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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
5/221

狩猟部隊

1ー005

 

――狩猟部隊――

 

 その日カルカロスの狩人組合から大型魔獣グリック討伐の依頼が来た。

 

 メディナを含め『獅子の咆哮』のメンバーが討伐に出かける事になった。

 リーダーは獅子族のアラーク、武に優れ信頼のできる男であり、兎耳族であるメディナの能力を高く評価してくれる人間でもあった。

 目撃情報の有った付近から捜索を開始し、メディナの耳、バスラの鼻を使って大型魔獣の追跡を行ってきた。

 相手は熊の魔獣だ、普通は雑食の魔獣だがこいつは魔獣の肉を食って大型化した奴だ。

 図体がデカいだけに追跡は楽である。そこいら中に痕跡を残して移動して行ってくれる。

 

「見つけました、肉球持ち体重は約2トン、何かを食べています」

 先頭を歩いていたメディナが合図をしてみんなを止める。 

「距離は?」

「北東約500メートル、しかしこれは?」

「どうした?」

「わかりません、別の何かがいますが初めての感覚です。魔獣の物ではありません」

「大きさは?」

「それもわかりません、生き物ではないような……いや、消えました気のせいかもしれません」」

「わかった用心しておこう」 

 気付かれぬ様に獲物の周囲を囲んでいく。メディナはアラークの後ろに控える。

 

 獲物の姿が見える、やはりかなり大きな熊の大型魔獣である。手話による合図を送りながら包囲を縮めていく。

 アラークはメディナに下がる様に合図をする。戦闘に際して兎耳族を守る余裕が有るとは思えないからだ。

 しかしメディナは何か違和感を感じて下がるのをやめた、もしかしたら魔獣の裏側に何かがいるのかもしれない、そんな予感が有った。 

 突然魔獣は立ち上がると周囲の様子をうかがい始めた、4メートルを超える大型魔獣グリックだ。

『気付かれたか?』

 そう思った刹那魔獣は踵を返して逃げ始める、それはメディナが違和感を感じた正にその方向だった。

 

『いけない!もしかしたらあの先に人間がいるのかもしれない』

 そんな予感がメディナを突き動かす。アラークを飛び越えて熊の横を追い抜くと進行方向を見る。 

「いかん!下がれメディナ!」

 アラークの声を無視して飛び上がる。足元の良くない場所ではジャンプを得意とする兎耳族の方が早く魔獣に並んでその前を見る。

 

 やはりいた!妙な服を着た男がボケッとした顔で突っ立っている。

 『コイツ、素人だ!』怪物の前に現れた男は狩人では無いとメディナは一瞬で見抜いた。

 男は間抜けな顔をし魔獣の正面に無防備に姿を晒している、あれでは逃げられない。

 何者だ?頭の上に耳が無い?怪我でもしたのか?男を見たメディナの最初の印象はそんな物であった。

 メンバーは全員で一斉に追いかけて来るが、魔獣の移動速度は速く誰も追いついては来ない。

 魔獣は目の前に現れた男に対して大きく爪を立てようとしている。

 

 意外な事に紙一重で躱す男、しかし次に来るのは魔獣の魔法攻撃である。明らかにこの男はそれに対する動きの準備が出来てはいない。

 そう判断したメディナはその男にタックルを行い地面を転がって逃げる。

 対象が移動したことにより一瞬躊躇する魔獣、背後からは皆が迫ってきている。

「逃げるのよ!早く立ち上がって」

  

 周囲ではチームのメンバーが魔獣を引き付けてくれるだろう、今のうちだ。

 ところが魔獣がこちらに向けて口を開けるのが見えた、まずい!魔法を打ち込むつもりだ。

 メディナは魔獣に向かって手を上げ攻撃魔法を発動しようと思った。

 みんなに魔法の事を知られてしまうが仕方がない、今は人の命の方が大事だ。

 

    ◆    ◆    ◆

 

「なんだ、これは!」

 突然の事にヒロは一瞬狼狽するもすぐに状況の掌握に努める。

 獣にしては大きすぎる怪物が明らかに興奮しておりヒロを見つけるとその腕を大きく振り上げてくる。

 

