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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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ファーストコンタクト

1ー004

 

――ファーストコンタクト――

 

 竜がこちらに向かって何か鳴き声を上げる。人懐っこいのか?それとも獲物と思っているのか?

 

『竜の上げる鳴き声は非常に複雑な発音を伴っています、言葉と推定します』

『これが知的生命体だと言うのか?』 

 どう見てもお伽話のドラゴンだろう、こんな物がしゃべるのか? 

『姿形で知的生命体を判断するのは危険と判断、脳容量は十分にあると推測』

『翻訳は出来るか?』

『語録が少なすぎます、翻訳の為にはデーター不足』

 そんな事を話し合っている間も身振り手振りを交えて何かぎゃあぎゃあがなり立てている。

 

 …これは…間違いなく知性が有ると思って良いだろうな。

 

『なんか一生懸命喋っているような気がするな、こっちは何か反応した方が良いのだろうか?』

『推奨、相手は何らかの反応を期待していると推測』

『よし、軍隊式挨拶でもするか』

 

 ヒロトはOVISのマニピュレーターを前に出すと、握った拳の中指を伸ばした。

 

『ガアアア~~~ッ!』竜が叫び声を上げる。

『な、なんかまずかったのかな?』

『こちらの慣習に合わなかったのでしょう別の挨拶を推奨』

 

 今度は親指を上にあげるとそれをひっくり返して下に向ける、友好の証である。

 いきなり竜はOVISに突っかかってくると両手で突き飛ばす。

 

『なんか余計悪化していないか?』

『逃走を推奨、これ以上事態を悪化させない事が最善と考えます』

『そうしよう』

 機体を反転して逃げ出す事にした。

『お、おい、なんか追っかけて来ないか?』

『すごく怒っている様に見えますが、何が気に障ったのでしょうか?』

 竜が大きく口を開けると「ぶおおおお~~~~っ」と炎を吐いた。

 

『おい、おいっ!あいつは炎を吐いたぞ。本当に生き物か?』

『工業製品である特長を検知できません』

『やばいっ、抱き付かれたぞ!』

 竜は空中でOVISに抱き付くと頭をガンガンと殴り始めた。 

『なんだ?なんかあいつに殴られてるぞ!被害は有るか?』

『特に問題はありません』

「ガオオオオ~~ッ!」

 大きな口を開けてOVISの頭に噛みついてくる、知的生命体にしてはやり方が野蛮だな。

 

『今度は頭に噛みついています、今の所被害はありませんが迎撃致しましょうか?』

『何らかの危険性はあるのか?』

『特に問題ありません、これまでのデーターからこの生物が私に被害を与える能力は無いと考えます』

 振りほどいて逃げるか?あいつの外見からしてそこまで早く飛ぶことは出来ないだろ…あるいは?

 

『うっとうしいから撃っちゃおうか?』

『……………………』

 

『非推奨、知的生命体の殺害は今後に禍根を残す可能性大』

 こちらの行動が相手の怒りを誘発させたとすれば、それはこの生き物が高度な社会性を持っている事になる。

 あの竜にしてみれば縄張りに侵入してきた敵だものな、殺して仲間にでもばれたら面倒なことになるだろう。

 この生き物が知的生命体であり言葉を持っているとすれば社会を作っている可能性も高いのだ。 

『それじゃ死なない程度にぶん殴るか?』

『了解』

 OVISはくるっと体を反転すると竜の顔をぶん殴った。

 

「げはっ!」

 軽く殴ったはずだったが竜は白目をむいていた。そのままぐるぐる回りながら樹海に向かって落下していく。

『いかん!あのまま落っこちたら死んじまうぞ』

 殴って逃げ出してくれればよかったのだが、いささか勢いが有りすぎたのかもしれない。

 OVISは落下していく竜を追って降下して行くとその尻尾を掴んだ。

『捕獲いたしました、このままゆっくり降ろします』

 尻尾を掴んだまま落下速度を落としゆっくりと降下して行く。

 地上に近い所まで来ると竜は気が付いたのか後ろを向いて驚いたような顔をしている。

 

『おお、目を覚ましたらしいぞジタバタ暴れている』

 竜は尻尾を掴んでいるOVISから逃れようと必死に手足を動かしている。ここら辺はやっぱり生き物だな〜と思う。

『逃げたいみたいだから手を放してやれ』

『了解』

 ぱっと手を離すと勢い余って飛び出してしまう。しかも体が下に向いていたので地面に向かって突っ込んでいく。

『おおっ!地面にぶつかって転がっていくぞ!大丈夫か~?』

 転がりながら生えている木々を軽々と踏みつぶしていく、思った以上に重量が有る奴だ。

 すぐに体制を整えると再び浮かび上がって来る。こちらを見てから速度を上げて逃げ出していく。

 

