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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第二章 穏やかな日々
30/221

メディナと過す穏やかな日々

2ー001

 

――メディナと過す穏やかな日々――

 

 白む空の明るさに目を覚ます。日の出までまだ少し時間がある。

 

 俺の横を見るとそこには耳の長い娘が寝ている。

「ん?起きたの、おはよう」

 俺の動きを感じたのか体を返してこちらを見る。

 

「起こしてしまったようだな。今日はまだ少し余裕がある、もう少し寝ていてもいいんだよ」

「いいのよ、いつもの時間だもの起きて朝食にしましょう」

 俺たちは着替えると外に出た。 

 家の周りには畑が広がっている、小さな畑だが今は作物は植えられていない。

 しかし雑草は刈り取られておりあまり茂ってはいないが、土はあまり耕されておらず固くなっている。

 いつでも作物を作れる程度にだけは手入れをされているのだ。

 

「雑草は放置すると種が土に混ざって何度抜いてもなかなかなくならないのよ」

 そう彼女が言っていた。

 鳥小屋のケージを開けてやると鶏達が外に出ていく。

 小屋の隅を探すと卵が4つ見つかった。朝飯に丁度いい、皿に入れて家の中に戻る。

 再び小屋の中に戻って掃除をして餌を追加しておく。

 もう少し数を増やしてもいいなとも思うが、今の所出荷するわけでもないのでこの位でいいとも思う。

 

 鶏どもは家の庭の雑草をついばんでいる。餌が欲しくなれば勝手に小屋に戻ってくるだろう。

 丁番付きのくぐり戸を通って入るので中に入れば出られない。

 時々キツネも入って鶏を食うが、出ることが出来ずに毛皮の材料になる。

 もっとも近くに住むキツネはおおかた彼女が狩っていてこの家には近づかないのだが。

 

「ヒロ~っ、ご飯が出来たわよ~」

 家の中から彼女の声が聞こえる。

 朝食は焼いたパンに目玉焼きと茹でた野菜とベーコンのスープを飲む。

 彼女は卵や肉は食べない、温めた野菜を山の様に食べスープを飲む、肉でもスープ位は飲めるらしい

 同じ食事が出来ないのは悲しいが、これが兎耳族との生活だと割り切ることにしている。

 今日は狩りには出ないで畑を耕すことにしている。

 すぐには無理だが固くなった土を耕して少しづつ作物を植えていくようにするつもりだ。

 

 彼女が何故ヒロを選んだのかは結局良くはわからなかった。ただ言動の端々から彼女がバスラと仲が良いのは気が付いていた。

 そのバスラが今度結婚するという話を後で聞いたので彼女の行動はそれが原因だったのかも知れない。

 

『彼女が失恋したという動機は理解できますが、次に選んだ相手がパイロットであるという理由にはいささか説得力が乏しいと考えます』

『うるさいよお前、俺だって健康な男子だし十分彼女を幸せに出来る…と思う』

 

 いかんな、いささか最後のほうが弱気になっている。 

 バスラは確かに直情的な部分はあるし、バトルマニアでもある。しかしその根っこには非常に仲間を思い、身内を大切にする心があった。

 おそらくバスラがメディナを選んだとしても多くの人の祝福を受け、バスラもまた彼女を大切にしただろう。

 

 犬耳族は一般に非常に情に厚い種族と言われているようだがバスラを見ていると確かにそうだと思える。

 人を出し抜いたり裏切ったりするような事の全くない非常に誠実な男であった

 それでも彼女はバスラを選ばず、バスラもまた彼女を選ぶ事無く所帯を持ってしまった。

 バスラは子供を欲しがっていた様だから彼女よりも同族の娘を選んだということなのだろう、そうなるとメディナがあのチームに居づらくなる。 

 

 彼女がヒロを選んだ理由が何であれ、この世界で伴侶を持ち、生きていける理由がさらに強まったことは確かである。

 ヒロにしても既に戦争は過去のことであり、狩人としての生活を始めてから夜明けとともに生活をする事にすっかり慣れてしまっている。

 軍人以外した事の無いヒロも何とかこの世界になじめてきた。

 この先はもうあの戦争の事は忘れてゆっくりとこの世界で暮らしていければ良いと思う。

 子供は駄目でも場合によっては様々な方法も有るだろう。その事はゆっくり彼女と話し合えばいい。

 

