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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
44/221

秋の大狩猟祭

2ー015

 

――秋の大狩猟祭――

 

「秋の大狩猟祭?」

 狩人ギルドからの全ての狩人に対して招集が有った。

 

 夏の狩猟シーズンが終わり秋が深まってきた頃ヒロも18歳になりこの世界の状況もわかってきた。

 すでに人類軍への復帰という考えは消え去り、メディナと共にこの世界で生きていく気持ちが固まっていた。

 能力的な問題は有ったが畑もあるし、この世界で使える技術を学んで食い扶持を稼ぐ事を考えて行くことにした。まだ人生は始まったばかりである。

 

『当機はいずれ壊れますから、わたしに頼らない生き方を見つけて下さい』

『おまえ最近特に無情な事を言うようになってきたな』

『当機の第一目標はパイロットの安全確保であり、生活保証ではありません』

 まあ、狩りの時は随分世話にはなっているからな、さっさと自立しろという事か。


 冬に向かって街では食料の備蓄を行わなくてはならないそうだ。穀物の備蓄は倉庫に順調に貯まり続けている。

 必要なのは肉の備蓄だそうである。この街はそれ程寒くはならないらしい。

 それでも実りの秋でも有り魔獣による畑の被害は増加する。実った作物が美味しいのは人間も獣も同じなのである。

 そこで大規模な巻狩である、街にいる狩人が総出で街の周囲を幾つかに分割をしてそこにいる魔獣を一網打尽にするのである。


「魔獣と言っても草食魔獣は大きい物は1トン以上の物もいて大型魔獣と変わらない大きさなのよ、そんな物を狩っても運べないでしょう」

「ああ、知っている、そういうのは追い込み猟で狩っているよ」

 『栗の木』にいる間に経験をさせてもらった事が有る。本当に彼らは狩りの基本を1から叩き込んでくれたものだ。 

「それを大きくしたのが巻狩猟で町中が総出で囲いに獲物を追い込むのよ」

 追い込み猟は、大きすぎて運べない草食魔獣をギルドが作った囲いに誘導する猟である。

 生きたまま捕獲できるので飼育しても良いし気性が荒い者は殺して馬車で運べる。

 

 森には狩人ギルドが何か所かそのような囲いを用意しており、狩人はそこに獲物を追い込むのである。

 囲いを使用して狩ったものは、ギルドから囲いの使用料を差し引いた査定で獲物を買い取ってもらうシステムなのだ。

 秋の前に広範囲の地域を囲んだ勢子が獲物を囲いまで追い込み、街の周囲に生息する魔獣を一網打尽にするものである。

 

「いくら魔獣とは言っても、やはり実った作物は美味しいから食べたいらしくて、人里の近くまでやって来て畑の作物を食べるのよ。草食魔獣と一緒に肉食魔獣に来られたらたまらないでしょう、刈り込みの前に一網打尽にしちゃうのよ」

「しかしそんな事をしたら次の季節に獲物が捕れなくなってしまうだろう」

「魔獣の生命力を甘く見ないで、冬の間に囲い込み猟の範囲の外から食料を求めて侵入してくるわよ」

 

 つまり魔獣の空白地帯が出来ればその外側にいる魔獣は、その空白地帯に侵入してくれば楽に食料を調達出来るのだ。

 如何な食性を選ばない魔獣といえども、やはり元の食性に有った食料を美味いと思うものらしい。

 空白になった街の周囲では、外部から侵入してきた魔獣が子供を儲けて再び増殖していくそうだ。

 したがって春は禁猟期であり、夏から冬にかけてが狩猟シーズンである。

 畑を持つものは春の間に植え付けを行う、畑を持たないものは秋の収穫の手伝いと冬から春の間は猟の他に様々な工房で物造りに励む者もいる。

 女達は出産と裁縫事業を行う者も多い。いずれも狩人を引退した後の仕事の修行のためでもあった。


 一月程前からギルドでは狩人と町の人間に対してこのイベントの告知を行っていた。

 広範囲に広がった勢子を使ってその中にいる魔獣を囲いの中に向けて追い込んでいくのだ。

 ただこれは狩人ギルド主催なので日当の肉の交換券がもらえる。狩った肉の分け前を受け取れるのだが、それは得物の頭数によるので必ずしも量は決まってはいない。

 大物を狩っているチームにはあまりメリットが無いが小さなチームにとってはそれなりの収入になる。まあどちらかというとお祭りの様な物らしい。

 

