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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
8/221

ふんどし祭り

1ー008

 

――ふんどし祭り――

 

 酒場に集まったメンバーは食事の前に全員でお金を分けるらしい。

 

 ヒロはチームではないが、一人で魔獣を倒したので分け前を貰えるそうだ。

 無論狩りは獲物を追い込んで最後に仕留めるものであり、それはチームでの働きである。

 一番槍を突き込む前にヒロが倒したので魔獣狩りの名誉はヒロに回されたらしい。 

 ただしそれはただの名誉であり、報酬はチームとしての物となる。

 ヒロを含めたチームとしての分け前をあてがわれた。それぞれの前に銀貨と銅貨が積み上げられた。

 そしていくばくかの金が余る。

 

「この金…どの位価値?」

「そうだな銀貨一枚で宿に2泊位かな?」

 ヒロの前には金貨が2枚に銀貨が5枚銅貨が5枚あった。

 

 しばらく宿に泊まる事の出来る程度の金らしい、金を稼ぐと言うのは大変な事なのだとあらためて考える。

 軍隊にいれば衣食住全ては軍が賄ってくれた、しかしその軍は2千光年の彼方で復帰の見込みは無いだろう。

 そしてヒロに出来るのは戦争だけであった。

 戦争で死ぬか、運よく生き残って上級市民として再出発をするか。そんな未来しか知らないヒロであった。

 

 死ぬこともなく、上級市民として生きていく未来も閉ざされた。これからの俺はどうやって生きて行けばいいのだろうか?

 帰還の望みもなく友人もいない、まあ元々あまり友人はいなかったが…。

 

『これまでとあまり変わらないではありませんか?上官がいない分気楽に過ごせます』

 なんだろう?明らかに服務規定から逸脱する発言だ。コイツは今までこんな事を言うような奴だったのか? 

『生き残れたのに上級市民になれないのだぞ、俺はこれからいったい何をしたらいいのかわからん』

『これからはあなたが指揮官です』

 

 何という冷たい言い草なんだ、俺が指揮官でOVISが部下か…それで作戦はサバイバルか…。

 

『第一、誰が俺に給料を払ってくれるんだ?』

『あなた自身が仕事をして給料を稼ぐのです、難しいことでは有りません』

 馬鹿なことを言うな、俺は戦争しかしたことがないんだぞ。

 

「ヒロはこれでこの町の英雄になった、これからお前はどうするのだ?」

 アラークの言葉に思考を中断させられる。しかしそう言われてもヒロには何をしたら良いのか見当もつかなかった。

 この街にどんな仕事が有るのかもわからないし、戦争以外にヒロに出来る仕事など思いも付かない。何をするにしてもどこかでなにかの訓練を受けなくてはならないだろう。

 

 軍人としての訓練というものは極めて偏った教育である。そこに有るのは自己の主張では無く全体の歯車の一つになる事に他ならなかった。

 作戦は全て上層部が決め、兵士はその作戦に従って行動する。そこでは自分の命も含めて全体の戦果が優先された。

 指揮官となる為には指揮官としての訓練が必要なのだ。

 そう考えたヒロは先ほどの受付嬢の言葉を思い出した。問題は訓練をしてくれる組織だ。

 

「このチーム…訓練?」

 ヒロはこのチーム内で訓練を受けたいと思った。特に理由は無いが他に頼る術はない。 

 しかしアラークは頭を振った。 

「今の所ワシらのチームはバランスがいい。兎耳族の情報収集、猫耳族の斥候、鼻が利き獲物を追い詰める犬耳族2名、最大攻撃力の獅子族2名だ。どちらかと言えば攻撃力のヒロは今のチームには必要が無いのだ。」 

 そうか、俺にはここには居場所が無いのか……そう聞かされて力なくうなだれる。

 

「そう落胆するこたあねえよ、金プレート持ちであればどこでも喜んで迎えてくれるさ」

 バスラが屈託のない笑みを見せる。

「だけどヒロは明らかに狩猟の経験が無いいわよ、それにどんな攻撃魔法が強くても普通の魔獣を追っているチームではオーバースペックになっちゃうでしょう」

 メディナによればこのチームは大きな獲物を専門に狩るチームらしい、この街でも随一の攻撃力の高いチームだそうだ。

 

