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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
72/221

大地の生活

3ー015

 

――大地の生活――

 

 コタロウが目を覚ますともう夜は明けていた。

 

 周りを見るとそこはティグラの家の集会所の様だ。朝日が入って来なかったので寝過ごしてしまった。

 集会所の床全体には毛皮が敷かれており、その周りには縄で編んだような座布団が何枚も重ねられていた。おそらく人が集まった時にはそれを敷いて座るのだろう。片方の壁には黒い石板が立てかけられており、そこには何かの模様が描かれていたが、コタロウには理解できなかった。

 部屋の中を見ているとティグラが起きて来た。

 

「起きたのかい、肉は無いが朝食を食うかね?」

「はい、ご馳走になりま〜す♪」

 芋と野菜の煮物を大きな皿に山盛りにして集会所に持ってきた。

 ふたりで床に座ったまま食事を始める。ティグラは敷物を敷いているがコタロウはそのままだ。

 

「いつもおひとりなんですか?」

「この村に兎人族はおらんでな、だからワシの配偶者はおらんのだ」

 同族でなければ子供を成せないのはここでも同じらしい。

 

「でも一緒に暮らしたいと思う人はいなかったのでしょうか?」

「この村は一夫一婦制の建て前は取っておるがそれ程厳格な物では無くての、親族内で生まれた子供はみんなの子供として育てておるからのう」

 つまり夫婦で生まれた子供が亭主の子供とは限らないという事を言っているのだ。それでもみんなあまり気にしてはいないらしい。

 犬の系統を持つ人間は家族主義の傾向が強い。強力なオスの子供を求める事の方が優先されるのがこの世界の風習なのだろう。

 エルメロス大陸の人間が一夫一婦制を取っているのは、多くの種族が混じっているせいで大家族を持たなくなって来たからかもしれない。

 

「まあ、子供が欲しければ干潟ベルファムの街に行けばはらませてもらえるが、子供が生まれたとしてもここで生きていくのは辛かろうからあきらめたんじゃ」

 子供が生まれてもその子供は兎人族だから狼人族の中で一人で生きて行かなくてはならない、それはやはり辛い事かもしれない。もっとも、よく考えれば竜人族は恒常的に少数民族で孤独な存在では有るのだが。

 

「どうした?何か深刻な顔をしておるが?」

「いえ、なんでもありません、故郷の事を思い出しまして」

「狼人族は身内にはとても優しい種族じゃからな、ワシが巫女でなくともちゃんと仲間として遇してくれておるぞ」

 原始的家族主義の様だ、犬系の種族は他種族であれ懐いて来る物にはかなり寛容な種族だからな〜。

 いい加減食べたティグラは満腹になったのだろう、残りを勧めるのでコタロウは残らず胃袋に詰め込んだ。

 

「お前さんもかなり好き嫌いの無い種族の様じゃの」

「はい、フィールドワークをやっていますと狩りが出来ない事も多くて、でもこの芋と野菜はとても美味しいですよ」

 狼人族と言えども食性は魔獣と同じで肉が無くても生きては行ける。昨晩の泥棒も生きる為に芋や草を食えば命は繋げたのだろうに。

 

「そう言えば昨晩言っていたハグレとは何ですか?あの泥棒の人の事でしょう」

「ああ、あれはな、序列勝負ガントに負けて村を出ていった者の事じゃよ」

「はい、昨日ボロックさんが挑んで来たのが序列勝負ガントだったんですよね」

 序列勝負ガントに負けると軍門に下るか、村を離れるという選択をすることになるらしい。

 

「本来序列と言うのは、もっと小さな集団で放浪を行う場合に秩序を保つためのものなのじゃ、今の様に村単位の大きさになると序列だけではまとめきれん。だから村長と言う物は序列とは関係なく選ばれる」

 村をまとめる人間が力が強いだけでやっていけるはずもない、エルメロス大陸ではそれを兎耳族の人間がやっている。それ故に力の弱い種族で有りながら皆の尊敬を集めているのだ。

 

「ただ未だに序列が存在しているのは狩りを行う必要性もあるからなんじゃが、それまで序列トップにいた人間が老いてきたら若い者に負ける事になる。そうなると序列トップに恭順するか再戦を狙うかだ。ところが再戦を行うにもその下の人間に勝たなくてはならん。恭順も出来ずに下の物にも勝てんとなれば群れを抜けるしかなくなる、それがハグレじゃ」

