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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第八章 決戦の大地
215/221

龍神教の祈り

8ー016

  

――龍神教の祈り――

 

『なんだ?あの戦艦の動きは?こちらのタイミングを完全に読み切っているではないか』

『お主の心が揺れているのが良く伝わってくる。出来うる限り接近して攻撃したのであろうが残念だったな。それより後ろを取られたぞ、どうするつもりだ?』

『ふん、問題ない。この程度の想定はしてある』

 ダイガンドは自らの体についていた砲塔の一つを切り離すと後方に放り出した。

 

  *  *  *

 

 戦艦とダイガンドがすれ違う刹那、地上における戦闘は一瞬停止した。そこにいる全員が上空で起きている戦闘に気を取られていたからだ。

 双方が交差する刹那、その周囲の空間が虹色に染まりいくつもの稲妻が光り、ダイガンドの吠え声が響く。

 

「オオオオオオオオオ〜〜〜ッ!」

 

 皆が見上げる中、戦艦とダイガンドはゆっくりとすれ違う。その周囲を龍神と同じ速度で先行するグレイの巨人は手を出さない。まるで一騎打ちを見守る家臣のようだと考えるものもいた。

 そして空から大音響が降ってきた。

 

「ドドドッ!」「ガラガラガラ!」「ズガーン!」

 

 衝突から遅れて大音響が地上に届く。耳の鋭い兔人族は慌てて耳を塞いだ。

 その瞬間を見逃すことなく、狼人族兵士は機関砲台に向かって盲滅法に魔法を撃ち込んだ。

 炎弾フィア衝撃波バルンガカマイタチが入り乱れて砲台に降り注ぐ。

「うわわわっ!」「ぐわああっ!」

 土嚢が飛び散り、砲台が跳ね上がり、兵士が吹き飛ばされる。

 

「今だ!飛び出して砲台を占拠しろ!」

 狼人族兵士は槍を持ってきてはいなかった。狭い土嚢に囲まれた陣地において槍は邪魔でしか無いことを短い時間に学び取ったからだ。

 自らの肉体から魔法による攻撃が出来る以上戦闘において武器は必要なく、接近戦で最も有効なのは己の拳であった。

 ものすごい勢いで砲台に飛び込むと手当たり次第に相手をぶん殴る。砲台にいた兵士の多くは一般兵コモンであり僧兵はいない。

 人間並みの大きさの一般兵が狼人族の兵隊に勝てる道理はなかった。

 

「うおおおお〜〜っ!」

「ボカッ!」「ズカッ!」「バカッ!」

「ひえええ〜〜っ!」「うわああ〜〜っ!」「ありぇぇぇ~~っ」

 長銃を打とうとしたものの、狭く銃を引っかけたり、もたつく者が出る。あっという間に間合いを詰められ、パンチを打ち込まれると吹っ飛んでいく。

 

「このやろう〜っ!」

 敵の襲来に気づいた一般兵コモンの兵士はとっさに握ったシャベルで反撃をする。

 砲台を作る際に使用したシャベルであった。銃よりはるかに短くて動かしやすい。

 飛び込んできた狼人族の鼻面を思いっきりひっぱたいた。

 

「ぐわああっ!」

 死ぬほどのインパクトは無いが、鼻面は急所であり死ぬほど痛いので、顔を抑えて悶えまくる。銃より遥かに短いシャベルの攻撃力に、やった本人の方が驚いた。

 ためらうことなくシャベルを引き付けると先端を相手の胴体に向けて突き出す。硬い地面に突き刺す為のシャベルである。鳩尾みぞおちを突かれた狼人族は悶絶する。

 止めに倒れた男に首筋に向かってシャベルを突っ込もうと思った刹那、その後ろから飛び込んできた狼人族のパンチにふっ飛ばされて気を失ってしまった。

 

