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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
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隣街の魔法使い

2ー002

 

――隣街の魔法使い――

 

 その日ヒロは狩人ギルドから隣の街グルーダまでの護衛任務を仰せつかっていた。

 

 狩人ギルド同士の取り決めによる定期的な隊商の護衛任務である、ふたつの街の間の護衛任務で狩人ギルドで持ち回りの仕事である。

 獲物に恵まれない猟師たちの生活費を稼ぐための仕事でも有る任務で、怪我などで現役が難しくなった狩人の失業対策も兼ねている。

 今回は人数の確保が出来ずにヒロに依頼が回ってきたのだ。

 

 困ったことにヒロも一応金バッヂなので皆に頼られる存在となる。

 半年程の間にすっかり逞しくなったヒロではあったが、この国の人間達との絶対的な体力差は大きいものがあった。

 出来れば夜盗等には遭遇したくは無い物だった、現実のヒロの体力ではOVIS抜きでとても彼らに勝ち目は無いだろう。

 そもそも兎耳族は5メートルものジャンプ力が有り、犬耳族は100メートルを6秒で走りぬく、しかも時速30キロ程度の速度であれば何時間でも走り続ける事が出来た。

 ヒロの基準からすればまさに超人である。

 

 実際には街道では盗賊団などはめったに出ないが、たまに遭遇するのが大型魔獣グリックである。

 大型魔獣グリックと言っても基本的には獣と同じである、人間の集団の規模が大きければ襲ってくることはなく、近づけば逃げていく場合が多い。

 問題なのはその魔獣が飢えている場合である。馬車を引くのは獣ではなく草食の魔獣なのでそれを狙って襲ってくるのだ。

 魔獣と言っても草食の魔獣は大人しく人にも馴れるし言うことも聞く。食料を選ばず粗食にも病気にも強いので非常に有用な獣である。

 

 ただし彼らは大型魔獣にとってもとても美味しい獲物なのである。突然藪の中から魔法による攻撃を仕掛けて魔獣を殺して逃げる。

 300キロ以上あるので、獣を持っていくわけにも行かない。仕方なく放置して行くしかないのだが、人間がいなくなったら戻ってきてそれを食うのだ。

 だから護衛の狩人は年中周囲の警戒を怠ることができない。何時いきなり藪の中から魔法弾を撃ち込まれるかわからないからだ。

 

 実際の問題はそこからに有る。隊商を攻撃した大型魔獣を逃して、その狩りの旨味を覚えたら何度でも襲ってくるので必ず狩らなくてはならない。

 この世界の狩人の恐ろしいところはここからである。荷物を馬車に残し武器だけを持った狩人は大型魔獣よりも早く走れるのだ。

 猫耳族は樹上を伝って魔獣を追い場所を知らせる、犬耳族は槍で攻撃を仕掛けるがもし大型魔獣が強力な場合は、後れてやってくる獅子族のヘル・ファイアで焼き尽くす、今回ヒロに期待される仕事はこれである。

 大型魔獣を倒せば護衛任務とは別に大型魔獣討伐の報酬が支払われる。魔獣を追って荷物を担いだまま野山を走り回る狩りと違い、獲物の方からやってきてくれるのだ。 討伐できれば狩人にとっては美味しい仕事となる。

 グルーダまでは約300キロ程有り、竜の縄張り的にはギリギリの距離だがその街にも竜はいる。

 

 1日50キロ位は移動が可能なのでだいたい6日で向こうに着くことが出来る。

 中間付近に小さな村があり、カルカロスの管理で休息所が設けられている。そこでグルーダから来た護衛と交代し、カルカロスに向かう隊商との護衛の交換を行い街に帰ってくる。

 他には小さな休息所が有り、そこは丸太で囲っただけの空き地に管理小屋と井戸が掘られている。無人ではあるが、夜間に魔獣から守られて寝ることが出来るようになっている。

 街に通じる何本かの主要道路にはこの様に整備された施設が作られている場所が多い。

 無論そうでない道路はわだち道こそ有れこういった設備は作られてはいない。

 

 次の町まで隊商の護衛をしながら商人達の噂話を聞く事にした。カルカロスの住人ではない人間からの情報は重要だと考えていた。

 ヒロにしてみれば既に故郷の星への未練はなく帰還したいとは思ってもいない、しかし問題は有る。この惑星に落下したのがヒロだけとは限らないのだ。

 あれだけの混戦の中で起きたワープゲート破壊による時空震だ、自分以外の人類宇宙軍の兵士がこの星系付近に飛ばされた者が有ってもおかしくは無い。

 この星において生活が安定していくにつれ逆にその事の方が気になって来た。

 

 もし人類宇宙軍の上位の指揮官が現れればOVISはその指揮官の命令に従う可能性が有る。

 ヒロにとって戦争は既に過去のものでしかない、見も知らぬ相手に現在の自分の生活を壊されてたまるかと言う気持ちが既に有った。

 しかしもう一つの大きな危惧もあった、それは『エヌミーズ』の存在である。『エヌミーズ』の一部もまたヒロと同じようにあの自空震により、この星系に飛ばされて来た可能性があり得るのだ。

