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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
80/221

魔鳥襲来

4ー023

 

――魔鳥襲来――

 

 子どもたちを寝床に連れて行って寝かせてやる。

 

「どうやら落ち着いたみたいだねえ」

 ティグラがコタロウにお茶を持ってきた。

「それでもあの子達を長い間ここに置いておくのは難しいのでは無いでしょうか?」

「そうだね、明日になったらあの子達のいた台地を聞いてみなくちゃならないだろうよ」

 

「でもあの子達の台地がどこに有るのかわかりませんよ、誰に聞くんですか?」

「なに、台地ダリルを示す入れ墨がある。天上神ヘイブに問い合わせれば多分わかるじゃろう」

「そんな事が出来るんですか?」

「ワシを誰だと思っておるんじゃ、ヘイブと会話を行える巫女じゃぞ」

 意外な程に巫女の能力は高いようだ。それならすぐに連れて帰してやれるなと思う。

 

「まあ、あの子達の場合は台地ダリルから追放された訳ではないしな、なるべく早く帰してやったほうが良いじゃろう」

「そうですね、この子達は狼人族に慣れてはいないようですしねえ」

「4,5日待てば迎えの翼竜が来るじゃろうからしばらく神殿に人間を貼り付けて置くかねえ?」

 

「いえ、台地ダリルの場所がわかればボクが運んで行きますよ」

 鼻息荒くコタロウは断言する、こんなチャンスは見逃せない。

「なんじゃと?」

「是非とも台地ダリルというものを見ておきたいと思っているんですよ~♡」

 ふうう〜む、とティグラはため息をついていた。

 

(このトカゲはワシの想像以上に知識欲が強い、いささか感性が傾いているような気がしないでもないが、それで身を滅ぼさなきゃ良いけどねえ)他人事ながら心配になってしまうティグラである。

 ティグラは人を見る目が有るようだ。残念な事にコタロウはそのラインをとっくの昔に超えている。もっともコタロウの身を滅ぼせる者はめったにいないのだが。

 

 次の日ティグラは3人の子供たちにメイとシジンを加えて6人で円座を組んでの瞑想である。その6人の後ろでコタロウも一緒に瞑想をしているがなにも感じなかった。

 6人の瞑想の結果3人が来た台地ダリルの場所がわかった。村から約500キロ程離れた場所にある台地だった。

 コタロウの速度でも6〜7時間の場所である。所々で休息しても10時間もあれば十分到着できるだろう。

 出来れば明るいうちに到着したいので出発は朝早くになるだろう。

 

「どうするんじゃ?まさか背負って行くわけにもいかんじゃろう」

「籠と毛布を用意してください、それに子どもたちを乗せて吊るして行きますから」

 要するに気球に吊り下げる篭のようなものを作り、それをコタロウが吊り下げて行くのだ。お腹の形から考えても正にピッタリのアイデアである。

 3人が乗れる篭を作ってもらい、その内側に皮を貼り付けて風よけの毛布を用意してもらう。

 

 篭の制作はティグラが村の年寄り連中に頼んでくれた。

 3人の大きさを考慮してなるべく軽く作るが、途中で壊れると大変なのでそれなりに丈夫につくってもらう。

 子供達は子供同士仲良くなれたらしくみんなで遊んでいる。エンルーがお姉さん役で5人はキャッキャと言って村の広場を跳ね回っていた。

 

「底が抜けないように板を張ってもらって籠の側面には毛皮を張ってください」

「ふむふむ、とにかく軽く丈夫なものの方が良いのじゃろう」

 年を取った狼人族は狩りが出来なくなったら村で畑仕事や様々な雑貨の製造を行っている。篭や毛皮も彼らが作っているのである。

 兔人族の巫女候補を送り届けると言ったら思った以上にみんなが協力をしてくれる。やはり狼人族というのは情の深い種族である。

 集会場の中に材料を持ち寄って制作にかかるが、初めて作るのであり試行錯誤は必要だろうと思われた。制作には2日位はかかると思われた。

 

「う〜ん、ボクはこういった細かい事は苦手なんだよね〜」じっと手を見るコタロウである。

 

 篭を作っていた狼人族の男が耳をヒクヒクと動かしたと思ったら「魔鳥じゃ!気をつけろ!」とどなる。

「はへっ?」と思ってコタロウが顔を上げると、外から悲鳴が聞こえる。

 窓から外を覗くと巫女のナンスーに大きな魔鳥が飛びかかる所であった。

 すぐに飛び出そうと思ったが、窓にお腹が引っかかった事を思い出して出口に向かって走った。

 

