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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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竜人再登場

1ー006

 

――竜人再登場――

 

『何かがそこにいる!』

 メディナの本能はこの男が只者では無いと強く警告していた。

 男の背後に何か大きな物の気配を感じる、しかしいくら気力を傾注しても何の音も息遣いも感じられない。

 しかも目の前にいるこの男はかなり怯えている様に感じられた。息遣いが荒く目の動きが定まらない。

 あれ程の力を見せたのだ、あまり追い詰めて暴発でもされたらたまらない。

 

 一方ヒロトは必死で考えをめぐらしていたが、自らの教程の中にこの様な事態は想定されてはいなかった。

 

『OVIS!こいつらなんて言っているかわかるか?』

『語録が増えれば翻訳が可能となります、とりあえず友好的にして状況の掌握に努めるのが上策と考えます』

 

 OVISの声が遠くに聞こえる。しかしヒロトの兵士としての訓練がすぐに精神を安定に揺り戻す。

 

【みんな待って!この人はおびえているみたい。大丈夫よ私たちはあなたに何もしないから】

 メディナは両手を広げ、あえて柔らかい口調で話しかける、そう、子供をあやすように。

 なんか後ろでバスラのジト目を感じる。後でひっぱたいておこうとメディナは決心する。

 

【私の名はメディナ、兎耳族のメディナよ、あなたの名前を教えてくれる?】

 上目遣いにヒロを見ながら自分の胸に手を当てその手をヒロに向ける。

 

『名乗っている様です、メディナが名前で兎耳族は家名と推測』

「メ、メディナ?」

 メディナを示して言ってみると女は笑顔で頷いた。

 

「ヒロト・オウギ」

 自分の胸に手を当ててそう答える。

 

【ヒロ…オウギ?】

 「ト」が抜けているが、構う事は無いと思いとりあえず頷いておく。

 

 女はそっとヒロの頭に触るとそのまま手を横に滑らして耳の所まで持って来て、そしてその手を離した。

 頭に手を触れた時にヒロトの胸に女性の胸が当たる。ヒロトは防具越しにもそれが胸のふくらみであると感じていた。

 軍隊にも女性はいたがこの様に女を感じた事は無かったのでドギマギして少し赤面してしまう。

 

【この人の名はヒロと言うみたいよ、耳はちぎれているんじゃなくて横についているみたい】

【なんでえ、犬耳族の奇形種か?】

 バスラがそう言ってアラークに殴られていた。

 

【アラーク、こちらも名乗った方が良いでしょう、先ほどの魔法で攻撃されれば我々でも十分に危険です】

【わかった、よそ者らしいがお互いに敵対する理由はないからな】

 ズイッとアラークが前に出る。

 

【ワシの名はアラーク、獅子族のアラークだ】

 アラークが自分の胸を指して名前を名乗る。

 

【私の名はナシリーヤ、獅子族のナシリーヤ】

【オレの名はバスラ、犬耳族のバスラ】

 次々と名乗っていくとヒロもそれに答えて頷く。

 

【俺はヤスド、犬耳族のヤスド】

【おいらはキャルト、猫耳族のキャルト】

 

 相手のヒューマノイドが次々と名乗って来るのを見てやはり十分に理性的な種族だとヒロトは思った。

 最後の男は少し小柄でバスラとは耳の形が少し違う、よく見ると目の虹彩が縦に割れている。 

『こいつは猫か?するとバスラとヤスドは犬だな。ライオンふたりにメディナは兎と言う訳か…』

 それにしてもこの星のヒューマノイドは一体なんだろう?

 

 遺伝子操作によるキメラ体を何故こんなに何種類も作って入植させたんだろうか?

 ヒロトの認識はおおむねこんな感じである。 

『その様な記録は私のライブラリーにはありません、もしかしたら人類統合政府の極秘計画では無いでしょうか?』

 OVISの記録にもこのような物は無いらしい、もしかしたら統合政府外縁部の星系なのかもしれない? 

