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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
99/221

僧兵との対決

3ー042

 

――僧兵との対決――

 

「それじゃ行くよ〜」

 カゴをベルトで吊り直したコタロウは中に入っているエンルーに声をかける。


「お願いいたします、竜人様」律儀に答えるエンルーである。

 子供なんだからもう少し子供らしくても良いと思うのだが、その様な厳格な環境で育ってきたのかも知れない。

 コタロウはゆっくりと飛び上がる。幸い来る時に持ってきた水は少し残っていたから、なるべく早く水と草の生えている場所を探さなくてはならなかった。

 コタロウの食料も調達しながら進むから帰りはもう少し時間がかかるだろう。

 

 行きと違い帰り道はコタロウの方向感覚が教えてくれる。空を飛ぶ種族には正確な方向感覚があるので問題なく帰ることが出来る。

 既に日が登り周囲は明るくなってきた、雲も少なく快適では有るが少し日差しが強くなるかも知れない。

 1000メートル位の高度を巡航していくと、やがて台地の通過した跡の耕された土地は外れたがその外側には枯れ果てた木々が林立する土地が続く。

 

「川でもあればそこに降りるんだけど、なかなか見つからないな~」

 のんびり飛行をしていると突然エンルーが叫び声を上げる。

 

「竜人様!翼竜でございます!」

「もしかして追手なのかい?」

「わかりません、台地の方から来た以上その様に思われます」

 シルエットしか見えないが明らかにこちらの方向を目指している。

 

「あれは人が乗っている翼竜なのかい?」

 コタロウは高度を下げていく。低高度を飛行していれば背景に隠れて発見は難しくなるからだ。

 狩りを生業とする竜人族の基本的な知識である。

 

 「私には翼竜を従えた事は有りません、しかし洗礼前でもその思考に干渉して感覚を誤魔化すことくらいはできました」

「あんなに遠くにいるのにかい?」

「洗礼を受けた後には互い距離は関係が御座いません、巫女は大陸の反対側とも交信致しますから」

 

 巫女の能力とはそのような物なのか、意外と使える能力なんだな〜と感心する。

 エンルーは印を結んで集中をしている、おそらくこうやって翼竜の思考に干渉しているのだろう。

 しばらく見ていると翼竜は少しづつ方向を変えていくように見える。そのまま低空を飛行しているとかなり離れた場所を飛んで追い抜いていく。

 

「どうやらかわすことが出来たようですね」

「はい、間違った方向に私達がいるように思わせました。しかし油断は禁物でございます、しばらくは様子を見たほうが良いかと思われます」

 絶対的速度ではコタロウでは全く話にならない、多少でも枯れた木々のある場所に隠れていたほうが良いだろう。

 

 完全に翼竜が見えなくなったら50メートルくらいの高さを飛んでいく事にした。この高さだと風の抵抗は大きいが寒くはない。

 もっとも視界も狭いので川を見つけるのが難しい。もう少し台地から離れたら高度をあげよう。

 

「あの翼竜は操縦する人間が乗って翼竜をコントロールしているんでしょう、神殿を襲った翼竜はもっと小さくて人が乗っているようには見えませんでしたが」

「わかりませんが巫女長位の力のある人が行えば人が乗らなくても出来るのでは無いでしょうか?」

 やがて川を見つけると水を補給し、エンルーは若芽を食べコタロウは小さな獣を見つけて食った。

 枯れ果てた森でも朽ちた木を苗床に植物は生えるし虫もいる、その虫を食べる小動物もいるのだ。怖いのは上空を飛行する魔鳥である。エンルーの大きさだと獲物として襲われかねない。

 

「大丈夫でございます、不意を打たれなければ身を守る位の事は出来ますから」

 そう言えば村で魔鳥に襲われた時にエンルーは小さなヘル・ファイアを使っていたっけ。

「それじゃ今度魔鳥を見つけたらそれで撃って見ようか?食べられるかも知れないからね~」

「わかりました、試してみます」

 などという事が有って、丁度魔鳥が近寄ってきたので撃ってみると動きが鈍くなった。そこでファイア・ボールを打ち込んでみると丸焼きにしてなって落ちてきた。

 

 *  *  *

 

「いや~っ、結構美味しいものだね〜、ボクの光の魔法じゃ魔鳥が骨だけになっちゃうからね~」

 コタロウはお腹いっぱい肉を食べられてごきげんであった。

 その夜は小さな川のほとりで休む事にした。コタロウがエンルーを尻尾で囲むようにして横になって眠る。

 

「明日の昼ころには村に着けるでしょう、今日は野宿になりますが寒くはありませんか?」

「大丈夫です、竜人様がとても温かいですから」

「その竜人様と言うのは止めて欲しいな~、ボクはコタロウと呼ばれる方が好きだな~」

 

「わかりました、コタロウ様……その…聞いていただけるでしょうか?」

「ん?エンルーさん、何のことかな~?」

「私…本当は怖かったんです。狼人族に預けられることが…すごく…」

「ま、まあ普通はそうだよね~」

 兎が狼の巣の中で生活するようなものだからね〜、でも本当の狼人族は仲間と認めた者に対してはすごく寛容な種族なんだけどね。

 

