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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
184/221

ランダロール戦士達の帰還

7ー015


――ランダロール戦士達の帰還――


「あら〜、こんなところに神殿が有るじゃありませんか~」

 

 ドームの壁に半分埋め込まれた戦艦の周りを見て回っていたシリアは、その横にランダロールと同じデザインの神殿が作られているのを見つける。

 神殿の奥には女神の椅子が取り付けられていた。

 

「これは?もしかしてここにも女神様が降臨なさるのかしら?」

「はいはい〜、女神さんで〜す」

 軽いノリで女神が勝手に降臨してくる。

 考えてみれば女神もこの基地も、同じ管理基地のM型無機頭脳メルビムが管理しているのである。女神が出てきても不思議ではない。

 

「あんたもずいぶん軽いキャラに変わってないか?」

「いいえ〜っ、その節は市長が、ご迷惑をおかけしました〜。ちゃんと説教をしておきましたから〜もう大丈夫ですよ〜、多分…」

 いや、いくら説教をしても政治的立場が有るから、そっちのほうが優先されるだろうけどな。

 

「それはご苦労様でした。お陰さまで私も月に行って来れました~」

 実に嬉しそうに女神と話すシリアである。まあ結構付き合いの長い両者ではあるみたいだし。 

「は~い、それは天上神ヘイブから伺っています、良かったですね〜」

 まあ天上神ヘイブは女神の上司だからな、情報は常に送られてきているのだろう。

 

「私はこれから街に戻って月で仕入れた本を納品したいと思います」

「仕入れたんですか〜?月面都市の月神ムーは違うことを言っていたようですが〜」

「それは月神ムー様の勘違いです」

 有無を言わせずあっさりと切って捨てるシリア。うん、強い。

 

「私も手伝いますから、一緒に図書館に行きましょうか」

 荷台に山積みされた本を押してくるガルガス、そんなにかっぱらってきたんかい。

「それなら私の後ろにある転送機からランダロールの神殿にいけますよ」

「まあ、それは助かりますね〜」

「俺たちも一緒に行きます。市長には一応報告しておかなくてはなりませんから」

 ヒロとメディナも同行することにした。

 

「ワシらも村に行って報告をしてくるよ」

 既に化粧を落とし、ドレスを脱いでいつもの姿に戻ったティグラがエンルーと一緒にやってきた

「オーッホッホッ!私の馬車でお送りいたしますことよ~」

 またコイツは出しゃばってきたな、あっちで騒動を起こすなよ。村の方にはティグラ、リクリア、エンルーが行くことになったようだ。

 

「リクリアが行くならワシも行くぞ」

 ガーフィーも同行するらしい。いささかセオデリウムの心配があったが、2~3日なら医院長は大丈夫だと言っていた。

 ガーフィーはリクリアに、あのドレスを着ていかないのかと聞いていたようだが蹴り飛ばされていた。早くも夫婦としての優劣が見え始めているようだ。

 ヒロたちは女神の裏にある転送室に入ると、ランダロールの神殿の裏に転送された。

 

「うえっ、何だこりゃ?」

 女神の椅子の前に積まれた本の数、ガルガスとふたりで持ち出したものらしいが、山積みになっている。

「なんてことするんですか、女神様〜っ!」

 シリアさんが涙目で女神に抗議をしていた。ガルガスによると1割くらいの本が転送されなかったらしい。

 

「ですから〜、科学、技術書は〜、時代に合わないものは持ち込みは禁止なんですよ〜」

 なんとなく状況はわかる、天上神ヘイブの基本は住人の自立進化だからな〜。余分な事を教えて創意工夫をなくしてしまってはいけないのだろう。

「そのかわり、文学と哲学書や歴史書は問題ありませんから〜」

 医院長は約束通り月の書籍データーの送信は認めてくれたらしい。しかし科学と技術の本は同じ様にだめだと言われたそうだ。

 世の中に存在する便利なものは、自分で工夫して作らなくちゃいけないということなのだ。

 

