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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第八章 決戦の大地
201/221

翼竜掃討作戦

8ー002

 

――翼竜掃討作戦――

 

 スタスタと艦橋を歩いていくと医院長はガーフィーの膝の上にちょこんと座り、足を組んでセンタースリットからぐりっと太ももを出して見せる。

 

 医院長、今日は網タイツですか?

 

「い、医院長、何をやっておられるのか?」 

「本当は、ガーフィーさんの膝の座り心地が良かったので戻ってきましたのよ」

「そ、そういう誤解を招くような発言はご遠慮願いたいのだが」

 こいつ絶対に楽しんでやがるな。うろたえるガーフィーを完全に無視していやがる。彼も一応妻帯者なのだが意外と中身は純情である。

「いいんじゃございません?今はリクリアさんもおられませんし」

 くいん、と腰を捻るとガーフィーが真っ赤になっていた。

 

「リクリア姉さんとティグラさんはこちらに向かっているのですか?」

「あちらも高度1万メートルを飛行中ですわ。翼竜ヴリトラもだいぶ結集してきましたからね」

 以前に試したところでは翼竜の高度制限は4〜5千メートルである。この高度まで昇ってくることはない。

 セイラムがふいっと手をかざすと、スクリーンには集団を組んで飛行する翼竜ヴリトラの個々の情報が表示された。

 50頭程のメインの集団を囲むように、20機程のグレイの巨人が周囲を飛行している。

 

「まるで家畜の群れを追う狩人のようじゃな」

「彼らは群れを作る習性はないのですよ、統率を取るものがいなければ群れはバラバラになってしまいます」

 食物連鎖から外れた生き物は群れを作る必要すらないのだ。

 

「医院長、グレイの巨人が少ないように見えますが?」

「集まってきた翼竜ヴリトラを探して集めているのですよ、放っておけば群れを作りませんからね」

 そうなると集団ができていない今が攻撃のチャンスということになる。

 

「グレイの巨人が背負っている長い槍のようなものは何だ?武器じゃないのか?」

「言われる通りあれは電気ライデンの兵器です」

「放電でも出すのか?」

 荷電粒子砲の事じゃないか。そういやこの大陸に来たときにもあれで撃たれた事があったな。

 

「一応この船は帯電防御装置があるし、黒い巨人の外部兵装にもそれは有ります。ただし何回も撃たれると危険ですわよ」

「大丈夫よ、発射する気配は感じることが出来るから、きっと避けられるわ」

 メディナの強気な発言は強がりではない。臆病な兔人族は本能的に危険を察知できるのだ。巫女ともなればM型無機頭脳メルビムの思考も読めるかもしれない。

 

『メディナであればそのくらいは出来るでしょう。そうなると一番危険なのはパイロットということになります』

『そいつも医院長のアドバイスか?嬉しくて涙がでそうだな』

『現在の本機の第一目標はパイロットの安全確保です』

 そう言えば久しぶりにこの言葉を聞くな。信頼しているぜ、俺たちは死ぬまで相棒だからな。

 

「ここまでが私達が出来る事です。獲物を選んで引き金を引くのは皆さんにお願いしたい事なのです」

 全員の顔に緊張が走る。やはり彼ら管理頭脳エヌミーズには翼竜ヴリトラを殺すことは出来ないようだ。

「確認したいのじゃが、我々の目的は翼竜ヴリトラ40頭の間引きだけで良いのだな?」

「はい、その後に龍神ダイガンドの討伐をお願いいたします」

 

「武器はなんじゃ?この船にはどんな武装が有る?」

「船首に固定された主砲に旋回砲塔の副砲です。主砲でなければ翼竜ヴリトラは倒せません。グレイの巨人は副砲でも倒せますが、相当に近づかないとシールドに阻止されます」

「しかし予定数の翼竜ヴリトラを狩ってもエルメロス大陸への侵攻が止まらなかったらどうするんじゃ?」

「その時はグレイの巨人を全滅させる必要がありますね。彼らがいなくなれば翼竜ヴリトラは統制を失い散ってしまいますから」

 

