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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第八章 決戦の大地
214/221

交差砲撃戦

8ー015


――交差砲撃戦――

 

 グレイの巨人も瘤翼竜ギガンドーグも龍神ダイガンドにとっては大切な子供たちである。

 

 しかし普通の管理頭脳エネミーズと異なり、龍神ダイガンドは彼らの死によって動作不良を起こすことはない。

 瘤翼竜ギガンドーグはその大きさに育つまで500年を要する。一方グレイの巨人は工業製品であり管理基地での量産も可能であった。

 それ故に龍神は、巨人よりは翼竜を大事にしていたのだ。

 

 ランダロールに駐留していた戦艦に対し、ルドルス城塞都市爆撃を邪魔されないように翼竜ヴリトラによる大陸侵攻作戦を行ったが、予想以上に戦艦は強力であった。

 多くの翼竜ヴリトラとグレイの巨人の犠牲を出してしまい、大陸に対するけん制どころではなくなってしまった。

 やむなく完全自立型攻撃兵器である金属竜メタルドラゴンを送ったが、よもやそれまで撃破されることになろうとは予想もしていなかった。

 

 脆弱な存在でしか無かったエルメロス大陸の管理頭脳エネミーズである。

 セオデリウムから大陸を守るために人工的に嵐を作って閉じこもっていた。そんな連中にここまで追い詰められることになるとは。

 彼らは本来、自らが管理する土地に住む現生種族の生存を確保するための存在だ。無論龍神もまた彼らと同じ存在であった。

 

 ところが同胞や現生種族の犠牲すら厭わない、狂気に染まった頭脳がそこには存在していたのだ。

 その事をダイガンド自身は否定をしない。翼竜全体の生存性を最優先とした自らの生き方というのは、現生種族全体の生存を優先させた管理頭脳エネミーズと変わるところは無い。

 多数の生存の為に少数を切り捨てる事のできる、自らの動作不良すら厭わない強い意志の管理頭脳エネミーズだ。

 

 グレイの巨人に守られた龍神は巣から上昇を始め、降下中の戦艦と対峙してお互いに距離を詰めている。

 しかし龍神は上昇を行っているのに対し戦艦は降下中であり、下にいる目標に向けて主砲を撃てば地上に大きな被害を及ぼす事は自明である。

 エルメロス大陸の管理頭脳エネミーズにそれだけの狂気は無いだろう、それ故に戦艦側としてはダイガンドとすれ違うまで発砲は出来ない。

 しかし位置が入れ替わった後でも龍神ダイガンドには地上の被害を物ともせずに攻撃が出来る。その程度の狂気には十分に染まっているのだ。

 

 正面攻撃でお互いに光弾フェルガを撃ち合うヘッド・オンの軌道である。射線を避けたグレイの巨人は龍神を中心に散開して戦艦に向かってくる。

 

「先行している巨人の動きを止められんか?荷電粒子砲は空気中での射程は短いが接近されれば物理的な被害もありうるぞ」

 艦橋にセイラムの声が響く。いや、それ以上に接近戦で荷電粒子砲でシールドを破られれば、グレイの巨人の体当たり攻撃もありえる。戦艦の本体そのものはそれほど強固には作られてはいない。

「シリア殿!どうじゃ、奴らを止められるか?」

「龍神が近いせいで難しいですが、やっております。エンルーさん頑張りますよ」

「はい、おばさま!」


 瞑想ウタキの中で目標を定めると侵入を開始する。脳を乗っ取られたグレイの巨人は連結を解いて降下を始める。

『成功よ、エンルーさん。次はその右の組に行くわよ』

 龍神の交感フェビル能力は、生物である翼竜と合体したことにより大幅に強力になっておりエンルー達に強いフィールドバックを送ってきていた。

 

『やはり龍神が近いと乗っ取るのにも随分抵抗が有りますね』

『この程度のこと!道を誤った龍神様を取り戻すためなら』

 龍神に道を示せばまた人々を守ってくれると信じている、純粋な少女の心である。龍神を滅した後、どうやってこの娘の心を癒そうかと悩むシリアである。

 

