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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
25/221

竜の宅急便

1ー025

 

――竜の宅急便――

 

 次の日は朝食を済ませて広場に行ってみた。

 

 ヒロは宿屋に泊まるのをやめ、ギルドから少し離れた場所にアパートを借りる事にしていた。

 マウラー達との待ち合わせ場所は街の外れだが、疲労した体では組合から帰るのにはつらいからだ。それよりは組合から出る巡回馬車に乗ったほうが良いと言われた事もある。

 だからふたりとはいつも酒を飲むこともなく、ギルドで金を分けるとすぐに別れている。彼らには家庭が有るのだ。

 広場はこの街にある大きな広場の一つで、この街のもっとも古くからあった場所らしい。周囲には石造りの家が立ち並び広場の中心には竜が寝る台がしつらえてある。

 建物には狩人ギルドや郵便局があり、それ以外の建物には様々な店が入っていて繁華街の一つになっている。

 

 買い物をして街の広場に行くとそこには竜が昼寝をしていた。

 街の広場の中央にある台の上で犬の昼寝のように竜が寝転がっている。その竜に子供達が話かけたり背中に乗ったりして遊んでいる。

 竜は別に嫌がる素振りも見せず、尻尾の先を動かして子供達にそれを追いかけさせて遊んでいる。

 なんだ?コイツ凶暴そうな顔をしているくせに子供には人気があるんだな。そんな事を考えながらそっと竜の横を通り過ぎて行く。

 

 その竜人の昼寝している台の前には2メートル四方位の箱が置いてあった。金物の補強の入った木の箱には扉が付いており中には扉付きの棚が幾段にも分かれていた。

 現代的にはコインロッカーの様な形と思えば良いだろう、箱だけでも相当な重量になる。

 運送業者と思われる人間がその棚に袋に入った物を入れ込んでいる。どうやら荷物はこうやって運ばれるらしい。

 

「あら、ヒロさんじゃ有りませんか?」

 鈴がなるような心地よい声が聞こえる、メディナだ。

 先日は狩人の格好でスラックスにシャツの上から防具の様な物を付けていたが、今日は何とも可愛いワンピースを着ている。

 その横に小さな竜の様な生き物が縋り付いている、竜人族の少女カロロである。先日同様のヒラヒラのワンピースを着ていた。

 

「こ、これはメディナさん、今日はお休みなのですか?」

「そうよヒロさんもお休みなの~?」

「は、はい。竜人様が運送業をやっていると聞いたものですから見に来ました」

「ああ~、そうなんだ~」

 獅子族の鼻面を弾いたメディナと同じ人物とは思えないほどに女性的であった。

 軍の女性も実用一点張りの軍服姿しか記憶にない、女性に免疫の少ないヒロにとっては余りにもまぶしすぎてドギマギしてしまった。

 

「ヒローっ、今日はやすみなのー?」

 滑舌の悪い子供の様な声がカロロの口から発せられる。しゃべり方のせいと大きさで幼く見えるが年齢はヒロと同じくらいである。 

「はい、久しぶりに街の様子を見てみようと思いまして、良かったらお茶でもいかがですか?」

 突然ズヌウォッ!と背後から殺気が送られてくる。恐る恐る後ろを見ると竜の親父がヒロを睨んでいた。

 そ、そうだ忘れていた、カロロはあの竜の子供だったんだよな。

 間違いなく「ワシの娘に手を出したら殺す」とその顔が物語っている。

 

「ご、ご無沙汰しています、竜人様」

 ついへりくだってしまう、如何な優秀な兵士と言えども巨大な力の前には心が折れる時も有るのだ。

「おぬし、先日アラークと一緒にいた者ではないか?確か大型魔獣の頭を吹っ飛ばした男だな」

 かなり野太くてドスの効いた声が背後から聞こえて来る、竜人のオヤジの声だ。アラークより数段迫力があり、脂汗がにじみ出て来る。出来れば目を合わせたくない。

 

「ははは、はい。娘さんですか?可愛いらしい方ですね~~、…アー、アハハハハハ…」

 突然竜の顔がにへらっと崩れる。

「そ、そうじゃろう。ワシの自慢の娘なんじゃよ~~……手を出したら殺すからな」

 後ろの方で上を向いた尻尾がフルフルと揺れている。しがみついていた子供がコロンと倒れ、他の子どもがまたしがみつく。 

 

…あ〜、わかりやすいな〜。

 

 ヒロは頭をぷるんぷるんと大きく振りまわす。ヤバイしょんべん漏らしそう。

「カロロさんはメディナさんの同級生でしょう?お父さんに比べてずいぶん小さいんですね」

「竜人族は成長期が無くてな、ず〜っと一定の早さで成長をするんだそうだよ。だからこの時期だけは同じ年の人間より小さいのだよ」

「そ、そういう物ですか?」

「まあワシらはなかなか死なないのでな〜、あまり早く育っても困るじゃろう、ガハハハ」

 竜人族が大人になるのに500年かかると言っていた。確かに毎年コロコロ生んでいたら竜人だらけになってしまうだろうからな。

 