「よかろう、ワシはこの船の指揮を行う。ヒロとメディナは黒い巨人に乗って出撃してくれ、リクリア達と協力をしてグレイの巨人からこの艦の防衛を行う。エンルーとシリア殿は龍神からの干渉を妨害してこの船を守ってくれ。それと……」

 言葉を切って艦橋を見渡す。翼竜を選択し、引き金を引く仕事をシリアやエンルーにやらせる訳にはいかない。

 

「わかりました。翼竜ヴリトラへの砲撃は私が行います。私とて狼人族の末裔ですから」

 ガルガスが声を上げる。一番の汚れ仕事を買って出るこの人は実はそれなりに胆力のある人なのだろう。

「すまんな、それで…外で昼寝をしている龍神殿に関してはどうするんじゃ?」

 船外ではやることもなく日差しも良いので取手に掴まったまま竜人たちが昼寝をしている。

 シールド内とは言え高度1万メートルの薄くて凍りつくような大気の中で有る。それにも関わらず医院長の呼びかけに大きなあくびをして答えるのはさすがに地上最強の生命体である。

 

「日差しが暖かくてのう、つい眠ってしまったよ。目的地には付いたかのか?」

「あ〜ら?医院長さん、いつの間に船にお乗りになったのですか?ランダロールにはおられなかったのに」

「カルカロスの聖テルミナ病院の医院長として、搭乗員の健康管理には気を使っているのですよ。これから戦闘になりますから、高度を下げたら艦から離れてくださいませ。おふたりが戦闘に巻き込まれることは無いと思いますが流れ弾に気をつけてくださいな」

「お、そうか?わかった、母さんはワシが守るでな安心して見学をさせてもらおうかな」

「はいは~い、お父さん頼りにしていますよ〜♡」

 

 お父さん、お母さんに全く信頼されておりません。


 ふたりの竜人が戦艦から離れて行くのを見ながら、ガーフィーは新しい作戦を皆と相談する。

翼竜ヴリトラの集結が終わる前に、グレイの巨人を倒したほうが効率が良くはないか?」

「それもひとつの戦法ということになりますわね〜」

 医院長はいささか浮かない声で話す。あまりどちらも殺したくは無いのだろう。そんな感情が見て取れる。

 

「私とエンルーでグレイの巨人の動きを止められるかもしれませんよ」

 それを見ていたシリアが提案をしてくる。

「なんと、シリア殿?それは本当か?」

「月面都市で黒い巨人にリンク出来たではありませんか、たぶん出来ると思います」

「オーッホッホッホッ!そうですわね〜、そうすれば行動不能に出来るかもしれませんわ〜」

 いきなりテンションの上がる医院長。М型無機頭脳メルビムを殺さない戦法を歓迎しているのだろう。

 

「ただ、距離が離れていますからねえ、多少難儀はするかもしれませんが」

「おばさま、大丈夫ですわ。医院長さんもグレイの巨人さんを殺したくないのでしょう?うんと強力な交感フェビルをぶつけてやりますわ」

「良いじゃろう、妾が戦艦の艦載頭脳コンピューターに通信の調整をさせて支援をしてやろうではないか」

「わかった、俺とメディナがグレイの巨人をおびき出すから、ふたりで行動を止めてくれ。できれば着陸させてしばらく動かないようにさせて欲しい」

 

 こうして台地の大陸外縁部における翼竜ヴリトラ討伐戦が始まった。

 

「俺たちが先行してグレイの巨人を群れから離す、シリアさん達は手早くそれを乗っ取ってくれ」

『わかりましたお任せください』

 無線ではなく交感フェビルによる通信を行ってくる。慣れればこちらのほうが早い。艦橋ではふたりが瞑想ウタキを行っているのだろう。

 

