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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
83/221

地下の神殿

3ー026

 

――地下の神殿――

 

 神殿の入り口は飾りが掘られたアーチを柱で支えたような形をしていた。

 

「この神殿は艦から出た人間が、最初の一時期に住んでいたと聞いています」

「なんで地下にこんな石造りの建物が造られたのでしょうか?」

「最初は地上に有ったようですが、土砂崩れで埋まったと思われています。おそらく戦艦の墜落の影響ではないかと思いますが」

 入り口から幅の広い廊下状の通路が続いており、両側に入る為の穴が開いている。天井はかなり高くアーチを組み合わせた意匠の天井になっている。これのおかげで埋まっても屋根が抜けずに済んでいるようだ。

 

「かなり大きいですね、一体だれが作ったんでしょうか?」

「わかりません、地上にもこれと同じ様な神殿が有って、ランダロールの上の山の頂上にも有るのですよ、お聞きになってはいないのですか?」

「本当ですか?いえ、自分は戦闘後、ランダロールに収容されるまでの記憶は無いので地上のことはわかりませんが」

 この神殿は決して小さな建物では無いが、建物を建てた経験のないヒロには、そんな物だという以上の感想はなかった。むしろこんな地下でよく押しつぶされないものだと感心している程度の物である。

 

「そうですか?原住民にとっては非常に神聖な場所となっているんですよ。神殿はシャーマン信仰の為の聖地で、そこに参拝を行うことによりシャーマンとして覚醒が起きるのです」

「シャーマン?シャーマンとは何でしょうか?」

 現地人の信仰の対象だろうか?原始的な種族であれば何らかの宗教が有っても可笑しくはない。

 

「天と大地と心を繋げられる人間の事です、そして離れた場所に住むシャーマンと心を繋げる事が出来ます」

「心が繋げると言うことは、もしかして通信が出来るということでしょうか?」

「それ程はっきりした物はかなり高位のシャーマン同士でなければ難しいですけどね。普通はおおよそのイメージが送れる位です」

 

 曲がりくねった通路をしばらく進むと少し大きめで厳粛な感じの部屋にでる。一段高くなった場所に石で出来た椅子が一つ置かれており、大きさは人間が座るのに丁度良いくらいだ。

 椅子の後ろには模様の入った布が下げられている。新しいものなのでおそらくランダロールの市民が垂らした物なのだろう。椅子の背当ての部分にも同じ様な布が掛けられていた。

 

 シリアは椅子の前に立つと胸に両手を当てて頭を下げる。おそらく御神体なのかもしれない。神様がこの椅子に座っているという設定なのだろう。

 シリアの真似をしてヒロトも頭を下げた。郷に入っては郷に従え。同じ行為をしておけば間違いは無いだろう。

 

「シリアさんは良くここに参拝に来られるのですか?」

「はい、艦を訪れたときには必ず挨拶をしに参ります、神殿はこの世界に住む者が等しく敬愛するべき対象となっておりますから」

 確かに遠距離通信を司る神様と言うのであれば、信仰の対象にならないほうがおかしいだろう。

 

「この神殿の神様というのはそのシャーマンの神様なのですか?」

「そうですねえ、シャーマンの神というか…この地下都市の守り神と言った法が良いのかもしれませんねえ」

「守り神?この街を守ってくれているんですか?」

「この神殿の記録はひどく少ないのですよ。この神殿の事を書いた本は有りませんし街の記録もどうやらこの部分に触れた物は僅かです」

 情報統制か?もしそうであれば相当に重要なことなのではないのか?

 

「入り口の横にこの神殿の来歴を書いたプレートが埋め込まれています。150年前くらいの物でしょうか?それには艦から出てきた人々は最初はここに住んでいたとあります。その後トンネルを掘って今の街を作ったとあります」

 なるほど、そう言った経緯があれば、この場所が信仰でなくとも敬意の対象になってもおかしくはない。

 

「何でもこの椅子の裏には外に通じる穴が有ったそうです、現在では扉が付けられていますが、昔はそこから外に出て食料を調達してきたと言われています。都市伝説となっている噂としては、艦長がこの部屋に入った時に女神がこの椅子に座っていて、生き延びる術を教えたと言うのがあります」

「女神…ですか?」

「薄い衣を着た絶世の美女というのがこういった場合に語られる定番ですね」

 

