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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
32/221

狩人のリクリア

2ー003

 

――狩人のリクリア――

 

 メディナが『獅子の咆哮』を辞めるに当たっては多少問題が有ったのだ。

 

 元々ヒロに目をかけてくれていたのはアラークだったが、そのヒロがメディナを誘ってチームを抜けると言うのはあまりにも仁義を欠いていると思われた。

 しかもバスラまで同時期に抜けるとなるとチームとしての打撃が大きすぎるのだ。

 そこで話し合いの結果、半年間バスラはチームを続け、その間に補充のチームメンバーを探すことになり、メディナは家の畑の事もあるので、当分の間不定期の参加と言う事になった。

 

「いいんスよ、俺だってチーム離れるのはつらいんだから、ただカミさんの腹に子供がいてさ〜、大型魔獣との戦いを嫌がってナーバスになっているんスよ~」

 どうやら早くも尻に敷かれている様子のバスラである。

 

 幸い新たな兎耳族の候補者は見つかったらしい、要はメディナはその人間の教育係を頼まれたと言う事なのだ。兎耳族の狩人は少ないので良く見つかったと思っていた。

 ヒロもまたメディナとともにチームに参加する事になったので、アラークも実は大喜びなのである。

「すまんな無理を言って、何しろ今のメンバーからいきなり二人に抜けられるとかなり厳しくてな」

 アラークも内心は非常に危機的な状態に心を痛めていたのだ、大型魔獣討伐部隊は一朝一夕にできるものではないのだ。

 そして次の狩りの時に兎耳族の女性を紹介された。

 

「オッス、あたしの名はリクリア、よろしくお願いするわ」

 可愛い名前と体の大きさに驚いた。兎耳族はあまり大きくはなくせいぜいが160センチくらいなものである。

 彼女の身長は180センチ位あり、ヒロよりも大きく体毛もやや濃いめである。年齢は体格のせいも有るがメディナより幾分年上に見える。 

 大きさだけでなく、まるで犬耳族のような引き締まった肉体をしている。おそらくふんどし祭りをやったら相当に強いだろうと思った。

 

 バスラが目を輝かせているかと思ったが、女性なのでふんどし祭りの対象外らしい。

 ちなみにこの世界では女性はあまり六尺褌を締めておらず、メディナが履いているズロースか越中褌の様な下着らしい。

 獅子族のナシリーヤは締めているとの噂だが確認したものはいない、みんなそれなりに命は惜しいのだろう。

 

『ふんどし祭りは同族のみが対象と聞いています』

『ああ、そうか元々犬耳族と獅子族では勝負にならないものな、それなら何故俺とやったんだ?』

『体格が近いからと推測、だれしも新しい者には興味を示すものです』

 

……迷惑な奴め。

 

 兎耳族はたいていは槍を持たない。だが彼女はナイフのほかに槍を持っている。たしかにこの体が有れば普通に猟師としての狩りも出来るだろう。

「彼女は東の方の別の狩人チームで仕事をしていたらしい、向こうは小物ばかりで稼ぎが良くないのでこちらに来たそうだ」

「あんたの耳の形は変わっているね、何族なんだい?」

 リクリアがヒロを見て尋ねた。同時に何かを見るように目が泳ぐ。

 

『この女性も当機の存在を感じ取っているようです』

『兎耳族ってのは第6感も鋭いのかな?』

 

「俺の名はヒロ、種族名は知らない、魔法使いだ」

「あたしはメディナ、索敵担当よ」

「あたしも索敵を担当する事になるらしい、まあ自分の身は自分で守れるからあまり心配しなくても大丈夫だ」

 リクリアは槍を持って見せるが、まだあまり使い込まれてはいない。本人が言うより初心者なのかもしれない。 

 

「期待しているわ、この辺に住む獲物や小物の音を教えてあげるわね」

「ああ、頼むわ。まだその辺はあまり詳しくなくてね、その代わりあんたの事はアタシが守ってやるから安心してくれ」

「よろしくお願いするわ、頼りにしているわね」

 しなっと小首をかしげるメディナ、まあ俺がいるから問題は無いがね、と心で思うヒロ。

 

『オーヴィスにお任せ下さい』

…うるさい奴め。

 

「今回の狩りはウェアウルフだ、北の方で目撃されている」

「ウェアウルフ?群れで動く大型魔獣じゃないスか?」

 元々の肉食獣は草食獣と違い必ず大型化する。大型化しても元の性質は変わる訳ではなく子を産み育てるのは一緒だ。

 ただその体は大きく攻撃力も高く魔法を使い、なおかつ群れで行動する。正直言って非常に強敵だ。何しろ大型魔獣ですら獲物とする連中である。

 

 唯一の勝機としてはあまり体形が大きくは無いと言う事くらいである。草食動物が大型魔獣化した場合は1トン以上がざらにいる。そういった草食獣は凶暴で魔法を使うが、動きは遅く反応も鈍い。

 しかし元が肉食魔獣の場合は、体格はさほどに大きくはならない。狩りの時の動きが鈍くなるからだ。それでも500キロ以上の大きさの物もおり、集団で来られるとかなり危険だ。

 動きは早く反応も鋭い、しかも狩猟に関する頭脳はかなり良い、大型化した後はなおさらである。

  

 ギルドの馬車で出発し、その中で今日の作戦について打ち合わせる。

「目撃情報は?街の北50キロ程だ、数は最低でも3頭」

「最低でも?という事は確認した個体数では無いという事か?」

「それ以上の数がいた場合は戦わずに一度撤退する、今の人数でそれ以上の個体と戦うのは危険だ」

 

