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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第八章 決戦の大地
202/221

眼下の翼竜

8ー003

 

――眼下の翼竜――

 

「よし!一旦上昇。多分巨人は我々を追って来るだろうから、そこから急降下をかける。翼竜ヴリトラの下に潜るまでの間に追ってきた巨人を乗っ取る」

「ガーフィーさん、左の方から3体の巨人が接近しています。翼竜ヴリトラを追ってきた者のようですね」

 大型スクリーンに3体の翼竜ヴリトラと巨人のシンボルが追加されていた。

 

「そっちはヒロに頼む、こちらへの攻撃を妨害しろ」

「シリアさんは追ってくる巨人の処理を頼む出来るな?」

「もちろんです。丸1日行動不能にしてさし上げます。大丈夫ですねエンルーさん」

「はいっ、おばさま任せてください」

 エンルーは思いっきりニッコリと笑った。

 

 戦艦が上昇を始めるとそれを追って2体の巨人が上昇してくる。だが推力に勝る戦艦の方が早い。距離を開けて反転をするが、それを狙って巨人は砲を撃ってくる。

 しかし巨人が砲を撃つ瞬間を捉えたシリアは戦艦をスライドさせた。

 荷電粒子砲のビームはシールドをかすめ火花を散らすが、巨人は飛行速度を急速に落とし地面に向かって墜落していく。

 

「シリア殿、やったのか?」

「うまくいきました。当分はあの場所で立っているだけでしょう」

 翼竜ヴリトラの群れの下に潜り込むと、ガルガスが照準を決めロックオンすると戦艦が自動的に飛行軌道を修正し主砲を発射する。

 強力な主砲が発射されそこに捉えられた翼竜ヴリトラが火だるまとなって弾け飛び墜落をしていく。

 

「2頭討伐に成功しました」

 感情のない声でガルガスはスコアを報告する。狩人とて狩りを楽しんでいるわけではない。命を奪うという行為は少なからず人の心に負担を与えるものである。

 

「ヒロの方はどうした!」

「だいじょうぶです、うまく立ち回っていますよ〜」

 翼竜ヴリトラを追って接近してきた3体のグレイの巨人は翼竜ヴリトラから離れると集合して3体が輪になって手を繋ぐ。

 

「何だ?何をやっているんだ?」

「ヒロ!危ない!」

 メディナの声と共にOVISは急旋回を行う。今までいた場所を3条の荷電粒子が通過してシールドを光らせる。

「ちっ、3体まとめて荷電粒子砲を撃ったのか!」

 

『3体が手を繋いで1体となって飛行しています。シールドを貼れば空気抵抗が減って速度が上がります、それとともに荷電粒子砲の威力も3倍になっています』

『あの槍はそうやって使うものなのか?』

『速度の面では向こうが勝り、接近戦では武装を含めてこちらが勝ります。その場合の敵の戦法は一撃離脱です。数が増えるとこちらが不利になるでしょう』

 

 そういえば長距離兵装はこの機体にはついていなかったな。

 コルボロック第4惑星侵攻作戦の時には長射程兵器が外装されていたが、地上ではむしろじゃまになるという判断だろう。

 3体の巨人が大きく旋回をし、今度は戦艦を狙うコースに入ってくる。 

 外部から追い込まれてきた翼竜ヴリトラは、残っていた巨人が、群れの中に合流させている。

 

「今度はこっちを狙っておるぞ、シリア殿!」

「おまかせください、エンルーさん、3体いっぺんに行きますよ」

「はい、おばさま。自我の弱いこの子達を壊さずに済むのはとても嬉しいです」

「自我が弱い?グレイの巨人は自我が弱いというのか?」

「そうですよ〜ガーフィーさん、ですからこの子達は強い自我に簡単に洗脳されてしまうのです」

 リンクを繋ぐのは双方の合意のもとではなく、能力の高いものが弱いものを従える行為である。それ故に巫女能力の高さが問題になるのだ。

 