「お前ら何をやってんだ!」

「い、いや。飛び込んだ途端に殴られた」

「兔人族の一般兵コモンだぞ、そんな奴にスコップで殴られたくらいで怯んでどうする!」

「痛えものは痛えよ!」

 真っ赤になった鼻を押さえて涙を流す。鼻面は急所ではあるが、打たれると痛いだけではなく涙が出てくるのだ。

 

「魔獣は命がけで抵抗するぞ、そんな甘い考えで生き延びられるか!」

 そう言いながらも、伸びている兔人族兵士のところに行きシャベルを拾うと、それを少し振り回してみる。 

「こんな物でも殴られれば痛いのか。白兵戦には槍よりは使い勝手がいいのかもしれんな」ポツリとつぶやいた。

 

 いずれにせよ正面突破は出来た。残るのは神殿総本山までの道路の両脇に隠れた敵砲台を次々に潰していく作業だけだ。

 しかし、それも戦艦がダイガンドを倒せたときの話だ。ダイガンドが滅ぼされれば兔人族達は精神的支柱を失い程なく降伏するだろう。

 逆の場合は、おそらくあのグレイの巨人によって狼人族は壊滅的被害を受ける事になる。その場合の最大の戦犯はゾンダレスである。

 

 そのゾンダレスは己の運命を掛けたダイガンドと戦艦の一騎打ちを、神に祈る思いで地上から眺めていた。

 

  *  *  *

 

 神に祈る思いでダイガンドの戦闘を見ている者がここにもいる。実際にはダイガンドが神であり、その神に対して祈りをささげていたのだ。

 

「龍神ダイガンド様が上昇を始めました」

 大聖堂地下にある退避壕の中に有る瞑想室ウタキで上空での戦闘を見守っていた神殿長が声を上げる。

 

「なぜだ?なぜこんなことになった」

 その様子を見ていた教皇もうめき声を上げる。

 龍神が遂に龍の巣から動き出し、その体を浮かせて飛行を始めたのだ。その護衛をするようにグレイの巨人たちが上空に飛び上がっていく。

 口にせずとも教皇の頭脳には上空から天上神ヘイブによって観察された状況が送られてくる。

 

 彼らに与えられる情報は、成層圏に配されたドローンの映像を、衛星軌道上にいる管理頭脳エヌミーズの乗る宇宙船から、機械的に配信されているものだけなのだ。

 管理頭脳エヌミーズはなんの作為も脚色もせずに望む情報を与えてくれる。

 台地に住む巫女達にはこのシステムを理解は出来ていない。彼らはそこまでの科学技術的な知識を有してはおらず、ただそこに示された結果だけを無批判に受け入れるだけである。

 

「龍神様は外界の敵を滅すると言われ、グレイの巨人の半数以上を送り出されたというのに、敵は何の被害も受けずにマリエンタールに侵攻してきているというのか?」

 大陸外延部での戦艦による翼竜ヴリトラの大量虐殺の様子は、天上神ヘイブを介して大神殿でも見ることが出来た。

 

「教皇様、巨人たちが龍神様の護衛の任を果たしておりません。何者かによる妨害ではないかと考えられます」

「あの船に乗っている者がそれを行っているとでも言うのか?」

 マリエンタールは固定都市ベルファムであるがために巫女による台地運行システムはなく、教皇が教皇である理由はむしろ政治的な権力闘争に勝利しただけの者であったからだ。

 

 それ故に、教皇は加齢による感能者フェビリティとしての能力の低下にもかかわらず自らの地位を維持していた。それはダイガンドに従順でさえあれば、その威光によって自らの地位は保証されていると信じていたからだ。

 実際のところは既に能力的に言えば神殿長の方が高いのであるが、お互いがお互いの権力基盤維持のためにそれを利用しているに過ぎなかった。

 

