光の塔
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――光の塔――
「なんじゃ〜?黒い巨人が金属竜を袋叩きにし始めたぞ」
ガーフィーが素っ頓狂な声を上げる。
「オーッホッホッホッ!こちらの大陸の女性はみんな勇敢ですからねえ〜、今のうちに竜人さんに逃げ出していただきますわよ~」
「言われんでもさっさと逃げ出しておるわ。しかしあのハンマーでは止めは刺せんじゃろう?どうするんじゃ?」
確かに黒い巨人は金属竜をタコ殴りにしてはいるが、決定的なダメージを与える様な攻撃にはなっていない。
「なによ!こいつ意外と固いじゃない!」
「あきらめるな、メディナ!何度も叩けばそのうち異常が出る!」
周囲を飛行しながら交互に金属竜をハンマーでタコ殴りにするがなかなか弱る様子がない。
なおも殴り続けようとするが、突然金属竜の姿が消える。
「なに?金属竜が消えた?」
「ヒロ、よく見て!横に移動しただけよ」
メディナの声で周囲を見ると数十メートル横に金属竜が移動していた。
『体の各所に付いている補助ブースターで真横にスライド移動しただけです』
よく見ると体の各所が鱗のように蓋が開き、中に噴射口が見える。
『いきなり加速したり方向転換できる艤装ツールか?』
あの金属竜も重力制御で飛んでいるが、急激な加速で言えばロケットブースターの方が有効なのだろう。
『金属竜が攻撃態勢、口を開けてこちらに向いています』
考える間もなくOVISが移動する。今までいた場所を高温のブレスが通過した。
ところが移動した先にグレイの巨人が回り込んでいる。
『なんだ?グレイの巨人は翼竜の所に行っていたのではないのか?』
『翼竜を集めていた連中です、任務を放棄してこちらの攻撃にシフトしたようです』
荷電粒子砲がOVISのシールドを掠め火花を散らす。
「ヒロ!グレイの巨人が集まってくるわ」
『まずい!金属竜とグレイの巨人の挟撃を受けるぞ』
『いえ!金属竜はこちらを無視して竜人夫婦に向かって攻撃を行っています』
くそっ!こいつらの本命はコタロウさんの両親か!
「こいつ!ワシらを無視して竜人殿に対する執拗な攻撃をしよる。こやつも相当に狂っておるのか?」
金属竜はあきらめる事無く竜人の両親を追って攻撃を続けている。機械ならではの偏執的なまでの行動である。
「竜人殿と金属竜の間に戦艦を割り込ませろ、これ以上攻撃させるのはまずい」
ガーフィーが怒鳴る。竜人はカルカロスにおいてはガーフィーが生まれる前から街を守ってきた崇拝すべき対象なのだ。
戦艦がシールドを最大出力にして金属竜と竜人の間に割り込む。ボデイとシールドが接触して火花を散らすと、突然金属竜が消える。
「ちいっ!逃すか!艦載頭脳体当たりをしろ!奴から離れるな」
上空に移動していた金属竜に全力で体当たりを敢行する。閃光が飛び散り敵の体が吹き飛ばされる。
体勢を取り直し戦艦に攻撃しようとするが、戦艦は執拗に体当たりを繰り返す。
戦艦の体当たりから逃れようとスラスターを起動する金属竜であったが、攻撃を横腹に受けてスラスターの一部が爆発を起こす。
動きを予想したメディナが回り込んで蓋の開いたスラスターを狙い撃ちにしたのだ。流石の狩人の経験は伊達ではない。
「やったよ!姉さん。穴をふたつ潰せた!」
「よくやったメディナ。見事だ!」
蓋はすぐに閉まりそれ以上の被害は出ていないが、少なくともバランスが崩れ、機動力は減殺されるだろう。
「全方位からグレイの巨人がこちらに向かって来ます。挟撃されます、反撃をお願いします!」シリアが叫んだ。
金属竜のダメージを察知した巨人たちがその防衛に回ったようだ。
戦艦の後方シールドで爆発が起きて火花が散った。グレイの巨人の荷電粒子砲が命中したのだ。
「金属竜とグレイの巨人の両面に副砲を斉射!」
『3体合体のOVISが接近中、損害予想が有ります被弾を避けてください!』
切迫した状態にもかかわらず艦載頭脳の落ち着いた声が艦橋に響く。