「強い自我と言うのはあんた達、天上神ヘイブの住人の事を言うのか?」

「ですから〜、巨人も瘤翼竜ギガンドーグも私達が守ってやらなくてはならない存在なのです〜」

 医院長がガーフィーの腰の上で答える。 

「あんた達管理頭脳エヌミーズが彼らを統率していたのだろう?」

「そうですよ、その中の一人の頭が狂ってしまったのです」

「それが龍神ダイガンドだというわけか」

 ガーフィーにはまだ、この世界の仕組みは漠とした感覚でしか理解は出来ていないのだ。 

 

「世界を統べる者にはそれなりの責任が発生するのです。あの者たちに対しても、あなた方に対してもです」

 まとまっていた3体の巨人は合体を解き、別れて地上に向かって降りていく。

「あの子達を殺さずに済むのは、私達にとっても嬉しいことなのです」

「良くはわからんが、グレイの巨人も瘤翼竜ギガンドーグもなるべく殺したくはないのだな」

「ガーフィーちゃんがとても良い子に育ってくれて、先生嬉しいわ〜♡」

 嬉しそうに体をフリフリと動かす医院長、そんな事をしても少女には見えませんから。 

「頼むから、あまり膝の上で動かんでもらえるかのう、気が散るでな」

 

 戦艦は再び上昇をし、上空からダイブをかける。今度は戦艦を追ってくることはなく、長距離からの砲撃を集中して撃ち込んでくる。

「群れの横から突っ込む。ガルガス殿、機首を上げている間できるだけ獲物を落とせ!シリア殿は接近した所で巨人の乗っ取りを頼む」

 正面に長く連なる翼竜ヴリトラの姿が見える。ガルガスはその情報を素早く見ながら次々と討伐対象を決めていく。

 

 同様にシリアとエンルーは深い瞑想ウタキの中で巨人に狙いを定める。

 撃ち込まれる荷電粒子砲であるが、遠距離の物はシールドで火花を上げるだけだ。しかし近距離のものは危ない。

 いくつかはシリア達のコントロールで躱すが、逃げ切れず警告音が響く。

 そんな中でも、わずか12歳の子供であるエンルーは、心を乱すことなく深い瞑想ウタキを継続している。

 まことに巫女というものは強い精神力を持っているものだとガーフィーは感嘆のため息を付く。

 

 そして、そのような事を子供にさせている自らに恥じ入る。戦いは大人がする物なのだ。

 

 発射された主砲は空中を進んで獲物を捉えた後は虚空にエネルギーを四散させ消滅していく。

 戦艦は再び急上昇を行い巨人の攻撃範囲から逃れる。やはり速度は戦艦のほうが出せるようでグレイの巨人は追いついてこない。

 

「何頭やった?」

「4頭落とせました」

 翼竜を囲んでいたグレイの巨人の3体がコースを外れ地面に向かって降りていく。


艦載頭脳コンピューター、被害は?」

『シールド負荷65パーセント、これ以上の攻撃を受けるのは控えてください』

 かなりの攻撃を受けたようだ。もう少し負荷を受けるとシールドが危ないというのだ。

「翼竜がもうしばらく飛べば樹海を抜ける。それまではこの戦法を使わざるを得ない。ヒロたちはどうしている?」


「メディナ!戦艦の両翼につける。シールドを全開にしてグレイの巨人を迎え撃つ。被弾したら構わず離脱しろ」

「そんな事をしたら戦艦が攻撃されるわ」

「かまうな!戦艦のシールドはそんなにやわではない。俺にはメディナのほうが大切だ」

 

『危機回避能力はメディナの方が数段高いのです。私の反応速度の数倍は有るようで、危険なのはパイロットの方だと自覚してください』

『おまえ、男の矜持を踏みにじるなよ』

『私の現在の第一目標はパイロットの安全確保にあります』

 久しぶりだなこの感覚は、ようやく医院長の干渉から脱却できたのかな?