 シリアはいたずらっぽく笑ってみせる。

 帰る前にヒロトは椅子の後ろを覗いてみた、確かに扉は有り今は鍵がかかっているようだ。

 戻る途中に有る部屋を覗いてみるが殆ど何もない大きな空洞が有るだけである。

 しかし定期的な清掃は行われているらしくきれいな状態が保たれている。かつては戦闘艦の乗員がここで新しい街を作るための準備 をしていたのだろう。

 

 それにしても数十人の乗組員から始め、200年足らずでこの地下都市を築いた先人たちの努力は素晴らしい物が有るようだ。

 神殿から出ると車が二人を見つけて寄ってくる。それに乗るとすぐさま出発しロータリーまで戻ってくる。

 

 再び車をおりて扉の前に立つと名前を名乗るようにと言われる。自動音声のようだが、シリアと俺はそれぞれの名前を名乗る。

 おそらく脳波と顔面認証と声紋をチェックしているのだろう。程なく自動的に扉が開いた。それを確認したのか車が黙って帰路についた。

 

 扉の中は非常にきれいに保たれている。扉のすぐ先には端末の有る大きなスペースになっており、テーブルや飲み物の自販機も置かれており、その正面には戦艦の横腹が見えていた。

 メンテナンス用の外部扉だろう。ハッチではなく両サイドへの気密性スライドドアになっている。 その奥には数人が入れる大きめのエアロックが有り、ハッチをくぐると宇宙服の置き場だ。

 この構造は馴染み深いものだ。500年経っているがヒロにとっては数日前の記憶でしか無い。

 

 無論、外部ドアもハッチも開け放たれており、宇宙服はとっくの昔に撤去されている。

 整備要員として数名が常駐しており、宇宙船の状態を常に管理しているそうだ。休息室の横には仮眠室も有った。

 戦艦は重力下での使用は想定されていないが、室内は人工重力を使用していたので上下は存在している。長期間の無重力勤務は兵士のパフォーマンスを落とすので戦時以外は人工重力下で使用されている。


 埋もれているとは言え全長120メートルの戦艦である。戦艦内は3層に別れそれなりの大きさが有る。もっともその大きさの大半が動力炉と兵装で占められており、居住空間はさほど大きくはない。

 鬼龍型戦闘艦は外部ドッキングハッチが8箇所あり8機のOVISをドッキングさせられる大型戦闘艦だ。

 この戦艦は戦場でOVISを切り離したらその後方に構え、敵に対する長距離攻撃とバリアによるワープゲートの防御に使われた。

 

 ヒロトの乗っていた怒龍型はもう少し小型高速艦で、その前衛に出てOVISと共に敵攻撃機を迎撃する任務だった。

 艦の中央部辺りに発令所が有りここで戦闘の指揮を行う。大型砲が当たればどうしようもないが、小口径砲ならば生存確率が一番高い場所である。

 

 乗員50人のうち15人が2交代で発令所で指揮を行う。残りは8名のOVISパイロットに、補修、生活要員である。

 武器は全て自動化されており、戦争が始まれば本来人間は必要がないのだ。この船もまたOVIS同様にM型無機頭脳メルビムが支配しており、完全無人になっても作戦遂行は可能であった。

 しかし実際にはメンテナンスや補給は必要であり、何より無機頭脳が命令通り『エネミーズ』を攻撃する保証が無いので人間が上位にいてコントロールをしている。

 戦うのは兵器だが、その兵器が裏切らないようにするためにリンクする兵士が必要で、その兵士は兵器とともに死んでいくのだ。

 

 実際の戦闘時には、交代の15人が第2発令所で待機する決まりになっており、第1発令所が機能を失ったときにはそこから手動で艦をコントロールする。

 かつてはM型無機頭脳メルビムに対する敵のハッキングが多発し、コントロール不能に陥った経験があったので、戦闘時にはこの様なシフトを取るようになったのだそうだ。

 

「やあ、シリアさん。今日も本あさりですか?」

 発令所でモニターを見ていた作業員の男が声を掛ける。

「こんにちはカズさん、艦のご機嫌はいかがかしら?」

「良いですよ、飛び上がる事は出来ませんがまだあと数百年は稼働し続けられます」

 

