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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
35/221

海に行こう

2ー006


――海に行こう――


 その日は雨風が激しく海は激しく荒れていた。砂浜に押し寄せる波は浜で働く人々をその波頭で拒んでいた。

 大きくうねる波の間に何やらうごめく物が見える。波にもまれながらも必死になって海岸を目指していた。

 何とか砂浜に足を掛けたそれは何かを引きずりながら砂浜の奥まで這っていく。

 

    ◆    ◆    ◆

 

「お父さん、昨日はずいぶん雨が強かったですね」

「ああ、吊るしてあった肉がずぶぬれになっているねえ」

 

 昨夜の嵐が去った朝は雲一つない快晴である。今日はとても良い天気になるだろう。

 朝食用に解体して吊るしてあった魔獣の半身が雨に濡れてしずくを垂らしている。

 まあ、あの暴風雨の中ででも知らん顔して寝る事の出来る竜であるから屋根など必要もない、雨が体を洗ってくれるので丁度よい程度の感覚である。

 さすがに一番小さいカロロだけは自分の小屋に入って寝ていたし、コタロウは自分の小屋の資料に雨がかからないように一生懸命小屋の様子を見ていた。

 

「おはよー、おかーちゃん」

 幼いしゃべり方をする小さな竜であるが、これでも立派なレディである。カロロも既に17歳で高等科を卒業をすれば王都にある大学に通う事になっている。

 

「おはよ〜、父さん、母さん」

 息子のコタロウはお腹をぷるんぷるんと振るわせて起きてきた、これでも大学の先生である。

 ブルブルと体を震わせて水を切ると、大きなお腹がブルンブルンと波打つ。服の置いてある小屋に入って半ズボンを見繕ってくる。 

「今日は晴れて暑くなるから、涼しい水色にしようかな~?」

「カロロも〜、お揃いがいい〜っ」

 コタロウの後ろから小屋に入っていく。基本、竜人達は家ではすっぽんぽんなのであるが、カロロは女の子なので気にするのである。

 

「今度吊るし場に屋根と壁を作ってもらいましょうか?」

「そうだねえ、まあ濡れていても焼いてしまえば同じだけど」

 鷹揚なお父さんの言葉である、竜人族は細かい事にはこだわらないのだ。

 むしろ巣の上に屋根を付けると飛び上がる時に困るのだ、特にお父さんは着陸が下手だし。 

「お父ちゃんボクやカロロの小屋に落っこちて来ないでよ」

「あー、大丈夫、大丈夫、カロロの小屋にはだけは間違っても落ちないからね〜♪」

 どうやらコタロウの小屋は間違ったら落っこちて来るらしい。

 

「竜人様、おはようございます」

「おや、リシュリーさん朝早くどうされました?」

 狩人ギルドの秘書のリシュリーである。なにか伝言か用事でも有るのだろう。 

 

「はい、昨日は嵐がひどかったものですから海の方で遭難した船が有るかもしれません、港の方から連絡は有りませんが、海辺の村を回って遭難者がいないかどうか確認をお願いできますでしょうか?」

「あらら、そうねえ。夕べの嵐だと被害が出ているかもしれないわねえ」

 電話のない世界の事である、近隣各地の状況を調べるのには翼の有る竜が最も適しているのだ。遭難者が出てから捜索するより直接現地に行って見たほうが早いのだ。

 港はカルカロスから30キロ程離れた海岸部にあり、大小の漁港が海岸線に沿って存在している。

 こういった非常時の救援なども含めて国と狩人ギルドは、竜に対する様々な協力体制を敷いていた。

 

「わかったよ、朝食を済ませたら近くの村から状況を見て回ることにしよう」

 建物や道などのインフラは住人が直せばよいが、緊急性の高い人命救助に竜の力は心強い。 

「海にいくのー?カロロもいきたいのー、お兄ちゃーん♪」

「いいよ、どうせ今日は休みだし、ボクが連れてってあげるよ。ああそうだメディナちゃんも誘ってみようか?」

「誘うーっ、みんなで一緒に海で泳ぐーっ♪」

 

 ………………………………

 

「という訳で誘いに来ましたけど、行けますか?」

「メディナー、海に行くーっ♪」

 アタマにカロロを乗せたコタロウの訪問に、メディナとヒロは玄関で顔を見合わせる。 

「どうした?メディナさんお客さんか?」

「おや?ご来客中でしたか」

 家の奥からリクリアが顔を出してきた。 

 

「うわっ!……な、なにこれ?…かわいい…」

 カロロのことだろうか?コタロウのことだろうか?


