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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
40/221

怪物との対決

2ー011

 

――怪物サンプルとの対決――

 

 コタロウは空を飛んでギヨンの村にたどり着いた。下を見ると大型魔獣と思しき物が見えるがどうも状況がおかしい。

 

 村人たちが周囲を囲んではいるが獅子族の人が魔獣に襲われて押さえつけられているようにも見える。 

 顔を見ると犬の顔をしている、ウェアウルフというのも間違いではなさそうだ、しかし体型がおかしい。

 一周して上空から様子を見ると周囲に怪我をした熊族の村人がいる。何かで切られた様な傷だ。

 

「ウェアウルフがカマイタチでも使ったのかな?」

 そうも思ったがそれもおかしい、ウェアウルフの腰の部分の色が違っているが、すぐにそれがズボンだと気がつく。もう一度よく見ると体の形は人間であり、狼の体つきでは無かった。 

「おにーちゃん、あれ人間みたいだよー」

「ま、まさか新種の人間?」

 一緒にいる獅子族はまるで子供のようだ。新種の人間の発見か?そう思った途端に感激に涙が溢れてきて我知らず尻尾がフルフルと振れる。

 

「す、すご〜い、大発見だ〜〜〜っ♪」

「おにーちゃん、あわてちゃだめーっ。喧嘩になっちゃうよー」

 しかしその考えが頭を占めるとコタロウは喜びのあまり矢も盾もたまらず、二人の正面に舞い降りた。

 

【な、な、な、なんだー?こいつは魔獣かー?】

【見た事ねぇぞ、あんな変な魔獣は初めてだ】

 いきなり正面に舞い降りたコタロウに慌てた狼人はコタロウに向かってカマイタチを放つ。

 

「おにーちゃ、あぶなーい」

 カロロはあわててコタロウの背中に隠れるが、カマイタチの当たったコタロウのお腹はブルンと震えただけだった。

 なんだろう、かれらのこの反応は?どうやら竜人族に会った事が無いみたいだな。竜人を知っていればいきなり攻撃を仕掛ける筈もない、そんな事を考える。

 

 その頃になってヒロたちはようやく村に到着する。大きな狼顔の男二人に獅子族の男が捕まっており、その前にコタロウが立っている。

 その周囲には血を流した熊族の男たちが仲間に引きずられて後ろに下がっていくところだった。

 まともな武器も持っていない3人はコタロウの指示を守って建物に隠れながら近づいていく。  

「あ~、皆さん、落ち着いて話し合おうじゃ有りませんか~」

 コタロウは満面の笑みで彼らに向かって話しかける。

 

【な、なんか歯をむき出して吠えてるぞ】

【ビビるこたあねえ、こんな程度の大型魔獣のなりそこない位目じゃねえぜ】

 お兄ちゃんの身長も2,3メートルあるが、狼人族の身長は3メートル程でお兄ちゃんより背が高い。

 しかし腹回りはお兄ちゃんの方が2〜3倍あってものすごく太い。 

 

【ば、バカ言うなこっちは丸腰だ槍だって持っちゃいねえんだ】

【ふっ、そんな物はとっくに用意してあらあ】

 狼の一人はバーグの持っていた銛を取り出した。 

「お前達やめろ、竜人様に勝てる者などいない」

【うるせえ!何言ってんのか知らねえが黙っていろ!】

 狼人がバーグの頭を一つぶん殴る。

【ふん、ちっと短いが、見てろ今ぶっ刺してやるからな】

  

「おにーちゃん、こっち来るよー」

「やだな〜、銛を持っているよ。きっと突っつく気なんだろ〜な」

 などと言いつつ、狼人達の肉体的能力に興味津々なコタロウである。 

【くたばりやがれー!】

「おおおーっ、かなり早い!獅子族よりも早いじゃないか」

 ボンッ!