 人類宇宙軍がこの惑星で双方が出会った場合、この世界が戦場となりかねない危険もあるのだ。

 『エヌミーズ』の持つ強力過ぎる力は、この惑星そのものを破壊することすら出来るのである。

 家庭を持ったヒロとしては断じてそのような事は防ぎたいと考えている。それ故に今は多くの噂話や行商人からの情報を積極的に集めようと考えている。

 

 幸い今回は大型魔獣と遭遇することはなく、中間地点にある村に到着した。丸太で作られた塀の内側には10戸程の農家が一緒に建っていて、柵の中には数頭の草食獣が入っていた。

 なんでもここの家畜は使役用で普通の獣らしい。魔獣を使っていると大型魔獣が寄ってくるらしいが、獣であれば襲われる危険もずっと少ないと言っていた。 

「グルーダ側の隊商はまだ来ていないようですね」

 通常であればこの村でグルーダからの隊商と合流し、護衛を交代してカルカロスまで護衛をして戻ることになるのだが。

 

「ああ大丈夫だ、夜がふけるまでには来るだろう」

 護衛部隊の隊長はそう言っていたが、万一来なければこのまま隊商をグルーダまで護衛をすることになる。そういう場合も結構あるらしく、隊商が集まらない場合とか事故が有った場合だ。

 その場合は狩人ギルドから支払われる護衛料は倍になるが期間も倍になる。一応ヒロも新婚であり、なるべく早く帰ってメディナと仲良くしたいと思っていたのだが結局夜がふけるまで隊商は到着せず、グルーダまでの護衛を行うことになった。 

 ここには旅館も有るし酒場も用意されている。専門の旅館ではないが、ギルドの方から補助金も出ているそうなので週に一度の客でもやっていけるらしい。

 彼らの本業は農家だが、隊商が定期的に訪れてくれるので生活必需品に困ることが無いばかりではなく、護衛部隊が大型魔獣を狩ってくれるので安全に過ごせると言われた。

 

 その晩は隊商の人間が酒を飲ましてくれた。グルーダまでの護衛の延長となったので気を使ってくれたらしい。 

 彼らは遠くの街の行商人で、カルカロスの商人ではなかったので色々な話が聞けた。その中のひとりがヒロのような耳無しの種族の噂を聞いたことが有ると言っていた。

 あまり詳しい話は知らないそうだが、かつて竜人と戦争を行った種族がいたそうだ。

 数百年前に天から降って来たとも、悪魔との戦争があって悪魔が逃げ込んだとも言われる、まあ伝説の様な物であるらしい。

 しかし落ちてきたのが数百年前と言うのであれば伝説とは言えないのではないのか?歴史的な時代だろうとも思う。

 もっともヒロのいた時代と違い、情報の伝達速度はそれ程早いわけではなかったのだろう。

 

 更に話を詳しく聞くとかつて悪魔と竜との戦いが有ったと言う話もあった。

 どういう経緯かは知らないがその連中は竜人のひとりを殺したらしく、怒った竜人達が集まって彼らを皆殺しにしたらしい。

 ヒロはその話を聞いていささか違和感を覚える、竜人が人を殺すことも有るのだろうか?しかしその事を後悔した竜人達は銀色に輝く墓標を建てて彼らを弔ったという話もある。 

  

「その相手が耳無しと呼ばれている種族なのですか?」

「いや、そんな種族は言い伝えにも出てこないから、多分耳の小さな種族かあんたみたいに下の方に耳が付いている種族なんじゃないのかな?」

 何百年も前の話だし、かなり遠い場所で起きた事件らしい。そこはあまり人の住まない荒野である為にあまり行く人もいないと言っていた。

 

「それはどこら辺に有るのですか?」

 地図を広げてみてもうわさ話で有るために正確な場所はわからないらしい。

 竜と言うのは言うまでも無く竜人族の事だろう、しかし悪魔と言うのが人類宇宙軍だとすれば竜に勝ち目など有る筈が無い。

 それどころか竜人族を殺しうる人間がいるとすれば、それは近代兵器を持つものでなければ不可能であろう。

 

 結局ヒロ達はグルーダまで隊商を送って来た。帰りは2日後だそうで、1日は宿に泊まって休みが取れる。

 グルーダの護衛部隊と一緒に帰って、折り返し地点でカルカロスの護衛部隊と一緒に戻ることになる。

 ヒロにしてみれば初めて見る他の街である。街の形状はカルカロスとあまり変わらない。距離が近いことも有って、建物の造り方は一緒だったし人々の服装も同じだ。

 キョロキョロ周りを見ていると隊商の御者が声をかけてくる。

 

「この街は初めてなのかい?」

「あ?ああ。カルカロスを出たのは初めてだからな」

「はっはっはっ、まあこの街はカルカロスとそんなに変わりはないさ。ほれ、あそこいらへんの隅にお楽しみの店が有るぜ」

「お楽しみ?」

「ああ、犬耳族、猫耳族、兎耳族を、よりどりみどりだ。カルカロスにも有るだろうが、旅の恥はかきすてだからナ」

 何かよくわからないことを言う何を楽しむのだろう。

 

『自由生殖の事です』

『?…この世界での俺には同族がいないから生殖活動は無理だと言われたが?』

『活動は無理でも行為は可能です』

『あ、うん。そういう事ね』

『大丈夫です、私は横を向いていますし、記録は暗号付きの極秘ファイルに移しておきます』

『いらんお世話だ!』

 

 御者の男はヒロを見てニタニタ笑っている、コイツも街ごとにヤっている人間かな?

