03 遺影とは似ても似つかないご遺体
二人の男女が手を繋いで教会の見学にきていた。
孤児がパイプオルガンを小さな音で弾きながら、ここを結婚式場に選んでもらえるように演出する。
残念なことに、この後お葬式があるために、赤い絨毯は取り除かれ、黒い絨毯が敷き詰められている。
少し若い人の葬式なので、描かれた遺影は生気に溢れ、最高の笑顔を見せていた。
若い二人は「また来ます」と言って立ち去って行ってしまった。
孤児たちは本当に来ると思うか?お菓子を賭けていたが、神父に咳払いをされて、三々五々散っていった。
何人もの孤児たちと神父が結婚式の色がないことを確認して、高額な棺に安置された若い男の顔を見た。
描かれた遺影とは似ても似つかず、不思議そうに眺め、神父に遺影と、ご遺体に間違いはないのかと何度も確認を取った。
急な病で、人相が変わってしまうほど苦しんで亡くなったのだと神父は言い、よほどの要請がない限りは棺の蓋は開けないことに決まっているので、棺の蓋には触らないようにと言われた。
孤児たちは、神父の言いつけを守り、決して棺の蓋には触れなかったが、葬儀の最中、勝手に蓋を開ける男が居た。
安置されている男と同年代の男で、多分、友人なのだろう。
蓋を開けて、安置された人の顔を見て、腰を抜かし、その姿のまま背後へ少しでも逃げようと、ずり下がった。
孤児たちは棺の蓋を慌てず、ゆったりとした仕草で閉め、腰を抜かしている男の友人だと思う男の人達に頼んで、床を這いずっている男を席へと座らせてもらうことに成功した。
神父は、病気で苦しんだこと、若くして亡くなられたことを惜しむ話をして、それ以降は棺の蓋は開けられずに葬儀は終わった。
孤児たちが棺の蓋を開け、花々を飾り立て、安らかにお休みくださいと蓋を閉めて、墓所へと運ばれた。
普段孤児たちは墓所までは付き合わないのだが、今回はどうなるのか好奇心が湧いて、墓所までついてきてしまっていた。
何も変わらず棺が穴に安置され、花々がたむけられ、土が掛けられた。
皆が項垂れて、冥福を祈っている時、一人の男が上を向いて、必死に声を殺して笑っているのが目についた。
涙も流して嬉しそうに泣いているのが解る。
神父にあの人は誰なのか聞くと、あの家の次男で、あの家を継ぐ権利を全て手に入れた人だよと答えた。