 哲学書、思想書なんてものは何千年経っても意外と変わらないものだ。孫氏の兵法やソクラテスの思想書などが作られたのは紀元前500年頃だが、現在でも読まれている。

 だがなぜそんな事をするのだろう?ランダロールには近代科学で作られた物が大量に使われているだろうに。

 シリアさんはブチブチと文句を言っていたが、みんなで車に本を乗せて図書館に運んで執務室に積み上げたらニンマリと笑っていた。

 

「これからゆっくりと整理をしていきましょう。それじゃ市長さんの所に挨拶に行きましょうか?」

 これまで仕入れて来た情報を伝えなくてはならない。みんなで市長の部屋に押しかけた。

  

「これは、これは皆さんご無事で、月旅行はいかがでしたか?」

「かなり微妙なところでしたが、この星がかつての我々の母星であることがはっきりしました」

「そうですか、これまでにも女神様はこの星の滅んだ文明の遺産だとする考え方がありましたが、それは事実だったのですね」

 

 やはり市長も、女神のことをその様に考えていたようだ。

 女神の存在が人類の遺産であれば、ランダロールの住人の月への移住も視野に入れられると考えているのだろう。

 ロージィたちは叱責を受けた様だが、街の活動を止めるわけにも行かず結局は別の部署に移動して仕事をしているらしい。

 まあ、本当の状況を知った時にどのような考え方が出来るか?だろうな。

 龍神教の事はまだ話すことは出来ない、『エヌミーズ』の事はなおさらだ。直接ではないにせよ、2000光年先で戦ってきた連中である。

 現在は彼らに保護されているという状況を知らせるのはまだ早いだろう。

 

「市長の個人的見解としては、ここを出たら月面都市への移住を希望しますか?それともエルメロス大陸への移住を希望しますか?」

 月面都市の写真を見せ、状況を説明したので、月面都市での生活はこのランダロールの生活と何も変わらないということは、理解できたようだ。結局コンピューターの管理下の生活になることには同じなのだから。

 

 エルメロス大陸に関して言えば、機械装置関係の一切の持ち込みは出来ない旨の事を告げられて、かなり落ち込んでいた。

 機械や武器の優位性がなければ、体力で劣る大陸の人間に太刀打ち出来ないからだ。

 無論この世界の農業技術や道具の支援はされる事は告げた。それでもある程度の期間で独立しなくてはならない。

 

 あるいは保護区のような場所を作って、そこで生活することは可能だと話をしたが、それは動物園の生活であり、それもまた現在の状況と何ら変わることはない。

 3000人の市民の命をあずかっている市長としては軽々な判断は出来ないのは仕方がない。せっかく戦争から逃れてきたのに全くの行き詰まりの状況なので天を仰いでいた。

 

 とりあえずヒロはドッグに戻ることにした。壁を隔てた隣にランダロール市民は住んでいるのだが今は秘密だ。 

「シリアさんはここでお別れしますか?」

「いいえ~っ、せっかく歴史の転換点にいるのですよ~。これを見逃す手は有りません。戦艦のムーリアさんともせっかく仲良しになったんですし、最後までお付き合い致しますわよ」

 もっとも戦艦の修理が終わるまでは、図書館で今回仕入れてきた本の整理を行うと言って戻っていった。

 シリアさんに関しては今回の龍神騒動を最後まで見届けるつもりらしい。多分回顧録でも書きたいんじゃないのかな?

 

 ガルガスはそれまでの間ランダロールの街を見て回るつもりだと言っていた。

 彼は龍神の事が片付いたら、シリアさんとこの街に住むのも悪くないと考えているようだ。結構シリアさんのとは気が合う様に見える。

 

  *  *  *

 

 医院長の馬車にみんなで乗って出て行く。外に出てみると出口は神殿からはかなり離れていることがわかる。

 戦艦を人目に付かずに出入りさせなくてはならないのだ。だから台地ダリルが入ってこない山奥でなくてはならないためだろう。

 それでも道らしきものは出来てはいる、あまり使われた形跡はないので極めて馬車の乗り心地が悪い。頑張れ!8輪操舵、8輪駆動。

 