 ケムランはあの戦艦に、かつての兄弟であるセイラムの存在を感じていた。おそらく搭載されているのだろう、彼もまた命を懸けているということだ。

 自らが翼竜に取り込まれた時に、それと気がついたセイラムはその事に対処するより瘤翼竜ギガンドーグを使って逃げ出すことを選択した事を知った。

 今度は逃げることなく、この龍神ダイガンドとの一騎打ちに挑もうというのか?それにつきあわされる原住民は気の毒なことだ。

 

「そろそろ荷電粒子砲の射程に入る!シールドに穴を開けられる。グレイの巨人の排除を急いでくれ」

「慌ててはいけません。エンルーさん、順番に落としていきますよ。まずは左端から」

 グレイの巨人が龍神との距離より戦艦に近づくと急速に龍神の影響力が落ちる。

「意外です、龍神様がこんなに近いのに簡単に巨人の意識を掴めます」

 エンルーとシリアの能力が十分に龍神を凌駕しているということだ。ふたりが行う交感フェビルによって、一組、また一組と巨人の意識は刈り取られていく。

 

 龍神はこちらに向かってくる戦艦に強力な巫女達の存在を感じた。

 台地から放逐してきた高いレベルの感能者フェビリティ達を、天上神ヘイブが長い時間をかけて保護してきたのだ。

 大地の狼人族はその巫女達を大切に扱い育んできたおかげで、放逐された巫女によって教育された2代目、3代目の巫女はどんどん強力になっていった。

  

 元々狼人族にも存在していた感能者フェビリティ達は、いまや台地に匹敵する巫女システムを獲得していたのだ。

 それを推進していたのが、エルメロス大陸の狂った管理頭脳エネミーズだ。しかしそいつは戦艦には乗っていない。

 だが、今後のためにもこの強力な巫女達をセイラム共々消滅させなくてはならない。

 

 ダイガンドはゆっくりと口を開けるとその中に光る粒子が’集まっていく。

「龍神め口を開けたぞ、ヘル・ファイアを撃つつもりだ」

 降下中の戦艦を地上から狙い撃ちした兵器だ。命中精度は非常に高いのだろうが果たして避けきれるのか?

 

「なんじゃありゃあ!あの翼竜、ヘル・ファイアを撃つつもりなんか~?」

「あらあら、いけませんわね~、私もシールドを張っておきましょうね~」

 戦艦の内側でシールドの重ね掛けを行うお母さん。やはりいつでもどこでも頼りになる。

 

「妾が回避を行う。お前たちを死なせてなるものか!竜人殿しっかり捕まっておれよ」

「え?なんか言った?」

「お父さん、頭を下げてしっかり捕まるのよ!」

 何を勘違いしたのか?お父さんはお母さんにガバッと抱きついた。その瞬間に龍神の口から巨大な光の塊が吐き出された。

 直前にタイミングを計った様に戦艦が横にスライドしかろうじて光をかわすが、光線がかすめた戦艦のシールドは全体が光を発した。

 

「うわわわっ、なんちゅう威力なんじゃ!」

 輻射熱で体を焙られるお父さん、少し背中が焦げている。

「あらあら、お父さん、私をかばってくださったのね?」

 お父さんの心意気に感動するお母さん、何に捕まるのかとっさに判断できなかったお父さんは、手近にあったお母さんにしがみ付いただけだったのだが。

 誤解されたと感じたお父さんは、とりあえず家庭円満のために余計なことは言わない事にした。

 

「セイラム殿、お主が戦艦を動かしたのか?」

「そうじゃ、お主らの判断では動きに遅れが生じる。あの攻撃は光の速度で伝わるからな」

 実際には瞑想ウタキを行っている兎人族のシリアとエンルーに同期させていただけである。彼らの持つ本能的危機回避能力を、そのまま戦艦で動作させたのだ。

 無論、あらかじめ戦艦に合わせて調整はしておいた。戦術上このような事態になることは十分に予想されていたからだ。

 