「きゃああ〜〜っ!」とナンスーが叫び声を上げるが、魔鳥に比べて彼女の体は驚くほど小さい。

 子供を掴んだ魔鳥がバサッバサッと翼をはためかせて飛び上がる所であった。

 突然の事に一瞬動きを止めたが、驚いたことにエンルーがその小さな手から光線を放って魔鳥に攻撃を行う。兎耳族の子供とは到底思えない行動である。

 

「GUAAAA〜〜!」

 翼に光が当たって叫び声を上げるが威力は弱い、それでも魔鳥は高度を少し落としてしまう。

 なにあれ?メディナもやっていた小型版のヘル・ファイアじゃないの?

 

 【ナンスー、助ける!】そう叫んだシジンが素早く近くの木に駆け登ると魔鳥に向かっておおきくジャンプする、まるで猫耳族のような身軽さだ。

 シジンもナンスーと同じくらいの幼い子供であるにも関わらず、大人のように勇敢な行動を取る。暴れる魔鳥の足にギリギリで飛びつくと片手でぶら下がった。

 

「シジーン!」

【安心しろ、今俺が助ける】

 片手で足にぶら下がりながらも余裕のサムズアップのシジンである。

 なんだろう?猫耳族の俊敏性に犬耳族の速さ、大きくなれば獅子族のパワーがある種族?……完璧じゃないか?

 

「ナンスー、シジン今いくよ!」

 ようやく出口から腹をひねり出すと口を開けて魔法を撃とうとする。しかし子供を巻き込む危険が有ると気がつき発射を踏みとどまる。

 シジンの行動に驚きながらもコタロウも魔鳥を攻撃しようと飛び上がった。

 周囲では狼人族が槍を持って家から飛び出してくるのが見える。エンルーも手から光線を放ち続けている。

 

 その間にも魔鳥はふたりを乗せたままどんどん高度を上げていく。

 足に取り付いたシジンは素早く足を駆け上り根元にたどり着くと、背中に差していた短刀を引き抜いて魔鳥の足の根元にそれを突き立てた。

「GYAAAA〜〜〜!!」

 魔鳥はシジンを突き落とそうとクチバシで襲う。しかしシジンはクチバシを短刀で防ぎながら、魔鳥の足の根元を短刀で何度も突き刺す。

 なんだろう?勇敢すぎる。狼人族はそれほど過酷な世界で生きているのだろうか。

 

 シジンを落とそうとあがいている魔鳥はどんどん高度を落としていくのがわかる。

 そこにやっとコタロウが追いついて、ぶん殴ろうと腕を振り上げた時に魔鳥の頭に大きな石が当たった。

「ぐぎゃっ!」と鳴いて魔鳥はナンスーを離した。

 下を見ると篭を作ってくれているおじいさんが石を投げていた。ナイスコントロール。

 

「あっ!」と思ったコタロウであるが、既に高さは20メートルを超えている。そのままナンスーは下に落下し始める。

 ところがこれ程の高さからでもナンスーは兔人族の足で見事な着地を決める。

 体重が軽いことも幸いしたのだろうが、さすがに自力で5メートルのジャンプを行う種族である。

 

 シジンもナンスーが落ちた事を確認すると自分から飛び降りた。コタロウが受け止めようとする前に地面に着地をしてグルグルと転がって衝撃を逃がす。

 子どもたちがいなくなったので、コタロウは離れていく魔鳥にファイアボールを叩き込んでおいたらボンッと爆発を起こして羽が舞い散った。

 そのまま燃えながら落下してくると、近くにいた奥さんが締めている。今夜の夕食になるだろう、実に逞しい光景である。

 

 ナンスーは流石に兔人族である。あの高さからおりても全くの無傷であり、駆け寄ってきたエンルーに抱きしめられて泣いていた。

 狼人族のシジンは足を骨折していた。しかしナンスーを助けられたのに満足をしてサムズアップをしていた。

 幼くとも狼人族の子供である、大人に勇敢さを讃えられてまんざらでもない様子である。

 ナンスーは助けられたことに涙を流してシジンに抱きついていた。

 

