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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第八章 決戦の大地
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戦闘艦発進

8ー001


――戦闘艦発進――

 

 喪失の涙と共に、お肉をたっぷりとお腹に詰め込んだコタロウは建物の壁にもたれてぐったりとしていた。日差しもよく、昼寝をしたくなる心地よさである。

 

「コタロウ殿、お休み中のところ申し訳ない」

 兎人族のゼンガーと、大酋長グレ・シェリクであるバオ・クーがコタロウを訪ねてきた。

「カロロ殿の連れてきたグレイの巨人というのはマリエンタールの守護者なのであろうか?」

「はい、守護者というよりは街を修理、維持するための存在のようですが」

 

「しかしティグラ殿によるとあのグレイの巨人と、おふたりの黒い巨人が戦闘を行ったと聞いております」

「そうです、武器を持って空を飛びますから、それなりに危険な相手だとは思います」

「それが多数飛び立って行ったというのはどういうことなのでありましょうか?」

「カロロによるとあれはボクの故郷を攻撃するために飛び立っていったようです。そういえばティグラさんとリクリアさんはどこに行かれましたか?」

「ああ、あの巨人を追って出かけてしまった。現在このルドルス城塞都市の守備は我々狼人族だけなのです。あの大きな竜人殿はご助力いただけるのだろうか?」

 

 バオ・クーは観戦武官を名乗りながらも、この戦いの帰趨には狼人族の運命がかかっていることを承知していた。

 龍神ダイガンドが勝利した場合には、狼人族が台地ダリルと揉める度に頭上の翼竜ヴリトラに怯えなくてはならなくなるからだ。

 

「いいえ、この戦争はマリエンタールとルドルス城塞都市との戦争になるので、僕ら竜人族は介入できません」

「そうか、やはり医院長殿の言われる通りか」

「ボクら竜人族は人間の存在なしには生きてはいけませんから、どの種族とも戦争は行いません。戦った相手の恨みを買いますから」

 まあ、今回はなんとなく巻き込まれて龍神教からは敵認定されてしまったが、エンルーを助けるためには仕方のないことだった。

 

「竜人族はそれほど強力な力を持ちながらですか?」

「僕らは物を作る器用な手を持っていません。赤ん坊を自分の手で持ち上げることすら危険な種族なのですよ、だからカロロを育てたのは母ではなくボクなのです。

 ボクはそこまで大きくはありませんでしたから、周囲の人々の手を借りながらなんとかカロロを育てられました。人々との繋がりを断ったら僕らはただの獣に戻ってしまうでしょう」

「竜人族とはそんなに脆弱な少数民族なのですか?」

 やはり人間のような手を持つ種族には理解して貰えないのだろう。爪は強力な武器であるとともに、友人や子供を傷つける凶器になりやすいのだ。

 

「ボクら竜人族の出生率は、ものすごく低いんですよ。寿命が長くて強力な肉体を持つ種族の出生率が高いと、人口が増えすぎてたちまち食糧危機になりますから」

 強力すぎる種族が世界を壊さないように、天上神ヘイブが采配したのかもしれないと考える。


(本当はその通りなのだけどね)


「なかなかに孤独な種族のようですな。あなた方が戦争を好まない理由は良くわかりました。これまでのあなたのご助力には感謝いたします。ここから先は我々の戦いです、あなたは戦いから離れた場所においでください」 

 二人はコタロウの話を聞いてため息をついた。強すぎる種族はそれだけで世界を危険に落とし込むことになるのだという事が理解できたようだ。そしてふたりはこれから戦いの場に赴くと言って去っていった。


 心ならずも医院長に踊らされてここまでこの戦いに関わる様々な行動を取ってしまったが、コタロウの役目はここまでである。

 願わくば誰も傷つかずにこの戦争が終わることを切に祈らずにはいられない。

 暖かな陽だまりの中でまどろんでいると、お腹の中の肉が消化され体中に魔獣細胞が満ちて来るのを感じて徐々に元気が出てくる。

 そのコタロウの前に大きな獲物をぶら下げたふたりがトコトコと飛んで来る。

 

