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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
21/221

魔獣狩り

1ー021

 

――魔獣狩り――

 

 獲物が突然こちらに方向を変えた事には驚かなかった。全く揺らぐこと無く落ち着いた気持ちで事態に対処ができる。

 OVIS戦闘における反射訓練はここでも遺憾なく発揮されたのだ。 

『撃て!』

 そう命じた途端に獲物の首が消し飛んで、血飛沫をまき散らしながらヒロの上を飛び越えて反対側に落ちた。首を無くした獲物はまだヒクヒク動いていて、無くなった首の根元から大量の血が流れ出ていた。

 

「大丈夫か?」

 マウラー達がヒロの方に走ってくる。

 ヒロは立ち上がり首が無くなって倒れている獲物を見ていた。生き物からこれ程の血が流れるとは思わなかった。 

 考えて見ると生きていた者が、死ぬ所を見たのは始めてだった事に気がつく。

 あの光の中で友軍の兵士たちも血を流したのだろうか?敵の血はどんな色をしていたのだろうか?死というものを体験して来なかった自分は、実は兵士としての本当の覚悟が有ったのだろうか?という事に思い至る。

 

「どうした?ヒロ怪我をしたのか?」

「…頭をやっちまったか?」

 そんな事を考えていたら、ケストルが残念そうな顔をしてこちらを見たので正気に戻った。 

「まずかった…のか?」

「ああ、この獲物は角がいい値段で売れたんだ」

 確かに立派な角が付いていた様だったが、今は頭ごと粉々になってしまっている。

 

「……すまない」

「いや、お前の方に逃がしてしまった俺たちのミスだ、逃げられるよりは良いだろう血抜きをして持って帰ろう」

「血抜き?」

「頭がなくなっちまったからな、血を流しながら運ぶ訳にもいかないからな」

 近くの木の枝に獲物の足を縛って吊るすと首から血が滴り落ちてくる。こうやって体内の血を抜くらしい。

 その間することもないのでマウラー達に話を聞いてみる。今回の獲物はバクシーと言う鹿の魔獣なのだそうだ、俺にはその知識が無いので魔獣と獣の区別はつかない。

 

 それにしても先ほど見た彼らの運動能力のすさまじさには舌を巻いた。あれほどのスピードで飛び出すことができるらしい。

 ふたりが特別なのではなく犬耳族の普通の特性らしい、単距離であれば獲物よりも早く走れるそうだからまるで獣だ。気づかれないように近寄って鋭いダッシュをかけて槍を突きこむのが一般的な狩りの手法だそうだ。

  

 それとは別にふたりとも飛び道具の魔法を使えるらしい。

 マウラーは風の魔法とかで、30メートル先の木の枝を衝撃波で折って見せてくれた。ケストルは腕に巻いている数本の竹筒の中に入れた鉄の玉を飛ばすことができるらしい。ウサギやキツネ等の小物の獣はこちらのほうを使うと言っていた。

 銃器や弓がなくともそれに代わる手段が有ると言う事のようだ。

 ところが今回のような大物の魔獣はそんなものでは死ぬことがないので、槍を突きとおさなくてはならない。

 今回の獲物も心臓を貫いていたらしいが、それでも即死する事なく俺の方に向かってきた。あのまま逃がすと魔獣は死ぬ事無く生き返ってしまうと言うから恐るべき生命力の持ち主なのだと言われた。

 

「出来れば毛皮はあまり傷つけたくは無い、価値が下がるからな」

 確かに変なところに傷が付けば毛皮として採れる面積が減ってしまう。それが狩りの基本らしい、獲物はあくまでも商品なのだ。

 

『今後は獲物は傷つけない武器を使用する事にする』

 機械を狂わす電気系の武器があったはずだ、あれなら殺さずに動きを止められるかも知れない。そっとOVISに指示する。

  

「なぜ俺たちより先に獲物の気配に気が付けたんだ?」

 犬耳族はほかの種族に比べて耳と鼻が利く、兎耳族を除けば獣の気配の察知能力は非常に高い種族なのだ。

 遠くの音を聞くために耳はこのような形をしているわけで、ヒロの耳の形ではそんなかすかな音が聞こえるとも思えなかったと言っていた。 

…まあヒロが聞きつけた訳ではなくOVISのセンサーがキャッチしたに過ぎないのだが。

 

 魔法のセンサーを張りながら移動していたと彼らには説明する。するとどうやるのか教えてくれと言われた。

 そう言われても困るので、生まれた時から何となく使っていたので、やり方はわからないと答えておいた。

 納得はしたかどうかは知らないがあまり強く詮索はしてこなかった。まあ猟師の間でもお互いの手の内を見せあうことはあまりしないらしく、それ以上の話にはならなかった。 

…魔法とは結構そんな物なのかもしれない。

 

