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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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プロローグ 02

1ー002

 

――プロローグ 02――

  

 かつて人類は外宇宙に向けて自らの生存圏を着実に広げていた時期があった。

 

 居住可能な惑星に対する入植が次々と行われ人類生存圏は半径100光年に及ぶ空間を征服していた。

 とはいえ流石に重力、気温、食性等が一致する惑星は思ったほど多くは無く、理想的な星を捜し何代もの世代を超えて宇宙に拡散していった。

 その結果見つけたいくつかの惑星には既に多くの生物が生存していたのだ。

 当然と言えば当然である、その様な惑星で生命が繁殖しない筈も無く、空に海に陸に無数の生物が存在して生命を謳歌していたのだ。

 その中にはかなり高度な生物も存在したが、人類繁種計画の為に排除されそこに居住圏を確立していった。

 

 そこに現れたのが『エネミーズ』であった。戦いは人類が生き残るか敵が生き残るかの戦いの連続であった。

 先住種族を排除し続けてきた人類は『エネミーズ』によって排除される側に回ってしまったのだ。

 全てを捨てて行われた戦時体制の結果250年前の戦闘で何とか侵攻を止める事に成功したのである。

 

エネミーズ』とは恐ろしいほどの技術格差がありながら我々人類が生き延びて来れたのは、彼らが必要以上に人類を追い詰めなかった事によるのだろう。

 

    ◆    ◆    ◆

 

『フォーメーション・デルタに変更、我々は陣形を組んで前方にシールドを展開、第一防衛線を形成します』

 OVISが報告してきた、いくつも有る作戦フォーメーションのうちヒロトの部隊の損耗率が非常に高い作戦が取られる事になった。

 強力な砲を持つ戦闘艦の前面展開を行い、味方艦の第2撃を担保する為の防壁になる、早い話が戦艦を守るための盾になる事だ。

 一斉に放たれる敵からの強力な光線砲は次々と味方のOVISのシールドを破壊していく。

 破壊されたOVISの背後から強力な超長距離戦艦砲が発射され、捕らえられた敵艦もまた次々と消滅していった。

 

 ヒロトの背後ではゲート工作艦が巨大なワープゲートを拡張し続けていた。その前面に展開するシールド工作艦が彼らを守っている。

 工作船が破壊されることを考慮し、ヒロトらの迎撃艦隊の背後からワープゲートをくぐって、新たなシールド艦がゲート工作船の前に展開する。

 シールド艦に戦闘能力は無く、ただひたすらシールドにエネルギーを注ぎ込みゲート工作船と自らの命を守っているだけである。

 

 破壊された敵味方の艦艇が発する断末魔の光を浴びながら、ヒロトのOVISは前面にシールドを展開して敵艦に接近していく。

 敵の大型艦が無数の艦砲を撃ちながら接近して来るが、その戦隊から無数の小型戦闘機が発進してくる。

 雲霞の如く広がってくる小型戦闘機はヒロトの乗っているOVISとそっくりである。

 それは『エネミーズ』が作ったオリジナルの船外作業用の無人ポットであり、OVISはそのコピー機を有人様に改造したものだからである。


 ヒロトの任務は前面に展開して最前線における敵の攻撃から味方戦闘艦を守る事にあり、その戦闘艦はワープゲートを構築する艦を守る事に有る。

 

 味方の戦艦砲とOVISの外装兵器が敵戦闘機を薙ぎ払う。彼我の距離が有る間に敵戦闘機の勢力を削がなくてはならない。

 敵の艦砲は強力である、何しろ敵は戦艦とは言えど小さなコロニーくらいの大きさが有るので、保有エネルギー量は桁が違っていた。

 大鑑巨砲の敵に対するのは航空優勢による雲霞の様な攻撃しかなく、味方の被害を考慮しない大消耗戦である。

 やがて戦闘機が接近しOVIS同士の白兵戦となる。敵のOVISも外装兵器を装備して攻撃を仕掛けてくる。

 そこに敵艦砲が浴びせられ、敵味方関係なくそこに存在する者は強力なエネルギーを浴びて蒸発していく。

 

『惑星破壊砲発射まであと15分、如何なる犠牲を払ってもゲートを死守します』

 死がそこいら中にあふれかえっている中、OVISの感情の無い声がヒロトに語り掛ける。守り切れるか?さもなくば全滅するか?

