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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
62/221

巫女の洗礼

3ー005

 

――巫女の洗礼――

  

「アンタも食うか?」

 魔法を教えてもらって気分を良くしたのだろう、肉を勧めてくれるがヘルメットを脱ぐのは怖いので遠慮しておいた。


「あなた方の魔法能力の高さには敬服するよ。あなたの国では皆これほどの能力を持っているのか?」

「俺の場合は魔道具によるものですが、彼の場合は本当に強力な魔法能力を持っていますよ」

「ほんまに姿かたちからして、龍神様の御使いと言われても信じてしまいそうだな~」

「ボクのいた国では龍神教の様な宗教は存在していません。皆さんは普段は何を信仰されているのでしょうか?」

  翼竜に乗って来た僧兵は龍神教のものだった。この世界では思ったほど龍神教は信仰されてはいないようで、コタロウはひどく興味をそそられる。

 

「我々は大地の恵み、川の恵み、海の恵み、天の恵みに感謝していて、感謝の意を示す為に供物をささげます」

「供物とは?どの様な物でしょうか?」

「恵みによって得られた物の一部をお返しするのです」

 

『原始宗教の一形態です。自らの命を繋ぐために得られる物に永続性を求める為に多神教となります。それ故に単一神の宗教概念は育ちにくいと考えられてます』

『それ本当にお前の知識ライブラリーの中にあった物なのか?』

『知識は人生を豊かにし、その選択肢を狭める行為を洗脳と呼びます』

『それ完全に人類統合政府への批判思想じゃないのか?』

『なに、知られてもそれを処分する暴力装置はここには有りませんからどうという事はないでしょう』

 コイツいつの間にか俺より自由になりやがって。

 

「ボクは故郷の大学で、魔獣と人類学を中心に研究を行っています。皆さんのお話は非常に興味をそそられます。」  

「大学?大学とは何だね?魔獣の研究はわかるが、人類学とはなんだね?」

「大学とは人が生活をするのに必要とする以上の知識を求める人間が集まる場所だと考えています。自ら研究し新しい学問の地平を探すために人が集う場所とでも言えばいいでしょうか?先ほど言われた僧院の修道院アカデーナイのようなもので、多くの蔵書が有ります」


「おお、それなら間違いなく修道院アカデーナイのような物でしょう。そこにも多くの蔵書が有り皆で自由にそれを読むことが出来ます。レスティーダの諺に『知は力なり』というのが有り、教育には力を注いでいるのですよ」

「それは素晴らしいですね~、やはり兎人族の皆さんは知識を重視する生活をされているのですね」 

「干潟の固定都市ベルファムはそれほど貧しくは有りません。船による交易があり、干潟で作物が作れます。周辺の山では鉱石も取れ、製鉄も可能で多くの鉄製品が作られ狼人族の村に供給されています」

 

 おそらくカルカロスに流れ着いた船はこういった街で作られたのかもしれない。あのような工業製品は多くの知識の積み重ねが必要であり、そう言った知識を集める図書館が出来るのは必然の様な気がする。 

 コタロウは彼らの話を聞いて嬉しそうな顔で尻尾を振っている、ぜったいここに居座ると言いそうだな。 


 そんな話をしていると、神殿の窪みが光を発するのが見えた。

  

 それに気が付いた二人は文字通り飛び上がって神殿の中に飛び込んでいった。残されたヒロの方が唖然として神殿の中を必死に追って行く。 

「くそっ、なんて跳躍力なんだ」

 OVISのサポート無しには全く無能なヒロであった。

 

 窪みの中に小さな兎耳族の少女が現れて目を開ける。予想通り少女の顔はメディナと同じで、兎の耳を付けた人間の顔をしている。

 目を開けた少女は彼女の元に駆け寄る両親を見てキョトンとした顔をしている。

 

「お母ちゃん、どうしたの?なぜいきなり動いたの?」

「お前は3日間神殿の中で過ごしていたんだよ」

「え?うそっ!私まだ神殿の中に入ってもいないよ」

「皆そう言うらしい、神殿の中にいる間の記憶は一切覚えていないそうだ。だがお前の資格は認められた、巫女になれたんだよ」

「そうなの?」

 全く納得していない様子で両親を見る少女。

 