『完全に涙目だな』

『明らかに逃走と判断、追跡はしないことを推奨』

 生き物にしてはやたらと丈夫な奴だと思う、このまま逃がして大丈夫だろうか。

『ああ、黙って逃がしてやろう…だいぶ顔の形が変わっていたみたいだし…』

 時々こちらを振り返りながら必死で飛んでいく姿を見ていると、なんかすごい罪悪感に包まれる。

 誤解が発端とはいえあんなに痛めつけるつもりじゃなかった、可哀そうな事をしたな。

 

『結構可愛い奴みたいな気がするな』

『捕えてペットにしますか?』

『やめとこう、エサ代だけで破産しそうだ。それより仲間を連れて戻って来られると面倒だ、少し離れたら地上に降りるぞ』

 しばらく飛んでいくと前方に何か街の様な物が見えた。かなり手前で高度を低くして観察をする事にした。 

『この空域を警戒していろ竜の仲間が戻ってきたらまずい、直ちに地上に降りよう』

『了解』

 着陸する前に木々の隙間に隠れて町の様子をうかがう。

 

『前方に展開している建造物と思えるものはなんだ?』

『街と推定、知的生命体の集落と考えられます』

 集落と言う規模じゃなさそうだ。 完全に街だな塔まで立っているじゃないか。

 小高い丘を中心に発達した町の様に見える、そうなると中心の丘は支配者の住居か?

『かつての地球においては街同士の争いが絶えず、中心にある為政者の住居は防衛陣地としての役目がありました』

『何が言いたい?』

『丘の上にはそれらしい建物もなく街を囲む城壁もそれ程高い物ではありません、むしろ獣除けの様に見えます』

 

 確かに塔のような物も見えるが戦闘用の城としての用途に使えそうには思えない、何より小さすぎる。

『つまりあまり戦争の無い世界という事か?』

『先ほどの竜もいきなり攻撃せずに話し合いを優先しました、少なくとも秩序の有る生命体と推測できます』

 秩序、すなわち法律や道徳と言う概念の存在する可能性が高い社会という事だ。

 

『しかし全長20メートルの裸の怪物に法律や道徳といわれてもなあ』

『流石にあの大きさの生物が住んでいる街には見えません、大きさとしては人類位でしょうか?しかし町の外周部に畑は見られる物の街は都市と言うほど大きい様にも見えません』 

『人口はそれ程多くは無いという事か?』

『不明、データーが不足しています』

 

 街に行くにしてもあまり目立つことはしたくない、とりあえず情報を収集しなくてはならない。

 そもそもがどのくらい異形な種族なんだろうか?

 かつて教科書で見た入植地で遭遇したとされる原始人はかなり人間とは違っていた。まあ最終的に戦争になってしまったようだが。

 ここでは自分一人しかいないのだ、とにかく目立たないようにおとなしくしていなければまずいだろう。

 

『先ほど接触した竜は2足歩行形態に近く頭が上部についていました』

 そう考えるとこの星の人間も2足歩行の可能性が有る、あの竜の小型版だろうか? 

『場合によっては森の奥で一人で生活をすることになるのかもしれないが、それもうんざりするな』

 孤独のまま一生を森の中でOVIS相手に隠れ住むのであれば、生きていると言えるのだろうか?

『希少生物として動物園で暮らすことになるのかもしれません』

『…………前向きに考えよう、とりあえず降下してくれ外に出る』

 木々を折らないようにそっと着陸をする、故郷の星とそれ程差異の有る景色ではない。

 

『どの位飛ばされたのかわからないがここまで生存可能な惑星に墜落するとは奇跡的な幸運だな』

 機外に出てみると確かに空気は呼吸可能であった。森の匂いのする空気を胸いっぱいに吸い込む。少なくとも空気の心配をしなくて済むのはありがたい。

 地面に降りてOVISの黒い機体を見上げる。森の景色の中で見上げるとかなり大きく見える。

『さて、お前をどうしようか?』

『亜空間に収納することを推奨します』

 亜空間収納は一種の隠蔽システムである。通常の空間の中に泡のような不可侵の空間を作り出す。

 亜空間に入っている限り物理攻撃や電磁波攻撃でダメージを追う事は無く戦闘時の退避所として使える。

 