 これでもかと言う勢いと、狼人の体重をかけた重い突きがコタロウの腹に食い込む。

  

「うえええ〜〜っ、痛いな〜っ、お腹に銛がめり込んでいるよ〜」 

【へっ?】

 穂先こそ大きく腹にめり込んだが、それ以上突き込むことが出来なかった。

 狼人の動きが止まり、ぶよんっ!と腹の皮がうねってポーンと腹の脂肪が槍をはじき飛ばす。 

【や、ヤロウ!なんて厚い腹の皮だ!】

 いやいや厚いのは脂肪で皮は普通の竜人並みですから。

 

【それならこっちは魔法を使ってやるぜ、食らえ、次元斬!】

 狼人族が技の名前を大声で叫ぶ。この連中の国ではそう言う習慣でも有るのだろうか?一瞬そんなどうでも良いことを考えるコタロウ。

 狼人は大きく両手を上げて斜めに振り下ろすと、人の背丈ほども有るカマイタチが作られてコタロウの方に突き進んで来る。

  

「カマイタチか〜、これもすごいな〜、獅子族より威力が有って犬耳族より正確な魔法の発動だ!威力としてはかなりあるみたいねえ」

 コタロウが爪でポンとはじくと、カマイタチは方向を変えて後ろに有った木をスパっと両断した。

 竜の爪はカマイタチをも相手にしない、鋼鉄をも切り裂く脅威の爪なのだ。

 

「うんうん、すごいすごい。もっともっとその性質を見せてよ〜」

「おにーちゃん、うれしそー」

「新種だよ〜、しかも知恵の有る新種の大型魔獣人だよ〜♡。研究したいに決まってるじゃないか〜」

「あー、マッドサイエンティスト顔になってるー」

 カロロがお兄ちゃんの頭の上であきれ返っている。

  

「あ、あれは、違う!ウェアウルフじゃない!」

 コタロウと怪物の争いを見ていたリクリアが肩を震わせて飛び出そうとする。 

「まて、コタロウさんなら大丈夫だよ、大型魔獣でもひとりで相手ができるから」

「違う!あれは人間だ。竜人様を相手にしたら殺されてしまう」 

「え?」

 子供がウェアウルフと言ってきたのでその様な観念でいたが、よく見ると体付きが人間のように二足歩行形態だ。

 

「それじゃあ、あの二人は人間なの?でもこの大陸であんな人種は見たことがないわ」

「大丈夫だと思うよ、コタロウさんはあの二人に対して手を出してはいない。殺す気は無いんだ。コタロウさんであれば殺さずに捕らえることも出来るだろう」 

「し、しかし……」

「だめよ、リクリアさん。コタロウさんに任せるのよ」

 まだ動こうとするリクリアをメディナが後ろから押さえつける。

  

【このやろう!俺の奥の手を食らえ!火炎弾ー!】

 狼は両手を前に突き出すと体の前に大きな炎の塊が現れる。

 

「へえ~、ファイア・ボールまで使えるんだ、普通の大型魔獣に比べてはるかに大きいじゃないか」

 大きく腕を振るとそのファイア・ボールはコタロウ達の方に向かって飛んでくる。 

 カロロがコタロウの頭の上で口をカパッと開けると、同じ位のファイア・ボールを吐き出す。

 両方のファイア・ボールが真ん中でぶつかると大爆発を起こした。

 

「ふにゃーっ、飛ばされるー」

 爆風にあおられたカロロがお兄ちゃんの頭に爪を立ててしがみつく。 

「しっかり掴まっているんだよ、カロロ」

 さすがお兄ちゃん、どっしり構えて尻尾で体を支えている。至近距離での爆風にもびくともしていない。

 しかし相手の狼人とバーグは爆風に吹き飛ばされてしまった。

 

「いまだ、カロロ!」「あいーっ!」

 ぱっと飛び出したカロロがバーグの方に飛んで行き、その背中に取り付くと体を引きずってコタロウの後ろに引っ張ってくる。 

「連れてきたー、もう安心だよー」

「よくやったね~、カロロちゃん」

 自分の何倍も有る獅子族の男をいとも簡単に引きずってくる、強烈な竜人パワーである。

 