 おそらく移動と共に意識を失い、戻って来た瞬間に意識が戻ったので真ん中がすっぽりと抜けて前後の意識が繋がったのだろう。

 だから自分が3日も留守にしていたと言う事が全く理解できないのだ。

 父親は少女を抱き上げると、様子を見ていたヒロたちの方にやって来る。

 

「我々の用事は終わった、あんたは自由にしてくれていい」

「わかった、そうする。それで?その娘さんはどんな力を手にいてたのか、聞いていいかな?」

「いいとも、これから試してみる所だ」

 父親の兎人族は神殿から外に向かって歩いて行き、神殿を囲む空地の端に来ると娘を下に降ろした。

 

「さあ、ここで天上の神々に向かって願ってみると良い」

「うん!」

 娘は目を閉じ何かを感じる様に上を向きしばらくじっとしていた。母親が木の枝の様な物を持って後を追って来た。

 やがて娘は目を開けると母親が持ってきた木の枝で地面に絵を描き始める。長方形の物が5つ描かれ、最後に自分の足元にバツ印を描く。

 

「見えたのか?」

「うん、前よりずっとはっきりと見えたよ」

「そうか!良かった。これで安心して村に帰れる」

「これは一体何なのでしょうか?」

 コタロウはにこやかな顔で尋ねるが、尻尾は正直にフルフルしている。

 

「これは台地ダリルの位置関係を表した物だ」

 どうやら先程見たあの移動する都市の位置関係なのだろう。全部で5か所、おそらくバツが現在地で、方位はこの娘の正面を表しているのだろうか?

 スケールがはっきりしないが、この大きさでは元々が意味の有るスケールと言う訳にも行かないだろう。

 

「この絵を毎日書いて行けば台地ダリルの移動が判る、近づいてきたら行ってみればいいのだからな」

 偵察機の無いこの世界の事だ、こんなレベルの物でも非常に重要な情報なのだろう。

 この世界においてこの台地ダリルという物がどの様な役割をしているのかは知らないが、いずれにしても明日以降の調査対象に入れておかなくてはならないな。

 それにしても、この両親はすごいと言わざるをえない。子供と言ったが本当に小さな子供だった。

 こんな小さな子供を連れて1か月間をかけて獣の住む森を抜けて来たと言うのだから大したものだ。

 

「うまくいって良かったですね、おめでとうございます」

「ありがとうございます。さあ、お腹が減っただろう。食事にしよう、明日は故郷に向けて出発するぞ」

「うん、早く家に帰ってお家のベッドで寝たいね」

「そうね、しかし帰ったら今度はあなたは巫女としての仕事にも付かなくてはいけないのですよ」

「うん、お母さん頑張るよ」

 

 このやり取りを聞いて、彼らは普通にどこにでもいる家族なのだなと思った。

 これから街に戻って家族として生きていくのだろうが、彼らが無事に故郷に辿り着けることを心から祈った。 

「私もこれで帰る事に致します、ここに来た目的は果たされた様ですから」

「そうですか?あなたの旅が無事に終わる事を祈っていますよ」

 ふたりは兎人族の親子とここで別れる事にした。

 

「俺はOVISの中で食事をする事にする、何しろここではヘルメットを脱げないからね。コタロウさんはどうする?」

「ボクはちょっと飛んでいって夕食を捕って来ますよ」

 コタロウはパタパタと飛び去って行く。狩りをして獲物を食べてくると言っているのだ、狩人の発想は大体そんな物なのだ。

 むしろ裸一貫、何の道具も持たずに狩りをして獲物にかぶりつくコタロウを想像すると、その獣性に思い至りいささかぞっとするヒロであった。

 

 ヒロはOVISの近くまで歩いて行くと、その亜空間の中に入り込んだ。おそらくあの夫婦にはいきなりヒロが消えた様に見えた筈だ。

 コクピットに戻るとヘルメットを脱いで水を飲み、干し肉をかじる。外にいる間は飲まず食わずだ。

 外の様子を見ていると3人は家族団らんの様に食事をしているのが見えた。ヒロもまたメディナと共にあのような夫婦生活を送れるように努力をしたいと思っていた。

 

「オーヴィス俺は寝るから後の見張りは頼む」

『了解しました』

 ヒロはOVISのシートに座ったまま強制睡眠の中に落ちて行った。

 

    ◆    ◆    ◆

 

