていた。

 フラワーシャワーを受ける新郎と新婦はそれまで仲良さげだったのに、新婦が「今まで忘れてたわ」と言い出し、新郎を拳骨で殴り飛ばした。

 

 神父と孤児はため息をついて、早く教会内から出て行ってくれるのを待っていた。

 

 残念なことに教会内で立ち止まり、新郎は左頬を押さえて「ごめん。ほんとうにごめん」と謝っていて、新郎にも心当たりのあることなんだと理解した。

 新婦は「解ればいいのよ」と言って再び腕を組んで新婦は笑顔で、新郎は痛みのためなのか、過去の出来事のせいなのか、涙顔で教会から出て行ってくれた。


 後日、神父が聞いて来た話は、子供の頃、婚約者として紹介しようとしたところ、新郎は腕白坊主で、好きな子ほどいじめるタイプだったらしく、たまたま捕まえたカエルを新婦の服の中に入れたのだそうだ。


 二人の涙は、新郎にとっては、やばいカエルを入れた女の子だ。

 新婦にとってはカエルを入れたクソ野郎だ!!


 だったらしい。

 そんな事がありながらも二人は今は仲良く暮らしているというから人の縁とは解らないものですね。

 そう神父は孤児たちと話していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そこらの大人より酸いも甘いも知ってそうな孤児達。 そのうち元孤児同士の結婚とか出てくるのだろうか。 その時は貴族のアレコレと違って和気藹々であってほしい。
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