 当日広場に行くと大勢の人がギルドの前に集まっていた。大人に連れられた数人の子供達が参加している、10歳以上の子供は参加できるそうで兎耳族も沢山参加している。

 子供達にも日当が出るのでお小遣いを稼ぎに来ているのだろう。

 無論素人が狩りに出るのは危険なのでベテランのグループの一員として行動する。

 子供のうちから行われる狩人教育の一環だそうである。狩人達には猟に応じた肉券が発行される。

 生け捕りされた獣は生かされながら、順番に潰されて加工肉として処理されるのである。そのためこの時期にはギルドの倉庫には塩が山積みにされているのである。

 

「おお、メディナ、ヒロも来たのか?」

 アラークがチームと一緒にたむろしていた、無論リクリアも一緒だった。この半年で彼女もチームにすっかり馴染んでいた。

 あれ以来リクリアも休みの時は足繁くメディナの家を訪れ、メディナもまたリクリアとは気が合うようで非常に仲良くしていた。

 

「ご無沙汰していますその節はお世話になりました」

 ヒロに『栗の木』を紹介してくれたのはアラークである。猟を全く知らないヒロは、半年間彼らの元で様々な修行をさせてもらえたのだ。 

「おおヒロ、久しぶりじゃねえか、メディナも元気にしていたか?」

 犬耳族のバスラも奥さんと一緒に参加していた。メディナ幼馴染で彼女を『獅子の咆哮』に誘ったのもこのバスラだ。

 

 メディナが『獅子の咆哮』を辞める時に引き継ぎで、リクリアの教育をしていた事もある。

 バスラが結婚の為にチームを抜けたので、その間ヒロもバスラの代わりにチームに参加していたのだ。

 あれからリクリアは実績を積んできた。もうすっかり『獅子の咆哮』での立場を明確にしていた。

「リクリアは凄いぞ、兎耳族にもかかわらず槍使いは犬耳族並だ。いや〜っ、お陰でバスラとメディナの抜けた穴を完全に塞いでくれているよ。まあ、鼻は犬耳族ほどではないし、逃げ足だけはメディナのほうが早かったようだがな」

 アラークにしてみれば期せずして二人の抜けた穴が同時に塞げたのは行幸なのだろう、笑顔が止まらないという所らしい。

 

「どうだ?メディナ、ヒロとはうまくいっているのか?」

「ええ、ヒロは優しいですから」

「まああまり尻に敷かないようにしてやれな」

 そう言われて皆がどっと笑う、俺はそんなに頼りなく見えるのかといささか涙目のヒロである。 

 上空から低い羽音が聞こえ広場の台に竜のお父さんが降りて来た。

「おおお~~っ」と周囲から声が上がる。竜人様がバックアップをしてくれるらしい。

 そのすぐ後ろから頭にカロロを乗せたお兄ちゃんもテコテコと降りて来る。

 

「メディナー♪」

 カロロがメディナに飛びついてくる。こうしてみるとずいぶん甘えん坊の子供に見える。 

「カロロちゃん達も今日は参加するの?」

「今回は怪我をした人が出た時の緊急搬送係ですよ」

 相変わらずお兄ちゃんは物腰の柔らかい話し方をする。

 

「ワシは大型魔獣が出た時の予備要員と上空からの誘導係じゃよ、今日は母さんも一緒じゃよ、今お弁当を作っておる」

 相変わらず食べることには固執するお母さんのようである。

 お父さんもヒロと違いメディナにはとても愛想が良く、娘の友達にはとても優しいお父さんなのである。

 竜人とは一方通行になるが尻尾によるサインが決められていて、下の勢子の配置の誘導をしてくれる。

 

「先日の海水浴では全く役には立たなかった様だが、あれから少しは修行が進んだかな?」

 お願いしますからそんなに顔を近寄らせないで下さい、怖いから。

 本当はバリアを使って村を守ったのだが、このお父さんは現場に居合わせなかったし、バリアはみんなには見えないからな〜。

 