 ヒロは宇宙空間での戦闘とはおおきく違うことに気がついた。大気中では光線兵器の減衰は思った以上に激しい。お互いの攻撃の有効性はかなり下がってしまうのだ。 

 外装兵器はそのままOVISの装甲になり、何発かの被弾は確実に防いでくれる。

 

『どうやらグレイの巨人はあまり強力な推進機を持っていないようだ』

 ヒロは外部兵装で倍の太さになったOVISを、戦艦とグレイの巨人の間に突っ込んで攻撃を行う。

『真空中での機動性は高かったのですが、大気中での動きはひどく悪いようです』

 肩から発射した強力なビームが至近距離でグレイの巨人の槍を射抜く。以前に宇宙で戦った時より明らかに運動性能が低い。

 

『この世界ではやはり修理道具だと言うことなのか?しかし推進機関はお前も似たようなものじゃないのか?』

『外部装着機が推進の補助を行っています。私は装甲、兵装の上乗せでかなり強力な機体になっているのです』

『月面都市で作られた物らしいが人類宇宙軍以上の性能になっているらしい。良く仕様が合っていたいたな』

『この時を想定して作られていた可能性が大きいと推測されます』

 くそっ、俺を地球に落とす前からこの状況を予想していたと言うことなのか。

 

 人類宇宙軍のOVISでもベース本体の火力は大したことは無かった。それを外部兵装で補っていたのは事実だ。

 しかし現在装着している外部兵装は、人類宇宙軍の物より大気圏での戦闘を想定した性格が強いように感じる。

 大気のない宇宙空間での機動性は、機体が軽いほうが高い。しかし大気圏内の機動性は、空気を利用できるから出力の高いほうが有利なのだ。

 こうしてみると龍神ダイガンドは大気内での戦闘を行った経験があまりないようだ。


「遅くなった、戦況を知らせろ」

「だいぶ翼竜ヴリトラが集まって来ているな、みんなは無事かのう?」

 翼竜ヴリトラの群れの後方の上空からの攻撃を確認する。リクリアとティグラがやっと追いついて来たようだ。

 通信映像を見ている限りパイロットスーツを着用している。

 生足をむき出しのままだったらどうしようかと思っていたが、ちゃんと着替えを済ませた様だ。

 

「獲物はこちらの動きを予想して行動を変えてきているようじゃ、頭の良いやつのようじゃな」

 グレイの巨人は自我は無いものの人間より知力、反応速度は遥かに能力の高いM型無機頭脳メルビムを搭載しているのだから当然の事である。

 逆に黒い巨人はリンクで余分な指示を行うと動作が遅れるのである。


「更に5体の巨人がこちらに向かって合流をしてきます。いえ、さらに2体!」

 7体の巨人がこちらに向かって来ている。ダイガンドもこちらの状況に対応させてシフトを変更したようだ。

「わかった!今度は群れの正面から突っ込むぞ!」

 翼竜ヴリトラが群れているとは言え、翼を接して飛んでいるわけではない。同じ方向に飛行している緩い群れを巨人がまとめているに過ぎない。

 戦艦はその正面に向けて降下を始めた。


「ワシらは正面から群れに突っ込む。OVISは巨人の牽制を頼む」

「了解」「わかった、任せておけ」「ホホホ、エンルーも頑張るのじゃぞ」

「ガルガス殿!出来るか?」

「お任せください」

 戦艦は大きくコースを変えて再び群れの正面に向かう。

 

「よし、群れの中を飛行していれば同士討ちを警戒して攻撃が弱まる」

 群れの中をジグザグに縫って飛行することにする。翼竜ヴリトラの速度はあまり早くはない。戦艦の速度をもってすれば問題なく照準を取れる。

「副砲はグレイの巨人を攻撃しろ、当たらなくても構わん。群れを通過する間攻撃は弱まる、シリア殿は出来得る限り乗っ取ってくれ」

 ガルガスは正面に現れた個体の情報を読み取りながら次々にロックオンしてゆく。意外なほどに優秀な戦闘を行うガルガスである。

 

『リクリア!グレイの巨人は連結して戦艦を狙っている。こちらは上空から狙い撃ちにするぞ』

『わかりました、おばさま。それにしても結構速いですね』

 リクリアの撃った光線は巨人を外して翼竜ヴリトラの翼に当たる。翼竜ヴリトラは大きく叫んでコースを外れる。

 

『こっちは翼竜ヴリトラを巻き込んでも気にしなくて良い分楽なもんじゃい』

『しかし、翼に穴が開いても構わず飛び続けますね』

『ああ、ワシの村を襲ったときもそうじゃった。魔法を使って飛んでおるからな』

『メディナはどこにいるのでしょうか?無事ならば良いのですが?』

『兔人族にの危機回避本能を甘く見るな、攻撃が当たる前に回避しているさ』

 