「あのまま家に戻って…そのまま何事もなければ良かったのにと思っていたのですが…」

 想像以上に早く巫女長さんが動いちゃったんだね~

 

「宴会から帰って来ると暗闇に隠れていた刺客が襲ってきたのです。父が私を庇ってくれてあののような怪我を…すぐに刺客は逃げたのですが…ゼンガーさんにコタロウ様を頼って脱出するべきだと言われました」

 ゼンガー僧兵長は僧兵として神殿の意向に従いながら、裏で巫女候補の命を守って台地から脱出させる様にしていたようだ。

 どうやら話を繋げると彼らは交易のために狼人族の村にやってきた翼竜に乗ってきたらしい。近くで降りてエンルー達は歩いて神殿を訪れたそうだ。

 

 その後の事は壊れた神殿で目を覚ますまでの事は全く記憶にない、何もなければ護衛の僧兵達と狼人族の村を訪れる予定だった。

 ところが予定には無かった若い翼竜に襲われ神殿もろとも壊されたのだ。

 つまり彼らの計画が事前に発覚していたか、あるいは余程強い殺意が有ったのか?

 

 いずれにせよ洗礼の諸点である大地の神殿を壊してまでこの娘を始末したかったのだろうか?

 だとすればそれほどエンルーの能力が高かったと言うことなのだろう。

 そんな事を考えていると小さな寝息が聞こえる。どうやら眠った様なのでコタロウも寝ることにした。

 

 朝早く出発前にエンルーはティグラに通信を送ってみることにした。

「竜人様、ティグラさんには連絡が取れました、かなり驚いているようでしたがご理解いただけたようです」

 

 コタロウはカゴを装備すると村に向かって飛び始める。

 トコトコと飛んでいくとやがて樹海が広がって来るが、所々に樹海が途切れて広がる畑が見えてくる。

 あれらがアーの一族の住む村々なのだ。

 その中の一つに向かって飛んでいく、ティグラのいるベギムの村だ。

 村の広場にはティグラが出てきており何人かの男衆も一緒に見えたので、その真ん中にカゴと共に降りていく。

 

「見てご覧、ティグラさんが迎えに出ているよ」

「あの…でも兔人族の僧兵もいますけど…」

 兔人族の僧兵と思われる姿の人間が槍を持ってコタロウ達を待ち受けていた。

 

「あれ〜?どうしたんだろうな~、どうやって来たのかな~……」

 あのコタロウ達を追い抜いていった翼竜に乗っていたのだろう、本当の目的地はここだったようだ。

 どうしようかな〜、もう一度上昇して逃げたら追ってくるだろうし、大立ち回りをやったら今度は増援を送ってくるだろうしな〜。

 

 地面に降りるとすぐにティグラが駆け寄ってきてエンルーを抱き寄せる。

 その先頭にはボロックが刀だけを持って立っており、周囲には村の狼人族が何人も取り囲んでいた。

 コタロウがベルトを外すのを待って兔人族の僧兵の一人が前に出てきた。

 

「龍神を語る族が、我が種族の娘を拐かした罪許しがたい、娘を開放してもらおう」

「ええ~と…ど、どうしましょうか~」 

 槍を突きつけてエンルーを奪い返すつもりらしい。兔人族の男がコタロウの腹に槍を突きつける。

 

「エンルーさんは彼女の希望によりボクが保護致しました、彼女の意思以外の理由で彼女をあなた方に渡すことはできません」

「貴様が龍神の名をたばかったからであろう、我が台地ダリルの巫女をたぶらかすとは不埒千万、即刻巫女を引き渡せ」

 僧兵が槍を向けたまま啖呵を切る。

 

「この娘は自らの意思でこの大地グランダルで生きることを決めたんじゃ、お主らが勝手に決めるでない」

 ティグラがエンルーを庇って立ち上がるが、人間顔の兔人族とは言え肉を食ったテグラはそれなりに大きく僧兵にも引く気は無いようだ。

 その後ろには3メートルも有るボロックが無言で僧兵達を睨んでおり、その周りには村人たちが並んでいる。


「狼人族もまた台地ダリルの加護によって生きている、その事を忘れるな」

 村に降り立った僧兵は5名だけである。狼人族よりは一回り小さな僧兵達がここで戦いを行えば簡単に排除されるだろう。

 しかし彼らの背後には翼竜がおり、翼竜の炎をもってすれば村の一つや2つは簡単に消し飛ばせる。

 しかしそれは台地と狼人族の一族との全面戦争を意味する。

 

 しかし狼人族にとっても兔人族との交易は大きな利益をもたらす。

 特に文化、知識、技術の交換は狼人族がこの世界で文明を育むには非常に重要であった。

 僧兵の背後に有る翼竜の武力と交易の権益を背景にして、兔人族は選択を迫っているのである。

 

「あの~、ボクが龍神をかたったと言われますけど、ボクの事を龍神と言い始めたのはあなた方なのですよ」

「貴様はその勘違いを否定もせずに我らの歓待を受けていたではないか、我が神殿に有った竜人様の絵を見たであろう、竜人は全身が20メートルもあるスマートな姿をしておられる、しかるに貴様のその無様な姿は何だ」

 

 いやいや、槍の穂先でお腹をぷにぷにと突っつかないで……刺さらないけど。


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