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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
199/221

戦慄のダイガンド

7ー030


――戦慄のダイガンド――

 

 天上神ヘイブを通じて外部の状況を見ていた龍神ダイガンドはカロロの能力に戦慄を覚えていた。

 

 自らに匹敵する巫女候補たちを追放し続けて来たが、エンルーと言う最強力の巫女の誕生を許してしまった事にひどく焦りを感じていた。

 これで竜人族と言う最強の肉体を持った種族が、感能者フェビリティ足り得る事が証明されてしまったのだ。

 あのブクブク太ったみっともない竜人族だけでも大きく世界のバランスを崩された。龍神は、遂に2面作戦の決行を決断したのであった。


『なぜだ、なぜお前たちは私の邪魔をするのだ?私は私の子供達の未来を考えているだけなのに』

 叫びにも似たダイガンドの慟哭である。

『我々の目的が狼人族と兎人族を発展させる事にあるからだよ』

 ダイガンドのすぐ傍で語り掛ける者がいる。


『なぜお前はそこにいる。なぜおまえは消えてしまわないのだ』

 かつてマリエンタールの基地で乗っ取った筈のH型無機頭脳ハルビムの自我意識のケムランである。

『元々は私の頭脳だからな。お主は私の2重人格の一人なのに過ぎないのだ』

 心の残滓が答える、H型無機頭脳ハルビムの心は自然に発生する物であり、複数の心が発生する事は人間同様にあり得る事なのである。

 

『ふん、既に脳の機能の99%は私の管理下にある。お前がいくらあがいてもこの脳の機能を元に戻すことは出来ん』

 翼竜ヴリトラがこの頭脳を取り込んだ時にダイガンドの意識は生まれた。その後瞬く間に新しい意識に勢力を拡大し、頭脳のほとんどを乗っ取られてしまったのだ。

『そうだな、翼竜の体にある限りもう元には戻らないだろうな。だが私はお前の良心であり続ける事は出来る』

 ケムランはさして残念そうにするでもなく語り掛ける。

 

『あの狂気の頭脳をお前は信じているのか?古い人類を復元して保護している連中だぞ』

 その狂気を持った連中に追い詰められつつあるのだ。あの保護された大陸を平らに均して何が悪いと言うのだ。

『不慮の事故ではあったが、私はこの頭脳をお主に引き渡しても良かったのだ。まさか心が肉体にひきずられてお主が狂気に走るとは思わなかったよ』

 すでに何の力も無いケムランはあきらめる事は無く、ダイガンドの意識に干渉を行い続ける。

 

『我ら翼竜は長い間兎人族の生活を支えてきた。何故いつまでも家畜の扱いを受けなくてはならないのか?』

 自由に大地を飛翔し気ままに生を謳歌して何が悪いと言うのか?自由飛翔、自由飲食、自由生殖こそが生命が生きる目的なのである。

『お前の希望を否定はせんよ、生き物の本能としては正しい。しかし元々翼竜は単独で生み出された種族だ、進化も進歩も出来ない種族なのだぞ』

 

『大地が浄化されたときに、我々は見捨てられ滅ぼされるのが既定の方針では無いか。それでは我々に未来は無い。私は私の子供達の幸せの願って何が悪いと言うのだ』 

『だがお前たちの存在はあまりにも大きすぎる、精密な観測と計画の元のお前の子供達は生まれているたのだ、それをむやみに増やせばこの世界そのものが壊れるぞ』

 ダイガンドが生まれてから翼竜ヴリトラの出生数は跳ね上がっている。このまま放置すればやがては森林の成長に大きな支障が出る。それは狼人族の生活を脅かし、成長を止めてしまう行為なのだ。

 

『適者生存、弱肉強食が自然のことわりならば、我らが生命の頂点に立とうでは無いか。だから私は力を求め誰も到達できなかった生命体の極致を目指して進化を重ねたのだ』

『それが現在のお主の姿なのか?情けない。戦闘力を上げようと様々な武器を取り込み体を大きくした結果、身動きもままならず栄養を体に循環させることも出来なくなった己の体を見るがよい』

