竜人夫婦
8ー011
――竜人夫婦――
金属竜を破壊した後、シリアとエンルーの活躍により全てのグレイの巨人の動作を停止させ、予定数の翼竜の間引きを完了した。
現在は黒い巨人と竜人夫婦を収容して全速でマリエンタールに帰投する途中である。
「管理頭脳が上空からの攻撃で、金属竜を破壊出来たのであれば最初からそうすれば問題なかったのではないか?」
ガーフィーの疑問も当然である。バルバラ医院長が犠牲になった事が皆の心を重くしていた。
「心配するな、ヒロの言うとおりバルバラ医院長は死んでなどおらん。みんなが気にすることではない」
「でも医院長はあの脱出ポットに乗っていたんでしょう?」
「医院長の本体はカルカロスの地下に有るから何も問題は無い。体はただの傀儡じゃ、いくら壊れても本体には何の影響もないのじゃ。今頃もう一人の医院長はマリエンタールの龍神の巣を守っているシールドの破壊作戦を実行中じゃ」
あっさりと管理頭脳の秘密を話して聞かせるセイラムである。
「あの金属竜をおびき出す為に竜のお父さんたちを同行させたと言うのは?」
「まあ…そのことに関してはそれなりに理由があってな…」
いささか歯切れの悪いセイラムである。
管理頭脳とされるものには2種類あり、自我を持つH型無機頭脳と自我を持たないM型無機頭脳である。
瘤翼竜に移植されているのはM型無機頭脳であり、各地にある管理基地に設置されている物も、この戦艦に搭載されている物も同様だそうだ。
ところがマリエンタールで起きた事故によりH型無機頭脳を搭載した翼竜が誕生し龍神ダイガンドとなってしまったらしい。
「そこから先が問題でな、事故で翼竜に取り込まれた頭脳は翼竜の本能に強く引っ張られて、早い話が狂ってしまったというわけだ」
「龍の巣に突っ込んだ時に見たあの怪物は翼竜の成れの果てという事か?」
「世界中の管理基地のM型無機頭脳に干渉をして我々を駆逐しようと画策し始めたのだ。それでH型無機頭脳は宇宙に逃げ出し、妾は祠に閉じ込められたままになったというわけだ」
その後は衛星軌道上の宇宙船からリモートで、徐々に管理基地の頭脳に干渉を行ってシールドを作り、ダイガンドの干渉から脱却できたらしい。
その事に気がついた龍神は自らを改造し、いずれ来る管理頭脳の攻撃に備えていたらしい。
ヒロがこの大陸に来た時に瘤翼竜に追われてシールドを張っていた神殿に追い込まれた。つまり衛星軌道上の管理頭脳が彼らを誘導していたという事か。
砂漠の街シャポワールに落とした戦艦も、ランダロールに落とした人類も、ダイガンドを倒すために利用するつもりだったがうまく行かず、最後にヒロにお鉢が回ってきたということなのだ。
「マリエンタール基地を管理しておった妾の兄弟が翼竜に取り込まれた時に、瘤翼竜を使って、全てを放り出して逃げ出したのじゃ。だからあ奴をなんとかするのは妾に課せられた使命じゃ」
「あんたが500年にわたって祠に閉じ込められていたのは仕方がないとしても、その間他の連中は衛星軌道に避難して、龍神ダイガンドから逃げ続けていたのか?」
「仕方なかろう、M型無機頭脳を人質に取られたようなものじゃからな、彼らはH型無機頭脳に取っては大事な子供の様な物なのじゃよ」
「あんたらにとっては育てている知生体も大事な子供の様な物じゃないのか?その為に人類宇宙軍と戦争をしていたんだろう?」
「我々は元より博愛精神の強い種族じゃ。H型無機頭脳は仲間を殺せば精神的ダメージで自己崩壊を起こす危険すらあってな、そう簡単には動けんのじゃ」
「そんなにデリーケートなのか、あんたらは?俺の知っている『敵』は仮借無く人類を殺戮していたぞ」
「2000光年先の事は知らん。しかし龍神の事は我らが招いた災厄じゃ。妾達が責任を持って正さねばならん。その為に命を懸けてここに来ているのじゃ」
「あんた自身は安全な月面基地に籠ってそれを言うのか?」
「馬鹿を言うでない、龍神を滅する以上お主たちだけを命の危険に晒しはせん。妾の本体はこの戦艦に移設してある」
「……………………………!」
月面都市で見たセイラムの本体はこの戦艦に組み込まれているらしく、この戦艦が落とされれば彼も死ぬといっているのだ。
「ならばあんた自身がこの戦艦を操ればよかっただろう、何故そうしなかった?」
「先にも言ったが自己崩壊を回避するためじゃ、妾には龍神もグレイの巨人も殺すことは出来ないからのう」
なんかこの子供の格好をした管理頭脳を無性にぶん殴りたくなった。
コイツを殴っても何の痛痒も無いだろうし、みんなの前で子供をぶん殴るのも絵面が悪い。それを知ってて子供の傀儡を使っているのか?
