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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
24/221

囲い込み猟

1ー024

 

――囲い込み猟 ――

 

 ヒロは『栗の木』と共に猟を始めて2か月程経った。

 マウラーとケストルは実に良くヒロの面倒を見てくれた。狩人の仁義から獣の痕跡の見方、罠の仕掛け方等を教えてくれる。

 

 街での噂を聞くとこの二人は多くの新人を育てていて、トップレベルの狩人に育った者も何人もいると聞く。

 確かに師匠としては素晴らしい人たちであった。 

 とは言え所詮町場の狩人で有り、大型魔獣を狩って名を上げる狩人集団からは低く見られる存在である。それでも狩人と言う職業その物に対して無知であったヒロを一人前にしようと日々努力している。

 それがものすごくありがたいと感じたヒロは、一所懸命に頑張って二人の教えを覚えようとしていた。

 

 残念ながら肉体能力の差は歴然であり、かろうじてGキャンセラーのお陰でその移動速度についていけているに過ぎない。

 いくらGキャンセラーが有るとはいえ彼らの様な瞬発力も俊敏性も無い、OVISの搭載兵器の使用により魔法使いとして立場を維持しているに過ぎない。

 OVISの身体コントロールを行えば一時的に彼ら並みの動きをすることはできるが、その代償は極端な筋肉痛である。 

 確かにOVISの力さえあれば全く修行をしなくとも狩りをするのに不自由はしなかったであろう。しかしそんな事をすればOVISが故障しただけでヒロはただの無能な人間に成り下がる。

 とにかく知識と経験である。軍の教練所だと思ってひたすら努力の毎日である。

 他の職に就くにせよある程度の金が無ければそれを成すこともできないだろう…とOVISが言っていた。

 

 考えてみればあの頃も兵士として生き残ることにより上級市民になれると言われて頑張った物である。

 その上級市民がどんな物かは結局わからなかったが、徴兵された人間の100人にひとりしか選抜されず、その兵士の95%が死亡する戦場に行かされるのである。

 それだけに上級市民の生活とて本当に与えられたかどうか怪しい物だと今では考えている。それどころか星間戦争から落ちて来たヒロは、考えられないほどの自由と自立を手に入れている。

 人類などと言う訳のわからない物の為では無く、いまでは自分自身の為に生きている。

 

 獲物の足跡を追跡していくマウラー、しかし今日の獲物はかなり大きい魔獣だそうだ。ただ草食魔獣なので基本的にはおとなしいらしい。

「殺して次元収納に入れるのか?」

「いや、この辺だと近くに囲いが有る、今日はヒロに追い込み猟を見せてやろう」

 足の速い草食獣には追い込み猟は効かないが、足の遅い魔獣の場合はふたりでも追い込みは可能だそうだ。

 Gキャンセラーを付けたヒロの足も見かけだけは彼ら並みの速さで走っていける。

 犬耳族の足は速いし持久力も半端ではない、本来のヒロの体力ではとても彼らについていくことは出来ない。

 

「大きいな」

 獲物を見たヒロの第一印象はそんなものだった。

 

 牛に近い形をしている、大きな胴体に不釣り合いに細く見える足、それでも体重は500キロ以上はあるだろう。

 肩から胴体にかけて長い毛が生えている2頭が、のんびりと草を食っている。木々が密に茂っている地域ではなく草地の間に木が茂っているような場所である。

 木の芽が小さいうちに獣に食われる為であろう、背の低い草が密に生えている。肉食の魔獣が狩人達によって駆逐されている為か、安心して草を食っている。

 500キロと言えば大きいように見えるが草食の魔獣としては珍しくはない、運搬手段がないので狩ることが出来ないだけだ。 

 しかし森の中には狩人組合が追い込み用の囲いを作ってくれている。

 囲いの設置されている近くであればそこに獲物を追い込んで生け捕りにすればよいのである。

 マウラーは囲いの設置されている方向を示し、彼とケストルが追い込むからと言われ、ヒロには殿しんがりを任される。

 