「そういえばあれは黒い巨人に出会った日だったな、そうそう思い出した。おぬしがひどく変わった格好をしていたので覚えていたのだ」

 ヒロの背筋がヒヨ〜ッと寒くなる。 

 

「そ、そういえば、あの日は顔が腫れていましたものね~」

 ブォンと鼻息が放たれてヒロ達がよろける。  

「勘違いだ」

「は、はいーっ?な、何の事でしょうかー?」

「おぬしの見間違いだと言っておる」

 

…あはああ~~っ、これは逆らわない方がいいだろうな〜。

 

『記録映像が有りますが投射いたしましょうか?』

『バカッ!よけいなことするな!』

 

「はいいい~~~っ、僕の見間違いで~~す」

「うむうむ、それで良し」

 

…あ〜っ、疲れるからさっさと逃げ出そう。

 

「しかしこうしてみるとおぬし貧弱な体をしているな、魔法使いと言ったがその大きさではあまり強力な魔法は出せんじゃろう」

「おとーちゃん、ヒロ金プレート2枚ー♪」

「ほおお〜っ?この短時間にまた大型魔獣を倒したのか?よほど強力な魔術師なのだな~」

 その声に竜人に纏い付いていた子供たちが一斉にヒロの方に寄って来る。

「おにーちゃん、きんプレートのえーゆーなの?」

 ヒロの胸につけられた2枚のプレートを見て目を輝かす。

 

『シールドを張りますか?』

『竜の親父の前だろう手も足も亜空間から出すなよ』 

 

 OVISの自立思考型無機頭脳に自我は無いとされているが、実際には弱い自我と感情が有る様に感じる時がある。

 コイツこの前言った事を絶対に根に持っているな?


「すっげーっ、獅子族以外に金プレートなんて初めて見るよ」

「あれ?耳が無いんじゃない?何族なの?」

「ばっか、耳無し族だって言ってたじゃないか」 

 いえいえ、そんな種族は初めて聞きましたから。

 

「そういえばこの大陸ではお主の様な種族は見たことが無いが、どこから来たんじゃ?」

 頭に耳が付いていないから最初からわかりそうなものなのだが、竜人族はかなりおおらかなのか? 

「じ、実は自分でも良くわからないんです、気が付いたらこの世界に来ていまして…」

 よくよく考えてみればこれだけ種族の異なる人種がいるにも拘らず、あまり人種ごとの確執は無いように見える。 

「ふむ?異世界から転生でもしてきたのか?」

「そ、そんな人いるんですか?」

「いや、聞いたことは無いな。言ってみただけだ」

 

…頼むよ〜、心臓に悪い事言わないでよ〜。

 

「まあ以前に噂だけは聞いたことは有るんだがな」

 その割にはいきなり話が出てきたな、都合良すぎないか?

「そ、それは一体どこでですか?」

「300年程前の事だが…その時は全員が死んだそうだ、場所は良く覚えておらん」

 

…まさか!俺の友軍か?

 

「竜人殿用意が出来ました」

 その時狩人組合からの人間が出発を知らせにきた。

「おお、そうか、子供達よ出発の時間だ、台から降りてくれ」

 竜人が体を起こすと子供達はバラバラと台から飛び降りる。竜の頭の上から一回転して飛び降りる子供までいる。

 この世界の連中は子供までが驚異的な運動能力の持ち主ばかりだ、だから安心して子供たちを纏わり付かせているのか。

 

「りゅ、竜人殿、その時の話を詳しく…」

「これから出発だ、話を聞きたければそのうち竜の巣に来るが良い」

 竜が腕を出すと運送係の男は竜人の腕に行き先を書いた木の札を縛り付ける。

「今日は西のマンチェスタの街です」

「うむ、わかった西の街だな」

 

「いったい何を運んでいるのですかね?」

 ヒロはメディナに視線を送る。

「半分は郵便物だそうよ、商会の決裁書の様な物はスピードが無いと困るからよ」

 成程、距離にもよるが隣り町まで馬車では2〜3日はかかるが竜人ならば半日か。

「後は軽くて高価な物ね、竜人様の運搬となれば安全性がものすごく高いから」

 確かに飛んでいる竜人を襲える野盗はいないだろうしな。

「お誕生日のプレゼントに生もの贈る人もいるわよ、お金持ちの道楽みたいなものね」

 荷物を積み終わると外側の扉を閉めて3か所を止めるカギがかけてあり、箱の上部には握りの部分に太い取っ手が付いていた。

 

「それじゃ竜人様よろしくお願いいたします」

「おとうさーん、いってらっしゃ〜いー♪」

「おお~カロロよ、寂しいじゃろうが元気でな~、夕方には帰って来るからな~」

 竜の顔が再びにへらっと崩れる、なんなのこの親馬鹿竜オヤジは? 