 草食の大型魔獣は体が大きくなると魔法も使う、しかし草食獣は特異的に発生するので、群れの中にはいられず孤立している。したがってどれ程大きくとも周囲を囲んで一斉に突き殺せばあまり問題なく倒せる。 

 しかし大型の肉食魔獣に関していえば肉を常食とする為に必ず大型化し、しかも群れをつくる性質は失われない。

 大型魔獣が普通の子供を産むが大きくなると大型化する、それ故群れは維持され非常に厄介な性質を持つ。

 

 高い攻撃能力だけではなく高い知能を有しており、1頭を相手にしていると背後から襲われることもしばしばある。

 通常はこうした肉食の動物は、人間の活動範囲が広がると獲物の調達が難しくなるので、人間の活動範囲から逃げて行くのだ。

 街の周囲で大型化する前の魔獣を狩っておけば、肉食魔獣は餌にありつけず人間の街の近くからは出ていってくれるのだ。

 

 実際問題として、槍で心臓を突かれようと時間がたてば生き返るような大型肉食魔獣にとって人間はさしたる脅威ではない。

 逆に大型魔獣にとって人間は魅力的な獲物ではない、魔獣器官を持っていないからだ、だから人間が襲われる事はあまりないと言えた。

 しかし家畜の魔獣が襲われることは多々あり、魔獣が群れていればそれは脅威以外の何物でもない。街から離れた農家では魔獣を飼う事は非常に危険な事なのだ。

 

「今回の依頼に関しては飼われていた家畜が魔獣だったこともあって連中に襲われたらしい、住人は襲われていないので足跡を近所の猟師が確認して3頭と当たりを付けたそうだ」

「3頭か?群れとしては小さいが、ハグレか若者だな」

 ハグレの集団であれば強力なリーダーはいないからそれ程恐れるものではない。無論個々の能力を軽んじる事は出来ない。

 

 今のチームのメンバーは獅子族2名、犬耳族2名、猫耳族1名、兎耳族2名、それにヒロだ。3頭であれば問題なく狩ることができるとアラークは判断していた。

 通常は1頭ずつ倒していくが仮に3頭同時に相手をする事になっても獅子族2名と、犬耳族と猫耳族の3名、それにヒロの魔法でなんとか対処できる。

 分散出来ればヒロはひとりで対応が可能だし、バスラ達が動きを止めていれば、アラークとナシリーヤが獣を倒した後に加勢すれば問題は無い。

 

『メディナとリクリアは戦力外だそうだ、お前だけが頼りだからな』

『OK相棒、オーヴィスにお任せあれ』

 コイツのメンタルもだいぶズレが激しくなってきた、整備出来て無いからな〜。

 

「最悪の場合ワシのヘル・ファイアも有る」

 だがアラークの必殺魔法のヘル・ファイアも相手がまとまってくれていないと必殺の威力が出せない、乱戦では使用できない魔法なのだ。

 

 したがって3頭を超えた場合は個体数を確認の上で街に戻って報告を行うことになった。被害の有った農家で情報を収集し追跡を開始した。

 魔獣とは言っても草食魔獣の場合は飼育することは難しくない、怪我や病気に強く体も大きく食性の幅も広いので飼育するにも使役するのにも向いているのだ。

 唯一の弱点は大型の魔獣に狙われる事である。したがって街の近在で大型魔獣の出現が報告されれば必ず討伐しなくてはならない。

 

 竜人族が魔獣を狩るのは食料の確保の為であり、狩りやすい場所で見つけやすい獲物を狩る。わざわざ街の近在で指定された獲物を狩らねばならない理由は無い。何しろ狩り損ねればその日の夕食が無くなるのだ。

 こういった近場で獲物を追わねばならない依頼は、専門の狩人チームが対処する、どうにも対処の出来ない災害の様な大型魔獣は竜人族に報酬を出して依頼することになる。

 今回の様な案件でもし4頭以上の集団が確認されたら竜を案内して再度合同討伐を行う事になる予定だ。

 

 昼過ぎに依頼の有った農家に到着し状況の確認を行う。

 被害が有ってから3日経っている。おそらく移動しているとは思うが、襲われた家畜は1頭だけだった様で使役用の魔獣はもう一頭いる。

 こいつに未練が有ればまだこの近くをうろついている可能性が有る。

 ただ300キロ以上ある草食の魔獣のテッドカウを引きずって行っている。おそらくそう遠くない場所で食っているのだろう。

 

 熊族の農家で主人はアラーク並みの大きさだったが、小心者で臆病な人間らしく家畜が襲われていても恐ろしくて外に出られなかったらしい。

 熊族は一般に見た目より大人しくて荒事には向かない、したがって猟師になる者もあまりいない。

 すぐに周辺を探してみると果たして、森の木々の間にその残骸はすぐに見つかった。

 地面にその残骸と皮の切れ端が残っていただけだ、大抵獲物の食い残しは小動物によって片付けられてる。

 

「足跡は3種類か4種類有るように見えるな、どう思う?」

 足跡を調べていたアラークが他のメンバーに尋ねるが、はっきりした結論は出せなかった。バスラ達も匂いが入り混じっており個体の識別までは出来なかった。

 3時間ほどかけて更に足跡を追っていくとバスラが鼻をヒクつかせる。同時にリクリアとメディナの耳も反応をする。

 

『300キロ以上の生物を感知しろ』

『前方に2体、後方に2体』

 前方の2体は多分ウェアウルフだろう後方の2体が気になるな。

 

『後方の2体の状況を知らせろ』

『3時方向に1体、8時方向に1体。共に動きは見られません』

…草食魔獣が餌を食っているのか?アラークに知らせるべきか?…いや今は獲物の目前だ、声を出すのはまずい。

 

 その判断が間違いであったと、ヒロはすぐに思い知らされる事になる。


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