 大半のチームは畑を荒らす小型の魔獣を狩って生計を立てている、数人の男で運べないほど大きな獲物を狩る事は出来ないのだ。

 4〜50キロ程度の獲物であればひとりで持ち帰れる、100キロ位まではふたりいれば何とかなる。

 仮設のそりを作って4人いれば300キロ位は何とか運べるらしい。

 それにしても相当な重労働になる。

 つまり今回の様に2トンもある獲物は竜にでも頼まなければなかなか運べないのだ。

 

「狩りと言うのはな獲物を倒す事が狩りではない、獲物を探し、追い詰め、そして仕留める。狩りの大半は獲物を追う事に費やされるのだ、お前にそれだけの体力が有ると思うか?」

 確かにヒロの体力はここにいる狩人達に比べればひどく落ちるのは事実だろう。

 獅子顔のアラークは身長2メートル以上の巨漢だし、犬耳男もヒロと同じ位の体格だが、服の上から見てもそれとわかるほどに鍛えられていた。

 かろうじて猫耳男はヒロより小さいが、動きがものすごくしなやかで運動能力の高さを感じさせる。

 メディナは情報収集専門で戦闘はしないが獲物を追い詰める役目を負っている。

 

 しかしヒロとて軍人である、パイロットとしての適性でOVISに乗ってはいるが当然肉体的訓練も同様に行っている。

 運動能力ゼロでは流石に反射的判断が追いつくわけもない、各種運動能力や格闘技もカリキュラムに含まれている。

 7歳からの10年間厳しい選抜訓練を生き抜いてきたからこそOVISパイロットとなっているのだ。

 

「ある……」

 ヒロの口からパイロットのプライドが零れ落ちる。

 それを聞いたバスラがニヤリと笑った。 

「いいだろう俺が試してやるよ、それを見てから決めればいい」

「またお前のふんどし祭りか?」

「おおよ、勝ち負けはともかくこいつの根性だけは見れるだろうぜ」

 バスラは嬉しそうにヒロの事を見ている。

 

「あんたこんな余所者にケンカを吹っ掛けるつもりなの?」

 メディナがまるでゴキ〇リでも見る様なものすごく嫌そうな顔をする。 

「け、ケンカじゃねえよ。こいつの根性を見せるチャンスをやるって言ってるんだぜ」

「あ~っ、また脳筋のバトルマニアが何を言っているんだか?」

 それ以上は言わなかったが、メディナはバスラとは幼馴染として過ごしてきたのでその性格はよく知っている。

 威勢が良くて悪気はないが思いっきりの脳筋なのだ、ヒロが追い詰められて魔法を使ったらどうするのよ。

 

「なんだ?……ふんどし祭り?」

『あまり良い事では無いように感じられます、受託しないことを勧めます』 

 このOVISも意外と優秀な様である。その場の雰囲気を感じ取る能力まで有るのだろうか?

 

「大した事では無い、お互い寸鉄を帯びずに戦う喧嘩だ」

 アラークが挑発するような笑顔を作り牙を剥き出す。

  

…まあ予想はしていたよ、何となくだけど。

 

「それは…何になる?」

「簡単に言えば度胸と気合と根性が見えるということだ。人間相手にビビッているようでは魔獣を相手にすることはできん、お前がバスラ相手に根性を見せれば半年間はうちで面倒を見ようじゃないか」

 素手による決闘という事らしいが、やはり中身は原始時代のままか。

 

『狩猟民族の多くは力による序列を重視する傾向が有ります、勝てば群れに同化出来るでしょう』

 なんだ?コイツいきなり前言を翻すのかよ? 

『お前、さっき受諾拒否を進言しなかったか?』

『戦うのが兵士としての生存の手段です』

 

 ヒロは改めてバスラを見る。見た目の体格はヒロとあまり変わらない、だがどうにも服の下には鋼の筋肉が有る様に見える。

 おそらくOVISはカメラを通してこの男の運動能力を予想しているのだろう。

 

『俺がこの男に勝てる可能性はどのくらいだ?』

『まともに戦えば一発で負けるでしょう』 

 コイツ相当に非情な奴だ、負ける事を前提に喧嘩を押し付けるな。現在の第一優先事項は俺の安全確保では無いのか?