 朝食を終えると彼女の指導で畑仕事に入る。

 父親が死んだ後は彼女と母親のふたりでこの畑を守ってきたそうだ。母親が死んでしまったので彼女ひとりでは畑を維持できずにいたらしい。

 俺でなくとも単に男手が必要なだけだったかもしれないがそれはそれでいいだろう。

 今は彼女との生活を楽しんで行きたい。

 

 彼女はアラークのチームから完全に離れたわけではなく、いずれはヒロとのチームで大型魔獣刈りを行っても良いと思っているようだ。

 しかしヒロを見出し支援をしてくれたアラークにそう簡単に不義理を働くわけにも行かない。

 そこで大型魔獣の狩りのときだけはメディナが参加することとして、残りはヒロとの狩りを行うことにした。

 鶏もいるのでそう長く家を空ける訳にもいかない事も有る。畑を耕しながら獲物を狩る毎日である。

 

 索敵はOVISでもできたが実際にやってみると彼女の耳の方が的確だった。

 獲物を発見しそっと近づきOVISの武器で仕留める。普通のチームではあきらめるような大型の獲物もOVISのお陰で運ぶのは簡単だった。

『栗の木』の時も俺がいるときには遠慮なく大物狙いをしていたお陰で良い金にはなった。

 もっともそれが今後の『栗の木』にとって良い事では無いと、彼らもわかっていたのでヒロと別れた後は普通の生活に戻っていったのだ。

 高望みをせずにスローライフを送り続ける事が彼らにとっては大切な事なのだろう。

 ヒロはと言えばもう元の世界に戻る気などまったく無くなっていた。

 ここでの生活はとても穏やかに過ぎて行き、目的も目標も自分で作ることが出来た。

 

 かつての世界では国家が目標を作り組織がそれに従った。自分たちに有る選択権は一つだけ、目標を達成して上級市民になるか、目標を達成できずに下級市民になるかである。

 下級市民は低目標、低報酬で死ぬまで同じ生活を続けさせられ、仕事が出来なくなれば放棄された。

 希望者は子供を作れたが全ての子供は7歳になると徴兵され兵士教育を受ける。しかし兵士学校は成績不振者を望んではいない。

 成績に満たない者は次々と放校にされ親の元に帰ってきて下級市民としての教育と生活を始める。

 

 ヒロの場合はOVIS操縦者としての適性が高かったが、無論戦闘艦任務に適性を持つものもいる。

 そういった者は戦闘艦、補給艦などの船舶任務に就いた。

 OVIS乗りは戦闘専門の兵士なので船舶勤務者よりもより厳しい訓練が施される。

 事実上そこから脱落した者が船舶勤務となるのでOVIS乗りは階級は低くともエリートであった。

 

 下級市民の教育は全体に奉仕するために得意分野を決めて仕事に就く事になり、その為の教育を受ける。

 無論どのような職業に就こうとも自由であったが、教育課程で向かない物は次々と振るい落とされる。

 何度か教育課程を変えて出来そうな仕事に就く。

 仕事に就けないものは処分され、仕事に不満を持つものも処分された。

 

 兵士学校の成績上位者は士官学校に進み政治学、経済学、理工学等の専門分野を納め管理職への道が開ける。

 管理職の中の成績優秀者が上級市民になり国の指導者になった。

 上級市民にならなくとも、管理職は準上級市民としての生活が与えられた。

 士官学校の卒業者の中で管理職になれなかったものは兵役士官となり、戦闘指揮を行い、経験を積むと艦隊指揮を行う様になる。

 

エネミーズ』に対する侵攻作戦は、その準備と被害の大きさから数十年に一度の作戦となる。

 なぜか『敵』は人類の支配圏である直径100光年の範囲に侵攻してくることは無かった。その範囲に閉じこもっている限りは安心して戦争の準備を行う事が出来た事が大きいだろう。

 その外周部で警戒に当たる船舶に搭乗するのが兵士達の仕事の大半である。そこでの『敵』との接触は命がけの戦闘になるが、敵に勝利できれば敵の持つ科学力を手に入れられる場合が多かった。

 

 その多くが人類軍の兵器にフィールドバックされ、新たな兵器が次々と周辺空域の戦闘に投入された。

 同時に行われた強行偵察部隊は甚大な被害を出しながらも敵基地の情報を掴んでいった。

 50年前に発見された『エヌミーズ』の補給基地攻撃の為に、人類軍は50年に渡る準備期間の後に決行された。

 