 

「成程、それが序列とその弊害と言う事になるのですね」

「まあ自分の身の振り方を決めればそれでもいいんだがね、早い話狩人を辞めれば良いんじゃからな。若い連中はこの序列競争に負けてハグレになる者も結構多くてな」

「ハグレた人たちは何をやっているんですか?」

「この村以外で生活をする。村には住めないが通商は出来るから村を回って行商を行ったり、職人の村に弟子入りする者もいる。手っ取り早く野盗になる者もおるわけで夕べの男がそれじゃな」

  

「そう言った職人や行商人がいるから、槍やナイフはかなり質の良い者が流通しているわけですね」

「ああ、製鉄はどうしても沢山の薪が必要でな、薪が有る間はその場所を動けんからな、それでその間を繋ぐのが行商人だ」

「でもお金が有るんですか?」

台地ダリルの金が少量流通している、さもなければ物々交換じゃな。こちらは食料や布と交換しておるよ。実際村と言ってもワシらアー族は分家を増やしながら今では50余りの村が出来ておる」

 

 200人の村が50有るとすれば1万人の集団である、結構大きな町と言えるだろう。

 村の周囲にはそれなりの畑が有りその外側には樹海が広がっている。野生の魔獣もかなりの数がいるみたいだ。各家庭は家畜を飼っておりこの村はそれなりに豊かである。エルメロス大陸とそれ程に差が有る訳では無い。


「街は近くには無いのですか?」

「街は固定都市ベルファムにしか無いよ、村自体が30年程で移動しなくてはならんからな」

「移動?何か問題でも?」

「土が固くなるでな、台地ダリルが柔らかくしてくれた土地に移動をするんじゃ。それを見つけるのがワシらシャーマンの仕事じゃよ」

 つまり畑の作れる豊かな土地を求めて部族ごと移動し、建物は捨てていくらしい。

 それはそれでかなり過酷な生活だと思う。固定した生活ができない以上、文明の発達はどうしても遅れてしまうのだろう。

 

 食事を終えてティグラが食器を片付けたので、食事のお礼にコタロウは集会所の掃除をしていた。 

 そこに小さな来訪者が現れた。近所の子供の様だが昨晩コタロウと一緒にいた子供達では無い。見た事も無い種族が掃除をしているのを見て一瞬躊躇したようだったがすぐにティグラを呼び出した。

 コタロウも故郷では大きいがここでは狼族に比べてもお腹以外は小さいのである。さして恐れる事も無く子供達はコタロウのお腹にアタックを仕掛けてくる。

 

「ティグラさんこの子達は学校の子供ですか?」

「いや、この子達は巫女候補生のメイとシジンじゃ、毎朝早く私の所に修行に来ているんじゃ」

 8歳位の男の子と女の子であった。見た目は犬耳族と変わらない感じである。

 

「巫女候補生?お二人がですか?」

「そうじゃもう少し大きくなったら神殿に行って洗礼を受けるのじゃ」

「それで巫女になるのですね」

「いや、巫女、神官は資格の事でな職業にする必要は無い、現にワシは此処で20人以上の者を育てたが未だにワシが巫女シャーマンをやっておる」

 

「すると資格を持った皆さんは何をしているんですか?」

「普通の村人として生活をしておるわ、巫女が引退したり死んだときにはいつでも代わりになれるようにな。本来は巫女と言っても村の仕事はしておる、ワシは年を取ったので巫女と学校の事しかしてはおらんがな」

 あ〜っ、成程、巫女と言うのは特権階級ではなくただの資格に過ぎないのか。

 

「そもそもシャーマンと言うのは各村にも一人以上必ずおるでな、万一シャーマンがいなくなっても他も村から融通してもらえるんじゃ。他の資格者たちもたまにワシの所に来てその力を確認しておるわ、ワシが死んでもすぐに代わりになれるようにな」

「よく判りました、ティグラさんも長生きしていつまでも元気でいて下さい」

 コタロウの言葉に少し照れたような表情を見せるティグラだった。

 