 無線を介することなく通信が可能なのは感能者フェビリティ故である。

 その感能者フェビリティの通信と同じものを外装したのが、お父さん達が頭につけている機械である。

 感能者フェビリティと違いイメージの投影は出来ないが、逆に言葉は明瞭に伝えられる。みんなの通信は結構傍受できている。

 

  *  *  *

 

「どうやら始まったようじゃな。誰も死ななけりゃ良いがな~」

「あの翼竜を狩っているのですよね」

「ああ、カルカロスでみた奴よりは小さい感じがするが…いずれにせよワシのヘル・ファイアを地上に向けて撃ったら地面が穴だらけになってしまうからな」

「そうですわねぇ、どちらにしてもさわらぬ神にたたり無しですから」

「なにそれ?ワシ微妙にプライド傷付けられるんだけど?」

 

 高度を上げて高みの見物と決め込む竜人夫婦である。

 

  *  *  *

 

 高高度からのダイブと急上昇の組み合わせの一撃離脱戦法はそれなりの戦果を上げている。

 グレイの巨人が追いつけないのは良いが、離脱から反転に相当な時間がかかり敵の陣形再構築の時間を与えてしまう。

 グレイの巨人も戦艦の軌道を予想して軌道上にまとまって迎え撃つようになってきた。戦艦は副砲を斉射し巨人の陣形を乱す。

 

 一方で黒い巨人に乗るヒロ達は、そのグレイの巨人の背後から攻撃を行うように戦法を変更した。

 両面からの挟撃を受けるグレイの巨人は、うろたえる事もなく分離して両面に反撃を行う。

 しかし徐々に戦力は削られ、同時に翼竜ヴリトラの犠牲も累積していく。

 

「ようし、戦線は安定しているようじゃ。このままこの戦法を続けるぞ、ガルガス殿、現在の獲物は何頭まで狩った?」

「25頭ですね、もう少しです。とにかく被弾を避けてください」

 

「時に医院長殿、いつまでワシの膝の上に座っておるのかのう?」

「ああ〜ら、すごく座り心地がいいんですもの〜、作戦終了までここに居ちゃダメ〜?」

「甘ったるい声を出さないでいただきたい、ここには子供もおるんじゃぞ」

「お待ち下さい、ガーフィーさん。上空からなにか巨大なものが迫ってきております」

 シリアと共に深い瞑想ウタキに入っていたエンルーが突然声を上げる。

 

「母さん、ありゃ何じゃろう?」

 竜のお父さんが、上空から飛来する巨大な火の玉を見つける。

「こっちに向かってきますわねえ。ものすごいスピードですけど、何でしょうかね〜」

 

「上空から飛来物だと?一体何じゃ?隕石か?」

「いえ、あれは弾道飛行兵器ですね~」

「なんじゃと?医院長、するとあれは爆弾か?」

「龍神が自分の支配圏を破壊するはずがありませんよ、あれはたぶん新兵器でですよ」

 大気圏外飛行から大気減速を行う軌道兵器だ。よく見ると後方にエアブレーキを展開していて見る見るうちに減速してくる。

 

 上空でカプセル状の物が大きく展開すると、中から巨大な竜人が現れた。

 金属で出来たその姿はまさに成体の竜人であるが、大きさは全く違う。体高で30メートル、尻尾までの全長は50メートルを超える巨大な金属の皮膚を持った竜人であった。

「なんじゃ、ありゃああ~~っ!ご先祖様かあ~~っ?」

「竜のご両親、すぐに逃げてください!その竜の攻撃目標はおふたりです!」

 セイラムが叫び声を上げる。

 

「なんじゃと〜〜?あいつ、ワシらを狙っているの〜?」

「お父さん、さっさと逃げますわよ〜」

 流石お母さん、お父さんの手を引っ張って迷うことなく逃げ始める。お父さんよりも状況判断能力が高い。

 

「オーッホッホッホッ!金属竜メタルドラゴン!やっぱり現れましたわね」

 なぜか医院長の狂笑が艦橋に響いてモニターの方に向き直る。

 

 いきなり膝の上でグリッと腰を回されたガーフィーは「おふん!」と声を出してしまった。


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