 実際に狩りを行ってみてわかったのは、相当に地味で根気のいる仕事だという事だ。

 彼らは狩りの基本は発見して、追跡して、潜伏して、仕留める事だと教えてくれた。森の中では数百メートル離れれば全く獲物に気付くことができない。それ故に新しい獲物の痕跡を発見し、その獲物を追い詰めていかなくてはならないそうだ。

 あまり大きな獲物では運ぶこともできないので狩るだけ無駄らしい。 

 今回の獲物もふたりでは多少厳しい大きさの獲物らしいが、3人なので特に問題は無いと判断したのだそうだ。こういった場合は内臓を抜いた獲物の足を木に括り付け、ふたりで休みながら担いで道まで運んで行くそうである。

 そう考えると先日の大型魔獣は竜に運んでもらえたが、そうでなければあんなものは狩っても運ぶことができない。

 

『警告、大きな獣がこちらに向かってきています』

『方角は?』

『9時の方向です』

 どうやらもう一つの反応の方らしい、こちらの気配に気が付いて逃げたと思っていたが。

 

「どうした?ヒロ」

「大きな獣…近い…こちら」

 獣の方向を指さすと、ふたりはすぐに風の方向を確認して吊るされている獲物を見た。

「そっちは風下か…血の匂いを嗅ぎつけられたかな?」

「魔獣の肉…狙う?」

「ああ、大型魔獣は魔獣の肉を食らって体を大きくする、人里近くでは俺たちが先に魔獣を狩っているのは大型魔獣の繁殖を抑える為でもあるんだ」

 

 ガサッ、ガサッと葉をこする音が聞こえる。ふたりは槍を握ると体を低くして獣の来る方向に向かう。

 木陰に隠れて見ていると先ほど狩った魔獣をさらに大きくしたような獣が現れる。鹿の仲間の様だが角は大きくねじ曲がり前に向かって飛び出している。鹿の持つ優雅さはかけらもなく盛り上がった肩の肉、太くたくましい足が見て取れる。

 あんな体つきでは速く走ることはできないだろう。

 

【木に登れ】

 マウラーがハンドゼスチャーで指示してくる。

【戦うのか?】

【手を出すな、隠れるんだ】

 コイツは吊るしてある俺たちの獲物を狙っているらしい。鼻をヒクヒクさせながら獲物の方に向かっていく。見た限り1トン以上はあるような大きな魔獣だ。3人で狩るのはどう見ても無謀だとヒロでも理解できる。 

【あいつが行ったら木から降りて逃げる】

 木に登ったマウラーが俺の方に指示を送ってくる。どうやらマウラー達は獲物をあきらめるつもりのようだ。魔獣が獲物に気を取られているうちに逃げ出すのだろう。

 

『現有の戦力では妥当な判断』

『獲物の首をふっとばさずに殺すことはできるのか?』

『可能』

 さすがにOVISである。常に戦闘のことを考えている。 

『魔獣が下を通過したら攻撃しますか?』

『お前ならあいつを狩ることはできるだろうが運ぶことが出来ないだろう、獲物を持ち帰れなければ無意味だ』

『………………』

 しばらく沈黙が続く。OVISも考えている様子だった。

 

『亜空間に入れて私が運べば可能だと思います』

 その事は俺も考えたが人前での出し入れがうまくいくのだろうか?

『他の人間にお前の存在を感づかれないように出し入れが出来るか?』

『可能です』

 即座に答えが返ってくる。その事は既に検討済みの様だ。 

『よし、お前のプランを聞かせてくれ』

 OVISは自我を持たないが、与えられた命題に対する思考には実に明晰に答える。

 ヒロは攻撃をOVISに一任することにした。

 彼らの下を通って獲物に近づいている魔獣の足が突然止まる。足を出そうとあがくが足が動かない様だ。

  

重力制御グラビティによる範囲攻撃を行いました標的は動けません、殺害許可を願います』

 飛行に使用する重力制御の範囲を獲物の周辺に設定して稼働させた。ヒロの持つGキャンセラーと同じ原理だが今回の物は範囲に対して効果が有るものだ。 

『承認』

 次に何かが獲物の後頭部と胸の当たりではじける様にみえると、魔獣が膝を折りそのまま倒れる。

『電撃により運動中枢と心臓を麻痺させました、心臓の停止を確認』

「よしっ」

 ヒロは木から飛び降りると倒れている魔獣の所に行く。

「おいっ!何をしている、危険だぞ!」

 マウラーが怒鳴ってくるが俺は獲物の前に立って降りてくるように合図をする。

 

