狼人族の狩り
3ー017
――狼人族の狩り――
次の夜明けにコルグ達は村の広場に集合する。誰かが片付けたのか枯れ葉が山を作っていた。
【何だあの野郎、まだ来てないじゃねえか?】
【まだ日が出ていませんからねえ】
突然枯れ葉がガサガサと動いて中からコタロウが頭を上げる。
「おはようございま~す」
「お、お前こんな所で何をやっているんだ?」
ニッコリ笑って朝の挨拶をするコタロウ、コルグの声が裏返っていた。
「狩りに連れて行ってもらえるのが嬉しくて、昨夜は広場で寝ていました~」
「お前こんな所で寝られるのか?スッポンポンじゃねえのか」
「竜人族は皮が丈夫ですから~、いつもは巣の石畳の上で寝ています~」
「へっ、随分未開で野蛮な連中なんだな」
「あははは~、そう言われてみればそうですね~」
屈託なく笑うコタロウ、本質的な性格なんだろう。
空が明るくなるにつれ他の狩人集団も集まってくる。
広場の横に小さな小屋が有ってそこに何かを書き込む台が据えられており、来たグループはそこに何かを書き込んでいた。
太陽が昇るとともにボロックが現れ、小屋の中の書き込みを確認する。その周囲に各グループのリーダーが集まり内容の確認をしている。
ここには狩人ギルドのような組織が無いが、狩人たちの仕事の内容を確認して調整するのも酋長の仕事らしい。
【コルグ達は竜人のコタロウを連れて東の草原でラパル(中型の草食獣)を狩る予定か?コタロウの助力が必要なのか?】
【いえっ!コタロウは自分と序列勝負を行い自分の傘下につくことを了承いたしましたので、狩りの実績を積ませたいと考えています!】
直立不動で答えるコルグ、やはりボロックの権威は相当に高いようである。
【ほう、それならお前がコタロウに対して全責任を負うことになるぞ。大丈夫か?】
【はいっ!お任せください!】
【わかった、そこは近くに森が有ったはずだ、最近大型の猫型肉食獣のオツオリが目撃されているから十分注意しろ】
なにかボロックがコルグに注意を与えていたようだがコタロウにはわからなかった。
最後に魔獣の頭蓋骨を載せた太い杭に向かって全員が一礼を行いボロックが口上を述べる。
【狩りの無事を狩猟神に祈る、生命神に感謝を、力神、魔力神の力を借り、大地神の恵みで我ら生きん】
同じ言葉を全員が復唱をする、狼人族には唯一神はいないようだ。おそらくは獲物によって糧を得る彼らがこの世界全体に対する気持ちの現れなのだろう。
エルメロスの人間も同じ様な考え方をしている。狩猟民族の原始宗教では一般的な形である。
【よし、出発する前にみんなを紹介する、こいつは竜人族のコタロウだ】
コルグは現在17歳らしい、その下にいるのがムルツワ16歳コルグと同じくらいの身長だ。
その下にいるのがイェンガ15歳、二人より少し小さくて体も幾分細い。
最後の一人はルンダ13歳で女性らしい、身長は2メートル位で人間の顔が犬のように伸び始めており、人と狼の中間くらいの印象である。成長すると狼顔になるのだろう。
「ルンダは俺の妹だからな、ちょっかい出したらてめえ殺すぞ」
…凄まれてしまった。
容姿の良し悪しはわからないがきっと美人なのだろう、かわいい妹らしい。
「そう言えばおめえは一体いくつなんだ?」
そう言われて言葉に詰まる。117歳と言っても信じてもらえないだろう。竜人的にはまだ4歳程度の肉体にしか相当していないのだが。
「え~っと、17歳!」
「なんだ俺と同じか?まあいい、ここは俺がボスだからな、俺の言うことを聞かねえと死んでも知らねえぞ」
「は~い、気をつけま~す」
「よし狩場まで走っていくぞ。コタロウは遅れんじゃねえぞ、遅れたら一人で帰れ!」
すぐに全員で走り始める。さすが狼人族はみな足が速い。コタロウもドタドタと後を追うがあっという間に引き離される。
【へっ、やっぱりな。あの体型で俺たちの足についてこれるわけがない】