 しかしこの様な森の中で方向だけ示されても少し動けば簡単に方向を見失う。彼ら獣人達には絶対方位感知能力が有るらしく視界の悪い場所であっても方向を見失う事は無い。

 素晴らしい能力だとは思うがヒロにはそんなものは無い、長い進化の末に人類は多くの物を失っているのである。

 

『方向はわかるな、誘導を頼む』

『了解』

 OVIS無しに俺は生きていけるのだろうか?そんな事を考える、狩人としての能力は犬耳族の足元にも及ばないヒロである。

  

「はうっ!はうっ!はうっ!」

 獲物の両脇に甲高い声を上げながら走って近づいていく。

 

 突然の事に驚いて走り始める獲物だ。ふたりはそれに遅れることなくついていく。

 ヒロはしんがりを務めるがGキャンセラーのおかげで何とか走れる。

 グラウンドではなく、足元の悪い草地で有る。そこを荷物を背負ってマラソンを行うようなものだと言えば過酷さがわかるだろうか 

「キャウッ!キャウッ!キャウッ!」

 姿は既に見えないが声だけは聞こえる。それに遅れないようにヒロは必死で走る。

 ヒロに期待されている事は獲物が身をひるがえして後ろに逃げ出した時に、それを逃がさない様に押し戻す事なのだ。

 

 マウラーによればふたりで2頭の獲物を追う事は難しいそうだ。3人いれば問題ないが、ふたりでは一頭を取り逃がす可能性が高いらしい。

 それは後ろにいて獲物を殺して次元収納に納めろと言っているのに等しい、つまりマウラー達はヒロは肉体的には既に見切っていると言えるだろう

 ヒロにとっては屈辱的ではあるがこれが現実なのだ、OVISの支援無しにこの世界で狩人をやっていくのは難しいと言うのが現実だった。

 

『獲物のうち一頭がこちらに向かって逃げてきます』

 やはり逃したようである。すぐに木陰から現れるだろう。

『攻撃をしますか?』

『いやっ、獲物の正面にプラズマ弾を撃ち込んで爆発させろ、音で囲いまで誘導するんだ』

『了解』

『目の前で突然小さな爆発が起きると、獲物は驚愕の悲鳴を上げて急ブレーキをかけて、必死で反対方向に向きを変えて逃げていく。 

『よし、そのまま両側に撃ち込んで獲物を追い込むんだ』 

 

 そうやって獲物を追い込んでいくと石積みと崖に囲まれた小さな広場が現れる。

 その入り口から両脇に扇状の石積が伸びている、鹿やオオカミであれば飛び越えられるがこのおおきな魔獣には飛び越えられないくらいの高さである。

 その石積みに向かって追い込んでいくとそれに沿って獣は移動していき、広場に追い込まれる。

 入り口にある大きな柵を閉めれば獲物は中から出られなくなって捕らえられるのだ。

 行き止まりに追い込んだ獲物がこちらを向いてうろうろしている間にマウラーが閉じた柵をロープで縛りつけている。これでこいつらは逃げられない。

 

「やれやれうまくいったな」

「ヒロも逃した獲物を魔法を使ってうまく誘導したようだな、良かった、良かった」

 まあOVISの力だからあまり自慢にはならない、それでも3人で捕らえた獲物としては破格の大物だった。

「この囲いは誰が作ったんですか?」

「狩人組合だ、これを使用した猟は組合に獲物を下す時に使用料を取られる」

「大型魔獣だと魔法を使って柵を壊して逃げるからこれは使えないが、こういった大型の草食魔獣はこの方法で捕まえるんだ」

 結局ジャンプ力の大きな獣や策を抜ける小型の獲物は槍で狩らざるを得ないのだ。

 