「おにーちゃん、獲物取ってきたー」

 エルローンは足の下に獲物をぶら下げ、頭にカロロを乗せた巨人は腕の中に抱いている。なぜかエルローンとふたりで楽しそうだ。

 それをみたコタロウは、ああ、ボクがいなくてもカロロには何の問題もないのだな~、と思ってしまう。

 もうしばらくするとカロロは王都の大学に行き、エルローンの両親の巣で厄介になることが決まっている。カルカロスと王都の往復はエルローンがやってくれるだろう。

 少し早いがカロロがコタロウから離れる時が来ただけの事である。寂しくはあるがそれはカロロにとって必要な事なのだ。

 

「コタロウさんお食事をして元気が出ましたか?」

「おにーちゃん、しなびたお腹がこんなにふくれてるー」

「う~ん、お肉を食べたら元気になったよ~」コタロウはニッコリ笑って答える。

 

「無茶な事をしましたね、もうあんなことをしてはいけませんよ。エルローンさんも無事で良かったですね~」

「あーっ、医院長せんせー!」 

 センタースリットの修道服に身を包んだ医院長がこちらにやってくる。今日は裾をはためかせてはいない、なにがあったのだろう?

 

「何でしょうか医院長さん?あの龍神教と言うのは教皇さんよりも偉い存在がいる様な感じでしたが?」

「エルローンさん、争いを収めたいと言う行動は良いのですが、竜人族はなるべくそういったことからは距離を置くことが好ましい事はお分かりですよね」

「ごめんなさい。私は何か余計な事をしたのようですね?」

 竜人はその立場上あまり人間の悪意にはさらされてはいない。したがって人間は皆善人だと思っている所がある。

 

「現在、かなりの数の翼竜ヴリトラがエルメロス大陸侵攻を目指して集結しつつあります。それを阻止するためにティグラさんとリクリアさんは出撃していきました。ランダロールの戦艦もその迎撃に発進しました。いまこのルドルス城塞都市は無防備の状態にあります」

 つまり龍神の勢力が攻め込んでくる絶好の機会という事になる。

 

「しかし、その為の狼人族の部隊なのではありませんか?」

「相手が兎人族の部隊であれば全く問題は有りません」

「?、それではまさか医院長さんは…?」コタロウは目を丸くして立ち上がった。

「この都市を瘤翼竜ギガンドーグが攻撃してくるでしょう。そしてあなた達もその目標という事です、早急にこの場所から退避してください」

 

 珍しく真面目な話し方をする。頭でも打ったのだろうかと心配になる。

 

「医院長先生、どういうことですの?」

瘤翼竜ギガンドーグがボク達を狙って来るという事ですよ。すぐにこの場所から離れましょう」

「ふにゃーっ、それはたいへーん」

「何ですの?それはそんなに危険な物ですの?」

「全長200メートルの翼竜で人間並みの知能があります。僕らが戦える相手ではありません」

 お父さんの事件を噂で聞いていたのだろう、理解は早かったようだ。

 

「こちらの方でも対空監視を強化していますが、既に周辺空域の瘤翼竜ギガンドーグがこちらに向かって集まって来ているようです。時を置かずに攻撃が始まる可能性があります」

 エルメロス大陸とマリエンタールの狼人族の2面攻撃作戦らしい。

 

「医院長さんはどうされるおつもりですか?ここにいては危険ではないのですか?」

「な〜にを言っておられるんですか?私は神出鬼没、傲岸不遜、最強無敵で聖テルミナ病院の聖女と呼ばれているバルバラ医院長ですよ」

 いや、何を言っているのかわからないです。すごく大切なことを言われているような気がしますが、きっと勘違いでしょう。

 

「わかりました。カロロ、エルローンさん、すぐに避難しますよ〜」

「避難と言ってもどこに逃げますの?」

「僕らであれば何処に逃げても何とでもなりますから〜」

「おにーちゃん、力でないー、カロロが抱っこしていくー」

 グレイの巨人がコタロウを持ち上げる。

 

「え?…う、うん。わかった急いで行こう」

 まさかカロロの巨人に抱っこされて逃げる事になるとは思わなかった。あれ〜っ?子供に介護されるおじいちゃんの気分?


