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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
51/221

翼竜の解体

2ー022

 

――翼竜の解体――

 

 リクリアの容体を聞いたが手術中という話だけで今はそれどころではないらしい。邪魔をする訳にも行かないので退散をした。 

 怪我人の大半は翼竜との戦闘から逃げる時に負った怪我のようで、直接落下した翼竜の下敷きになった人間はいなかったらしい。

 殆どが骨折、裂傷の類で今の所死者はいないとのことだった。流石にヒロの世界とは違ってこの世界の人間の逃げ足は早いようだ。

 

 病院での喧騒から逃げ出すと、ふたりは狩猟ギルドに顔を出すことにした。 

 すると此処も喧騒の真っ最中だった。多くの人がギルドの窓口で塩を受け取っていた。

 狩人に拘らず全ての街人に動員がかけられているそうだ。狩人ギルドも墜落現場までの通路を作って馬車による運搬も考えているらしい。

 現場に資材や塩を運びブロックに切り分けた肉をギルドに運び込んだりする事も考えている。

 

 どちらにせよ期限はせいぜいが1週間でそれ以上は肉が悪くなってしまう。

 ヒロたちも塩を受け取って現場に向かおうと思ったが、金バッチには招集がかかっていた。

 肉を加工する場所の周囲で魔獣から人を守る仕事らしい。あれだけ大きな肉の塊である、大型魔獣が嗅ぎつけないとも限らない。

  

「仕方がない、俺はこっちの仕事をしなくてはならないから、君はどうする?」

「いいわ、私は知り合いのグループに入れてもらうから、ヒロはそっちの仕事をして」

 あんな大きな得物の解体は簡単には出来ないだろうし、足場もさして良いわけでもない。水運びだけでも大仕事になる。

 

 帰ろうかと思ったらギルド長の部屋からコタロウが飛び出してきた。声を掛ける間もなく空に飛んでいった。

 多分大学に行って助手を集めて来るのだろう忙しいことだ。後で聞いてみたら肉の取り分と、解体に対する手順を決めていたらしい。

 コタロウとお母さんが順番に解体をしていき、それに合わせて学生が各部のスケッチを行うそうだ。 

 肉の剥ぎ取りはその後での作業では、それだけでもかなりの時間がかかりそうだ。幸いなことにだいぶ気温も低くなってきており、肉の痛みも遅くなるから大丈夫だろうと言うことだった。

 メディナはその後知り合いのグループと連絡が付いたようで明日はその人達と解体作業をするみたいだ。

 

 次の日は朝早くから翼竜の墜落場所に行く。既にコタロウは来ており、20人程の学生がスケッチブックを持って来ていた。みんなを集めて手順を話している。

 徐々に人々も集まり始めている。塩漬けや干し肉を作る人はそれなりの道具を持ち、肉を持ち帰ろうとする者は背負子のようなものを持って集まってきている。 

 翼竜の下半身は数百メートル離れた位置に周囲の木々をへし折って落下していた。竜のお母さんがコタロウの後ろから皆の話を聞いている。

 上半身はコタロウが、下半身は竜のお母さんが解体を行うようだ。

 

「最初は解体前の各部の寸法測定をお願いします、かなり大きいので注意してい願いしますね〜」

「「「は〜い」」」

 こんなデカイ物寸法測れるのかなとも思ったが、ネコ耳族の学生は身軽に翼竜に登って寸法を測っていく。流石にこの世界の住人の運動能力は半端ない。

 

 翼竜の首に付いていた居住区画は既に誰かによって移動させられていた。かなり大きな物だったが熊族や獅子族もいたのですんなりと移動させられているようだ。

 長さ10メートル、幅5メートル位で高さが3メートル程度、金属製で出来ており一部にガラスがはめ込まれている。

 これは怪物の背中に乗っていた物だろうか?腹の方に付いていた物は翼竜の墜落によって潰れてしまっている。

 

 外部はそれ程痛んではいないが核爆発のあおりを受けたようなものだ。かなり高温にさらされた跡が見える。

 中を覗くとあまり大きくは無いが、椅子が備え付けられていてここに3人が乗っていたのだろうと想像される。

 あの死体は聖テルミナ病院に運んだけれどあの後どうなったんだろう?