 しかし時空遮断力場スタグネイション・フィールドと違い時間は普通に経過していく。

 欠点としてはあまり大きな物は収納出来ない事と空間を歪ませる兵器には通用しない事、そして使える兵器が限定される事だ。

 実際これを熟知している『エヌミーズ』の攻撃に亜空間退避は通じなかった。

 まあ全高10メートルの人型ロボットが収納できる時点でかなり大きいとも言えるのだが。

 

 機体が亜空間に入っていても脳内チップを通じての通信は可能だし、内部からの攻撃も可能である。

 ただしそれは亜空間の中から銃口だけを出して銃を撃つようなもので、それは外からも見えてしまう事になる。

 外を覗くカメラやマイクも同様で、外部の人間からはヒロの近くにカメラのレンズのみが浮いて見える事になる。

 それ以外はそこにいる者を見る事も触る事も出来ずに空間的に重なる事も問題が無い、この世界から外れてしまうのだ。

 

『亜空間に潜んだままだとエネルギーはどの位持つのだ?』

『問題有りません、時々エネルギーとして水素を補給していれば私が壊れるまでは持つでしょう』

『そういえばお前は無整備でどのくらい活動が可能なのだ?』

『亜空間にいる限り劣化は最小に納められます、作戦用の機体の平均耐用年数は20年以上でしょう、稼働しなければさらに寿命は延びると思われます』 

 それまでの間に俺自身が生きていける方法を探さなくてはならないという事なのか 

 とりあえずヘルメットを脱いでコクピットに収める。

 ヘルメットにはあらゆる情報が表示されるディスプレイが内蔵されていて、OVISのコクピットに居ながら周囲の状況を観察できるようになっているのだ。

 無重力状態にすればこの中で寝る事も出来る。

  

『ここの連中が2足歩行であれば顔を隠して接近することが出来るかもしれない』

 コクピットに納められた私物用のコンテナとサバイバルキットを引き出す。 

 トランク程のコンテナには作戦期間中に母艦内での生活に必要な最低限の物資が納められている、数枚の下着と艦内服、それに歯ブラシである。

 艦内服に着替えるとパイロットスーツをコンテナに仕舞い、サバイバルキットの携帯用武器を装備して下に降りる。

 地面には枯葉や木の枝が敷き詰められたようになっている。

 

『良し、亜空間を起動して隠れろ』

 ふっとOVISの姿が消える。 

『通信状態の確認をする』

『良好です』OVISの声が頭に響く。

『カメラのレンズを亜空間から出します』

 ヒロの目の前に大きな虫位の物が現れる。 

『カメラは俺の胸の当たりに貼り付けておけ、服の一部に見えるだろう』

 レンズはすうっと動いてバッジの様な感じで胸に張り付く。

 

『とりあえず現地人に変装するとなると彼らの服が必要だな』

『不用意な現地人との接触は控えるべきでしょう』

…わかってはいるさ、まさか金を出して買う訳にもいくまい。そもそも交換できるものが無いだろう? 

『そうだな街から離れた一軒家を見つけて服をかっぱらうか』

『…平和的行動を推奨』

 一応もっとも平和的な行動だとは思うのだが。

 

 樹海の中に有る周囲の木々は非常に大きい。しかし下生えはあまり多くは無く、思ったより歩きやすく、小さな茂みを避けながら進んで行く。

 巨大な図体のOVISも亜空間に入っていれば全く邪魔にはならない、存在するのかどうかもわからないのだ。

 森の中では全然方向がわからない、OVISで方向を確認しながら街を目指す。 

『できればさっきの竜の仲間じゃ無いと良いけどな』

 なるべく友好的な種族であることを願うとしよう。 

 しかしその願いはもろくも崩れる事となる。

 突然前方から獣の咆哮と人の叫び声の様な音が聞こえる。

 同時に木々をへし折る音とともに何かが暴れる様な振動が周囲から聞こえてきた。

 

【右に逃げたぞ!回り込めヤスド!】

【接近しすぎるぞ!バスラ下がれ!】

 危険を感じるがどのような状況か?どちらに逃げれば良いのか判断が出来かねた。

 

【逃走方向に誰かいるわ!】

【なに!メディナ狩人がいるのか?】

 

『OVIS周囲の状況を報告!』

 

【あっ、やめろメディナ前に出るな!】

『大きな獣の様な物がこちらに向かって走ってきます、その周囲に数体のヒューマノイドが存在』

 

 OVISが報告した途端ヒロの目の前に巨大な怪物が飛び出してきた。


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