「狼人族にとって足の骨折など擦り傷程度の感覚じゃすぐに治るさ」

 ティグラはシジンの怪我の手当をしながらそんな事を言っていた。

 

 あっちでは女性の狼人族が早速魔鳥を解体している。

「せっかくの魔鳥なのにねえ、羽が燃えちゃって使い物にならないわ」

 と言う奥さんたちの声にいささか恐縮するコタロウである。 

(小型のヘル・ファイアの方が良かったかな?でもあれは少し発動が遅れるしなあ)などと、どうでも良いことを考えていた。

 

 そんなアクシデントが有ったものの、シジンは家に連れ帰って休むことになり、篭の制作は何事も無かったかのように再開された。

 

「石を投げてくれたのはおじいさんだったんですね?」コタロウは篭を作ってくれている狼人に礼を言う。

「まあこれでも昔は猟師をやっていたからね、この程度は普通に出来るものさ。子供が魔鳥にさらわれる事は良くあるので周囲も気をつけているんだよ」

 年を取ってはいてもなかなかに頼りになる狼人族である。結局今回のことでは自分はあまり役に立たないドラゴンだったんだなと改めて思う。

 

「早く篭を完成させてあの子達を故郷に返してやりたいからね、ティグラのように台地ダリルから追放された訳じゃないから、帰る土地が有って親がいるのであれば早く返してやりたいものさ。お前さんも頑張って飛んでってやんな」

「は〜い、がんばりま〜す♪」

 しばらくしてティグラが子どもたちと一緒に帰って来た。シジンは家で寝ているそうだ。

 

「籠の縁を補強して補強材に繋げる、こうすれば底が抜けることは無いだろう」

「その補強材にベルトをつなげます。それでボクの体に結びつけます」

 ベルトは別の人が作ってくれていてそれを篭に結びつければ完成である。

  

 試しに3人を乗せて飛んでみる。しゃがみこんで体を寄せ合うとなんとか乗れるようだ。飛び上がると最初は怖がっていた3人であったが、しばらくするとものすごく喜んで歓声を上げていた。

 その後下に降りるとなぜか子供たちが行列を作って待っている。

 

「そこの大人の人!しゃがんでも子供には見えませんから」

 200キロ以上の体重が有る大人を乗せたら底が抜けてしまうだろう。

 

 子どもたちを乗せてのテストは十分に行うことが出来た。耐久性は問題がないと言えるだろう。

 夜になるとまたみんなで瞑想を行う。台地ダリルに向けてこちらの状況と、コタロウが送っていくことを知らせられたみたいだ。

 

 同じイメージをティグラやメイも感じることが出来たようだ。

 やはりティグラが一番明瞭にイメージの受信が出来るようだ、シャーマンとはこのようなものらしい。

 兔人族の子供と狼人族の子供は言葉は通じないが、イメージをするとお互いにその内容を理解できるらしい。

「狼人族のシャーマンでも天天上神ヘイブとの通信が出来るんじゃ、種族が違っても通話は可能じゃよ」

 ただ、言葉と違って細かい説明は無理のようだ、それでも使い方によっては素晴らしい能力と言えるだろう。

 

 ヒロが言っていた科学の力によるチップと言う物の効果だろうか?多分あの魔法陣の中の世界で子どもたちはその手術を受けたのだろう。

 それは魔法とどの様に異なるものなのだろうか?

 コタロウのブレスやファイア・ボールは一般的には魔法と呼ばれている。しかし実際は魔獣細胞による効果であり、火が燃える様に科学的に説明できる事なのだ。

 あの黒い巨人も科学により生み出された物だと言っていた。生き物の様に話し行動するが、彼自身の自我は無いと言っていた。つまり心が無いということらしい。

 小さな動物や危険な魔獣に置いても自我は有り心は有る。自らが生き抜くために、そして子孫を残すために最善の努力をしているのだ。

 

 槍やナイフであれば自ら考え動くことはないのだ、魂など無くても納得できる。しかし黒い巨人はあれだけの能力を持ちながら、自らに自我がないと断言できるというその意味が解らない。

 魂を与えられずに作られた人工の巨人ということなのだろうか?そんな事の出来るヒロのいた世界というのはどの様な世界だったのだろう。

 そんな事を考えているとお腹が鳴った。

 

 考えても仕方がないからご飯を食べよう、今日も沢山飛んだしテストとしては十分だった。というわけでご飯を食べたらコタロウを枕にみんなで寝ることにした。



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