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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
36/221

竜人の海水浴

2ー007

 

――海で遊ぼう――

 

「ひゃっほーいっ!」

 

 ドッボーンという豪快な音としぶきを上げてお父さんが海に飛び込んできた。バシャバシャと水しぶきを上げながら水の中で暴れている。

「にゃっほーっ」

 そのずっと手前でコタロウとカロロが頭から海に飛び込んでふたりで戯れている。

 

「竜は水遊びが好きだったとは知らなかったな」

「そうなの?時々湖で水遊びをしているわ、体を洗わないと苔が生えるとか言ってたから」

 そうだよな〜、人間と違って風呂に入れるわけじゃないからなあ。 

「でも時々ギルドの竜守りの人たちが、湖でタワシを使って体を磨いているから実際はいつも綺麗なのよ」

 なるほど、竜人族は建造物並みの扱いということか。街にある風呂というのは蒸気風呂だからなあ、竜人が入れる訳もない。さもなければ家で体をふくくらいなものだしな。

 

 お父さんたちが暴れた海ではその衝撃で沢山の小魚が腹を出して浮いている、小さなボートで漕ぎ出した子供たちが魚を拾い集めている。

「竜人様ありがと〜っ」

「なんの、なんの」

 子供たちが手を降ってお父さんが尻尾を振っている。お父さんも結構子供好きである。

  

「それにしても嵐の後の捜索だろう?漁港の方に顔を出さなくて良いのだろうか?」

「大丈夫だと思うわ。漁師には熊族の人も多いし、船が沈んでも泳いで帰って来る人も結構いるわよ。むしろ船が無事だと捨てるわけには行かなくて漂流するけどね」

 捜索すべきは人ではなく船ですか?漁師の人たちは熊掻きで泳ぐのだろうか?

 

『この世界の人間は、我々人類を基準には出来ないと言う事でしょう』

『オレ生きていく自信無くしそうだ』

 

 とりあえずシートを利用して簡易テントを作って着替えをする事にした。メディナは水着を持っているそうだが、男はこの世界では赤いふんどしで泳ぐのが一般的だそうだ。

 リクリアは勢いで付いてきたが水着なんか持っていないだろう。 

「それじゃ先に着替えるわね」

 メディナが先にテントに入って行くのをじっと見送る。

 

『どういたしました、女性の着替えに興味がおありですか?』

『最近のお前の発言の方が俺には興味深いと思うがね』

『おや私は常に自己診断プログラムを走らせており、あなたがこの世界で快適な生活を送れるようにバージョンを変更しております』

 ちょっと待て、人類宇宙軍のネットワークに繋がっていないのにどうやってバージョンアップ出来るんだ?

 

『前はもっと軍隊じみた話し方してなかったか?』

『郷にいては郷に従えとも言います、半径2千光年に人類軍は存在していません。したがって民間には民間の生活の姿勢が有ると考えます』

『だから女性の着替えに興味を持てと?』 

 コイツ本当にどこか異常が有るんじゃないのか?こんなに人間的な下世話な話題をしたっけ?それともサバイバル用の隠しプログラムでも持っていたのか?

 

『…本当は覗いてみたいのでは?』

『おいっ、挑発をするな。100メートル先の生き物の気配を感じる兎耳族だぞ、出来ると思っているのか?』

『私のカメラを分離して持って行けば観測が可能と考えますが』

 絶体コイツどこかが故障しているな、覗きを推奨するOVISなんて初めて見るぞ。

 

『そんな事してみろ、彼女にお前の事がばれるぞ、ただでさえお前の事を背後霊だと思っているみたいだし』

「どうしたの?誰かと話をしていたの?」

 テントから顔をだしたメディナが不思議そうな顔をする。

 

『………☆………★………☆』

『わかったか?それよりカメラ部分は俺から離してどこかに隠れていろ』

『…了解』

 さすがのオーヴィスも状況を理解出来たようだ。

 

「な、なんだ、メディナその恰好は?」

「なにって?普通の水着じゃない」

 普段は猟師服なので肌を露出させることはない。森を歩いていたら傷だらけになってしまうからだ。ところがメディナの水着は極限まで布の面積が少ない。

 

『おいっ!あれがこの世界の普通か?この世界の女は全員〇出狂か痴〇なんか?』

『あなたの奥さんにその言い方は無いと思いますが?』

『し、しかし軍隊でも民間でも、あんな衣服は下着にも無かったぞ!』

『女性の下着を見た事が有るのですか?』

『当たり前だ!家では家族の下着位干してあったぞ!』

 

『………………………』

 

『あ~~っ、その………若い女性兵士の下着は?』

『有る訳無いだろう、7歳から兵学校に入学して訓練しかしてこなかったんだ』

『この際是非彼女の姿を目の奥まで焼き付けて下さい、わたしも四方八方あらゆる角度から彼女の姿を記録しておきます』

『は~ああ〜っ、コイツ完全にバグっているんじゃないのか?』

 

「どうしたの?私の水着が気に入らなかったの?」

「い、いや、あまりにも素敵すぎて、気が動転しただけさ」

 な、なんか普段見ているより、水着の時のほうがよっぽど大きく見えるから不思議だ……。

 

『ですから、今こそ記録の重要性を認識すべきです、酔眼での行為は愚策中の愚策です』

『やかましい!』

 

「どうした何を揉めているんだ?」

 いつの間にかふんどし姿のリクリアが二人の脇に立っていた。上半身は普通のシャツの裾を結んでその巨大な胸を押さえていた。 

「うわわわっ、リクリアさんその格好は?」

「水着なんか持っていないからな、普段の格好だ。お前だってふんどしじゃないか」

 そう言われると帰す言葉がない。しかし筋肉質な体はあちこちの筋肉の筋が見えてすごくキレている。女性的な柔らかさは無いものの、鍛え上げられた長い肢体は見事なものであった。