 戦いは苛烈な物でになると予想されたが作戦に参加し生き残れば上級市民になれるのだ。損耗率95パーセント以上であっても作戦志願者は引きも切らなかった。

 もっとも作戦に従事できる者はその時点でエリートであり、実際にはそれ以前に脱落する者の方がはるかに多いのである。

 それでも作戦時期に適正年齢の範囲にいた者は幸運なのである。

 作戦に参加し生き残る確率は正規の手段で上級市民になれる確率の10倍以上であったからだ。

エヌミーズ』との戦いにすべてを費やすために人間は存在していただけであった。

 

 しかし、とヒロは窓の外を見る、 

 ここに『エヌミーズ』はいない、自分の食い扶持の為に働き残りを貯蓄に回す。

 働きたいだけ働き、それに見合った生活をする。全ては自分が決定できる事だった。

 畑を耕し実りが訪れると二人でそれを食べる。狩りの獲物は狩猟ギルドに降ろし、ヒロは加工された肉を食べた。

 大部分は魔獣の肉だが食事には必ず肉のスープを作る。肉はヒロが食べ、メディナはスープを飲んだ。

 彼女が食べられる唯一の肉食品である。これはこれで、彼女の健康を維持するのに欠かせないのだ。

 

 彼女とふたりで行う狩りは楽しい物であるだけでなく、狩りを行う度に強まる絆と信頼である。

 パートナーとして、恋人として、妻としてヒロはメディナと強く結びついて行った。

エヌミーズ』攻略戦におけるOVIS戦闘の中核となる年齢層だった事も有りその生活の殆どをOVISと共に過ごしてきた。 

 OVISは相棒であり、教師であり、親であり、友であった。

 しかし彼は人間ではなく生き物でも無かった。如何に強い絆を結ぼうともやはりそこに生き物の温かさは無い。

 

 しかしOVISは人間では無いが故にメディナに嫉妬する様な事は無く、ヒロの安全を最優先する行動にブレもなかった。

 どの位OVISが存在し続けるかはわからないが、いずれはヒロもOVISから独立し普通のヒロとなる必要が有るだろう。

 まだ彼女にOVISの存在を告げてはいない。ヒロの本当の能力を知った時の彼女の反応もいささか気になる所ではある。

 少なくともOVIS無しに狩りが出来る様に自らを鍛え上げなくてはならないだろう。

 

 雑草だらけの畑だったものが耕され実りをつけるようになってきた。

「動物を飼える位の大きさが有ればいいんですけどねえ」

「仕方がないさ、少しづつ開墾して畑を増やしていくさ」

「そうね、畑が今の3倍くらいの大きさになれば、牛を飼って耕せるわね」

 家の周囲には未開墾の土地がかなりあるので、開墾しさえすれば畑を増やせる。

 

『OVISを使えば簡単なんだがな…』

『魔法を使えばずいぶん楽にできるのに…』

 ふたりは何となく顔を見合わせるとにこっと笑う。お互いの持っている力は夫婦と言っても秘密なのであった。

 

 それも有ったし近所の手前、気軽に魔法を見せる訳にもいかなかった。

 こういった地域農村社会においては他人と違う力を見せるのはタブーなのである。

 貧しい者は周囲が貧しいから我慢が出来るのである。突然一軒だけが豊かな生活を始めれば人は羨み、妬み、そして排除を始める。 

 メディナは学校時代にそれを経験し、あまり目立たない生き方に固執するようになったのだ。

 したがってヒロに自分の魔法の事は話していない、ヒロもまた自分の能力がOVISによるものであることはメディナに話してはいない。

 夫婦の中にも秘密は有る。お互いに関係ない部分には目をつぶるのが夫婦円満の秘訣である。

 

    ◆    ◆    ◆

 

「にゃっほーっ、メディナ元気ーっ♪」

 時々カロロが兄のコタロウと一緒に遊びに来る。

 

 いきなり二人で飛んでくるので最初はびっくりしたが、この二人はメディナとはとても仲が良い。

 コタロウは既に100歳を超え身長も2,3メートル以上ある。それに比べるとカロロは130センチくらいでいかにも小さい。 

 小さいというより頭と手足が大きくてすごく幼く見える、これでもメディナと同い年なのだから竜の年齢はわからない。

 お兄ちゃんの頭に乗っかって飛んできた、仲の良い兄妹の様である。

「お兄ちゃんはやーい、カロロ一緒に飛べなーい」

 なんでも竜族は成人するのに500年近くかかるらしく、親の竜の身長は10メートルを超えるそうだ。そんなものかと言えばそんなものなのだろう。

 