『あり得るな、『エヌミーズ』との戦いの為なら人類統合政府は何でもやりそうな気がする』

『それは政府批判と受け取られかねません、口にしない事をお勧めします』

 人類統合政府は思想統制を取っている。あまり反政府的な思想を暴露するとキャリアを失う危険があった。 

 

『それも救助された時の話だ』

 政府の秘密事業だとすればヒロトがこのまま消される可能性だってある。

『人類統合政府との通信手段が有るかもしれません、穏やかに交渉を進める事を推奨』

『徒歩と槍で怪物を狩る蛮族のいる惑星にそんなものが有ると思うのか?』

『………………』

 

【しかしヘル・ファイアを使える種族が獅子族以外にいるとは思わなかったな】

【アンタの物よりだいぶ威力は小さいようだけどね】

【体が小さいのだから当然だろう、耳が無い種族の様だが伝説の耳無し族か?おい動けるか?】 

 アラークが手を差し伸べてくる。いささかビビっていたがヒロトはその手につかまって立ち上がった。

 ファースト・コンタクトはどうやら成功したようだ、全員の表情が少しリラックスしたのを見て少し安心する。

 

『全員が革の防具と槍を持ち剣を吊るしています、装備に統一性が無いので軍隊ではないと思われます』

 狩人か?あるいは民兵のグループなのかもしれない。

 

【ほう、ヘル・ファイアを使ってすぐに起き上がれるとは驚いたな】

 アラークは驚いた様である。ヘル・ファイアの魔法はかなり体力を消耗するのだ。

 

【どこから来たのかは知らないけど、この近くの土地の人間では無いようですね】

【この体格でこれだけ強力な魔法を使えるとは信じられないな】

【それより気が付きやしたか?さっきこの男は盾の魔法を使いやがったぜ】

 バスラもヒロトの使った魔法を見ていたようだ、この土地には伝わっていない魔法である。

 

『どうやら私の攻撃とバリアーを魔法と言う個人的システムで作動する物と考えている模様、更に語録の収集を願います』

 だいぶ語録が揃ってきたようで、大雑把な意味が理解できるようになったみたいだ。

 それにしても全員がマッチョなのは、獣を狩る仕事のせいだろうか? 

『素手による闘争は非推奨』

 

………ライオン相手に誰がやるか、命が惜しいわ!

  

【それより、メディナあんまり兎耳族らしくない真似をするなよ、お前は俺たちの後ろに隠れていればいいんだからな】

 バスラはメディナの魔法能力をあまり知らない、チームに誘った幼馴染を危険な目に合わせたくないと言う気持ちが有るのだろう。 

【そうだ、メディナよ戦うのは我々の仕事だ、お前は獲物の所に案内したらさっさと逃げなくてはならん】

 本当はアタシが出なければこの人は危なかったんだけどなー、と思うメディナ。

【御免なさい】

 結果としては、逆にこの男に助けられる事になってしまった。

 それでもメディナの魔法能力を知らないみんなは、本当に心配してくれているのだ。

  

『この女性だけは槍を持っていませんので非戦闘員と思われます。それがあなたを庇って前に出た事をとがめられている様です』

 

 あの時彼女がヒロトの前に飛び込んで来たのは彼に逃げるように言う為だったらしい。

 実際の所、OVISがいなければふたりとも危ない所だったのだ。

 ヒロトは彼女に感謝するということをジェスチャーで伝える事にした。 

「ありがとうメディナさん」

 女の目を見てそういうと彼女は少し照れたような表情をする。どうやら意味は伝わったらしい。

 

『メンタルは人間と比較的近いようです』

  

【この男?私に礼を言っているみたい】

 じっと目を見て礼を言われたと感じたメディナは少しドギマギしてしまった。

【なに照れてんだ?少なくとも敵じゃねえと理解した様じゃねえか】

 バスラが後ろでメディナを冷やかす。 

【しかし困ったな大型魔獣を追ってきたのは我々だが倒したのはこの男だ】

 アラークが何やら難しい顔をしている。 

【そうねギルドの報奨金の分け前を受け取る権利が出来てしまったわね】

【まあ仕方ないでしょう、私たちが狩人で無い人間のいる方に追い込んでしまったのですからね】

 