『大型の肉食獣と推定、逃走を推奨』

 

 航宙飛行兵団の教練で行われた反射訓練は確実にその成果を示してくれた。

 怪物の動きを捉えその攻撃をかろうじて躱す。

 周囲の藪から槍の様な物を持った数人のヒューマノイドが飛び出してきて大きな獣に立ち向かっている。 

 それがこの星の知的生命体であると瞬間的にヒロは理解した、皆作業衣のような物を着て武器を携えている。

 そのうちの一人が俺の目の前にやってきて何かをしゃべっている。意味は解らないがさっさと逃げろと言っているみたいだ。

 怪物を追っている者たちよりも二回りほど小さく子供の様にも感じる、頭には長く跳ねだした飾りのある帽子を被っていた。

 

 怪物は追跡をしてきたヒューマノイドに向かって立ち上がり威嚇をしている。その背丈は4メートル近くあり体重もそれなりに有りそうだ。

 男たちはそれを躱しながら攻撃を試みているようだがなかなか槍が届かない、どうやら銃器類はまだ持っていない様だ。

 すぐに逃げようと子供を抱きしめて立ち上がると怪物がこちらを振り返って睨む。

 抱えた子供の胸に何か入っている?そんな事を考えたがすぐに警告が聞こえる。

 

『エネルギー反応を感知』

 

 姿こそ見えないがOVISは確実にヒロの背後に存在している。

 恐怖の為かヒロが抱きしめている子供が自らをかばうように片手を怪物の方に向けるのが見えた。

 急いでその手を捕えて強く抱きしめると後ろに飛び退る。

 その瞬間怪物がその口から炎の塊をこちらに向かって撃ちだされた。

 しかしOVISが張ってくれたシールドに反射される。

 炎の攻撃はこれで2度目だ、この星の生き物は炎を吐く性質が有るらしい。

 

「オーヴィス、攻撃しろ!」ヒロは子供を抱きしめて怒鳴る。

『了解』

 返答と共に虚空から光の槍が放たれる。光は立ち上がっていた怪物の頭を一瞬で蒸発させた。

 体の力が抜けて怪物はどさりとその場に崩れ落ちる。ナイスだOVISほかの誰も傷つけない見事な照準だった。

 刹那一瞬の空白が訪れ怪物を追ってきたと思われる全員がこちらを見る。

 しかしなんだこいつらは、やはりこの子供と同じように頭に飾りを付けている。

 人間の様なシルエットに槍や防具を身に付けているヒューマノイドである、この星の住人であろう?原始的な種族であるようだ。

 腕の中の子供がもぞもぞ動いてヒロの手を振りほどくと、そこには地球人の顔をした女性が立っていた。

 

「え?えええ~~っ?」

 ヒロの胸にポヨンとした感触が残る、子供と思ったのはこの星の女性だったようだ。

「…天使…?」

 ヒロトが見た幻想に出て来た天使がそこにいた。 

 その時ヒロトが思ったのは、ここは人類の植民性のひとつだったと言う考えである。

『注意!あのドラゴンの様な先住民族のいる惑星はリストに有りません』

 OVISの注意喚起もヒロの安堵した心には響かない。

 

 この星の習慣だろうか?頭の上に何か兎の耳の様な形の髪飾りを付けている。

 ようやく周りを見る余裕が出来ると自分が槍を持ったヒューマノイドに囲まれているのがわかった。

 明らかに用心深い動きで怪物とヒロの方を交互に見ながら接近して来る、かなり大柄な男達の様だ。

 

『こちらの動きを警戒していると推測、防御バリヤーを展開しますか?』

『待て、この人たちに頼んで人類連合に連絡を取ってもらうんだ』

 槍を持っている所を見て原始的な種族かとも思った。辺境の惑星だろうか?ずいぶん工業力が衰退してしまった様だ。

 だが装備をよく見るとそれなりの文明度を感じる。

 ちゃんとした服を着ているし、その胸や腕には何かの防具と思われる物を付けていて、革で出来た手袋をしている。足元を見ると立派なブーツを履いている。

 