 庭にはみんなで座れるくらいのテーブルが置いてあり、丸太の椅子もある。

 丸太なのでコタロウも座れると思うのだが尻尾が邪魔になるらしい、あるいは足が短いのか?尻尾の部分をくるりと巻いてその上に座る。町でだいたいはこうやって座っている。

 何度も椅子を壊したのでもう椅子には座らないらしい。

 メディナも慣れたものでお兄ちゃんには特性の小型の樽にお茶を入れて出す。

 

 ヒロなんかよりはるかに年を取っている筈のお兄ちゃんではあるが、竜としては若いせいか話も態度も若々しい。ニコニコしながら出されたお茶を飲んでいる。教師をやっているせいか意外なほどに饒舌なのだ。

 もっとも最初のうちは表情が良くわからなかったが、付き合ってみるとなかなかの好青年である。

 まあヒロの年齢から考えると好好爺なのだが…。

 

「来年からカロロは王都にある大学に進学することにしたんですよ」

 一応現在の国の政治形態は王制で各地に独立した領主を置いている。この国の首都となるのが王都カルディナーンである。

 そこには名門とされる王立イエール大学が設立されており、国内の各地から学生が集まってきているらしい。

 

 もっとも王都の大学には金持ちか、領主の子弟が多く入学して来るそうで、イエールもその傾向が有るらしい。ただ奨学制度も有り試験を受ければ学費が免除されるそうだ。

 貧乏人は奨学制度を利用してアルバイトをしながら大学に通うと言っていた。

 自由、平等、公平を掲げ、家柄や身分を吹聴する事を卑しいとする校風が有るそうだ。他の国の竜人族もこの大学に学びに来るものは多くいる、ただそれ程竜人の数は多くないので同時に在籍する事はまれらしい。

 コタロウがこの学校でも教鞭を取っている事が、非常にその校風を強く際立たせているようだ。

 

 カロロは王都に住む竜の元に下宿して大学に通うと言っていた、お兄ちゃんもその大学に通ったそうである。

 無論このカルカロスの町にも大学はある。地元の学生専用で教える学問は政治経済と歴史と魔獣学位だそうである。

 コタロウはその魔獣学の教授をやっているらしい、王都との掛け持ちらしいがかなり高名な学者だそうだ。

 

 魔獣学はどの町の高等部や大学にも必ず存在し、魔獣を学問として学ぶ事になっている。

 この世界が魔獣を中心として回っていることを考えれば当然の事であり、ここでの研究成果が狩人ギルドにフィールドバックされている。

 魔獣の生態に関しての知識は狩人ギルドの方が余程詳しいが、学問と言う事になると全く意味は違って来る。

 魔法も含めた総合的な学問でその下には様々な専門分野に分かれていた。

 

 お兄ちゃんは大学で様々な分野の学問を学んだ後、カルカロスに戻ってきて大学で魔獣学の教師をやっているのだ。

 この世界が魔獣によって成り立っていると言う現実を考えると非常に重要な学問であり、結構人気も有るらしい。

 実生活にはあまり役に立たない純粋な学問になるが、魔獣の存在とその将来の有り方についての学問らしい。

 

 明日の仕事の役には立たなくとも将来の国の役に立つ学問は継承されなくてはならないのだ。

 それ故に周囲の町からもこの町の大学に来る人間は徐々に増えつつあるという。

 そのお兄ちゃんも後100年も生きると身長が4メートルを超える。

 徐々に人間社会での活動は難しくなってくる、体が大きくなると本を読むことも出来なくなってしまうらしい。

 

 まあ大きな爪を持ち、ただでさえ不器用そうな手ではあれ以上大きくなると本なんか持つことも出来ないだろう。

 なんでも竜は長命で2000年以上生きると言われている。

 そう考えると哀れな生き物のような気もする。

 並みの人間以上の知能と知識を持ちながら魔獣の狩り以外に出来る事が無くなってしまうのだ。

 

「カロロは王都カルディナーンのイエール大学に行く事になってるの、向こうでも沢山友達を作りたいのー♪」

「そうなんだ、それじゃしばらくは会えなくなるのね」

「まだ1年以上あるよー、うーんと勉強してこの町にも新しい学問を広めるのー♪」

 

 相変わらずカロロはとても明るいし将来に向けての希望に満ちている。


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