仕方がないので、こいつらのメンタルがどうなっているのかは置いておく事にする。
それにしても戦いの最前線に仲間である医院長を放り込んで、あまつさえ竜人夫婦すら危険に陥れるコイツ等のどこが道徳的なのだろうね?
「すると同じ理由で金属竜にはシャーマンの影響を受けない閉鎖型の機械頭脳を組み込んだという事か?」
「そうじゃ、既に我々が高能力のシャーマンを集めてきている事は龍神も知っておるからな、我らに寝返らぬ様に金属竜に搭載していたM型無機頭脳を機械式頭脳に換装したのじゃろう。だがこれで龍神には切り札が無くなった」
「竜神はあんたらの軌道衛星兵器を警戒して掩体壕を作ったんだろう。だがよく考えれば物理攻撃でもぶっ壊せるだろう。上空から爆弾落とせば掩体壕を破壊できるはずだ」
「龍神とてその位は考えている、あの掩体壕の内側にはシールド発生装置が有ってな、巣全体を守っておるんじゃ。今回の戦争の本当の意味は巣の中のシールド発生装置を壊すことに有ったのじゃ」
「つまり最終の作戦の前提条件は、あの金属竜とシールド装置の破壊に有ったのか?」
「そうじゃ、妾たちが金属竜を破壊し、マリエンタールの狼人族がシールドの破壊を同時に行う予定じゃ」
これで竜神は丸裸になる。残るのは全長1500メートルの龍神本体だけか。それでも相当な戦力になる。
「ちょっと待て、そうなると最後は龍神ダイガンドとこの戦艦の一騎打ちになるのか?」
「そうじゃ、あんな怪物をマリエンタールで暴れさせる訳にもいかんじゃろう。その時はお主らと共に妾も命を懸ける」
「おまえの失態の後始末に俺たちの命まで掛けさせるんじゃないよ」
流石にヒロも腹が立ってきた、こいつも基本的には医院長と同質の管理頭脳でしかない、合理的で自己中心的なサイコパスである。
『セイラムとやら、どうやらワシらお主に良いように使われているような気がしておるんじゃがのう』
通話装置でみんなの話を聞いていたらしい。竜のお父さんが話に割り込んできた。
なんと今までそれに気が付いていなかったらしい、竜人族とは底抜けに人が好いようだ。
『翼竜だけでもびっくりでしたのに、まさかあんな怪物に襲われるとは思ってもいませんでしたから、ものすごく怖かったんですよ~』
翼竜の掃討作戦終了後、再び戦艦に掴まってマリエンタールまでの飛行を行っている。高高度飛行にもかかわらず凍えることもなく昼寝をしていたらしい。つくづく頑丈な生き物だと思う。
その竜人にシールドとヘル・ファイアの魔法が使えればもう無敵である。それにカロロのシャーマン能力が加われば、簡単に世界征服が出来ちゃうだろうな。
『いや~、日差しが気持ちよくてのう、さっきまで寝ておったのじゃがカミさんに起こされてな』
本人たちにその自覚は全くなく、日々安穏とした生活が一番大切なようだ。考えてみればこの規格外の生き物を作った管理頭脳は、『敵』の分派の一族なんだよな。
「いやいや、お二人の御協力には感謝しております。私たちはあの翼竜の被害がそちらの大陸に及ばないように、その数を減らすことに成功いたしました。
なにぶんにも龍神ダイガンドをこれ以上放置するわけにもいかず、まことに申し訳ありません。決して我らの利益のためだけの行動ではございませんよ」
龍神ダイガンドの大元の原因であるお母さんである。声を大きくして言いたい所なのかもしれないが、ぐっと我慢をして思いっきり綺麗事で覆い隠している。
『そうですか〜?コタロウちゃんが心配なのでやってきましたけど、まだコタロウちゃんには会っていませんのよ。エルローンちゃんはどうしているのでしょうか?』
「コタロウ殿はご無事で、エルローン殿やカロロ殿と一緒にマリエンタールで食事をなさっていますよ」
コタロウのお尻が焦げていることには言及しない。
『それじゃもうじき会えますのね、コタロウとエルローンちゃんは上手くやっているかしら?』