「ベギムの村にはシャーマンを通じて連絡を入れてある。さっき連絡が有ったが何でもコクラム台地の後処理の事で、今は大酋長グレ・シェリク訪問を受けているらしい」

「おばば様、どのような要件なのでしょうか?」

「あまり詳しくはわからん。村に残ったシャーマンではワシとエンルー程に、込み入った事を自由に話せるほどの能力では無いしな」

 交感フェビルで通信機のように自由に会話が出来るのは相当に高位の巫女だけなのだ。

 

「その台地と言うのは翼竜を使って村を攻撃したとかいうやつなのか?」

「そうじゃ、10人のアー族が死んだ、そのお返しに大酋長グレ・シェリクが狩人250人を率いて台地を襲撃したのじゃ」

「戦争か?…狼人族は台地の兔人族を殺したのか?」

「幸い双方に死者は出なかった。大酋長グレ・シェリクが殺害を禁じたからじゃ」

「狼人族とは随分と寛容な種族なんだな」

 

 ガーフィーが感心していたのは、魔獣との戦いは常に相手を殺す戦いであるから、殺さない戦争はしたことが無いのがエルメロスの狩人である。

 

台地ダリル無しには我らの生活は成り立たん、大地グランダルの資源なしには台地の生活も成り立たぬ。お互いに殺さぬことが復讐の連鎖を起こさない先人の知恵なのじゃ」

「しかし仲間を殺されたのではないのか?」

 人間を殺した魔獣は逃す訳にはいかない。人間の味をしめた魔獣は殺さない限りまた人間を襲うからだ。それもまた狩人の考え方である。

 人間同士の戦争が無いが故に、ガーフィーには戦争における殺し合いの意味が掴めていないのだろう。

 

「神官たちは両足を切り落とされた。狼人族の処罰方法じゃ」

「はて?兔人族は竜人族と一緒で切り落とした手足は生えてくると聞いているが?」

「生えて来るにしても、相当に痛いしそれまで非常に不便な生活を余儀なくされる。お主は両足を切り落とされたいかね?」

「まあ…できれば御免被りたいものだな」

 

台地ダリルはそれ自身が強力な武器でも有る、我らが村を根こそぎ破壊し尽くす事ができるのじゃ。一度コースを決めれば後戻りはできぬ、その代わり到着までには相応の時間を要するわけで、その間に狼人族の襲撃を受けることになる」

「戦争をする意味など無いということであろう。ではなぜダイガンドはエンルーを殺そうとしたのだ?」

「あの子の感能力フェビルがダイガンドを上回ったからじゃろう。そうなれば翼竜たちの支配を奪われることになる」

 

「我らの大陸では竜人族無しに街を成り立たせるのは難しい、それ故に我らは竜人族を隣人として遇している。彼らが我らに与えてくれる利益に対して、それなりの対価を支払っている。

 不死身の彼らは神にも等しい存在だが、彼らは崇められるよりも友人を求めている。人は一人では生きては行けないものなのだからな」

 逆に言えばある程度以上に街が大きくなった場合、街にいる狩人だけで大型魔獣被害は抑えきれるようになる。

 すべての街がそうなった時、竜人族の居場所は残るのだろうか?そしてそれは果たして遠い未来の話なのだろうか?

 

 やがてみんなを乗せた馬車はべギムの村に到着をした。

 集会室跡のテントに行くと村長達が待っていた。その中にひときわ大柄な狼人族も混じっており、左手に怪我を負っているらしく手を吊っている。そして兔人族の壮年の僧兵がひとり混じっていた。

 

「おお、ティグラにエンルーおかえり。天上神ヘイブの用件は済んだのかな?」

「はい、村長様。これらの仲間とともに天上神ヘイブのもとに赴いて参りました」

 そう言ってティグラは仲間をみんなに紹介する。 

 狼人族を初めて見たガーフィはその大きさに対し鬣を立てていた。まあ獅子族の本能だろう、それだけ相手の実力が見抜ける人間だという事だ。

 酋長ゲルドのボロックもガーフィーの戦闘力を感じていたのだろう、お互いに目を合わせた途端に牙を剥きだしてしまい、ティグラに注意されて慌てて牙を収める。

 

