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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
87/221

大地の世界

3ー030

 

――大地の世界――

 

 装甲車はゆっくりと進んでいく、窓の無い車内でありながらスクリーンで外の様子がみれるので運転席だけは外を走っているような感覚になる。

 

 基地の出入り口の周囲はあまり木が生えてはおらず、固くなった大地が続いており、ヘッドアップの位置に後方を写すモニターに、今出て来た基地のゲートが閉まって行くのが映っている。

 荒れた道をゆっくりと走って行くが、足元は殆どが岩でできているようだが大きな8輪のタイヤは意外と良い乗り心地を与えてくれる。

 

 モニターに写される景色は山から下りた先の、ふもとに広がる森林を見せてくれている。大きく広がる森林の向こうは砂漠の様に灰色だ。

 山の中腹に有るゲートから出たので麓の様子がよく見える。一面に広がった樹海の間所々に虫が食ったような大きな草原がまだらに広がっている。

 

「あれが翼竜が食った後だよ、木があまり大きく無い時に食うから草原になる」

 この世界では木の生育が早いと言われている。土が固まる前に子孫を残さなくてはならないからだろう。それを翼竜が食うことによって草原となる場所を作りそこに草食獣がやってきて草を食う。

 そうやって樹海の部分と草原の部分が入り混じって出来るらしい。

 

 一度木の生えない場所が出来ると草食獣が木の芽を食ってしまうので草原はずっと草原で有り続けるらしい。ここでも樹木と動物の生存圏を掛けた戦いが有るようだ。

 他には小さな空間が出来ている所もある、ゲイルはあれが原住民の村だと教えてくれる。

 その樹海と草原の間に川が流れ、森の部分と草原部分をその流れで繋がれている。

 

「森の生き物と草原の生き物が混在していてね、動物相は相当に豊かなんだよ。しかも皆良く肥えている」

「ここは豊かな星なのですね、有害な大気が有るとはとても思えない」

「まあそうとも言い切れない。地平線近くに荒野が有るだろう、あそこも30年前までは森だったんだ」

 下の平野に広がる一面の緑の絨毯が見えるが、地平線近くの土地は白茶けた土色の大地が広がっている。

 

「何が有ったんですか?」

「手前の森も10年程前に出来たものだ、あの大木の樹齢はまだ10年足らずなんだよ」

 この星の大気に含まれる有害物質はセオデリウムと呼ばれており、地面を固くする性質が有るそうだ、柔らかな台地も30年程で固まり植物が育たなくなるらしい、遠くの砂漠に見えるのは枯れ果てた森の跡なのだ。

 

 大きく育った木は大地が固まった後も、さらに30年ほど生き続けるが徐々に枯れていくらしい。

 水と共に土を固くする、それ故に呼吸をする生物がセオデリウムを吸い込むと内蔵不全を起こすと言われた。

 ところが現実にはかなり豊かな生物相が有るようで、人間並の知的生命体が闊歩しているというのだ。

 

「セオデリウムを分解するシステムが体内に有るようなのだが、まだ解明されていない。少なくとも人間が外気を吸い続けると1週間以内に多臓器不全を起こす」

 吸い込むとすぐに死ぬわけでは無い様だが、その物質が体内から排出されるまでは相当に苦しい状態が続くと言っていた。

 

「しかしそれでは森が育たないのでは有りませんか」

「固くなった大地を耕すシステムがこの星には有るんだよ、それが動く台地ダリルだ」

 動く大地については話に聞いてはいたが、今回はこの目で見ることが出来るのだろうか?

 

「メカニズムは解明されていないが、巨大な台地がゆっくりと移動していくとその後の土は柔らかくなり豊かな大地になるんだ」

「それはあまりにも都合が良すぎますね、そんなシステムが自然に造られているとは到底信じられませんよ」

「兔人族の宗教である龍神教によれば、龍神ダイガンドが台地ダリルを作ったとされています。兔人族を台地ダリルに乗せてその操縦を任せ、狼人族がその耕された土地に作物を植えるという役割を与えたとされています」

 

「シリアさん、それは兔人族の伝承なのでしょうか?」

「どこの民族にも天地創造の物語は有るものですよ、人間の読み物にもバイブルと呼ばれる天地創造の物語が有りましたよ」

「あまり急な山岳部には来ないから我々のいる山は無事でいられるのだが、そいつに何万年も食われ続けてこの星の地面は緩やかな丘陵地帯になっているんだ。だから原住民はその柔らかくなった土地を定期的に移動していようだね」

 遊牧式畑作農業である。原住民はかなり特殊な生活形態を持っている様だ。先祖代々の土地に定住できない、こんな世界で科学技術が育ってこないだろう?