「か、かたじけない、彼らは人間です。最初の対処に失敗致しましたが、出来れば殺さずに捕らえてください」

 傷が痛む様だろう、胸がざっくりと切れて出血が激しい。とは言え彼も獅子族である。この程度の傷であれば問題はないだろう。 

「だいぶひどい傷を負わされましたが、それでも相手を殺すなと言われるのですか?」

 獅子族はプライドが高く、戦う時は命を掛けるが無意味な殺戮を好むわけではない。

 彼らは普通の市民なのだ。 

「当然です、狩人は獣と戦うが使命。人を殺めるのは外道の所業です」

 その言葉を聞いてコタロウは嬉しそうにニッコリと笑うが、歯をむき出しているのは減点である。

 

【くそっ!あいつら一体何だってんだ?俺の必殺の火炎弾を相殺させるなんて普通じゃねえ】

 爆風で体が少し焦げてしまったが大した傷じゃない。あの程度の大型魔獣に俺たちが負けるわけがねえ。 

【おい、おかしくねえか?あいつもしかして知能が高いんじゃねえのか?】

【顔を見ろ、どう見ても翼竜の親戚じゃねえか、新種の魔獣に決まってらあ】

 コミュニケーションの不足がお互いの知性を理解できずに軋轢を生むのは、人間世界ではあまりにも頻繁に起きる悲劇でありさがでもある。

 

「なんか、しゃべってるよー」

「なるべく傷付けずに捕獲したいんだよな〜。この大陸外から来たとすれば魔獣研究の貴重なサンプルだもんな〜」

 人道的見地よりも学術的価値観で物事を考えるコタロウである。

 無論、彼は十分に知的で理性的であるばかりでなく人道的な思考の出来る人間であった。しかし自分の趣味を最優先にする彼の性格が最終的な悲劇を生むことになる。

「やっぱり、お兄ちゃんはマッドサイエンティストー、あの二人は人間だよー」

 頭にしがみついたカロロがげんなりした顔をする。

 この時までコタロウは、魔獣でも人間でも力の差を見せつければおとなしくなると考えていた。それ故に彼らへの攻撃は行われていなかった。

 

【よし!俺の切り札のを使ってあいつを倒してやるから、後はお前に任せた。】

【ま、まてよ。切り札って光弾フェルガを使うつもりか?】 

【あれなら必ず倒せる、あんな肉饅頭に負けてたまるか。俺が一時的に動けなくなったら後は俺を守ってくれ】

【よしわかった!】

 そう言うと背中の方に回って狼男を後ろからしっかりと抱き抱える。

 

「おにーちゃん、あれヘル・ファイアの体制じゃなーい?」

 狼男の口の中には光の粒が集まってきている。

「え?ええ~~っ。ま、まずいよあんなもの食らったら、流石にボクでもまずいよ〜」

 ビュンとコタロウが全身シールドを張るのを見たヒロは、何故コタロウがシールドを張れるのかと驚いた。

 その魔法をコタロウに教えたのは実はメディナであり、その魔法を見せたのはヒロである。

 この世界の生き物の能力はヒロの想像をはるかに超えるものである事をこの時初めて知ることになった。

 

『狼男がヘル・ファイアを発射する予兆があります』

 

 ヒロは以前アラークの発したヘル・ファイアを見ている。このシールドでヘル・ファイアを完全には防ぎきるのだろうか?後ろには村人たちがいるのだぞ。

 

『オーヴィス、戦闘を承認!コタロウさんを守れ、彼らの魔法の発射を阻止しろ!』

『了解』

 OVISが皆を守るようにバリアを展開する。その前でコタロウがシールドに全力で魔力を注ぎ込んでいる。

 シールドは真空機関を使った空間歪曲技術によって生じるものであるにも拘らず、コタロウは生命体で有りながらそれを行っているのだ。

 この世界の生き物は無茶苦茶である。こんな生き物が知性を持ち世界を闊歩しているのだ。ヒロは背筋が寒くなる思いをする。

 

「カロロ!ボクの背中に隠れてろ。頭を出すなよ」

「わかったー」

 ひゅんとカロロはコタロウの背中に場所を変えてしがみ付く。 

「竜人殿、お逃げください。あれはヘル・ファイアです」バーグが叫ぶ。

「だめだよ~、逃げたら村の半分が無くなっちゃうよ~」

 コタロウは両手を前に出して足と尻尾で地面を踏みしめる、ビュウウウッと体の周囲に出来たシールドを体の正面に集めて両手で支える様に展開する。

 