『獅子の咆哮』の様な規模のチームはこういった狩猟方法が主流の様である。

「それじゃ俺はひとっ走り街まで行ってくるよ」

 ケストルが街まで走って行って馬車を借りて来ると言う、獲物を生きたまま運ぶらしい。

 こういった囲いは森には何か所か作られているそうで、街までの道も整備されていて馬車で獲物を運べるようになっている。 

「こいつは比較的おとなしいからな、殺さなくても運べるだろう」

 獣は新鮮なうちに解体したいから出来るだけ生きたまま運んだ方がいい、生きた獲物は繁殖用に売ることも出来るからだ。

 そういった調整は全て狩人組合が手配してくれるそうだ。組合の体制とはそういった物らしい。決して数年の経験で作られた組織では無いのだろう。

 

 考えて見れば何世紀もの間星間戦争を続けてきた人類はその為だけの社会を作ってしまった。

 国民は飢えながら、戦争をする為の兵器が生産され、それを使う兵士の95%以上が死ぬ社会である。こんな生活をしていると、その馬鹿馬鹿しさを思い知らされる。

 ここでは自分の力と考えで生きていく事が出来る、あるいは生きなくてはならない。

 長い間軍隊でしか自分の生き方を考えてこなかったヒロに取って、それは良い事なのだろうか?悪い事なのだろうか?

 

「まああいつが帰ってくるまでゆっくりしているさ」

 マウラーは柵の前にどっかりと座ると荷物から昼食を引っ張り出した。

 獲物は広場の中で草を食っている。これからどうなるかも知らずに呑気なものである。

 結局ヒロたちもこの囲いの中の獲物でしか無かったんだなと思う。周囲の状況が見えずに言われたまま戦場に赴かざるを得なかった自分のこれまでに思いをはせるのだ。

 ヒロも荷物の中から干し肉を出して口に含む。

 固い肉を口に含んだまま上空を見上げる。樹海の深部と違いこの辺は木がまばらで空が広い。

 

「今日は青空で天気がいいな」

 軍の訓練所では空を見る事もなかった、ただ振るい落とされない様に必死で訓練に励んでいたが、最後には兵士になることが目的化してしまい、何のために生きているのかという事は忘却の彼方に飛んでいった。

 全てから解放された今、自分は何をして生きていくのかという事を考えざるを得なかった。

 ぼやっとしながら空を見ていると何かが飛んでいるのが見える。よく見ると竜であった。竜は足に獲物を抱えているが形がおかしい、四角い箱の様に見えたからだ。

 

「マウラー、あれは何を持っているのだ?」

「ああ、あれは運送箱だ、隣町まで荷物を運んで行くんだよ」

「竜が仕事をしているのか?」 

 大型魔獣を退治してくれる竜人は街の守り神なのでどこの領主も狩人ギルドで世話をしている。竜は毎日大型魔獣の狩りをしていると思っていたヒロはその話を聞いて驚いた。  

 なんでも狩りをして飯を食った後は、昼寝ばかりしている亭主の事を怒った竜の女房が発案したらしい。週に何度か隣街までの長距離運送を請け負っているそうである。

 午前中にギルドの前の広場から竜人様が荷物を担いで出発をして行き、向こうの荷物を担いで昼過ぎ頃には戻って来るらしい。

 

「向こうで昼飯を食って来るからその日はカミさんが狩りをやるみたいだ」

 朝早く猟に出かけるヒロはそんな事が行われているとは思いもよらなかったのだ。

「だから夕方まで広場で昼寝をしているのか」

 夫婦共稼ぎだそうで…なかなか竜人達も大変な様だな、午前10時頃には街の広場から出発するらしい、一度見に行ってみるかな?

 やがて御者と共に馬車を連れて戻ってきたケストル達と獲物を荷台に追い込む。

「今日は思った以上の大物狩りが出来たから明日は休みにしよう」

 マウラーがホクホク顔で言った。収納を使うことなく大物を狩れたことを喜んでいるのだろう。

  

 丁度良い明日は竜人の出発を見に行ってみる事にしよう。

 


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