「リクリアさん、竜人族のコタロウさんとカロロちゃんよ」

「お、おう。狩人のリクリアだ、竜人族ってあの空を飛んでるでかいやつのことか?」

「あれは父ですよ〜。ボクはその子供のコタロウです」

「ワタシ、カロローっ」

「昨日は嵐でしたからね、帰りがけに家に来てそのまま泊まっていたんですよ」

 

「僕たちは海に行く予定ですが、リクリアさんもよろしければご一緒にいかがですか?」

「私も行って良いのか?喜んで行くぞ!」

 

「お弁当作らなくちゃ」

「鶏のエサを用意しなくちゃ」

 嵐だったので何もかも家の中に入れてあった。特に何もする必要は無く鶏を外に出して小屋を掃除すれば終わりだ。 

「それじゃ朝食が済んだら巣の方に来てくださいね」

 巣までは10キロ程の距離が有るが、ここの住人にとってはすぐ隣である。走れば15分ほどでたどり着く、時速40キロである。

 

『馬に乗るより走った方が速いと言うのは、文明の否定じゃないのか?』

『人は楽をする為に機械文明を発達させましたが、その結果として戦争を起こし人間性を喪失させました』

『おまえ、それは政府批判にならないのか?』

『既に人類範図から2千光年の逸脱をしています、此処の声が人類に届くのは2千年後です』

 意外な程に状況に対する対応力が早い、コイツの基本性能の本質はそんなに融通無碍なのか?

 

 るんるんる~ん。と言いながらメディナは弁当の用意を行い、着替えと地面に敷く布を用意してヒロのリュックに押し込む。

「やっぱり俺が持っていくのか?」

「当然でしょう、か弱い女の子に荷物を持たせるの?」

…いや、か弱い女の子は5メートルもジャンプしないですから。

 

『どのみち私の重力制御で重さは感じませんから大丈夫です』

『…文明万歳』

 

「私も半分持つぞ、槍と不要な物は置いておくから大丈夫だ」

 狩人に取っては、海に行くのも狩りに行くのもさして変わるものではない。何よりリクリアは兎耳族には珍しいほどの大柄である、もっともナイフだけは手放さない。 

 全員で走って竜の巣に着くとお父さんが待っていた。メディナもリクリアも息一つ上がっていない、ヒロだけはかなり消耗していた。

 

『まだまだトレーニングが足りていませんね、もう少しメニューを改善する必要がありそうです』

『いや、それよりも重力制御のサポートをもっと上げろよ』

 

「それじゃ行くかの〜、オーリアスの浜は水遊びに恰好だからね、先にそこに送って行くよ。ワシらはその後メルビル港の漁協に行って遭難者がいるかどうか聞いてまわる」

 最初に浜辺に寄って、近くの港や漁港を回って様子を聞いて回るらしい。夕べから帰っていない船が有れば付近を捜索するそうだ。

 

「私はお弁当を作って後から行きますからね〜」

 お母さんは朝食の残りを焼いている。 

「まあ向こうはいつもワシらの昼飯は用意してくれるんだがね」

 昨日捕った魚を御馳走してくれるそうだが、「小魚は飲み物だしなあ」との事である。

 

「ボク達は海で魚を捕る事にしますよ」

「新鮮なお魚、美味しいーっ♪」

「それじゃ君たちはワシの背中に乗りなさい、カロロはお兄ちゃんの頭だろう」

 ヒロはメディナのことを見る。ヒロはOVISがいるから落ちても大丈夫だがメディナは大丈夫なのだろうかと考える。

 リクリアは落っこちても死にそうになさそうだし。

 

「お願いします。竜人様」

 メディナはためらうことなく竜の背中に上って行く…まあこの世界の子供達は元気がいいからなあと思う。リクリアも全くためらいが無い。

「カロロ、行くよ〜」

「いこ、いこー、お兄ちゃーん」

 カロロがぱっとコタロウの頭にしがみ付くとお父さんも飛び上がる。

 

「あまりスピードは上げないから30分ほどかかるよ」

 風の強さからすると時速7,80キロ位だろうか?竜の速度からするとものすごく遅い速度だ。

 風防が無いので風が強い上に背中には捕まる所が無い。首の根っこにしがみ付いているが皮膚がものすごく硬くて尻が痛い。

 メディナは女の子なので前に乗せているが、耳をたなびかせてご満悦だ。時々耳がヒロの顔をはたく、隣では頭にカロロを乗せたコタロウがトコトコと飛んでいる。

 

 正直ヒロに取ってはOVISの乗り心地を懐かしく思うしかなかった。


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