【貴様何者だ?】

  

 そんな事を考えをぶった切るような大きな声が響き、気おされたヒロトは尻もちを付く。

 ひときわ大きな男がヒロトの前に進み出て来た。身長が2メートル以上ありその体格もまた桁外れに太い。

 何よりその顔を見て腰を抜かしそうになる、その昔見た事のあるライオンの顔そのものであったからだ。

 

【貴様は何者かと聞いている】

 ライオンは大きな口を開けて唸り声を上げて俺に迫って来る。口の中の大きな牙が怖い!めっさ怖い!

 

『挨拶であると推察、武器を向けていないので攻撃的とは考えられません』

 OVISの言葉も目の前の肉食獣の眼光の前にはむなしく響く。

 違う!ここは人類連合に所属する惑星じゃない!あの天使の言った新しい世界なんだ。

 

「・・・・・」

 

 恐怖のあまりヒロは何かを言ったとは思うが、何を言ったのかはわからなかった。

 さっきの怪物に比べても生身で目の前にいるライオンの迫力は半端なかった。

 

『オーヴィス、迎撃の手段は?』

『非推奨、人間と同様の知的水準と推定。友好を深めるべきです』

 多分震えていたと思う、OVISの言葉も耳に入らなかった。

 

【こいつ何を言っているのかわからんな】

 ライオンの目がじっと俺の事を見つめている、俺を食うつもりか?本当に食うつもりか?

 

『異なる外見の種族の混成部隊と考えられます、したがって食人の習慣は無いと推測』

『そんなん判るか!何でここの連中はライオンなんだ?』

 

【アンタがその顔で迫るから怖がっているのさ、もう少し優しい顔をしなさいよ】

 もう一人のライオンの顔が出て来るメスの様だ。たてがみが無く、女性らしい体形をしている。もっともこの女性も2メートル近い身長だ。

 あ、舌なめずりしてやがる。やっぱ俺はうまそうに見えるらしい。

 

『言葉がわかるのかと聞いていると推測』

 OVISの助言に俺は首を横に振る。

 

【ああ、駄目だやっぱり言葉が通じないらしいな】

【やはり余所者か、それにしてもさっきの魔法はヘル・ファイアでは無いのか?】

【獅子族以外にこの魔法を使える者がいるとは驚きですわね】

 ヘル・ファイアと言う言葉が聞こえた。どうやら先ほどの攻撃の事らしい。

 

『先程の私の攻撃を見て動揺をしているようですが、奇跡という判断をしていません。同様の兵器が現存する可能性があります』

 もしそうだとすればかなり危険な相手だ。迂闊にこちらの正体を明かす訳にもいかないだろう。

 

【隊長、コイツ耳をちぎられていますぜ。かなりひどい目にあった過去でもあるんじゃないスか?】

 ライオンの後ろから人間の男が出て来る。

 身長はヒロトと同じくらいで痩身の男に見えるが、何かマフラーの様なものを尻からぶら下げている。

 しかし近づいてみて驚いた、髪飾りと思ったのは獣の耳で、尻からぶら下がっているのは毛の生えた尻尾の様な物らしく左右に動いている。

 しかもその口の中に大きな牙が見える。よく見りゃこの男も十分獣じゃないか。

 

『注意、外見的特性で相手を獣と断じるのは危険です』

 

【心配すんな俺達はカルカロスの街の狩人だ、お前さんどこから来たんだ?】

 この惑星の住人は、偶然にも獣の顔をした人間が支配しているとでも言うのか?

 

『骨格は人類に酷似。人間を共通の祖先に持っているか、人間と獣のキメラ体だと推測』

 何の冗談だ、人間のキメラ体を作ってこんな植民星を作るなんて誰の道楽だ?あり得ないだろう。

 

 そう思って先ほどの女性を見ると髪飾りと思ったのは毛の生えた兎の耳で有った、こっちは兎と人間のキメラ体かよ!


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