「れっつ、ごーっ。さっさと、にげるぞーっ」

 

    ◆    ◆    ◆

 

「まだ集結してはいないようだな」

 高度1万メートルを飛行中の艦橋の大型スクリーンに映し出された天上神ヘイブから送られてくる情報をみんなで見ていた。

 

「ああ、空中会合はそれなりの高度技術だからな、翼竜ヴリトラだけではとても出来るものじゃないさ」

 パイロットスーツに着替えたヒロとメディナも艦橋で状況を見ている。

 少し離れれば見つけることは出来ない。地上と違ってみんなが集まるまでそこで待っている訳にも行かないのが空中会合だ。

 

「じゃからグレイの巨人が飛び回って翼竜ヴリトラを集めているのじゃよ」

「まるで追い込み猟で獲物を追い込む狩人みたいな動きね」

「龍神様の下僕しもべを殺さなくてはならないのですか?」

 エンルーが悲しそうな声を出す。龍神教の司祭に裏切られたとは言え、信仰の対象である龍神に対する敬虔な気持ちはそう変わるものではない。

 

「エンルーさん、残念ですが翼竜ヴリトラはいずれ育って瘤翼竜ギガンドーグとなります。彼らが森林を食い荒らせば環境に大きな変化が出てしまいます」

 シリアもまた龍神教の教義で育てられた経験はあるが、台地から追放を受け長年のランダロールの生活で既に気持ちは龍神からは離れてしまっている。

 

「妾が管理をしておった頃はもっと少なめに誕生させておったのじゃが、龍神が誕生してからは自分の子供を増やしてしまいおってな、天上神ヘイブにいる管理頭脳エヌミーズも手をこまねいておる状況じゃ」

「それで?ワシらはどの個体から狩ればよいのじゃ?普通間引きと言うのは雄の成体と相場が決まっているんだが?」

 ガーフィーが艦長席から尋ねる。

 

「今回は逆じゃな、若い竜から優先的に狩ることになる。数は40頭と言ったところだな」

「翼竜というのは一体どんな生態をしているのだ?そもそもあんな巨大な生物はいったい何を食って、寿命はどのくらい有るんだ?」

「何しろあの大きさじゃ、瘤翼竜ギガンドーグになるのに500年はかかる。寿命はおおよそ1000年くらいじゃ」 

「取り込んだM型無機頭脳メルビムはどうなるんだ?」

「一応人目につかないように管理基地で回収してはいるが、再利用はせんな。破棄される」

 すると瘤翼竜ギガンドーグとしての寿命は500年くらいなのか?

 

「そういえば以前エルメロス大陸で瘤翼竜ギガンドーグを殺した時にM型無機頭脳メルビムらしきものが放置されていたな。あれは医院長が回収して破棄をしたようだが…横取りされたコタロウさんが泣いていたっけ」

「馬鹿をおっしゃいな、私がそんな非道なことをすると思っているのですか?ちゃんと回収して再利用していますよ」

「げっ!医院長いつの間に?」

 

 いきなり医院長が城塞都市と同じ様にスカートをひるがえして艦橋に現れたのでみんな絶句した。

「再利用?なにかに組み込んでいるのですか?」

 その衝撃に耐えて質問できたのはヒロが元人類宇宙軍だったからである。

 

『パイロットも最近は物事に動じなくなりましたね』

『俺も徐々にこの世界に毒されてきているからな』

 OVISとの、このやり取りももう慣れたものである。

 

「あのM型無機頭脳メルビムはあなた方とずっと一緒にいたではないですか。みなさんが乗ってきた馬車に移植してまだ生きていますよ」

 あれか〜、あのミサイルをぶっ放した馬車に移植していたのか。

「い、いや。医院長殿はマリエンタールにいたのでは無いのですかな?」

「な〜にを言っておられるんですか?私は神出鬼没、傲岸不遜、最強無敵の聖テルミナ病院の聖女、バルバラ医院長ですよ。皆さんの危機には決然として登場しますわよ」

 

 そういうのを総称して厚顔無恥の悪女とは言わないのだろうか?一瞬ヒロはそんな事を考えてしまった。

  

 この人は、この期に及んで自らが管理頭脳エヌミーズであることを隠すこともしなくなった。


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