狼人族であれば子供のルンダですら時速40キロ程度の巡航速度で走れるが、どう考えてもコタロウには無理だろう。
コルグは最初からコタロウを置いてけぼりにするつもりだった。
【コ、コルグ!あ、あの竜のやつ】
【なんだムルツワ?コタロウならもう諦めて村に帰っているさ】
【い、いや、上に…】
ムルツワの示す方向を見ると、コタロウが全員のはるか真上をトコトコと飛んでいる。
唖然として見上げるコルグの前にすう〜っとコタロウが降りてくる。
「どうしました~?ここが狩場なのですか~?」
「バッカやろう!あんな所をテコテコ飛んでいたら獲物に見つかっちまうだろう!」
「え?そうなの?高いところのほうが獲物を見つけやすいし、大抵の獲物は下ばっかり見ているから上空から音を立てないように舞い降りればイチコロだよ」
「うぐっ……」
飛べればそのほうが良いに決まっている、飛行種族の戦法は陸を走る種族にとってはただの反則技に過ぎないのだ。
「バ、バッカやろう!太古の昔っから二本の足で走って獲物を追い詰めるのが狼人族の狩りと決まってるんだ。お前も飛んでいないで地面を走れ!」
「は~い、わかっりました~♪」
「まったくもう、いくぞ、みんな!」
周囲の畑や家畜の放牧が行われている場所を全員が走り始める。ここいらはまだ村の外周部で、この先の畑が途切れた場所が狩猟場所だ。
しかしさっきから走りながら足音が4つしか聞こえない。上空を見るが飛んでいるものは見えない。横を見るとコタロウの緩んだ顔が見える。
なんと音も立てずにコルグたちと一緒の高さを飛んでいるではないか。
「てめえっ!飛ぶなと言っただろう!」
コルグはいきなり槍でコタロウの頭をひっぱたく。ズザザザーッと勢い余って地面に頭から突っ込むと逆さになって硬直した。
「あっ………………」
【や~だっ、コルグったらなんてことするのよ、尻尾までピンと立ってるわよ!】
頭が地面にめり込んでいるコタロウを見てルンダが悲鳴を上げる。
【い、いや。俺の言うことを聞かないから注意しただけなのに】
いささかうろたえた調子でコタロウを見つめるコルグ。
ところがコタロウは逆さまになったまま地面からズボッと浮かび上がって、クルリと回転すると頭を上に向けた。
「いや~っ、方向を誤って地面に激突しちゃいましたよ~、こんな低いところをあまり飛んだことなかったですからね~」
にこやかに笑ってパッパと顔についた泥を払う。
【あ、あんた、なんとも無いの?】
ルンダの言葉は解らないので「ん?」と首をかしげてニッコリわらう。
「よ、よしっこのまま進むぞ」
今の事はしっかりとスルーをして先に進むコルグ、その後ろからコタロウは地表すれすれを飛んでいく。それを横目ににらみながら渋い顔をしているコルグ、ルンダの方はコタロウの頑丈さに目を輝かせている。
しばらく走っていくと開けた場所に十頭程の獣の群れが見えるとコルグがみんなを停止させる。
【ラパルだ】
小さめの馬くらいの獣の群れで、頭に大きな湾曲した太い角をつけている。ラパルという獣らしい。コグルが止まると全員がバッと地面に伏せるが、コタロウだけ反応が遅れてその場にプカプカ浮いていた。
その途端に群れの中の一頭がこちらを向く。それに気付いたコグルに引きずり降ろされた。
コタロウの頭がぐいっと地面に押し付けられると腹が突っかかりピョコンと尻尾が跳ね上がる。慌ててルンダがその跳ね上がった尻尾を地面に引きずり下ろした。
「静かにしてろ、獲物に見つかっちまうだろう」
「は、はい……」
「おめえは俺達の手話の合図を知らねえから後ろで俺たちのやっていることを見ていろ」
「は~い♪」
獲物が群れている場所は大きく広がった空地が出来ており、その周囲は大きな森になっている。
この様に森と空地が混在しているのは、翼竜が森を食って出来た空地に草がはえて、草原と森が混在した場所が出来ていると言っていた。
森の中には良い草は生えない、危険を犯しても草の生えている土地に出てくるのだ。