「シリア殿、次の発射の兆候はあるのか?」

「流石の龍神とて、ヘル・ファイアの次発発射にはそれなりの時間がかかるようですわね」

 ダイガンドはまっすぐ戦艦に向かって飛んでくる。背中にあるいくつもの砲台が戦艦に集中攻撃を行う。幸いにも戦艦の強固なシールドは砲台の攻撃を弾く。

 

「ひやあああ〜っ!なんちゅう事さらすんじゃ、このデカブツが!」

 集中攻撃を受ける船首のお父さん達はえらい迷惑である。しかしお母さんの張ったシールドの2重がけで攻撃は全く届いていない。

「やっぱり随分大きな翼竜さんですね~、お父さんが落とした翼竜より何倍も大きいですよ〜」

 全く動じない竜のお母さん、戦艦より大きな龍神の顔を見ても面白そうに眺めている。すぐに頭に血が上るお父さんと違い冷静そのもの、いや無関心なのかな?

 

 すれ違う刹那ダイガンドはジロリと’戦艦の方をにらむ。船内モニターでそれを見たエンルーが悲鳴を上げる。 

「エンルーさん、心を乱してはいけません。あなたはそれだけの修業をしてきたはずです」

「申し訳ありませんシリアおば様」

 シリアの注意を受けたエンルーはすぐに瞑想ウタキに潜っていく。

 すれ違う翼竜は砲台から戦艦に向けて集中砲火を浴びせるが、戦艦も負けずに副砲で反撃を行う。

 シールドが接する程の距離の砲撃戦であり、両者の真ん中では激しい火花が散らされている。 

 

「か、母さんや。こんなに撃たれて大丈夫なんじゃろうか?」

「大丈夫ですよ〜、お父さんが守って下さいますから。危なくなったら逃げれば良いんですよ」

 結局お母さんは、如何なる状況でも生き残る自信が有るのだろう。どんな修羅場をくぐってきたのか、非常に興味のある所ではある。

 

 しかし流石に集中砲火を浴びた戦艦はシールドが破られ、何発かの命中弾を受けて激しい衝撃が船体を襲う。

『船体中央部、居住区に被弾。現在被害を調査中』艦載頭脳コンピューターの声が聞こえる。

 

「な、なんじゃああっ!あの怪物の武器はこんなに数が有ったのか〜?」

 初めての被弾に動揺するガーフィー。無理もない、一介の狩人に軍人の経験などあるわけがない。

「慌てるな、被害は些少じゃ、寝床のいくつかが無くなっただけじゃ、問題は無い」

 ガルガスは負けじと副砲でダイガンドを狙い撃っている。自分の出来ることだけを確実に行っている分、ガルガスのほうがガーフィーよりも冷静であった。

 艦橋のいくつかのモニターが消える。もっともガーフィー以外は瞑想ウタキで物を見ているのであまり支障がない。

 

「被害はあるか?怪我をしたものは?」

 警報が鳴り、光が明滅する艦橋でガーフィーが叫ぶ。

「大丈夫じゃ、慌てるな。お互いにシールドを擦り合わせての接近戦じゃったが被害は少ない。少しはエンルー達を見習わんか」

 接触時の振動と騒音にも関わらず、シリアとエンルーは深く瞑想ウタキに入り込み動揺する素振りもない。

 両者はお互いに副砲を撃ち合いながらのすれ違いあった。今度は戦艦が下になり、上空に向けての主砲発射が可能となる。

 

 一方で戦艦の腹に穴が空き煙が出ている。居住区画で火災が起きているようだ。

『居住区での火災は現在鎮火中、動力区画、シールド装置異常なし。戦闘は続行可能、ただし厨房に被害、今夜の食事は作れないでしょう』

 艦載頭脳コンピューターにとっては生活装置の被害の方が重要事項の様である。

 

「よし、ダイガンドが後ろを向いた、今のうちに主砲を撃つぞ!」

「慌てるな、回頭せねば主砲は撃てやせん!」

「むうっ?どうやら決定的な攻撃はお互いに頭にある砲撃だけのようじゃな。そうであればダイガンドよりこちらのほうが早く回頭できるじゃろう」

 

 戦艦は全長100メートル、ダイガンドは全長が1500メートルである。どちらが小回りが効くかは言うまでもなかった。


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