『電撃でも食らわせますか?』

『アホウ!俺を殺す気か?』

 

「は、はい。メディナと一緒に狩りと畑を行っています。愛する彼女とは、それなりに生活は出来ていますので…」

 そう言った途端、周囲から殺気のこもった視線が突き刺さる。いやいや、こちらも竜人に負けず劣らずの恐怖を感じさせるのだが。 

「まあカロロの大事な友達じゃからな、おぬしもせいぜい大事にしてやってくれ」

「は、はい~~、そうさせていただきます~」

 だいぶ声が裏返った気がする。


 冬を前に行われる囲い込み猟は、街の周囲を5分割して5回行われる。冬に備えて生きたままの魔獣を捕らえるのが大きな目的だ。

 生きている獲物は腐ることが無いので順番に絞めて肉として配分される、冬の間の重要な食料だ。

 魔物と獣の違いはその食性の違いだ。草食獣は草を大量に食わなくてはならない。

 ところが同じ種類の魔獣は普通の獣の半分しか食べない。魔獣器官が魔獣細胞を供給するので栄養価の低い食物でも問題無く栄養とすることが出来るらしいのだ。

 

 しかも同じ餌を食っても倍の大きさになり、魔獣細胞のお陰で怪我や病気にも強い、家畜としては理想的な生き物なのだ。

 ところが、それが魔獣の肉を食べると大型化し凶暴になる。草食獣でも同じで魔獣の肉を食べて肉食化すると牙まで生えてくる。

 大半の草食魔獣は肉を食わないが、一定の割合で肉食化する個体が発生している。

 草食獣の体の大きさと、肉食獣の凶暴さを併せ持ったハイブリッドが大型魔獣であり、肉食の大型魔獣よりも危険な存在である。

 

「こちらにチームとお名前を記入してください」

 ギルドの係員が総出で受付を行っている。無論個人での参加も可能だし10歳以上であれば子供でも参加できる。

 ただしギルド登録の狩人はグループリーダーとして一般参加の市民の安全を確保しながらの勢子となる。

 したがって数人の狩人のグループと一般人の混成グループが20キロ四方の範囲を囲むように包囲していくのだ。

 今回は西にある水場を中心としたエリアで行われる。殺すのが目的ではなく柵に追い込むのが目的である。狩人は自分の得意エリアを割り振られ、前日の打ち合わせでその手順はしっかりと伝えられている。

 

「はい木札を受け取ったらそのナンバーの場所に行ってください、追い込み開始の時間は12時からです開始の信号弾を合図にします」

 受付の前には大きな地図が張ってあり、そこに番号が書かれている。現地の番号は木の幹にペンキで書かれており、そこに集まった人間が広がって獲物を追いこむのだ。

「おやメディナ、私と同じチームじゃないか」

 実はこのチーム構成はメディナが巻狩の経験の無いリクリアとヒロを自分のチームに入れる様にギルドに頼んだものである。

 

 参加しているのはみんな地元の住人なので絶対方向感覚が有り、磁石が無くとも方位がわかる。起点がわかれば追い込む場所は確実に見つけられる。

 チームリーダーの人間は信号弾を二つ渡される。開始の合図と緊急時の信号弾である。

 大型魔獣等が紛れ込んでいた場合や怪我人が出た時には緊急信号を挙げれば近くの狩人や竜人が駆けつけるのだ。

 

 追い込み開始の信号弾は狩人ギルドが上げた。信号弾を見たチームが順次打ち上げる事により信号のリレーが行われるのだ。

 囲い込み範囲は直径20キロに及ぶ。勢子が鐘や拍子木等の音の出る物を持って囲いに向かって輪を縮めていくのだ。

「ヒロは今回が初めてなの?」

「ああ、前回は参加できなかったんだ」

 渡された木札を持って集合場所を確認する。そこにはその地区のリーダーが待っているのでその指示に従う事になる。

 

 初心者や子供のいるチームはまとまって出発する。ヒロたちもまとまって出発するが、今回はベテランがメディナ、新人がヒロとリクリアと言う事になる



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