 リクリアの事も気になるが、いくら兎耳族とは言っても今は面会謝絶だろうから、この騒ぎが治まったら様子を見に行かなくては。


「おはようございます皆さん、今日はよろしくお願いしますね」

 お母さんもやってきて学生や街の人たちに挨拶をする。

「「「はい、こちらこそお願い致しま~す」」」

 生徒らしい若者たちが竜のお母さんに向かって一斉に頭を下げる。金属の棒を手に持っている、なんだろう?ナイフでもないようだし。


「それじゃお願いしますね、今回は丁寧に解体をしなくてはなりませんからね」

「「「は〜いっ!」」」

 お母さんが両手を出すと金属棒を持った学生がその爪に取り付いている。

「竜の爪は硬いですからね、なかなか削れないでしょうけど頑張って研いでくださいね」

 金属の棒だと思ったのはヤスリだったようだ。学生たちはお母さんの爪を一生懸命研いでいた。


「人差し指だけで良いですからね、綺麗に切らなくてはうまく腑分けは出来ませんから、なるべく刃を出してくださいね」

「竜のお母さんが腑分けをされるとは思いませんでしたよ」

「ああら、主婦ですもの、腑分けは毎日やっているんですよ。でも今回は大きいし綺麗に解体しなくてはなりませんから、ちゃんと爪は研いでおきませんとね〜」

 豪気な発言である。刃物を使わずに解体を行うつもりらしいが、果たして主婦の本気とはどんなものなのだろうか?


 周囲では街のみんなが準備を始めており、狩人ギルドが穴を掘ってシートを貼っている。

 重いので自分で樽を持って来れる人間は少ないそうなので、塩水に漬けるプールにするらしい。

 馬車はまだ入ってこれないが小型の荷車も持ってきている。沢まで行って水を汲んでくる為のものらしい。

 燻製用のテントを持ってくるグループもいる。大きなグループ程様々な道具が持ち込める様だ。

 そう考えるとこの狩人ギルドの対応能力はすごいと思う、様々な人間への配慮が出来ていると言えるだろう。

 

 コタロウさんが解体を始める。お母さんと同じ様に爪を研いでもらっていたようだ。

「皮が焦げちゃっているから、うまく剥ければ良いんですけどんね〜」

 真っ先に首の周りから始め胸の皮を切り開き、大きく体の正面を露出させる。

 首筋とは言っても直径が10メートル位ある太さである。腹の部分は15メートル位だろうか?

 

「はーいみなさん、肋骨の絵を書いてくださいーい」

 

 準備が終わった人たちは興味深そうにその様子を見ている。意外とのんびりとした感じだ。

 気温があまり高くはないので肉はそれなりに持つと考えているのだろう。

 ヒロは周囲を見回って肉を狙う肉食魔獣を追い払っていく。こんなものなら良いが大型魔獣が出たらパニックになるかも知れない。まあ獅子族もいるからなんとかなるだろう。  

 肋骨は上空からの落下でかなり破損をしており内臓も同様に傷んでいた。それでも肋骨を撤去して上から順番に内蔵を切り取ってスケッチをしていく。

 

「うわ〜〜っ、すごい大きさの心臓だな〜」

 心臓だけでコタロウ位の大きさがあり、その横に同じくらいの大きさの魔獣器官がくっついている。

 ふたつまとめて切り取ってシートの上に置き、学生たちにスケッチをさせる。

 

「これは処理してよろしいでしょうか?」

 街の人が加工してよいか聞いてくる。

「これは魔獣器官なのでお父ちゃんに持っていきますよ、怪我をしていますから」

「おお、そうでしたな。是非竜人様に召し上がって頂いてください」 

 他の臓物は順番に切り取り、スケッチをしてから街の人に渡す。臓物は痛みやすいので茹でて塩漬けに加工していくようだ。

 その後は、首を除いて順番に筋肉を外していく。全長200メートルの怪物である。一本の筋肉が人の体よりも大きい。

 

「お母ちゃんうまく行っている〜?」解体の合間を見て母親の様子を見に来てみる。

「大丈夫よ、コタロウちゃんの言う手順で解体しているわ。それよりこの翼竜はメスなのね、排卵器官が有るわよ」

「あ、本当だ。お母ちゃん良く見てくれていたね〜。上半身には魔獣器官が有ったからお昼にお父ちゃんの所に持っていくよ〜」

「お願いね、お母さんは余った肉を焼いておくから一緒に食べましょうね」

「う〜ん、お願いしま〜す♪」

 

大型魔獣グリックだ!」

 誰かの声が聞こえてバラバラと人が逃げてくる。

「あらあら、血の匂いを嗅ぎつけて来たのかしら?嫌な連中ねえ」

 お母さんは頭を上げると口からボンッと火の玉を吐き出す。魔獣のいた場所でドーンと爆発が起きて肉食の魔獣が伸びていた。

 早速街の人たちの手によって解体されて昼飯になっている。なかなかに逞しい連中である。


「よう、メディナ。うまく出来てるか?」

 ヒロはメディナが手伝いをしているグループの様子を見に来る。

 肉をいくつもの塊にして塩水に漬けている。半分くらいは細切りにしているようだ。

「大丈夫、順調よ」とにっこり笑うメディナはすごく可愛いと思う。

 メディナは肉を食わない。この肉はヒロが冬の間食うための備蓄なのだ。

 