「大丈夫ー、お母さんが今日は狩りに行っているからー♪」

 竜人は腕に付いた木札を確認するとふわっと浮き上がる。そのまま足の鍵爪で箱の取っ手を握ると飛び上がって行った。

 その後ろで運送業者の人間が帽子を脱いで振っている。

 

 気が付くと周りに結構な人が集まってきている、街のちょっとしたイベントの様な物らしい。

 竜が飛び去って行くのを見ていると、後ろでメディナがニコニコしながらヒロの事を見ていた。

 

「あ、あのメディナさん」

「ん?何かしらヒロさん」

「よ、よかったらお茶でもいかがですか?」

 ヒロは何とも間が持てなくてつい言ってしまった。 

「喜んで、カロロちゃんと一緒でよろしいかしら?」

 

 にっこりと微笑み返すメディナ。 

 それを見たヒロはドキンとなる。美人の微笑は若い男の子にとっては破壊的な魅力が有る。

 

「も、もちろん、カロロさんもご一緒に」

「いくーっ、メディナといっしょー♪」

 滑舌のせいか、あるいは大きさのせいか、ひどく幼く感じられるカロロである。

 3人で近くにある店のテーブルに座ると、そこは広場が良く見渡せる席だった。

 

「きょ、今日は天気が良いですね…」

 何とか言葉を繋ぐが、彼女の顔を正面から見つめるのはどうにも恥ずかしく、ヒロは広場の方を見ていた。 

「なんになさるの?」

「へ?な、何をするって?」

 完全に舞い上がって何を言っているのか自分でもわからなかった。

 

「注文の事よ、お茶にする?」

「ああ、はい!お茶でお願いします!」

 彼女はにっこり笑うと給仕を呼んだ。 

「お茶を2つお願い、カロロは何にする?」

「お茶とケーキ!」

「そ、それじゃそれを3っ!」

 勢いで頼んでしまった、ケーキって何だ?メディナはちょっと首を傾けたがにっこり笑う。

 

「それじゃそれでお願いいたします」

 給仕が下がっていくがヒロは広場の方を見ながら彼女の方にチラチラと目線を移す事しか出来なかった。

 竜が去った広場はまた普通の状態に戻って親子連れや商人の馬車が歩き回っている。

 子供を連れた母親が買い物をしている姿を目で追っている、何を言って良いのかわからず彼女の方を見るのが恥ずかしかった。


 だがふとした事に気が付く、子供が無垢なのは当たり前だが皆ふくよかでぷにぷにしているのだ。しかも子供達の服装もそれ程悪くは無い…。

 ヒロの知っている下層市民の生活はあまり良いものでは無かった。

 食料は配給されたが十分とは言えず皆痩せていた。量の問題も有ったがやはり質が悪いのだろうふくよかな子供はいない。 

 服装にしても何年も同じ服を着ていた両親がいる。

 生きる気力を無くし、ただ食べる為に毎日の労働をこなす生活を続ける人々の住む都市。

 生産力の半分以上を政府に取られ、残りを割り振られる生活を続けて行く。未来も希望もない生き方であった。

 

 それ故に召集令状がやってくると皆喜んで軍隊に入隊していた。軍隊で出世する事が生活の安定に直結していたからだ。

 しかし軍で適性を認められ、更に兵学校を卒業し実戦に出られるのは100人に一人。

 大きな作戦は4〜50年に一度程度しか無く、それ以外は偵察の為に侵入して来る『エヌミーズ』との遭遇戦で有る。

 人類の支配空域に侵入して来る敵を警戒するために多数の艦艇が警備行動をしている。

 『エヌミーズ』との遭遇は上級市民への昇格のチャンスであるとともに、圧倒的な敵の能力の犠牲になる可能性を多分に含んでいた。

 

 そうした中でも権謀術数に優れた指揮官は『エヌミーズ』を欺いて勝利した。

 敵戦艦を拿捕出来ればその中にある装備は人類にとっては宝の山である。その設備から技術を盗んで人類はかろうじて自らの空域を敵から守っていたのだ。

 しかしその敵に勝つ可能性はかなり低いが報酬は大きい。それ故に指揮官は敵との遭遇を熱望し、隊員は無事の帰還を求めていた。

 

 何しろ遭遇戦の勝率は3パーセント程でしか無く、その死亡率は97パーセントを超えていたのだ。

 そして何事も無く軍務を終了した人間は、再びこの下級市民の生活に舞い戻ってくることになる。

 

 えん戦気分の払しょくのために数十年に一度大規模な作戦が行われた。ヒロの参加した作戦では50年の時間をかけて惑星一つを縮退化させ、武器とした。

 一万隻の艦隊と10万のOVISを建造し、数億人の人間に訓練を施しその中から数百万の人間を前線に送った。

 その95%を失うと言う前提でだ、もはや何の為の戦争だかわからなくなっている。

 

 何故人間は拡張を求めたのだ?100光年の生存空間では不足しているのか?戦争の為に数百億の人間が貧困にあえいでいると言うのに。


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