02 お葬式にも色々あるんです
今回はお葬式です。
今日はお葬式が執り行われると孤児たちに伝えられる。
結婚式は前々から予定が立っているものだが、葬式だけは予定が立たない。
急いで葬式の準備を始める。
赤い絨毯を黒い絨毯に敷きかえる。
細部まで気を配り、色を排除する。
遺体が運ばれたけれど、棺が決まらなくて、遺体は担架の上で放置されたまま、誰も気にもかけない。
一人は、埋めて見えなくなるものにそんな高いものを使う必要はないといい、一人は、今まで頑張って育ててくれた父に最後ぐらいは素敵な安置場所をと言って譲らない。
このままでは葬式に間に合わなくなる可能性があるので、神父が、ならば中間のものを選ばれてはいかがですか?と進言する。
数人はそれで納得したけれど、二人だけは納得できない。
棺をいい物にといった娘と安物でいいと言った息子だった。
話を聞いていると、娘は父親に可愛がられて育てられ、息子は男子だという理由だけで厳しく育てられた。
三男だった息子は、家督を継ぐこともできず、婿へと出された。
それはこの世界では当たり前のことで、何もおかしなことはなかった。
亡くなられた夫の妻が一言、これにすると言ってくれればそれで解決するはずなのに、妻は放心状態で、何も言わない。
三男の妻が夫へ「外へ出た人間が、口出すべきことではない」と言い、娘をも黙らせた。
棺は中間のひとつ上に決まって、安置させようとすると、妻が「一番安いものにしてください」と言い出した。
神父が何度も「いいのですか?」と尋ねたが、妻は譲らず、それならそうと早く言ってくれればいいのにと、孤児たちは内心思っていた。
安価な棺は儲けが少ないので、こちらの対応も変わってくる。
一番安い棺に安置して、棺の蓋を開けたまま、来訪者達を迎えた。
厳かに執り行われていた葬儀が、娘さん達より若い女性が子供を抱いて現れた途端、ザワザワとし始めた。
神父が必死に声を上げ、神父の方に引きつけようとしても、視線はその女性と子供へと向かっていた。
淡々と時がすぎるのを待っていたような妻がふらりと立ち上がり、その女性が夫の元へと行くことを許さなかった。
その若い女は、正規の遺言書を持っているといい、私にも葬儀に参列する資格があると言った。
孤児たちは奥様を支え、娘さん達に奥様を任せて、若い女が亡くなった男に取りすがって泣いた。
子供も「パパ」と呼びかけていた。
孤児はその女性と子供を空いている後ろの方の席へと案内して、座らせた。
誰もが、若い女から目が離せない。
これから何が起こるのか想像して、人の不幸はなんて楽しいんだときっと思っているのだろうと思った。
葬式が終わると、神父がいる前で、遺言書を開封することになった。
何故か立会人として、神父の名前が記載されていたからだった。
その遺言書には、全財産の半分を妻に。
残り半分を若い女に分配すると書かれていたそうだ。
今住んでいる家から妻とその子供達を放り出し、若い女に与える。
若い女と暮らしていた小さな家を妻に与えると書かれていたそうだ。
どちらも屋敷から自分の持ち物以外持ち出すことは許さないと記載されていた。
亡くなった男の遺産はそれは莫大なものだったらしい。
半分をせしめた若い女は二人目の子供がお腹にいるそうで、一人目も二人目も亡くなった男の子供かわかったものではないと言うのが妻の言い分だったが、若い女は、三男と四男が夫の子供でないことは、亡くなった男も知っていたと妻に伝えると、三男と四男が母親に詰め寄り、それはもう、酷い有様になったのだと神父は言っていた。
死んだときくらい、静かに死にたいよねと孤児たちは笑って、明日の結婚式の用意へと、意識を切り替えた。