 加工が終わったものから交代で街に持って帰り家で休んで来る。

 屋外で食物を扱っているので留守にする訳には行かない。夜の間に獣を呼び込んでしまうので、それ以外の人間は現場で野宿をするのだ。

 この時期は割と天候が安定しているので助かっている。枯れ葉を集めてその上で毛布に包まって寝る事にする。

 

「ああ〜らメディナさんヒロさん、お仕事出来てますか〜?」

「バ、バルバラ医院長さん」

 いつの間にか聖イルミナ病院の医院長が仮面を付けた格好で立っていた。  

「皆さんのお仕事の進み具合を見に来ましたのよ〜、特に腑分けの状態を〜」

「思ったより早く進んでいます、今年の冬はみんな食料に困ることは無いでしょう」

「それは良かったわ〜、頑張ってくださいな〜」

 医院長は仮面をずらしてニンマリと笑う。

 

「それで、リクリアさんの具合はいかがでしょうか?」

「はい、順調ですよ〜、骨がくっつけば問題なく治りますよ〜」

「え?それは…腕はくっついたんですか?あの病院での再結合手術に成功したのですね?」

 この星の医療水準で四肢の結合手術が出来るのか?スキャナもレントゲンも無いというのに。 

 

「ま、私を誰だと思っているのですか?聖イルミナ病院のバルバラ医院長ですよ〜」

「そ、それじゃリクリアさんの腕は治るんですか?」

「まあ、まだ骨は金属が入っていますけどね」

 嘘だろ、どう考えてもあそこの病院にそんな技術がある訳がない。

 

 ランプを使っている世界の医療水準で、血管縫合なんか出来るわけが無いだろう。

 

「まあ、あの子でなければ難しい所だったんですけどね〜」

 どういう意味なんだろう、彼女は特別だと言いたいのだろうか?

「それで今日は何をしに来られたんですか?リクリアさんの様態を知らせに来られた訳では無いでしょう。」

「それも有りますけどね〜、腑分けの状態を見に来たのも本当ですよ〜」

 

「医院長さ〜〜ん、来てくれたんだ〜〜」

 コタロウの大声が聞こえると医院長はすっと仮面を付け直す。

「あああ〜ら、コタロウさん。ごくろうさま〜〜」

「医院長さ〜ん、あの人達の腑分け〜〜、もうやっちゃったんですか〜〜」

 医院長の顔を見た途端にこれかよ、狼人族の時もそうだったが、腑分けマニアだな。

 

「今の所怪我人が多くてね〜〜、もう少し氷室に安置して置かなければならないわね。大丈夫よ、その時はちゃんと連絡するから〜」

「ありがとうございま〜す。医院長さん大好きで〜す」

 医院長に向かって突進するコタロウの顔の正面に、シャイニング・顔面キックを打ち込む医院長。驚く事にコタロウの突進がそこで止まる。

 

「アンタに抱きつかれたらアタシの体がバラバラになるだろうが〜!」

「あははは〜〜〜っ、すいませんつい嬉しくて〜」

 顔の真ん中に足跡を付けてニッコリ笑うコタロウ。

「それじゃ頭の解体をする頃にまたやってきますからね〜」

 そう言い残して医院長は帰っていった

 

 ヒロ達警備の者は本当の仕事は夜番である、獣は夜に動くので徹夜で見張り夜が明けてから寝ることになる。

 食料の用意はしてこないで、知り合いのグループのところで食わしてもらう。

 誰も嫌な顔をせずに用意してくれる。自分の場所を魔獣から守ってもらえるのだから喜んで食事を提供するのだ、もっとも大抵はモツの煮込みになるのだが。

 

「ヒロか、異常はないか?」

 アラークが声を掛けて来た。今回の警備の責任者はこの男がやっている。

 ガーフィーはというと、リクリアの事で気もそぞろなのでアラークが追い返した。今頃はリクリアに付き添っているかも知れない。

 片腕をなくしてしまうともう狩人としての仕事は出来ないだろうと思っていたが、医院長の話では元通りくっ付くらしい。しかし元通りになるのには数年はかかるだろう。

 

 当分狩人仕事は無理かもしれないかも知れないが、治るとわかれば安心できる。


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