もっとも魔獣である彼らは木の枝や皮でも問題なく食べられる、しかし魔獣の元となった獣の食性は変わること無く受け継がれているのだ。
安全な森の中で暮らすことも出来るが、やはり美味しい草を食べに出てくる。それ故にもっと美味しい狼人族の畑にやってきて作物を食い荒らすのだ。
狼人族も狩猟だけで村を維持するのはやはり難しく、畑はどうしても必要なものである。その作物を食らう獣は狩らなくてはならない。
ムルツワとイェンガは森の中に入って迂回をする。その間コルグとルンダは背を低くしたまま獲物に向かって這い寄っていく。
身長3メートルのコルグである。中腰でもかなり高いので4つ足になって這っている、その姿は正に狼だった。
ルンダも同じ様に這っていくが、コタロウはお腹が出ているのでお腹をズリズリと地面に擦りながら飛んでいく。
だいぶ獲物に近づいた所で森の中からムルツワが這い出してきて獲物に近づいていく。
獲物のボスだろうか?首を上げてしきりに周囲を伺っている個体がいる。
コルグ達は息を殺して獲物の様子を伺っているが、コタロウは身じろぎもせずに腹を地面につけたまま尻尾を伸ばして浮かんでいる。
獲物が再び頭を降ろし草を食べ始めると、コルグは音を立てないように槍を立てる。
しばらくそれを立てたままにしておいて次にゆっくり槍を倒す。
槍が倒れた瞬間に4人は一斉に立ち上がり獲物に向けて衝撃波の魔法を連続的に発射した。
「おおお~っ、これはすごいっ」
みんなと一緒に浮かび上がって様子を見ていたコタロウが感嘆の声を上げる。
獅子族の使う魔法よりもずっと強力で数も多い、流石に3メートルの巨体は伊達ではない、魔力量も多いのだ。
放たれた衝撃波が群れの足元で爆裂すると群れはパニックに陥って一斉に逃亡を図る。何発か足に直撃を受けた獲物もいた。先程から周囲を伺っていた個体である多分群れのボスだ。
間髪をいれずに槍を持って走り出した4人は、足をやられて動きの鈍った獲物に槍を突き立てると、群れの他の獲物は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
突然近くの森からなにか巨大な獣が飛び出してきて彼らの方に全速力で近づいていく。しなやかな動きで走るその姿はたてがみの無い獅子族の顔に似ていた。しかしその巨体は優に500キロを超えているだろう。
その顔の周囲に小さな炎の塊がいくつも浮かび上がると、コルグたちの方に打ち放った。突然の事に状況を理解する前に、ルンダに向かって炎の塊が近づいていく。
「大型魔獣だ、危ない!」
コタロウは弾かれたように彼らの前に飛び出して炎の塊をその体で受け止める。しかし次の瞬間突進してきた魔獣に跳ね飛ばされる。
「ああ~れええ~っ!」
クルクル回りながら飛んでいくコタロウ。
【ちっ、オツオリかっ!】
状況に気がついた4人はぱっと飛び上がってその場を離れる。
コタロウは回りながらも火球をオツオリに向けて撃ち放つと獣の顔に当たる。ところが顔を一振りするだけで炎を払ってしまう。
炎を扱う魔獣だけに炎に対する耐性はかなり高いようだ。反撃を受けた怪物は一番体の小さなルンダに向かって飛びかかってくる。
【きゃあああ~っ!】ルンダは逃げようとするが足がもつれて倒れてしまう。
【ルンダ〜っ】コルグが悲鳴を上げて魔獣に向かって肉薄する。
その牙がルンダに届く直前にコタロウの頭突きが怪物の首筋に突っ込んできた。今度は怪物がふっとばされる番であった。
「ガアアアッ!」
すぐに跳ね起きた怪物の眼前にクルリと体を回転させるコタロウがいる。
ドカンッ!「ギャンッ!」
尻尾を怪物の頭にめり込ませると、間髪を置かず首筋に爪を突っ込ませて頭を掴むと首をグリッとひねる。
バキッ!と嫌な音が聞こえて怪物の動きが止まる。
すぐに他の3人が怪物の首筋に槍を突き立てる、この間わずか10秒程度の間であった。