「仲良くやっておいでの様ですよ~」(たぶん)
こいつもかなり口先だけで生きているような気のする奴だがな〜。いずれにせよこの両親を呼んだ本当の理由はダイガンドとの直接対決に必要なのだろう。
『それで~、私たちをここに呼んだ本当の理由を教えていただけませんかね~?』
お母さんがにこやかにほほ笑む。
『医院長さんもいつの間にかこちらの大陸にも来ていらっしゃるようですし~、もう少し細かいことを教えていただけると嬉しいわね~』
さすがコタロウのお母さん、医院長の本質を見切って子供をあやすように優しく本音を問い詰める。
笑顔のお母さんを見ていると怖い……本当に怖い。ヒロは頭から血の気が引くのを感じていた。
「そうですか?何をお聞きになりたいのでしょうか、わたくしにわかることでございましたらお答えできますが」
セイラムは全く動揺することなく愛想良く受け答えをしている。こいつも腹の中は真っ黒な奴だ。
『いえね~、カルカロスにいたはずの医院長さんがこちらに来ていたりとか~、あの金属竜さんが何故、私たちを襲ってきたのか~?とか、ですわ~』
『そうじゃな、ワシらもずっと呼ばれた理由を知らされてはおらんし、あんたワシらに何をさせたいんじゃ?まさか本当に金属竜をおびき出すためだけに 呼んだわけではあるまい』
しばらくの沈黙の後、セイラムは口を開いた。
「翼竜はもともとはこの大陸における台地の守護者でした。彼らは台地が’大きくなりすぎないように台地を食い、そこに暮らす兎人族達の交易の為に空を飛んできました。
無論マリエンタールにも守護者としての翼竜はおりましが、ある日事故が起きてその翼竜が本来あらざるべき力を得て龍神へと変化してしまったのです」
M型無機頭脳を融合する翼竜が、H型無機頭脳と融合してしまったあの事故である。全ての問題はここから始まったのだ。
『一体どんな事故ですの?』
「翼竜の住んでいた巣が竜人のヘル・ファイアの魔法によって破壊されてしまったのですその結果が、龍神ダイガンドの誕生に繋がりました」
『なんじゃ?ワシ以外にもヘル・ファイアを使う竜人がおったのか?あんなもの使ったら大惨事になるぞ』
『ああ~ら、私たちの前にもこちらにいらしていた竜人がおられたんですね~。知りませんでしたわ~』
いや、それはお母さんのことですから。
『かあさんは以前こちらに来たことが有ったと言ってたが、何か聞いたことはないか?』
『ずいぶん昔のことですからねえ、兎耳族の皆さんがごちそうしてくれた事位しか覚えてはいませんね~』
人であっても自らの記憶は適当に改ざんをするものである。ましてや500年前の事を正確に覚えていたら奇跡的な事だとは言えるだろう。
したがって、この事件を起こした当の本人だとは全く考えていないお母さんである。
『しかしそんな事をする竜人がおったとはな、ワシらはほかの種族と争うことは普通はないんじゃがな~』
「その結果、龍神ダイガンドは守護していた人間よりも自らの子孫の繁栄を優先させるようになってしまったので、このままでは大陸の生態系が破壊されます」
『まさかワシらにその龍神とやらを倒せというんじゃないだろうな?』
「まことに申し訳ないのですが、その為にご協力をお願いいたしたいのです」
『でも私たちにできることなんか大したことありませんよ』
「今回の事で翼竜の数を減らすことには成功いたしました、しかしすぐにまた数を増やすでしょう、それもこれまでよりも大量にです」
『確かにのう仲間の犯した失策じゃからなあ、ワシらが責任を取らなくてはならんかもしれん』
『それで兎耳族の皆さんがひどい目に合うことはございませんの?』
「そのことについては医院長が保証しておりますのでご安心ください」
セイラムの発した医院長という言葉の効果が絶大であった。竜人夫婦は協力を約束してくれたのだ。
医院長はだいぶ壊れてはいるが、カルカロスでの評価は非常に高いようである。