『ここで戦う事が戦わないより安全確率が上昇すると想定されます』

『………………』

 

 ここに帰ってくるまでの道のりを考えるが、必死でついてくるヒロに対し余裕で山を駆け回る連中。その体力差は歴然であった。

 おそらくアラークもそんなヒロを見てチームへの参加を断ったのだろう。

『もう少し希望的観測は無いのか?』

 ヒロもそうだとは思ったが今更引っ込みがつかない、ここで引き下がれば先はないのだ。

『私の支援兵器を使用すれば一発で倒せます』

『いや、それでは相手が蒸発するだろう。もう少し穏やかに戦う方法は無いのか?』

 こいつ本気で生身の人間に搭載兵器を使うつもりだったのか?

 

『通信チップを使って私があなたの体を逆コントロールします、そうすれば肉弾戦での勝率は高くなります』

 OVISには敵の精神攻撃が有った時に備えて、OVISがパイロットの肉体をコントロール出来るシステムが有る。

 通常はパイロットの意思が優先されるが、緊急事態としてOVISの行動が優先される事態も有りうる。

 したがってそのような緊急時対応としての訓練も行ってはきている、だが…。

 

…明日の筋肉痛は確定だな。

 

「はっきり言うがお前がバスラに勝てるとは思っておらん、だがまるで相手にならなければ足手まといになるだけだ。そんな事になればこの仕事を続けるお前の命が危ない」

 簡単に言えばあきらめるなら早いうちにということか。OVISの奴はこれがわかっていて俺を追い詰めているな。

 そそっと俺の横にメディナがきて耳打ちする。

「ギルドの前で戦えばそれを他のチームの連中が見てあなたの実力を判断するわ、きっとあんたに合ったチームがスカウトしてくれるわよ」

 

…ああ…そう言う事か。

 

「わかった…受けよう」

「おお、そうするか?一発で俺にのされるんじゃねえぞ」

 嬉しそうな顔をしてバスラが装備を外し始める。


…コイツは趣味でこの祭りを楽しんでないか?

 

「言うまでもないが魔法は使用禁止だぞ」

「…わかった」 

 一応ヒロも軍人であり、OVIS操縦者といえども格闘訓練は受けている、自力でもある程度戦える…と信じたい。

 バスラが外に向かって出ていくとその場にいて酒を飲んでいた連中も一緒に外に向かう。

 外の広場に出ると酒場にいた連中がぐるりと回りを囲む、酒瓶を持っている奴もいる。

 

『ここの連中にとっては娯楽の一つなのかもしれません、原始的種族の戦闘願望と言えるでしょう』 

 どうやら周囲の人間もこの戦いを楽しむつもりらしい、大いに迷惑な話だ。

 

「金プレート保持者のヒロがわがチームのバスラとふんどし祭りを行う。一切の手出しは無用である手を出したものはワシが制裁を加える!」

 アラークが割れ鐘のような大声で戦いの宣言をする。

 それを聞いた周囲の人間が歓声を上げる。狩猟ギルドや他の店の中からも出て来てヒロたちの周りに立つ。

「あなたも装備を外して、靴も脱ぐのよ」

 メディナが俺の後ろにきて囁く。バスラは既に服を脱いで下着一枚になっている。

 布を巻き付けたような下着で、初めて見るがおそらくここでの普通の下着なんだろう。

 

 さすがにヒロはパンツ一丁になる気にはなれず上着と靴を脱いでメディナに渡す。

「あの下着…見たことが無い」

「ああ、あなた知らないのね。あれはふんどしというの、ふんどし一丁で戦うからふんどし祭りよ」

 ここがかなり原始的な世界であることはよくわかった、あまり良い下着は無いようだ。 

 服を脱いだバスラの体は思った以上にすごかった。

 太くは無いが全身が鋼のように研ぎ澄まされた筋肉をしている。はっきり言って全く勝ち目が見えない。

 

「用意はいいか?」

 怒鳴るようなアラークの声が響く、バスラがうなずきヒロもうなずき返す。 

「よし、犬耳族バスラと金プレート所持者ヒロのふんどし祭りを開始する」

 いやに金プレートを強調するな?