「オーッホッホッホッ!皆さん元気が良くて結構でございますことよ~」

 けたたましい狂笑にあっけにとられて医院長を見るボロック、流石にバオ・クーは全く心が揺らぐ事はない。

「ティグラ殿、こちらの兎人族の女性はどなたでしょうか?」声を潜めて聞く。

「コタロウの住む大陸の医者じゃ、単独で大型魔獣グリックを『撲殺』の魔法で倒した実績がある。序列勝負ガントなど挑むでないぞ」

「む、無論です。兎人族に序列勝負ガントなど挑みませんとも」 

  

「隣の大陸に住む種族で、獅子族のガーフィー殿、兔人族のリクリア殿、兎耳族の医師のバルバラ殿じゃ」

 医院長は仮面を外してニッコリと笑う。なぜかみんな引いていた。 

「今回の台地の遠征の指揮を取られた大酋長グレ・シェリクで、タング村のバオ・クー殿です。そしてコクラム台地の僧兵長ゼンガー殿。こちらが我が村の酋長ゲルドであるボロック、私は村長シェリクのゲルツです」

 

大酋長グレ・シェリク様、先般の遠征の折には皆様の案内の一助を担わせていただきました。双方に犠牲者を出すこと無く事を納めて頂いたことに感謝致します」

 膝まづいて犠牲者を出さない戦闘を行った事に礼をするエンルー。幼いながらしっかりとした巫女の挨拶に、大酋長グレ・シェリクも居住まいを正す。

「う……うむ、貴殿らの適切な案内によって無駄な戦闘をおこなう事無く攻略が出来た。シャーマンのみんなの尽力に対し、礼を言わせていただく。

 それで、コクラム台地の事後処理に関してなのだが、台地との話し合いがついてな、これから酋長会議ジャバッタにおいて連絡を行わなくてはならん」

 

 バオ・クーは現在の台地の状態について説明をした。台地は現在も神殿の秩序は保たれており、10名程の狼人族の狩人とシャーマンが残っているそうだ。

 現在は、通信管制官のレングリアが台地の運行を行いながら、政務を代行しているようだ。

 実際はそれだけでは足りず、神殿長や巫女長は足を切られて、当分歩くことも出来ないものの、その姿のまま決定権を持たない執務を行っているらしい。

「まあいずれは生えて来るから心配することは無いがな、精神的ショックは激しかったろう」

 

 狼人族に蹂躙されながら死者を出さなかったことにより、狼人族に対する恐怖はだいぶ和らいでいるらしい。

 しかも、これまでの御三家による巫女の放逐の事実が露わになり、神殿長の権威は失墜した。それが巫女システムのレベルの低下をもたらしていることが顕在化してしまった。

 一通り状況の説明が済んだ所で僧兵長のゼンガーが今後のことを話し始める。

 

「そこでエンルー殿に巫女長として巫女の業務を行って欲しいのです。神殿長に関してはティグラ殿が就いて、エンルー殿が一人前になるまで見守って欲しいとの事です」

「私が巫女長に?」

 少なからずエンルーは驚いていた。台地から放逐され狼人族の中で生きていく覚悟を決めた娘なのである。

 

「その上で各地に放逐された巫女候補達のうちの希望者を台地に戻したいと考えています。エンルー殿程の能力ならばそれも可能だと思っているのですが」

 御三家ににらまれ暗殺の危機を救ったのはこのゼンガーである。信頼はしているが、これまでの状況があるので不安は拭いきれない。

「我ら僧兵部隊が身命を賭してあなた方をお守り通します。ぜひ我らの台地をお救いください。この通り伏してお願い申し上げる」

 

 ゼンガーがエンルーに対して平伏をして嘆願する。


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