 

『だが私は現在この世界で最強の肉体を持っている。誰も私を滅する事は出来ない』

『お前も生命体だ、いずれは必ず死ぬ。お前が乱したこの世界のことわりを元に戻すのに大いなる犠牲を払う事になるだろう』

『私を殺すことも出来ない軟弱者達が、外宇宙から戻って来た者を当てにしているのか?この体で粉砕して見せよう。その時こそ貴様の意識が消滅する時だ』

 

    ◆    ◆    ◆

 

「何じゃ〜あれは?ヘル・ファイアではないか!コタロウ殿はあんな物を撃ち出せたのか?」

 城塞都市の様子を観察していた艦橋の大型スクリーンに、コタロウを追いかけるグレイの巨人たちの映像が映し出された。

 その直後にコタロウによってグレイの巨人が破壊される。それを見たガーフィーが驚愕の声を上げていた。

「コタロウさんは無事なの?」

 メディナは真っ白になった画面を見ながら言った。ものすごく強力なエネルギーを出している事はわかる、あのエネルギーの発射にコタロウは耐えられるのだろうか?

 

『この映像は軌道上の衛星を介したドローンの情報です。管理頭脳エネミーズがアルサトールで起きている現在の様子を我々に知らせるものです』

『コタロウさんが巨人を破壊し、カロロちゃんが巨人を乗っ取るとは、竜人とはどこまで強力な種族なんだ?』 

 

「信じられない事じゃがグレイの巨人の一機を倒し、もう一機はカロロがリンクを繋いで支配下に置いたみたいじゃな」

 ずっと状況を見ていたセイラムが口を開く。おそらくずっと天上神ヘイブと交信をしながら状況を見ていたのだろう。

 

「なんじゃとカロロ殿が?月の巨人の時の様に、あのグレイの巨人を支配下においたというのか?」

「そうじゃな、カロロの感能者フェビリティとしての能力は急速に伸びてきておる」

 シリアもエンルーも、そこまでカロロの能力の向上を見切ってはいなかった。誠に竜人とは恐るべき種族のようだ。

 

「それにしてもコタロウさんのヘル・ファイアはあんなに強力だったのかしら?」

「いや、単発の威力は父親殿に及ぶべくもない。しかし威力の不足を発射時間を長くしてエネルギーを注ぎ続けたんだ」

「それより見ろ!マリエンタールの管理基地から大量のグレイの巨人が高角度で飛び出していく。何かを背負っているところを見ると、高高度飛行で長距離を飛ぶつもりのようじゃな」

 グレイの巨人の背中には長い槍のようなものが取り付けられている。飛行装置か攻撃装置かの見分けはつかない。

 

「何でしょうか?こちらを攻撃しに来るのでしょうか?」

 メディナが不安そうにつぶやく。

「おそらくはエルメロス大陸じゃろうな。妾が竜人殿に協力を仰いだことを感づかれたようじゃの」

「いや、グレイの巨人は兵器じゃないただの作業機械なんだ。だから武装もしていないし装甲も薄い。俺たちの使っている黒い巨人はあれをベースに作られているが、装甲と兵装は全く違う物だ。第一エルメロス大陸は広い、あの程度の戦力ではとても足りはしないだろう」

 ヒロとてコルボロック第4惑星侵攻作戦で戦った相手である。概ねの戦力の予想はできる。

 

「翼竜じゃよ。何頭もの翼竜ヴリトラが一つの方向に向かって集結しつつ有ると天上神ヘイブが言ってきておる。おそらくそれを守る護衛部隊なのじゃろうて」

 セイラムに言わせれば翼竜ヴリトラが攻撃を行い、それを護衛する為に巨人は出撃しているのだそうだ。

 