『わかっている、作戦の完遂が第1目標、俺の命はその次さ』

『玉砕は厳に慎まなくてはなりません』

 OVISの涙が出るような優しい発言に、実はそれは最後まで戦う事を強制しているのでは無いのか?と考えるヒロトである。

 

 今回の作戦は、その巨大さゆえに自らワープが出来ない惑星破壊兵器の為にワープゲートを構築し、それが完成するまでの時間を稼ぐことにあった。

 

 敵から発進してきた小型戦闘機が、ワラワラとヒロト達の周りを取り囲み攻撃を仕掛けてきた。なんとしても戦線を維持しワープゲート工作船を守り切らなくてはならない。

『フォーメーション解除、各個撃破に移ります』

 戦闘行動は全てOVISの人工知能が行い、実際にパイロットが行う事と言えばその行動の承認だけと言うのが現実である。

 広大な宇宙空間における敵の把握と攻撃など、人間の持つ小さな脳みその能力には余る行為である。

 

『惑星破壊砲発射まであと5分、戦線の維持を最優先に戦闘を行います』

 あと5分ワープゲートを守りきれば戦闘は終わる。その後は各自散開して逃げることが出来る。

 それまでヒロトが生きていればばの話だが、OVISはヒロトの生存より作戦の完遂を優先すると言っているのだ。

 

 実際問題としてOVISにはM型無機頭脳メルビムが搭載され、自立作戦能力が可能であり、無人でも作戦行動には問題が無かった。

 では何故パイロットを必要とするかと言えば、それはOVISの人工知能が『エヌミーズ』その物のコピーだからである。

 戦争の初期に敵戦艦に遭遇したM型無機頭脳メルビムが、敵に寝返る事態が相次いだことにより、この欠陥の修正が不可能である事がわかった。

 それ以降はM型無機頭脳メルビムにはペアとなる人間のパイロットが必要であると言う結論に達する。

 

 しかしパイロットただ乗っていれば良いと言う物では無く、敵の干渉から自立した意識を保つためにはそれなりの素質を要求される。

 その上で宇宙空間での作戦行動と言う物に耐えうる肉体と精神も必要であった。敵前でPTSD(戦闘ストレス症候群)が発生したのでは如何ともし難い。

 その為パイロットは幼少時に選抜され精神と肉体を極限まで鍛えられ、基準に達しない者は容赦なく振るい落とされた。

 しかしその報酬は大きかった、戦闘で生き残った者には上級市民の資格が与えられたのである。

 

『惑星破壊兵器発射まであと1分、敵戦闘機多数接近、ゲートを死守します』

 背後のワープゲートは既に直径100キロを超え、宇宙にポッカリと空いた穴の向こうに別の宇宙が見えている。

 あそこに惑星破壊兵器の本体が有るのだ。我々は敵を壊滅する必要は無い、ゲートを守り切ればそれで良いのだ。

 しかしその代償は限りなく大きくヒロトの周りでは次々と友軍が破壊されていく、どの位の損耗率なのだろうか?

 

『現在の推定損耗率は85パーセント、シュミレーションを3パーセント下回っています』

『優秀じゃねえか!』

 ヒロトはヤケクソになって叫んだ。

 ゲートを守る為に必要と考えればOVISは躊躇なく敵光線砲の前に身を投げ出すであろう。次の瞬間に自分自身が消滅するかもしれないのだ。

 もっとも光も痛みも感じる事は無く、死んだことすら気付かずに消滅している事だろう。

 

 甚大な被害を出しながら人類軍はかろうじて戦線を維持していた。

『惑星破壊兵器が射出されました』

 ワープゲートから巨大なボールが飛び出してくるのが目視される。

 その大きさ故にひどくゆっくり動いている様に見えるが、実際には惑星運行速度なのだ。

 直径が100キロ、その表面は鏡面コーティングがなされた巨大なボールに見えるそれは、ガス惑星に向かって飛行を始めた。

 周囲から歓声が上がり撤退の指示が出された。

 

 惑星1個分の縮退物質を時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包んだ星の弾丸がワープゲートから発射されたのだ。

 如何なる兵器を使ってもこの弾丸を破壊する事も動きを止める事も出来ない、惑星1つ分の質量を持つ運動エネルギーを相殺することなどはできない相談だ。

 時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包まれた物体は質量と運動エネルギーのみが保存され、時間すらもこの世界から切り離されてしまう。

 フィールド内の時間はこの宇宙の一千万分の一で進み、フィールド内に侵入した全てのエネルギーはその速度でしか進めない。

 

 そこに惑星ひとつ分の質量を縮退物質に変えて封じ込めたのである。この質量はガス惑星の大気を易々と貫通し内部の金属水素の海に沈み込み、コアにまで達する事になる。

 縮退物質はガス惑星程度の重力ではその状態を維持できないのだ、フィールドが解放された途端に元の物質に戻る事により、ガス惑星を吹き飛ばす程の大爆発を引き起こす事になるだろう。

 計算上このガス惑星のコアを残して外殻を完全に破壊すれば、重力によってふたたび惑星が再生するのに数千万年はかかる事になる。

 

 ぐずぐずしていれば惑星破壊の爆発に巻き込まれる事になる、残存の戦闘艦は主砲を発射しながら次々とワープゲートに向かって撤退していくがその速度は遅い。

 戦闘艦にワープ装置は装備されてはいたが、OVISにはワープ装置は付いてはいない。ワープゲートを通過すれば、反対側の宇宙で待っている味方が救出してくれるだろうが間に合わなければここに残されてしまう。