 本来はこのような場合は追い込んだ人間に権利があり、仕留めたとしてもそれは無効とされるのだ。

 しかしヒロの格好は明らかに狩人では無く武装すらしていない。

 つまり狩人同士の問題では無く一般人を危険に巻き込んだ責任を問われかねないのだ。

 獲物の横取りを主張するどころか組合に訴えられたら罰金すら科せられない状況と言える。 

【それにしてもこの大きさで強力な魔法を使えるのみならず、使った後でもぴんぴんしているとは】

【まあ隊長がヘル・ファイアを撃って獲物が跡形もなくなるよりはマシよね】 

 言っていることは不明だが何やら物騒な話ではあるとヒロトは感じた。

 

『このライオンの男が同様の魔法を使用すると推測、彼がそれを使うと獣の形が無くなる様です』

『なんだと、個人の肉体でそんなエネルギーを使用できるのか?』

『生物学的に不可能、他の要因と考えられます』 

 先ほどの話と言い、この惑星では魔法と言う個人技にはかなりのエネルギーが込められるようである。

 考えてみれば恐ろしい話である。個人の攻撃力がOVISに匹敵すると言う事なので有るから。

 

【今回のプレートはどうなるのかしら?】

【いや、今回の戦闘では俺たちが一番槍を打ち込む前だったからな、コイツが金プレートを取得する事になる】

 犬耳族のヤスドが答える。アラークも同様の考え方の様だ。 

【みんなが手を掛ける前に魔法で倒しちゃったものね~、信じられないわ~】

 やはりと言う感じで肩をすくめる。 

【おめえはどこから来たんだ?】

 バスラが身振りで何かを伝えようとしている。

 

『どこから来たのか問われています』

『語録はそろったのか?』

『大まかな意味は推測出来るようになりました』

『そうか、わからない事にしておこう。記憶がないと言う設定で通訳を頼む』

 

【わかる…ない…ここ…いた】

【なんだ、片言なら通じるのか?】

 バスラがヒロの顔を覗いてくる。 

【少し…だけ】

 OVISが送り込んでくる通信を口で真似て発音をする。どうやら通じている様だ。 

【この森…目覚める…その前…覚えて無い】

 杜撰すぎる設定だがこれで押し通す事にした。さすがにこの世界の医療水準はそれほど高くは有るまい。

 

【記憶が無いのか?何か恐ろしい目にでも会ったのか?ナシリーヤこの男を見て何かわかるか?】

【う~ん、アタシの知っている種族じゃないわね~、こんな耳の小さな種族は知らないわ、新種かしら?】

【お前が知らないのであれば知っている者は街にはおるまい、まあとりあえずは街に戻ってから考えるさ】

 

 アラークの言っていることはヒロにも何となくわかった。

 結構こんな言い訳でも通じるものだと思う、この世界はまだそこまで厳格な社会整備が整ってはいないようだ。

【過去の事を覚えていないのであれば病院のバルバラ医院長に診ても立った方がよくはないかしら?】

【そうだな、後でコイツを連れて行ってやろう】

 

『診察の様な発言がある事から推察するに病院も存在している様です』

『思ったよりずっと社会組織は発達している様だ、その割に武器が銃で無いと言うのはどういうことなのだろう』

 

【今回の殊勲はお前だ、一緒に町に来て分け前を受け取れ、細かい事はその後だ】

 アラークがそう言うと他のみんなは散っていく、荷物を取りに行くらしい。

 

『彼らの話を総合するとこの獲物の分け前を受け取れる様です』

『ありがたい、社会生活を送っている種族らしいから金がもらえるのはとりあえず助かる』

 

【感謝…する】

 アラークが笑顔で頷く所を見るとそれなりに倫理や道徳観の有る世界の様だ。 

 結局彼らは猟師らしいが、この無茶苦茶デカい獲物はどうやって運ぶんだろう?

 ここは森の中で上空から見た時には街まで結構な距離が有るように見えたのだが。 

【近くにいると良いんだけどな~】

 メディナがリュックを持ってきてその中から筒状の物を取り出す。

 筒先を上に向けて地面に固定する。

 ヒモを引くとボン!と音がして何かが飛び出す、木々の上まで行ったところで爆発して赤い煙が広がる。

 

『原始的な通信手段と判断、狼煙と呼ばれるものです』

 時間をおいて3発目を打ち上げる、さらに4発目を打ち上げようとしたところに上空から何か大きな物が降りて来た。

 

 巨大な竜である!それも先ほどぶん殴った竜である!


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