 

「あれはなんですか?」

 横に見える小高い山の頂上に白い建物のようなものが見える。

「あれは原住民たちが作った建物だ、石造りの神殿と呼ばれているらしい」

 石で作った神殿?それを山頂に作ったという事は、かつてはそういった文明がこの土地には有ったと言うことなのか?

 

「原住民が?何の為の施設なのでしょうか?」

「選ばれた特殊能力の有る原住民の子供が洗礼を受ける場所だと聞いているよ、詳しくは知らん」

 場所的には地下都市ランダロールの上に相当する位置位なのだろうか?何故あんな物の地下に地下都市のランダロールが出来たのだろうか?

 

「あの神殿はね、原住民の子供が神託を受けてシャーマンとなる場所なのですよ。祭壇から神に召され、戻ってきた時には神との交信が可能となるのですよ」

「それって、生贄ということですか?」

「とんでもありませんよ!子供は大切に守られて村に帰り、占師シャーマンとなります。シャーマンは新たなシャーマン候補を見つけ神殿に赴かせます。そうやってシャーマンの職は受け継がれて行くのです」

「まあ、原始宗教の一種で、自然との一体化を信じる原住民の思想と生活の一部らしいぜ」

 

 シャーマンの具体的職業は良くわからないが、原住民をまとめる象徴のひとつなんだろう、だが…確かにあれに似た建物を見たような記憶が有るとヒロは思う。

 装甲車はふもとに近づくき、斜面が終わるとともにいきなり豊富な植物の絨毯の中に突っ込む。

 装甲車はかなりの大きさが有るので森の中には入らず草原を走っていく。もし森の中に入れば樹木に行く手を阻まれ身動きが取れなくなる危険がありそうだ。

 草原を走っていくと思ったより獣の影が濃く、雨量もそれなりに有り。かなり豊かな草原らしい。

 

「記録によれば台地ダリルが通過した後すぐに草も木も生え始めるそうだよ。すると草食獣がやってきて草を食い始めるから、森はまだらに育っていく。群れの勢力の大きいところが木の芽を食い尽くして大きな草原になるようなんだ」

「しかし種子は一体どこから種が飛んでくるのですか?元々は植物も育たない荒れ地なのでしょう」

 

「前に生えていた植物は固まった土の中に種子を残してしていくのですよ。それが台地が通過した後、一斉に発芽をしていきます。植物の生き残るための知恵ですね、無論昆虫も卵になって土の中で次に耕されるのを待ちます」

 つまりこの世界は、台地ダリルを中心とした生態系が出来上がっているらしい。科学者にとっては非常に興味深い生命体が沢山いるのだろうな。

 装甲車は草原を進んでいくが周囲の獣は逃げることも、気にしている様子もなく草を食っている。大きな物から小さな物までいろいろな種類がいるようだ。

 木陰で肉食獣と思われる獣が寝転がっており、のどかなものである。

 

「今回は植物採集が目的だ、もうしばらく行くと川が有るからそこで止めて外に出る、各々着替えておいてくれ」

 そう言われてヒロトたちは着替えを始めるが無論更衣室など無い。シリアさんは気にする風もなく下着姿になってスーツに着替え始めた。軍隊でも似たようなものだったからここでもそうなのだろう。

 体にピッタリのスーツである。シリアさんはやや年長に見えたのだが、そうとは思えないほどに若々しい体つきをしていた。ちなみに胸はあまり大きくはないが、逆にそれは若い娘のようなスタイルに見えるほど引き締まった体つきであった。

 