『一応、重力制御グラビティはかけておけ』

『了解、近づきすぎると影響が出るので注意』

 重力制御グラビティは魔獣より少し大きい範囲で作動させている、その範囲に入ると人間も影響を受ける事になるから注意が必要だ。

 

「死んだのか?どうやってやった?」

 木から降りてきたふたりは用心深く魔獣の様子をうかがっている。やはり俺の言う事を信用していないらしく、魔獣から少し距離を置いている。

「電気の魔法…心臓…止めた」

「なんだと!それだけか!」

 マウラーが怒鳴った途端、魔獣がカッと目を開ける。唸り声をあげ暴れようとしたので、間髪を置かずマウラーとケストルは槍を振り上げ心臓に突き刺す。

 

「な、なんだ?体が動かん!」

 ところが重力制御グラビティ範囲に入った途端に魔獣に押し付けられてしまい動けなくなってしまった。 

『いかん!運動中枢を破壊しろ!』

 通信用レーザーの細い光線が魔獣の延髄を破壊すると魔獣は動きを止めた。 

重力制御グラビティ解除!』

 解除と共に動ける様になった二人は慌てて飛び去ると再び魔獣に向かって槍を突きたてる。

 何度も槍を心臓に突き立てると胸の中から血があふれてくる。

 参った、こんな事になるとは重力制御グラビティをかけていたのが良かったのか悪かったのか?

 あまりにも危険と判断すればOVISが介入したとは思うが、出来るだけマウラー達にこいつを見せたくは無いからな。

 

「危なかった!これが魔獣だ。死んだと思っても油断すると逆襲される」

「申し訳無い…魔法…心臓を止めた…仕留めた思った」

「そこが魔獣の恐ろしいところだ、止めを刺したと思っても放置すると生き返るのだ」

 前に言われていた事だが、本当に魔獣というのは恐ろしい生き物だと認識する 

「魔獣…何故…生命力…強い?」

「奴らには魔獣器官と言う物があって、魔獣細胞が作られている。その魔獣細胞がエネルギーを供給して体を修復するのだ。俺たちの魔法も魔獣の肉を食ってその魔獣細胞を体に取り入れる事によって使えるのだよ」

 どうやらこの世界の魔法の成り立ちは、魔獣細胞と言うシステムに依存しているようだ。

 魔獣はその器官を持っており、人間にはその器官がないらしい。したがって人間はそれを魔獣の肉から補給をしていると言う事のようだ。

 彼らが使用する魔法という能力は魔獣細胞をエネルギー源としているそうで、これはこの世界で生きていく為の根本的原理のようだ。

 

『原理不明の現象、俗説の可能性大』

『人類には無い能力がこの星の連中には有るということだ、原理はともかく事実は認めよう』

 

「せっかく仕留めたのはいいがこんなものは運べない、毛皮だけでも相当な重量になるからな」

 マウラーが残念そうな顔をした。

「それに関しては少し考えがあります。そこをどいてください」

 ふたりを魔獣から離すとOVISに魔獣の死体を亜空間に取り込ませる。

 魔獣を亜空間に引きずり込むのではなく魔獣に向かって亜空間を移動していった。すると魔獣が端から消えていくように見える。亜空間の中ではOVAが魔獣を抱えているはずだ。

 これなら他の人間にはOVISの存在を感付かれる事は無いだろう。

 

「な、なんだその魔法は?獲物は何処にいったんだ?」

 ふたりは目が飛び出すような顔をしていたが流石に理解は出来ないだろう、少し得意な感じになってしまう。 

「亜空間…収納…ギルド…出す」

「そ、そんな魔法は見たことも聞いたこともない、それが出来れば何日でも狩りが出来るじゃないか」

「獲物…置いたら…悪くなる」

「ど、どのくらいの大きさの物が入るんだ?」

 

『どの位なら問題なく隠せるんだ?』

『両手で持てる分だけです、これ以上収納が欲しければ収納箱を用意して下さい』

 OVISにしてはかなり即物的な回答をする。

 ヒロは亜空間の中で魔獣を抱えているOVISを想像して笑ってしまった。

 

「そこにはたくさん入るのか?」

 俺の笑顔を別の意味に解釈したらしい、あまり大きな事は言わないほうが良さそうだ。 

「あっちの獲物…運べる…それでおわり」

 にこやかに答える俺にふたりはかなり微妙な顔をしていた。


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