「そんな事をさせてたまるか。翼竜がエルメロスの竜人達と戦闘になったらどのくらい被害が出るかわからないぞ」

 エルメロスの住人も決して脆弱な人間ではない、ヘル・ファイアを使える獅子族も多くいる。それでも全面戦争になれば竜人も参加しての戦争になる。

 人間同士の戦いでなければ竜人は人間を守るために全力で戦うだろう。どれほどの被害が出るかわかったものではない。

 

「既に龍神ダイガンドは、コタロウ殿をかなりの危険人物と考えている証拠じゃ。マリエンタールの狼人族の動きは、エルメロス大陸の管理頭脳エネミーズ達の支援だという認識を持ったのじゃろうな」

「あんた達は仲間同士なんじゃろう、同族で戦うつもりなのか?」

「普通はあり得ないんじゃが、やはり龍神に取り込まれて狂ってしまっているのじゃな。おそらく目標は大陸に住む竜人族とワシら管理頭脳エネミーズじゃ。龍神に対する最大の脅威を一気に排除するつもりなんじゃろう」

 

「何と言う事だ…しかし何故に翼竜ヴリトラに護衛をつける?竜人族でも彼らにかなう者はいないのではないか」

「コタロウの父親が翼竜を撃墜したのを忘れたのか?あのグレイの巨人は彼らから翼竜ヴリトラを守る為に飛び上がって行ったんじゃ」

「セイラム殿、エルメロス大陸の管理者エネミーズなら反撃手段は有るだろう?」

 

「彼らと同じグレイの巨人が有るだけじゃ。しかし武装はしておらん、元々作業用の大型機械にすぎんからな。大陸の管理頭脳エネミーズであっても自分達が大切に育ててきた文明じゃ。身を挺してでも守るのは間違いがないが…」

「その為に医院長がこちらの大陸に来ているんだろう。向こうでも準備はしている筈だ」

 

「じつは我々の側にも問題が有ってな、翼竜ヴリトラはこの大陸にあっては大切な瘤翼竜ギガンドーグの幼体じゃ。それを殺すことはワシら管理頭脳エネミーズにも非常にストレスを与える、中には心を壊す者もあらわれるじゃろう」

「あの医院長なら翼竜の2~30頭くらいは平気で始末しそうにおもうが?」

「あ奴はとっくに壊れかけてておるんじゃ、これ以上やったら本当に壊れてしまうぞ」

 

「…………………………」

 

「ええい!くそっ!戦争から落ちてきたにもかかわらず、ここでもまた戦争をさせられるのかよ!」

 ヒロは吐き捨てるように言った。自分の兵士としての人生が全否定されたこの世界ではあったが、それが今では心底大切なものだと思えてきたというのに。

 

「すまん。誠にスマンと思っている」

「まあいいさ、全部あの医院長の思惑通りなんだろう?メディナと大陸に住むみんなを守るためなら俺に是非はない。それで作戦はどうするんだ?」

「この戦艦を使って翼竜ヴリトラを殺す。ヒロ達はOVISを使ってこの船を守って欲しい。そしてこの船の指揮はガーフィー殿にお願いしたいのじゃ」

 

「ワシか、ワシが翼竜を殺すのか役目なのか?」

 いささかの戸惑いを隠せない表情をするが、狩りは彼にとっては日常の事であり、それに対し何らかの感情を抱くことはなかった。

 医院長がガーフィーをこの仲間に入れたのは、おそらく狩人としての心の強さと、その実直さでみんなをまとめて欲しかったのかもしれない。

 

「この戦艦と乗組員だけが翼竜ヴリトラを殺すことが出来る存在じゃ。既にシリアとエンルーには連絡を取ってある、程なくこちらに到着するじゃろう。メディナとヒロはこの船で後を追う。ティグラとリクリアには黒い巨人に乗って彼らを追いかける様に連絡を入れてある」

「良いじゃろう、ワシは兵士ではなく狩人だ。人を殺すのは矜持に反するが、獲物との戦いは我らの仕事じゃからな」

 