 街の中心の広場に有る狩人ギルドの前で集合すると、隊長がギルドに入って護衛完了の報告を行う。これでカルカロスに戻れば追加の報酬が支払われる。

 

「なんだあれは?」

 狩人ギルドの前で待っていたヒロは変な男が歩いてくるのに出会う。

 フード付きのくるぶしまである貫頭衣を着ていた。その顔にはお面をかぶっており変な模様が描かれていた。

 長袖の腕から出ている手には手袋がはめられており何処からも素肌が見えるところはなかった。身長は180センチくらいで体形は男の様に見える。

 

「ああ、あれはこの街の魔法使いギルドの医者せんせいだよ」

 あれか?カルカロスの街のバルバラ医院長の男版なのかな? 

「カルカロスの街には偉い美人の医者せんせいがいるだろう」

「いや、いま魔法使いギルドとかなんとか言わなかったか?」

「知らなかったのか?各街の病院は魔法使いギルドに所属しているんだ。言って見れば病院の事務部門か親組織のようなものさ」

「魔法使いギルド?魔法使いが所属するギルドなのか?」

「そういう訳ではないらしい俺だって魔法くらい使えるしな。まああの通りの格好をしている変わり者集団というだけで、どういう基準でギルドに所属するのかは全くの謎さ」

 

「集団と言うと何処の街にもあんなのが沢山いるのか?カルカロスには医院長先生ひとりだけだが?」

「良くわからんが不思議な戒律に縛られている連中だ、宗教のような物らしい。まあ、他の誰にもあんな格好はさせていないし、仮面の着用もさせていない。住人のためには様々な役に立っていてくれるので、誰もそのことには触れないんだ」

 そうなのか?カルカロスのバルバラ医院長も、結構普通に仮面をずらして顔を見せてはいたけどな。

 

「個人の趣味を認めれば街のために非常に貢献してくれている連中でなあ、病院以外にも農業指導や治水等の技術指導なんかもしてくれているんだ」

 そう言えば聖テルミナ病院でも孤児院の経営や医者の育成に力を注いでいた。結構あの変態医院長も本当は大した人間なのかも知れない。

 魔法使いの歩く先にはおかしな馬車が止まっていた。

 

「なんだあの馬車は?」

 馬車と呼ばれるがそれは4輪のタイヤを履いた屋根のある、馬車の様な形をした乗り物だ。

 この惑星に落ちてきてからタイヤを見るのは初めてだったが周囲の人間はさして気にすることもないようだ。

 普通の馬車は木製の車輪を使ったものでものすごく乗り心地が悪い。あれではまるで自動車ではないのか?

「あの馬車は何ですか?」

「ああ、魔法使いが使う上級魔法で動く自動馬車さ、馬なしでも動くやつだがカルカロスでは使っていないのか?」

 

『OVIS、馬車をスキャン』

 そう指示した途端に魔法使いはこちらを振り返る。こちらを発見されたのか?

 いや違うあいつが見ているのは亜空間に隠れているOVISの方だ。 

『OVIS、気が付かれたか?』

『スキャンを行った瞬間に妨害を受けました、私を見ているかどうかが不明ですが、スキャンセンサーは確実に発見されたと思います』

 

 亜空間と言うのは空間に空いたポケットの様なもので、そこに入ればポケットの外からの観測は不可能になる。

 しかしそれでは外部の状況がわからないので通信アンテナと監視カメラは亜空間から外に飛び出している。普段それは俺の胸のバッジに偽装して体に付いているように見せている。 

 スキャンをするときはスキャンセンサーを外に出さざるを得ないのでそれを見つけられたのかもしれない。魔法使いは目線を落としてヒロの方を見る。確実にヒロの正体を知ったと思った方が良いだろう。

 

 しばらくの間ふたりは互いを見つめあった。

 しかし魔法使いはすぐに興味を無くしたように背中を向けると、馬車に乗って行ってしまった。

 

『OVIS、何かわかったか?』

『残念ながらスキャンは妨害されました、外見以上の事はわかりませんでした』

 

 何かわからないがこの世界にはここの人間達とは別の存在がいるという事の様だ。 

「ヒロ、何をやっている、行くぞ」

 隊長がギルドから出てきてヒロに声をかける。

「あ、ああ、すまない今行く」

 ヒロたちはホテルに向かって歩き始めた。


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