 こちらが近づいていくと後方の巨人が2体群れから離れてこちらに向かってくる。

 射程に入るといきなり背負った槍からオレンジ色のビームが発射される。レーザーではなく荷電粒子放射なので射線は蛍光を発し光よりも遅い。

 突然OVISが横にスライドしてビームを際どく交わす。隣りにいるメディナと全く同じタイミングである。

 

『OVIS、お前もしかしてメディナに乗っ取られていないか?』

『情報提供は受けています、こちらも電子の速度なのでタイムラグは殆ど発生しません。メインパイロットは貴方ですので本機の第一目標に変更はありません』

 いや、わかっているさ。わかってはいるが、女房にハンドルを握られるのは男としてのプライドがな……。

『夫婦は一心同体とお考えください。理想的な奥さんではありませんか』

 この言い回しも医院長の影響かな?


翼竜ヴリトラの飛行高度は約四千メートル、こちらは高度八千メートルまで降下、後方を飛行する個体から狩っていく」

 船長席からガーフィーが怒鳴る。医院長は膝の上でご満悦である。

 飛行方向から狩っていけば獲物がパニックを起こし収拾がつかなくなる。後方から順次狩っていくのが狩人のやり方である。

 戦艦の船首から強力なレーザー砲が発射され群れの後方を飛行する翼竜ヴリトラが真っ二つになって蒸発をするが、周囲にいた翼竜の周りに透明な膜のようなものが確認される。やはり翼竜ヴリトラにも弱いがシールド能力が有るようだ。

 

 しかし発射したレーザーが台地にあたると大爆発を起こして大きなきのこ雲を上げる。

 

「な、なんじゃーっ?この威力は?ワシらのヘル・ファイアの何倍もの大きさが有るではないか?」

「まあ、戦術核程度の威力はありますからねえ」

 さすがの医院長もやや引き気味ではある。真空中ではそれなりでしか無い高エネルギー兵器は、大気中では空気の膨張によって威力が倍増するのだ。

 

「冗談ではない!こんな物をそこら中にバラ撒けるか!下は樹海だぞ人がいるかもしれんじゃないか」

 戦術核という物がなんなのかはわからなかったが、少なくとも相当に物騒なもので気軽に使って良いものではないことはわかる程度の常識がガーフィーには有った。

 攻撃に気がついたグレイの巨人が高度を上げて攻撃をしてくるが、展開している戦艦のシールドに当たって火花を散らし、艦橋に危険を知らせる警告音が響く。

 

「おい、こちらには被害が出ないんじゃ無かったのか?」

「荷電粒子砲はシールドを貫通いたしますわよ、被害を受けないのではなく軽減出来るだけですわ」

「大丈夫じゃ、この距離であればこちらにの被害は大したことが無いが、まとまって一度に受けると電子機器がやられるぞ」

 電子機器の中には艦載頭脳コンピューターも含まれるのだろうか?戦艦の頭脳もM型無機頭脳メルビムなのだが?

 

「ガーフィーさん、攻撃を続けますか?下の大地に対する被害が甚大ですが?」

「そうじゃな、なるべく下に潜り込んで下から上に向かって撃ち上げるしかないじゃろう」

 下の大地は緑のベルトが連なっている。こういった場所には狼人族の村がある可能性だって有るのだ。

「高度を下げる。艦載頭脳コンピューター、急降下を行い翼竜の下に潜り込み、機首を上げながら翼竜を撃つことが出来るのか?」

『可能です。しかし翼竜ヴリトラの下に潜り込みますから随伴兵器からの攻撃を受けやすくなります』

 

翼竜ヴリトラを使った攻撃で村の住人を殺害している。しかしこれまでグレイの巨人は人間を殺してはいない。やはり翼竜に取り込まれていないM型無機頭脳メルビムは人を殺すことに躊躇が有るようじゃな」

 

 そうであればエンルー達がグレイの巨人のコントロールが問題なく出来るだろう。


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