 M型無機頭脳メルビムの寿命はそれ程長くはない。既に200年以上稼働し続けているのであれば遠からず寿命は尽きる。

 ヒロのOVISの頭脳もM型無機頭脳メルビムである。あいつとはもうリンクはできなくなっているのだろう。

 また会える機会はあるだろうがその時はもう相棒ではない。ヒロは心になにか隙間が出来たような感覚に囚われる。

 

 発令室はかなり大きく、15人分の座席に幾つものモニターが設置されている。

 一段高い位置に艦長席があり、正面に大型モニターの3面が設置され、戦闘状態を示すことになっていた。

 現在はモニターの電源は落とされ、室内の照明も明るく灯っており、現在が平時である事を物語っている。

 

 この艦が宇宙を飛ぶことはもう無いであろう。しかし乗務員をよく守り、生き延びさせてくれた事でその役目を十二分に果たしてくれた。

 カズと呼ばれた作業員はその席をシリアに譲ると、不調箇所の点検に行くと言って出ていった。

 

「おはようございますアルシアさん、シリアですよ」

 シリアは椅子に座るとそう言ってM型無機頭脳メルビムに呼びかける。

「おはようございます、シリアさんご機嫌はいかがですか?」

 女性の声でM型無機頭脳メルビムが答える、これがシリアさんの設定なのであろうか?彼女が呼びかけると共に声が変わった。

 

「元気よ、アルシア。今日は私のお友達を連れてきたの」

「その後ろに立っておられる方ですか?鬼龍型戦闘巡洋艦10879号へようこそ。飛行と武器使用は出来ませんが、他の機能の80%はまだ使用が可能です」

 明らかにヒロの事を人類宇宙軍と認識しての発言に思える。

 

「艦齢は今はどのくらいなのかな?コンディションは良さそうだね」

「はい時空遮断力場スタグネイション・フィールドの時間を除いて235年です」

 200年以上使用されながら、まだ機能の80%が生きているというのはとても大切に扱われてきた証拠だ。この艦も幸せな艦人生を送ってきたようだ。

 

「それは素晴らしい、普通の艦齢の2倍以上だ随分大事にされてきたようだね」

「はい、既に戦闘に寄与は出来ませんので第一使命の遂行は出来ません、しかし第2使命である乗員の生命の維持は十分に達成されたと認識しております」

 

 こいつも言うことはOVISと変わらないなと思う。戦闘が終われば如何なる犠牲を払っても乗員の生命維持を最優先に考える。

 通常こういった艦の寿命は100年位に設定されている。作戦そのものが50年に1度程度であり、その度に甚大な被害を出してしまうからだ。

 作戦開始までは周辺空域の警備と情報収集に使用され、作戦開始前に集合が掛けられ数ヶ月の待機の後作戦空域に集結し作戦を行うのだ。

 その戦闘で戦力の95%以上もの損耗を被るのである。人類が生き残るための戦いが人類そのものを消耗させている。もはや何のための戦争であるのかわからない状態になっているのだ。

 

『ID、598321ヒロト・ハザマ、パスワード、K3325OVIS』

 俺は密かに自分のIDとパスワードを送った。

 

『そのパスワードは現在確認することが出来ません、お名前をどうぞ』

 脳内チップを通じて返信があったが、ログインは叶わなかったようだ。隊本部のデータベースに紹介が取れないのだろう、予想はしていたがやはり無理のようだ。

 

『リンク要請、ヒロト』

『初めまして、私は鬼龍型戦闘巡洋艦10879号搭載のM型無機頭脳メルビムです、私のコードネームを付けてください』

 

『オーヴィス』

『了解しました。ヒロトさん。リンクが可能になりました』

 既に前任者がセキュリティを解除した後であるようだ、ログインは出来なかったがリンクは可能だった。

 

 実際の所ログインはあまり意味がなく、リンクだけでもしシンクロは可能だし、こちらの要求にも答えてくれるのである。ログイン操作はあくまでも最優先パイロットの登録に過ぎない。

 それも、その上位者である艦隊司令部の命令が優先されるのだ、それ故にパイロットの命よりも作戦実効が優先される事になる。

 

 ふと横を見るとシリアさんがいつもの笑顔でこちらを見ている。ヒロトがリンクをしたことに気づかれたのだろうか?


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