「さてそれでは今日もやってみようかね」

 ティグラがニッコリと笑いかけると子供達もニッコリと笑い返す、子供達もティグラには懐いている様だ。

 巻いてあった絨毯の様な物を広げる。そこには大きな十文字が描かれそれぞれの方向に矢印があった。どうやら方向を示しているのだろう。男の子のほうがその十文字の真ん中に座ると目をつぶり、動きを止めて瞑想をしている様に見えた。

 

 しばらくそのままじっとしているがやがて眼を開けるとティグラの持っていた積み木の様に四角く切られた木片数個を絨毯の上に置く。

 続いて女の子の方が同じように瞑想を行い、色違いの木片を置く。それぞれの場所は少し違っているように見える。

 

「よろしい、それでは私が聞いて見よう」

 そう言ってティグラは瞑想に入った。程なくして目を開けると別の色の木片を置いた。女の子の置いた木片の方が近かった。

 

「今日はメイの方が近かったね、それでも二人とも十分に巫女と神官になれるくらいの才能はあるねえ」

 その言葉を聞いてふたり共嬉しそうな顔をする。

 これと同じことを山の上の神殿に来ていた兔人族がやっていた。この木片は台地ダリルのある場所なのだろう、同じ敷物の上でやっていれば距離もわかるのかもしれない。

 

「あの~、この木片はやはり台地ダリルの位置を示しているのでしょうか」

「おお、よく知っておるのう。その通りじゃ、天からのお告げでそれを知らせてもらっとる」

台地ダリルとはいったい何でしょうか?地面が移動していると聞いていますが」

「我々の住んでいるのが大地グランダルだよ、その大地グランダルの上に有るのが台地ダリルだ。そこには兎人族の街が有る」

 やはり台地ダリルとはコタロウ達が近づいた時に、翼竜に襲われたあの都市の事を指している様である。

 

台地ダリルが移動しその位置を確認することはそんなに重要なことでしょうか?やはり交易とかの問題ですか?」

台地ダリルとの交易は瘤翼竜ギガンドーグに乗った台地の兔人族が行っている。問題はそこではなく台地ダリルが狼人族の村に向かって動いてきた場合じゃ」

「あ〜っ、なるほど〜、そういうことですか」

 台地ダリルはかなり大きい、もしそれが村に向かってくれば接近する前に逃げ出さなくてはならない、それ故にその場所を確認しておくことは重要なことなのだろう。

 

「するとお婆さんの置いたこの木片の位置にその台地ダリルが有る場所だと言う事なんですね」

「そうじゃ、ヘイブからのお告げでこの位置を知ることが出来るようになったんじゃ」

 ヘイブのお告げと言う時点でどうも胡乱な気もするが…あの兎人族も同じ事を言っていた。

 

「ここからどの位の距離が有るんでしょうか?」

「そうじゃな、だいたい一番近い物で500キロ位かのう」

 多分それが僕たちの見た都市だったんだろう。500キロではボクの速さではちょっと見に行く訳にも行きそうにない。OVISはかなり速度が速かったんだなあ、いずれにせよヒロさんと合流してからの話になりそうだ。

 

「お婆さん、この付近を案内してくれる?ボクの背中に乗って飛んであげるからさ」

「ほおお~~っ、ワシを乗せて飛んでくれるかい?そりゃあ嬉しいねえ。冥途の土産に丁度いい」

 縄を持ってきてもらってコタロウの首に巻き付け、手綱の様にして背中に乗ってもらう。それを手伝ってくれたメイとシジンがじっと見ている。

 

 翼を広げて飛び上がる。人ひとり位の重さであれば全然問題はない。

 ずーっと高度を上げていくと村の全景が見えてくる。ティグラの家の有る広場を中心に集落が広がっている。その中でいくつかの家が集まって小さな集落を形成しそれが集まって一つの村を形作っている。

 小さな集落のすぐそばに畑が広がっており村の外側には広い畑が広がっている。

 

「あの小さな集落がひとつの家族でその家族が集まって親族の集落になっておる。4つの集落が集まってこの村が出来上がっておるんじゃ」

 昨晩コタロウが夕食を食べた広場は4つある親族の集まった集落の広場の一つだった。

 

「昼に狩人達が魔獣を狩って来るとて夕べの様にみんなで夕食を食べる。余った肉はみんなで分けて干し肉にするか、次の日の朝食にする。だから獲物は大きい方が良いのじゃ」

「この周囲に獲物は多いのですか?」

「それも有るが村の外には畑が広がっておるからな、狩り続けていないと畑の被害がひどくてな」

「その辺はボクの故郷も同じですね~」

 