3体が合体した巨人が戦艦の周りを囲んで攻撃してくる。
戦艦の副砲が目標を定め一斉に発砲する。金属竜に当たると爆発を起こして体が震える。一方グレイの巨人はシールドの外周で爆発を起こし軌道がずれて戦艦を通り過ぎていく。
「副砲はどちらにもあまり効果が無いようじゃな!」
『3体合体攻撃はシールドの重ね掛けとなりますので単体より効果は強固になります』
ところが合体したグレイの巨人に黒い巨人が抱き着くように接近し、超近接射撃を行うとシールドを貫通したビームが被害を与える事に成功した。
「やったぞ!1機の胴体を撃ち抜けた!」
「シリア殿、グレイの巨人の乗っ取りはどうなっておる!」
「1グループにリンクが成功しました!」
合体していた巨人が手を離して分離すると高度を下げて地上に向かって降りていく、1機は胴体から煙が出ている。
それでも現在合体をしたグレイの巨人は3組があり、他にも接近中の巨人を捉えている。
「金属竜に接触したまま上空に押し上げろ、上空に向かってなら主砲が使える!」
戦艦は金属竜に接触したまま推進方向を変え、相手を上空に向けて押し上げる。
「推力全開!敵を上空に放り投げろ!」
戦艦に跳ね上げられた金属竜は上空に回り込んだリクリアとティグラのハンマーにタコ殴りにされている。
「全員、金属竜から離れろ!主砲を打つ!」
その命令を待つまでもなく黒い巨人は一斉に散開をする、シリアの指示によるものか?
その瞬間戦艦の主砲が発射され金属竜は主砲の光に包まれ太陽の様に光り輝く。
「やった!命中した」「やったのか?」「当たったよ、ねえさん」
「いや!爆発をしない、奴は無事だ!」
光が収まるとそこには 金属竜がそのままの姿で残っていた。かろうじて体の各所から煙を噴き出している。
「ダメですわね~、あのメタル外装が主砲の威力を半減させていますわ。光線兵器は効果が薄いのですね~」
再び竜人夫婦を追って移動し始める金属竜。
「くそっ!医院長、他に効果的な武器は無いのか?」
「物理攻撃しかありませんね、スラスターが幾つか潰れていますから機動力は落ちていますわよ」
「よし分かった!竜人殿が逃げる時間を稼ぐんじゃ。攻撃の手を緩めるんじゃないぞ!」
再び黒い巨人が攻撃を仕掛けるが金属竜はそれを無視して竜人夫婦にファイア・ボールの連続攻撃を行う。
多少の距離は稼げていたが時速200キロ程度なのでまだ射程内のようだ。
「か、母さん!ファイアボールが迫っとるぞ」
「大丈夫、そんなに早くは無いから逃げ切れるわよ!」
ギュインと方向を変えるとふたりをかすめたファイアボールは地面に衝突し大きな爆煙を吹き上げる。
「ファイアボールの射程はそんなに長くは無いわ、とっとと逃げ出すのよ」
2人は抱き合いながらジグザグに回避行動を取りながら逃げ続ける。
その間に残りのグレイの巨人は結集を続け3体一組の攻撃が増加していく。
「おばさま!こんなに増えたら対処しきれません」
「落ち着きなさい、全部に目を配るのは私がやります。あなたは選んだ巨人にだけ心を集中させなさい。あなたは既に私より強力な巫女なのですよ」
『そうじゃ、エンルーや、みんなでお前を守る。お前は自分の出来る事で皆を守るんだよ』
「ティグラおばあ様…わかりました、頑張ります」
『グレイの巨人が陣形を立て直してこちらに向かって攻撃を仕掛けてきます。反撃致します』
艦載頭脳の通告と共に、接近する巨人に対し副砲で攻撃をする。
「竜人殿を守ることを優先せい!グレイの巨人の攻撃はシールドで対処可能か?」
『2組以上の同時攻撃は避けてください。シールドが損傷する危険が有ります』
グレイの巨人達は既に3体が一組になり背負った槍の光線砲の同時攻撃を開始する。
3条の光線砲がシールドに当たり船体に衝撃が走り警告音が鳴り響く。
「グレイの巨人の攻撃は固定兵装じゃ、こちらに向かって飛行しながらでなければ攻撃は出来ん。副砲を集中させればシールドを貫通できるじゃろう」