 

 ところがメディナの姿を見た途端にリクリアの表情が凍りついた。そしてその両目から大粒の涙がこぼれ落ちてくる。

「…?、どうしたのリクリアさん」

 訝しく思ったメディナが尋ねるが、流れる涙を払おうともせずに黙ってメディナを抱きしめた。

 

「な、なに?やめて…リクリアさん?」

 少し頬を赤らめてリクリアが言うが、特に抵抗するわけでもない。 

「いや、すまない。昔いた妹の事を思い出してな、しばらくこのままで良いだろうか?」

「妹さんがいらっしゃったのですか…?」

 リクリアは涙を流したままメディナを抱き続けた。 

 

『何でしょうか?リクリアには百合の趣味が有ったのでしょうか?』

『おまえ、この状況でよくそんな発言が出せるな』

 

「ああ、すまない。あんまりにもメディナさんが綺麗だったもので、我が身と比べて感動してしまったんだよ」

 照れ隠しだろうか?変な言い訳をしている。 

「やだ、リクリアさんもちゃんとした水着を切ればすごく素敵になるわよ〜」

 今度二人で水着を買いに行く話をしていた。特に問題はなく仲直りをしているようだった。

 

「それより泳ぎに行こうぜ!」

「わかった、行こう!」

 気分を切り替えて泳ぐ事にした。

 ここは小さな湾になっていて砂浜が出来ており、水浴びには向いている場所なんだそうで、子供たちも結構遊んでいる。

 

「いやっほ〜っ!」

 腹を下にして水面をざばば〜〜っと滑るお父さん、大型クルーザーの様である。 

「きゃっほ〜っ」

「にゃっほーっ」

 コタロウとカロロも同じように海面を滑って行く。

 

 お父さんは波を切り裂いていくがコタロウは波に突っ込んでいく、カロロは波にはじかれてポーンと跳ね上がってくるくる回ってドボンと水に落ちる、とても楽しそうである。

 負けじとメディナと一緒に海に入って行く。一応ヒロも多少は泳げる。メディナも泳げるようだがやはり泳ぐのに耳が邪魔な様だ。

  

 嵐の次の日なので波がかなり高い。空を飛べる竜人族はともかくヒロたちが泳ぐのは危険だろう。海岸でも波はかなり大きく、簡単に背丈を越えて来る。

 リクリアは大きな波を物ともせずにダイナミックに泳いでいる。 

「きゃああ〜〜っ」

「こ、これは?しょっぱい!」

 ゲホゲホとむせるヒロ、訓練校のプールでは真水だった、実は海を見るのもヒロは初めてであった。

 

「メディナー、一緒に泳ぐー」

「あ、あたしはちょっと…」

 流石に竜の兄妹にはついていけない。 

 

「メディナちゃんはボクの背中に掴まると良いですよ」

「それならヒロはカロロの足に掴まるー」

 なんかロクなことになりそうもない気がする。

 

「きゃほっほーい!」

「きゃあああ〜〜〜っ」

 コタロウが海面を滑ると背中にしがみ付いたメディナが悲鳴を上げる。どっぷーんとうねりを突きぬけるとぶわっと水しぶきが上がりメディナがずぶぬれになる。

 

「しっかり、掴まるー」

 カロロの足に掴まったヒロはそのまま水面を引っ張られて進む。 

「んしょおおーーっ」

「うおおおお〜〜〜っ、腹が擦れる〜〜〜」

 ぼうん、ぼうんとうねりに乗り上げると二人の身体が宙を舞う。

 

「うげげっ!がぼがぼっ!」

 じゃっぽ〜〜ん!

「ヒロ、いなーい」

「あそこに浮いているよ〜」

 リクリアが駆けつけてきた。

 

「ヒロー、大丈夫ー?」

「あ〜、死ぬかと思った」

「ヒロー、ゴメーン」

「ま、まあいいよ、カロロちゃんも楽しみたかったんだろうしね」 

 お父さんが海から上がって来て二人の前に立ってガバッと口の中の水を吐き出す。すると大きな魚が何匹もぴちぴちと跳ね回る。

 

「昼飯に食べると良いだろう、ワシはこれから漁師ギルドの方に行ってみるが君らはゆっくりしていなさい。多分帰りには寄れると思うが」

「ありがとうございます、とっても美味しそうですね」

 お父さんは飛び去って行ったので、ピチピチ跳ねている魚をみんなで岩場に出来た天然の生け簀に持って行く。

 

「君、魚捌ける?」

「当たり前でしょう、獲物捌くんだから」

「あ…そうでしたね、ハイ」

「ただそんなには食べられないわね、兎耳族だから」

 ゴメン、君の代わりにボクが美味しく頂きます。

「私はいただくぞ、魚は好物なのだ」

 リクリアは嬉しそうな顔をしている、肉食の兎耳族というのも初めて見る。もっとも普段の食事で干し肉は食わないようだ。やはり消化が出来ないのだろう。

 

 ザブーンと沖合からコタロウが海から飛び上がるとヒロたちの方に向かって飛んでくる。ピチピチと暴れる大きな魚を両手で抱えていた。ドスンと二人の前に降りるとニッコリとわらう。 

「やあ、お昼ご飯を捕って来たよ、ここに入れていいかな~?」

 1メートル位ある大きな魚である。天然の生け簀にはいるかな〜?


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