 

『あなたを売り込むためと思われます』

 なるほどそういう事か?ありがたい事だ。

 

「双方共構えて!……始めろ!」

 アラークが怒鳴るが構えたままバスラは出てこない、こちらの実力図っているのだろう。 

「どうした、かかって来いよ」

 完全に格下に見られている、間違いないところだが…。

 ヒロはステップを使い前に出るとワンツーのパンチを出す、軍隊で習うマーシャルアーツの基本動作だ。

 バスラは全く避けようとはせずに俺のパンチを顔で受ける。

 

『コイツは殴られても目をつぶらない、かなりの手練れだ』

 そう考えた瞬間パンチが飛んでくる。

 ヒロはかろうじてガードを上げて受けるがものすごいショックで腕がしびれる。 

『右より反撃』

 バスラの姿がヒロの視界から消えるといきなりヒロの足が勝手に動いた。

 視界に捉えられないほどの速度で右に移動したバスラがパンチを出してきたのだ。

 ヒロの反射速度を上回るスピードでOVISが足を動かしたのでかろうじて逃れることができた。

 やはり俯瞰から見ているので動きの予測が付きやすいのかもしれない。

 

「ほう…」

 周囲から声が聞こえる。 

「おお!これを避けるとは大したものじゃねえか」

 バスラが嬉しそうに叫ぶ、コイツやっぱり原始的バトルマニアだ!

 直ちに体制を入れ替えてパンチを連打してくるものすごい速度だ。

 こちらのパンチを躱して横に回り込むこの男の身体能力は半端じゃない。

 

『身体能力及び速度に差が有りすぎます、打撃戦は回避してください』

『どのくらい差が有ると思う?』

『格闘技の世界的レベルの選手位です』

 冗談じゃないそんな怪物がこの世界にはゴロゴロいるのか?

 

『寝技を推奨』

 既にヒロの体は自らが動かせる速度を凌駕していて完全にOVISの支配下に有る。それでも躱すのが精いっぱいだ。

 相手のパンチを横に躱すと同時に踵を払う。バスラは背中から地面にたたきつけられる。

 素早く上から覆いかぶさるが、相手もすごい速さで起き上がって来る。

 それでも相手の右手首を掴む事に成功する。

 ヒロも膝をついて手を引くと、相手の顔に右の肩を打ち付けてそのまま地面に押し倒す。

 すぐに相手の首を肩で押さえて動きを殺すと右手に腕がらみの関節技をかける。驚いたことに簡単にロックを許す。 


『コイツ関節技を知らない!』

 そう思ったが関節を極めようと思って力を入れた相手の腕はそれ以上動かない、力で極められるのを阻止しているのだ。

 それ程太くは見えない腕だがその腕に内在する膂力はものすごいものが有るようだ。

 関節を極められたまま相手は体をひねって立ち上がろうと回り込む。技は知らなくとも身体判断能力はすさまじいものが有る。

 

『くそっなんて力だ!』

 素早く体を入れ替えて腕ひしぎ逆十字に移行して相手をひっくり返すことに成功した。

 こんな動きの訓練はしていない、さすがOVISの肉体操縦技術だ. 人間よりはるかに優れている。

 全力で相手の腕を締め上げるとバスラの悲鳴が聞こえる。

 しかしすぐに体を入れ替えて片腕でヒロを持ち上げる。本当になんて力なんだ。

 ヒロの体を自分の目よりも高く持ち上げて地面にたたきつけようとする。

 

『まずい!下は固い地面だ』

 そう思った刹那ヒロは足で相手の顔を蹴って逃げる。 

 宙返りをして四つん這いになる様に地面に着地するが、体制を整える間もなくバスラが駆け寄って来る。

 腰に抱きつかれたヒロはそのまま持ち上げられ背中から地面に叩き落される。

 かろうじて顎を引いて頭を打つのを回避出来たが、生身で固い地面にたたきつけられヒロは息を詰まらせた。

 動きの止まったヒロの上半身にバスラが飛び掛かって馬乗りになる。

 

 マウントを取られたヒロの目の前にパンチが迫ってきたことだけは記憶に残っていた。


バスラの履いているふんどしは六尺褌、いわゆる「赤ふん」の形であり前に布が垂れた越中褌ではありません。

あの形のふんどしでは激しい動きに耐えられず、すぐに緩んでしまいます。

ちなみに肉体労働をしない女性の多くは越中褌、又はズロースを履いております。この世界に現代的な「パンティ」はまだ存在しません。

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