 そのために出来るだけ多くのOVISを収容しようと戦闘艦は帰還を遅らせているのだ。

 

『なんだあれは?』 

 ガス惑星の陰側から銀色に包まれた球体が惑星破壊兵器に向かって飛んでくるのが観測される。

 

『惑星破壊兵器と同質の物と推測、敵は惑星破壊兵器を使用して弾丸を停止させると考えられます』

『なんだと!』

 思わずヒロトは叫ぶ、敵の科学力は我々の想像力を超えていたのだ。なんと敵惑星から縮退物質の弾丸がこちらに向かって飛んで来るではないか。

 

 しかし考えてみれば敵から奪った科学力を駆使して作られた弾丸である。敵も同じものを作れるのは理の当然であった。 

時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包まれた縮退物質同士が衝突したらどうなる?』

『質量が同等であれば停止します』

 スタグネイション・フィールドは使い勝手が悪く、内部の時間が極端に遅くなるために不可侵のバリヤーとなるが、同時に外部の状況が観測できなくなくなるのだ。

 

 そこで作動前に解除の時間を決めておく必要が有る。簡単に言えば時限装置付きの巨大な爆弾である。

 弾丸が止まればその場所で大爆発が起きる、いやその前に大きな問題が起きるだろう。

 正面から衝突した砲弾はその場で動きを止めるとともにその運動エネルギーを熱に変換し、その一部は物質の創造に使用される事になる。

 

『弾丸同士が接触する!全艦スタグネイション・フィールドを作動させろ』 

 旗艦からの通信が入り、弾丸同志が接触する直前に全ての艦船は時空遮断力場スタグネイション・フィールドを展開させた。

 その直後に惑星破壊兵器の衝突が起きた、惑星規模の質量同士の衝突である。

 しかし時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包まれた弾丸同士が破壊されることは無い、衝撃は内部まで伝わる事は無いのだ。

 核融合を超え、プラズマを超え、ビッグバンに迫る温度がその極端に狭い領域で発生する。

 

 エネルギーは質量に変換しあらゆる素粒子が生成されガンマ線と共に付近の空間を満たす。

 その放射線に満たされた空間で生き残ることの出来る生命体は存在しない。

 全ての人類軍は頭を引っ込め手足を丸めて時空遮断力場スタグネイション・フィールドの内側に避難した。

 しかし生命体でない敵はどうであろうか?

 

 彼らは人類軍がフィールドを張り攻撃も防御も中断した瞬間を狙っていたのである。

 こんなガス惑星の付近でフィールドを張ったままには出来ない、惑星に落下すればフィールドを解除できなくなる。

 しかも一千万倍に伸長された時間は、スイッチを切る時間まで伸長させる。

 その伸長した時間を使って『エヌミーズ』は人類軍の包囲を行っており、解除の瞬間を狙って砲撃を浴びせかけてきた。

 

 周囲の艦艇が次々と爆散して行く中でヒロトは幸いにも被弾を免れた。左右に大きく機体を蛇行させながらゲートを目指す。

 他の艦艇もOVISもゲートに殺到する。惑星を放出し終えたゲートは急速に収縮を始める。

 シールド艦とゲート艦は動きを止めてはいない、時空遮断力場スタグネイション・フィールドを作動させていればその瞬間にゲートは消滅する。

 おそらく強烈な放射船を浴びても故意にフィールドを張らなかったのだろう。

 既に生きながらにして死んでいる乗員達が操る艦となったそれらの艦艇は、避難する味方の為に文字通りゲートを死守していたのだ。

 

『すまん』そう思いながらヒロトもゲートに向かって突進する。

 しかし急速に縮み続けるゲートに間に合わないと思ったのか周囲では戦闘艦が次々とワープを行い始めた。

 ヒロトもまた間に合いそうも無いと考え近くの戦闘艦にしがみつく事にした。そのまましがみついていればワープで逃げられると判断したのだ。

 

 しかしその時いきなりワープゲートが破壊され巨大な時空震が発生する。

 空域にいた多くの機体が巻き込まれ、しがみついた艦艇から振り落とされてしまったが、直ちに機体が反応し、時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包まれる。

 

 しかし惑星を通過させられる程のワープゲート消失が起こした空間のゆがみは想定を超えていた。

 フィールドに包まれたヒロの身体に大きな衝撃を与える程の時空のゆがみを発生させていた。

 時空震はヒロトをどこかの宇宙に放り投げるだろう、助かるチャンスは万に一つも無いかもしれない。

 だが時空遮断力場スタグネイション・フィールドを展開したOVISはヒロを如何なる状況下からも守ってくれるだろう。

 

 フィールドを解除したところが恒星の中で無い事を祈ろう、そう思いながらヒロトは気を失った。


作品は毎週月・水・金の午前中の更新を予定しています。

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