「魔獣の中にはたまに大きな魔獣が生まれてな、これは結構危険なのでな見つけ次第狩っているんじゃ」

 ここでも大型魔獣の問題はあるようだ、もっとも狼族全員が獅子族より大きな種族だから、それを狩るのに全く問題は無い様だ。上空に上がって行くと畑の外側には草原が広がっているのが見え、樹海とのコントラストがはっきりしていた。

 少し離れた場所に植物の生えていない山が見える。どうやら神殿の有った山なのだろう。

 

「樹海と草原がくっきり分かれていますね」

「ああ、家畜を飼っているし野生の獣も多いからな、翼竜が森を食ってくれるので草原が出来る、森と草原の組み合わせで野生動物はどんどん増えるんじゃ」

 村の周囲には森と草原が広がっており、その草原の向こう側には隣の村が出来ている。

 広がる樹海と村々を繋ぐ草原がまだらな模様を作っている、しかしその樹海の外側には枯れた森が広がりくっきりとした対比が見られる。

 

「あの森はどうして枯れてしまったのでしょうか?」

「いや、枯れてしまったというより枯れた森の中に新しい森が出来たんじゃ」

「?…どういう事でしょうか?」

「この世界の畑の寿命は30年程じゃ、だから我々は森が無くなる前に新しく出来た土地に移動しなくてはならないんじゃ」

「それじゃお婆さんのあの家を継ぐものがいないと言ったのは?」

「多分ワシが死ぬ前にもう一度村を移動せねばならんからじゃよ」

 

 大地グランダルは30年ほどで土が固くなるらしい。それでも木々は60年ほどは生き延びるが、畑はできなくなる。その固くなった大地グランダル台地ダリルが食らい柔らかな土地に変える。それ故に台地ダリルの位置は常に把握しておく必要が有るのだそうだ。

 牧歌的に見え安定した生活に見えた村ではあったが、その裏では大変な流浪の現実があったようだ。

 ふたりが空から戻って来るとメイとシジンが待っていた。コタロウの背中から降りるティグラに手を貸しながらも縄を解こうとはせず、じっと期待の目でコタロウを見上げている。

 

「な、なんでしょうか?この二人は何を言いたいのでしょうか?」

「わかっておるくせに、この二人も背中に乗せて村の上空位飛んでやらんかい」

「わ、わかりましたよ、落っこちない様にしてくださいよ」

【お前たち喜べこの人が村の上空を一回りしてくれるそうじゃ】

 それを聞いた二人の子供は飛び上がって喜んだ。

 

【わーい、ありがとうおじさん!】

【あたし飛ぶのなんて初めてー】

 何を言ってるのかはわからないが間違いなく喜んではいる様だ。まあ、それならそれでいいやと思って二人まとめて背中に掴まらせてゆっくり上昇していく。

 

【すごいすごい、こんなに高く上がったのは初めてよ】

【みてあたし達の家があんなに小さくなっている】

 ふたりは興奮してはしゃぎまわっている。 

「あんまりはしゃいで落ちちゃ駄目だよ~」

 コタロウは気が気ではなかったが村の周囲を一周すると元の広場に戻って行った。

 

「え?なにこれ?」

 広場には20人程の子供が列を作っていた。その後ろには大人まで並んでいる。

 

「お婆さんなんですか?この人たちは?」

「お前さんが飛ぶのを見てな、是非乗せて欲しいと集まって来たんじゃ。お前さん子供が好きじゃろう?」

「いやいや、何で大人が子供の影に隠れているのですか?」

「まあ子供だけだと言ったら…何とか年を胡麻化せて乗せてもらえるかもしれんと思っとるんじゃろう」

「ボクより背の高い子供がいる訳無いじゃないですか〜?」

 と言う訳で子供達を乗せて何度も飛び回る羽目になってしまった、流石に大人は断って帰ってもらったが。

 

「ふ〜っ、やれやれやっと終わったよ〜」疲労困憊のコタロウである。

「腹が減ったじゃろうもうじき夕食じゃ、今日の獲物も大物らしいぞ」

「は〜〜い、食べま~~すっ♪」

 

 現金なコタロウに対してティグラがカッカッカッと笑った。


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