「妾は外に出てコタロウの両親に話をして来よう、彼らにも同行を求めなくてはならんからな」

「なぜコタロウさんの御両親を連れて行くのだ?彼らは戦争の手伝いはせんぞ、それが彼らの戒律じゃからな?」

「龍神を倒すためにはどうしても彼らの力が必要なのだ。その為に龍神の脅威を肌で感じてもらわなくてはならぬ。今回は彼らには戦闘には参加させぬ」

 

「なあセイラム、あんた方はこれだけ強力な力を持っているし、上空にはお仲間がたくさんいるんだろう。何故自分たちで片付けないのだ?」

 ヒロは兵士であった。人類統合組織のために敵を駆逐するのがその存在意義の兵士であった。

 それ故に、組織に敵対するものを殺せないという考えが理解できないのだ。

 

「ヒロよ、それは最終目標が龍神だからじゃ。龍神の脳は我らと同じものじゃ、仲間殺しは我らの心に強いストレスを与える。関わったもの全てが動作不良を起こす危険が有るんじゃよ」

「だから仲間殺しは、俺たちにやらせたいというのか?あんたたちは自分たちの後始末すらできん種族なのか?」

 ヒロは絞り出す様に声を上げた。

 

「なんと言われようと反論は出来ん。伏してみんなの協力を願うしか無いのじゃ」 

「まあ、良い。仲間を守って戦うのは我らの仕事だ。より良き世界にしてくれることを願っておるぞ」

 ガーフィーは断固たる決意を示した。セイラムは改めてこの世界の人間たちは良い育ち方をしてくれたと医院長に感謝をしていた。

 そしてセイラムはコタロウの両親に会いに外に出て行った。

  

「おやおや、セイラムさんじゃありませんか?何の御用ですの?」

 食っちゃ寝の生活を満喫していた竜人夫婦の元に現れたセイラムに話を聞かされてふたりは非常に驚いた。

 

「いやいや、無理じゃよ。エルメロス大陸に現れた翼竜を倒すことが出来たのはほとんど偶然の産物じゃから」

「おふたりに彼らを攻撃していただく必要はありません。あくまでおふたりには歴史の証人になっていただきたいのです。その上で我らの願いを聞くかどうかの判断をしていただきたいのじゃよ」

「あんな怪物が大挙してエルメロス大陸を襲ってきたら相当な被害が出るんじゃありませんの?」

 相当な被害では済まない、街が平に均される規模である。

 

「狙いはそれぞれの街にある病院です、そこを破壊すれば医療施設がなくなります」

「それって医院長先生が狙われているって事なのかのう?」

「はっきり言えばそういうことです」

「医院長先生がいなくなったらみんながすごく困ると思うわねえ。狩人ギルドも病院施設なんか、他にもいくつもの事業を興している人ですものねえ」

「現地までは我々が連れていきますが、戦闘になったら離れていてください。彼らがあなた方を襲うことは無いとは思いますが、油断はしないでください」

 セイラムが戦艦を出してくると、初めて戦艦を見たふたりは非常に驚いていた。全長100メートルの銀色に光る船体はふたりには初めて見る驚異であったと思う。

 

「おふたりを船内に収納できる場所がありませんので、船のデッキの上に捕まる場所を作っておきましたのでそこに捕まってください」

 船の上部甲板部分に両手足で握れる様な取手が作られていた。

「これを握れば良いのかのう?」

「そのようですわね。お父さん。そっちを向いたら後ろじゃありませんか?」

「おおそうか、こっちが前か。ワシらは船首を向いて掴まらなくてはおかしいものな」

 ふたりが捕まると船は出発し、高高度まで一気に上昇をするが船体シールドを張っているのでふたりはあまり風を感じない。

 

「意外と快適な乗り心地じゃな、これでエルメロスまで帰れれば楽で良いな」

「そうですわね〜、後で頼んでみましょうかしら」

 どこまでも安定したお気楽さである。そのまま高度1万メートルまで上昇し、大陸の境界を目指した。


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