「ヒロト、銃を持っていけ」そう言われて拳銃と長銃を渡される。

 拳銃は軍の装備品そのもので、全く進歩はないみたいだ。しかし長銃の方は見たこともない代物で、口径が人の拳くらい有る。軍で言えばグレネードランチャーのような銃であった。

 

「なんですか、これは?銃と言うより信号弾のような感じじゃないですか?」

「この土地の大型獣は銃くらいじゃ死なんからな、危険を感じたら構わずその方向に向かって打て、どうせ当たりゃしない」

 ずいぶん酷いことを言われる、一応射撃訓練も受けてはいるんですが。

 

「僕はシリアさんの護衛をすれば良いんですね」

 一緒に付いてきた同僚のユグドという男に確認をしてみた。

「そうだよ、その君は俺が護衛をするのさ」

 後方にあるエアロックから荷室の斜路を通って外に出る。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ、何かが近づいてきたらすぐにわかりますから」

 シリアさんは長く伸びた耳をヒクヒクさせながら、にこやかに語りかける。

 ヒロト達はヘルメットをして外に出るが、シリアはスーツだけである。さすが原住民らしく呼吸器がなくとも問題はないらしい。むしろ耳が隠れるので好ましくないそうだ。

 

 周囲は草原になっているが、まばらに木も生えている。少し離れた場所には樹海が広がっていた。

 翼竜が周囲の木を食い樹海を削る。樹海の中では育ちにくい下草が豊富に生えるので草食獣の影が濃い。

 無論樹海の中にはそこに住む獣もいるそうだが、樹上生活を送る動物や、雑食性の動物もいるそうだ。大きな体型を持つ草食獣は草原の方が育ちやすい、餌となる草が多いからだろう。

 採取リストを片手に植物を探し回る。こうやって食用、医療用に使える植物を探し回るみたいだ。

 

 採取に出る度に新しい植物が見つかるらしい。シリア自身がベジタリアンなので、植物には非常に詳しかったそうで、採取のリーダーをやっている。自分の食うものが増えるのが嬉しいと言っていた。

 採取する植物の写真を撮り、大きさを測ってから根本を大きく抉って採取箱に収める。ついでに周囲の植物の若芽をちぎって腰の袋に詰め込み、昼食の足しにするらしい。

 

「外で採った若芽を洗って食べる方が、水耕農場で造られる物よりも何倍も美味しいのよ」との事である。

  思った以上にのどかな風景である。草食獣はこちらを気にする風もなく草を食べている。

 採取箱に幾つかの植物を採取した時に突然シリアは頭を上げて耳をヒクヒクと動かした。

 

「獣がいます!」

 突然そう叫ぶとその方向を指で指し示す。「えっ?」と思って指を指した方向を見るが何もいない。

 背後でボンッと音がして何かがヒロトの横を通過していく。次の瞬間にヒロトの前方で何かが弾けて大きく広がった。次いで強力な光と共に派手な爆発音が響いた。

 

 ヘルメットのシャッターが暗転して強力な光から目を守ってくれるが、同時に周囲の景色も見えにくくなる。

 わけも分からずヒロトも銃を向けて引き金を引くと、ボンという音と共に弾が飛び出した。意外に大きな反動が有ったが、飛び出した弾丸は同じ様に前方で弾けると強い光と音を発した。

 前方の草むらから何かが飛び上がり逃げ出していくのが見える。何もいないように見えていた草むらから思った以上に大きい獣が走り去って行ったようだ。

 

 シリアさんは無事でしたか?と思ってそちらを見ると既にシリアの姿はない。

 慌てて周囲を見回すとユグドが後ろの方を指差している、20メートル以上先で空高く飛び上がりながら逃げていくシリアの姿が見える。

 

 なんだあれ?5メートル近い高さに飛び上がってないか?

 

「獣は逃げ出したようだ。シリアさんは心配ない、すぐに戻ってくるさ」

 銃は当たらなくても良いから、獣のいそうな方向に打てと言う理由がよくわかった。元々獣を脅して逃げ出させれば良かったらしい。

 手を振るとシリアさんはこちらに向かって跳ねてくる。それにしても脱兎とは良く言ったものだ、あんなジャンプの出来る人間がいるとは思わなかった。


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