「龍神様がいなくなれば台地ダリルの運行システムは壊滅するぞ。そうなればこの大陸の最後じゃ、あの連中はなぜそれがわからんのだ?」

 自らに都合の良い状況のみを最良の判断基準としか出来ない人間の、偏狭な価値観である。全世界的な正しさなどが存在するはずもない。 

 教皇自身は以前から龍神ダイガンドの行動のおかしさには気が付いていた。各台地に対して巫女、神官候補の追放や殺害を指示していることを教皇は知っていたからだ。

 本来であれば、台地ダリルの運行システムを維持する上において、優秀な感能者フェビリティを排除するなどということは考え難いことであった。

 それにもかかわらず、教皇はそのことに目をつぶり、自らの権力維持に全力を傾けていたのである。

 

「竜人が現れてから全てが狂ってしまった。あの偽者が、竜人をカタリおって己が姿を見たことが無いのか?」

 教皇にしてみればこう言いたくなるのも無理はない。神殿に伝わる竜人の姿とは似ても似つかぬ饅頭まんじゅう竜が、巫女のエンルーを助けたのが発端であった。

 コタロウにしてみればひどい言いがかりである。竜人の生態からすればまだ4歳児なのだ。多少ぷくぷくしていて可愛い年頃なのである。

 

 その後、かつて台地ダリルが追放した巫女たちを連れて、マリエンタールに現れたのは教皇に対する宣戦布告なのだろう。

 あれらを追放したのは台地の神殿ではあるが、龍神教を統べる我が総本山に現れたのは、間違いなく教団と対決する覚悟を持っての事であろう。

 どこで手に入れたかはしらぬが、マリエンタールの巨人と同じものを操って龍神の巣を襲ったのだ、許せる所作ではない。そればかりか空を飛ぶ船まで操って龍神様を脅かしている。

 

天上神ヘイブが、我らと龍神様を見捨てようとしているのか?これまで大陸は台地ダリルのシステムによって平穏に、豊かな実りを施していたではないか。それのどこが悪いというのだ」

 巫女システムに突出した能力者は少数でよい、多くの平凡な能力者によって台地ダリルは運行されるのだ。 

 万民の平和と幸せのためには、龍神様に匹敵する能力者など必要はない。それが教皇が自らの保身の為にする考え方であった。

 ところがあの幼き巫女は、龍神様の眼前で巨人の行動を妨害できる強力な交感フェビル能力を持っている。そればかりか教皇、神殿長をしのぐ能力者が黒い巨人や戦艦を操っている。

 

 龍神ダイガンド様が恐れるのも無理からぬことなのだろう。台地の神殿に命じて放逐させたのはその様な芽を摘み取るためであったのだ。

 ところが、どのように手に入れたのかは知らぬが、あのように強力な空を飛ぶ船を入手し、あまつさえ巨人の偽者まで使役している。

 マリエンタールの女神ですらあれだけの工業製品を作れるのだ、天上神ヘイブが作れぬ道理などあるはずもない。

 ルドルス城塞都市の狼人族の兵士たちが、持ちえない爆薬を使って龍の巣の機械を破壊した。それによって天のいかづちを防ぐ掩体壕が天から投げつけられた石によって破壊されてしまったのだ。

 

「龍神様があのような金属竜メタルドラゴンまで用意されているとは思わなかった。よほどあの空飛ぶ船を恐れての事なのだろう。だが、その怪物ですら天上神ヘイブの業火で焼かれてしまった。よもや龍神様が天上神ヘイブから見捨てられる時が来るとは?」

 自分のやってきたことの一体何が悪かったのか?それを理解することはできない教皇であった。

 最後の砦である龍神様が空飛ぶ船に勝つことだけが、自分が生き残る道である。

 

「竜人が連れてきた空を飛ぶ戦艦だというのか?こざかしい。龍神様の光の魔法から逃げ回っているだけではないか」

 己の運命を掛けた龍神と戦艦の一騎打ちを、瞑想室ウタキの中で龍神様に祈りながら眺めていた。


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