戦艦に向かって突進をしてくる3体の巨人を副砲で集中攻撃をするとシールドが破れ一機が爆発を起こす。戦艦のシールドは、二条に減った荷電粒子砲をかろうじてはじき返した。残ったグレイの巨人は速度を落とし降下していく。
「あと4組です。集中するのですよ、エンルー」
「この戦法は有効な様じゃ。グレイの巨人は我々で防ぐ、お主たちは竜人殿を守れ」
しかしグレイの巨人の被害の増加に翼竜を護衛していたグレイの巨人の殆どが戦艦の攻撃に参加してくる。
「まずいな、巨人どもがこちらに攻撃を集中してきよる」
「おばば様!こちらは金属竜を殴りながら光線兵器で対抗しますぞ」
グレイの巨人は肩に背負った荷電粒子砲を撃ってくる。
「なんじゃ?こいつら構わず撃って来よるぞ」
金属竜の周囲を飛行しながら攻撃する黒い巨人の、その外側から攻撃をしてくるグレイの巨人。その為に流れ弾がかなりの数が金属竜に当たっている。
「アホか?我らを狙えば金属竜に当たるじゃろう」
しかし鏡面処理の表面は荷電粒子砲をも跳ね返しているのでダメージはないようだ。
「くそっ!我々に対してあの槍の威力は思ったより大きい、あまり食らうとこちらのシールドが破壊されるぞ」
金属竜の攻撃を避けるように移動しながらハンマー・アターックを行うが、同時に外装兵器の光線砲でグレイの巨人に反撃を行う。
残念ながら相手の方が射程が長いのでこちらの方が不利である。
「ヒロ!このままじゃこっちが削られてしまうわ、何か良い作戦はない?」
「ガルガスさん!あの金属竜にミサイルを撃ち込んでやってくださいな」
「え?そんな物どこにあるんですか?モニターには表示されていませんよ」
武器管制をしていたガルガスは、有効な攻撃をしようとさっきから必死で戦艦の武器とにらめっこをしていた。
「外装発射管を付けてあります、表示を見てご覧なさい」
そう言うと医院長は立ち上がって艦橋から出ていく。
「医院長!どこに行かれるのじゃ?」
あまりに訳の分からない医院長の言動にガーフィーが声を荒げると医院長は振り返る。
「これから金属竜をぶっ殺しに行きますから。ガルガスさん合図したらミサイルを撃ってくださいな、一回しか使えませんからタイミングを外さないようにね」
ガルガスがモニターを調整すると外装発射管が船尻に取り付けられているのを発見する。
「ガルガス殿、ミサイルとはいったいなんじゃ?」
「たぶん、アッカータで医院長の馬車から発射された物ではないかと?火を吐いて飛んで行って爆発する魚のような形をした物です」
コタロウにボタンを押させて発射した物だ、被害の責任を押し付けた医院長の鬼畜な行為を忘れる筈もない。今度はガルガスがそのターゲットになったようだ。
「かなり物騒な物のようじゃないか、それをあの金属竜に打ち込めと言っておるのか」
「仕方ありません、私も腹をくくりますよ。シリアさん、合図の方をよろしくお願いいたします」
「わかりました。瞑想を継続して合図を見逃さないようにしています」
もっともボタンを押すのは私ですが、実際に発射をしているのは医院長なのでは無いのだろうか?とも考えるガルガスである。
新たに参戦したグレイの巨人が3体合体を組み始める。合体を組み終わると速度も上がり、こちらの方が不利になる。
重力制御の飛行の特性として、複数の機体が連結して飛行すると出力に比べて空気抵抗が減り、飛行速度が上がるのだ。
金属竜を全員で相手にしている現状で、高速による一撃離脱戦法では圧倒的に戦艦の方が不利である。
大きく旋回してこちらを向いた後、槍の荷電粒子砲が一斉に火を噴いて来る
「金属竜め、姑息な戦法を取りおって」
だが一連の攻防で、竜人はかなり距離を取ることに成功した。
『今です!ミサイルを発射するから皆さんは金属竜から離れてください!』
エンルーの声が頭に響き渡る。OVISは一斉にスピードを上げ距離を取る。同時に戦艦から金属竜に向かってミサイルが発射された。
ミサイルは金属竜の周囲で一斉に爆発を起こすとその周囲が煙で満たされる。どうやら磁気妨害能力の有る煙らしい、こちらを見失い敵の動きが止まるがこちらのスクリーンからも姿が消える。