「いけない、彼奴等ヘル・ファイアを撃つつもりだ!」

 この発言に体を固くする二人である。こんな場所でこの強力な魔法を狼人たちが使うとは思わなかったのだ。

 リクリアがポーンと飛び上がると3歩でコタロウの前に立ちふさがる。 

【やめろ!この人はお前たちの敵ではない。さがれ!光弾フェルガを撃つな!】

 リクリアが両手を広げて大声で叫ぶが、二人は既に周囲のことは目に入らないくらい集中している。

 

「カロローっ!」「ほよよーっ!」

 

 コタロウが大声で叫ぶ。もはや魔法は止まらないと判断したのだ。

 何故リクリアが飛び出してきたのかはわからないが、彼女を説得する余裕が無い事はカロロにも理解できた。

 そこでカロロは強硬手段に訴える事にして、いきなり尻尾でリクリアの頭を強打する。 

「ぐえっ!」といううめき声とともにリクリアが崩れ落ちた。

 素早く倒れ込むリクリアの下に回り込んで担ぐと、物陰に隠れているヒロたちの方に全力で飛んで行った。

 

「んんん〜〜〜っ、もっと集中しなくちゃ〜〜っ」

 半球状に展開されていたシールドが収束し終わると、コタロウの正面に平面状のバリアが形成される。

 その平面状に展開されたシールドにクモの巣の様な線が浮かび上がっているのが見える。コタロウは頭を下げて全身がシールドに隠れるような姿勢を取った。

 

 その直後、狼人の口から発せられた強力な光の奔流がコタロウを襲う。

 

 コタロウの前に展開されたシールドが発光し激しい火花が爆発的に広がる。ところが光はシールドを突きぬける事は無くそのまま元来た場所にはじき返された。

 ヘル・ファイアを撃った狼人達はそれと気づく間もなく、自ら放った魔法によって跡形もなく蒸発してしまった。

 

『なんだ、あれは?一体何があったんだ?』

『平面型強化シールドで、全方位シールドのエネルギーを正面に集中したものです。当機でも使用は可能ですが、コタロウ氏が魔法で再現するとは想定外でした』

 

「えええええ~~~~っ!?」

 吹き荒れる風の中、コタロウから狼に向かって伸びる光にえぐられた地面と、コタロウの両脇から後ろに伸びる光の跡だけが残った。

 コタロウの魔法にヘル・ファイアを反射する能力が有るとは思わなかった。確かにあの魔法が直撃すればOVISのシールドでもどうなるかはわからなかった。

 

「そんな~~~っ、せっかくの新種サンプルが~~~っ」

 全力でヘル・ファイアを防いだものの、それが狼男サンプルを破壊することになるとは思わなかった。

 涙目で頭をかきむしるコタロウに、物陰から戻ってきたカロロがその頭を尻尾で引っ叩く。

「それどころじゃなーい、お兄ーちゃん危なかったー!」

「う、うん。そうだけどさ〜」

 正気に戻って頭をさすりながら後ろを見た。幸いコタロウから洩れた光は村にそれほどの被害を出してはいない。

 ヒロの顔を見てバリアを展開して村人を守ってくれていた事に気がつく。

 

「誰も死んではいないだろうな〜」

「村のみなさーん、もう大丈夫なのー?」

 カロロが呼びかけると、恐る恐る物陰から顔を出して来る村人達、ひとり頭をかかえるお兄ちゃん。

「せっかくの新種サンプルだったのに〜……」

 人を死なせたことよりも、狼男サンプルを失った事に心を痛めるマッドサイエンティストであった。

 

『なんでお前はあの二人を殺害しなかったんだ?』

『この世界の人間の殺害は極力避けるという方針があります』

『しかしコタロウさんが死ぬ危険が有ったはずだが?』

『コタロウ氏がバリアを展開したので、多少は焦げても竜人族の生命力ならば死に至るとは考えませんでした、そこで当機は村人を守る様にシールドを展開しました』

 

『……お前今日の事は絶対にコタロウさんに知られないようにしろよ』

 


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