「市長、神殿に訪れていた兎人族とは別れた様ですね、丸い獣の方はふもとに向かって飛び去って行きます。あ、パイロットが消えました」

「パイロットは亜空間に隠れているOVISのコクピットで休息するつもりなんだろう。あの魔獣の様な獣は翼が有ったな、翼竜の亜種なのだろうか?」

「魔獣の方はドローンで追跡しますか?」

「そうだな、5体ほど回しておこう。しばらくは彼らから目を離せん」

 神殿の周りには数十体のカメラ付きドローンが既に配備されてあった。

 大きな昆虫程度の物であるが100メートル程上空を飛ばせているので飛行音さえ聞くことは出来ない筈だ。

 

 パイロットは早々に亜空間に有るOVISに引っ込んでしまった。こちらはドローンのカメラで見る事は出来ない。

 兎人族の親子も食事をしている。このまま寝て明日は出発するつもりなのだろう。

 カメラは飛んでいく丸い魔獣を追いかけていく、あの丸い体でよく飛べるものだ。

 

 山を下るとまだ若い木の多い森にやってくる。

 10年程前までは枯れた木々がその無残な姿をさらしていたが、いまは若い木が大きく育っている真っ最中である。

 それに伴ない下生えが密に育っており、多くの草食魔獣が生活をしている。あの兎人族を連れてきたパーティーもこの付近でキャンプを張っているのだろう。

 木はまだ若い物の強く根を張って生命を謳歌している。多くの昆虫が枯れた木を食べ、その糞を土壌に低い木や草が茂っている。

 この昆虫を食う小型の獣や草を食う獣たちが夜の間は活動を行っている。

 太った魔獣は音もなく地面に舞い降りると足で何かを捕まえたようだ。

 

「あれはヤギの仲間のキックスですね、小型の草食魔獣です」

「どうするのかな?その場でかぶりつくのかな?」

「いや、獲物をぶら下げたまま周りを探っていますね、何を捜しているんだろう」

「枯れた木の枝に獲物の足を突き刺してぶら下げましたね、獲物を保存しておくのでしょうか?」

「いや、首を切り落としたぞ、逆さにして血抜きをしているんだ」

 

「何ですか、それは血を抜いたほうが良いんですか?」

「君は外で狩りをしたことが無いだろう?私も若いころは調査部隊に同行して何度かやっている、肉から血の臭いが無くなるんだ」

「あれ?今度は獲物の下に大きな石を持ってきましたよ、すごい力ですね何をするつもりなんでしょう」

 

「内臓を抜くんだよ、君だって泥まみれの臓物を食いたくは無いだろう」

「なんですかそれ?まるであいつが人間みたいな言い方じゃないですか?」

「先ほどまでの彼らの会話を聞いていただろう。あのデブの知性はかなり高いと見た方がいいだろう」

「市長は昔はそんな事やっていたんですか?」

「調査旅行のだいご味だよ、新鮮な肉をその場で焼くと結構うまいんだよ」

「私はシティの合成肉しか食べた事は無いんですが、それはそのうち経験したいですね」

 

「お、爪を使って腹を裂いて丁寧に臓物を穿り出しましたよ、なかなか器用な奴ですね」

「石の上に臓物を並べて何をやっているのかな?」

「消化器を切り取っているんだ、洗えば食えるが君だって糞と一緒に内臓を食いたくは無いだろう」 

「このデブはかなりグルメなんですね」

 

「知恵が有ると言うよりはこいつは完全な知性体、人間と同じだよ」

「そうですか?切り取った消化器を捨てたら内臓を生のままかじってますよ」

「流石に鍋が無いし煮込むことも出来ないのだろう」

「内臓を食ったら今度は皮をむいていますよ」

「見てみたまえ周囲の枯れた木を爪で砕いて薪を作っている、ものすごい強力な爪だな」

 

「何をやっているんだろう? 枝を削って細くしていますよ、道具もないのに器用なやつですね」

「ああ、肉を串に刺して焚き火で炙るんだろう。直接火に当てたらススだらけになってしまうからね」

「見て下さいコイツ口から炎を吐きだしています、このデブやっぱり怪物ですよ」

「そんな事は狼人族でもやるよ、ナイフを持っていないだけでやる事は同じだな。この大陸はそんな怪物が支配している世界なんだよ」

 

「火を起こして肉をあぶっています、畜生なんかうまそうだな〜」

「そう言えば腹が減ったな、何か持ってきてもらおうか?」

「血の滴る様な合成肉のステーキとか?」

 

「…いや、サンドイッチにしておくよ」


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