戦艦が速度を上げて離脱を行うが、その船腹から何かが飛び出してきた。
「なんだ?あれは非常脱出ポットじゃないか?誰が乗っているんだ」
人類宇宙軍の艦船には必ず装備されている装備だ。だが宇宙空間で遭難しても回収の可能性は限りなく低く、搭乗員の安全の言い訳の為に装備されているような存在だ。
当然武装も無く数人が数日間過ごせるだけの酸素と食料しか装備されていないという代物で燃料も脱出時に使用する程度で殆ど積まれてはいない。
「オーッホッホッホッ!図体ばかりデカいウスノロが何を偉そうに出てきているんですの?」
聞きなじんだ狂笑が聞こえる。あれに乗っているのは、期待にたがわず医院長である。
「何で医院長がポットに乗っているんだ?OVIS救出に行くぞ!」
ところがOVISは速度を上げ金属竜から遠ざかっていく。
『どうした、OVIS命令に従え!』
『…………………………』
しかし構わず速度を上げる。後方を見ると金属竜を覆っていた煙が晴れて来るのが見える。
既に戦艦も全速力を出しており、竜人の両親もかなりの距離の位置にいる。戦艦が金属竜と竜人夫婦の間に割り込んで行き、全エネルギーがシールドに供給されている。
「GYAAAAA~~~!」
脱出ポットが垂直に上昇し始めると、それに気が付いた金属竜はその後を追って上昇していく。
「オーッホッホッホッ!あなたの獲物はここにいるわよ~~、追ってきなさ~い」
ポットは最大推力で上昇するが、やはり金属竜の方が早い。
「医院長、脱出しろ!あんたなら平気だろう!」
「オーッホッホッホッ!金属竜の第一目標は実は私なのですよ~」
生身の人間であればポットから脱出した時点で即死である。しかしヒロには医院長は絶対に死なないと言う確信があった。
医院長は脱出する素振りも無く上昇を続ける。その後を追う金属竜が大きく口を開ける。
「GUAAAAA~~!」
口の中に炎の渦が見える。
「いかん!ブレスを打つつもりだ!医院長早く……」
言い終わる前にブレスが発射され脱出ポットが火に包まれる。
その瞬間金属竜は眩しい光の柱に包まれた。
「うおおっ!なんじゃーっ」
強力な光の柱に巻き込まれた金属竜は動きを止めると大爆発を起こす。
そのあおりを食らったグレイの巨人がその周囲から吹き飛ばされる。
金属竜を襲った光の柱は地面に当たって大爆発を起こし、キノコの様な噴煙を上げた。
『放射線反応なし、残留放射性物質無し。周辺被害甚大ながら人的被害は認められません』
艦載頭脳が冷静なコメントを発する。
「なに?いったい何が起きたの?」
「衛星軌道からのレーザー攻撃だ。天上神の管理頭脳が金属竜を衛星兵器で破壊したんだ」
「なんじゃと?医院長はどうなったんじゃ?」
「ポットごと消えてしまったよ」
衛星軌道にある大型衛星から核レーザーの攻撃を受けたのである。金属竜とてひとたまりもない。
「そんな…あの医院長が死んだの?」
メディナが泣きそうな声を上げる。
『ななな、何がおきたんじゃーっ』
竜のお父さんから通信が入ってきた。戦艦の影に入っていたのでどうやら無事の様である。
「よかったーっ、おじさんぶじだったのね」
『ワシらは簡単にはくたばらん、カミさんのシールドが攻撃を跳ね返しよった』
『医院長さんがどうとか言ってらしたけど何かあったの?』
「あの爆発に巻き込まれた、生存は絶望的だ」
『医院長さんが?いつの間にカルカロスの街からこっちに来ておったのじゃ?』
「「「え?」」」
『私たちはカルカロスの街で、こちらの大陸に来るように医院長から言われたのよ』
『そうじゃが、肝心の医院長が亡くなってしまってはどうしようもないのう』
お父さんは医院長が死んだことよりもこの先どうすれば良いのか困惑しているようだ。医院長が死んだことに対して現実感が無いのだろう。
「ヒロ、一体どういうことかしら?」
「よく考えろ、医院長がそんなに簡単に死ぬタマだと思うか?あのけたたましい笑い声と共に、すぐに復活してくるぞ」
ヒロが冷たい声で言い放った。




