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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
177/221

神殿のトンネル

7ー008

   

――神殿のトンネル――

 

「おやおや、ティグラが威嚇オーラを全開にしてしまっているぞ」

 セイラムが艦橋で愉快そうに話す、コイツも本体はH型無機頭脳ハルビムなんだよな。

 

「オーッホッホッホッ!余程腹に据えかねたのでしょうね~、リクリアさんも同じように怒りの感情を振りまいていますわよ~!まあ、リクリアさんも似たような経験をなさっていますからね~」

「医院長、セリフの頭に狂笑を入れるのはいい加減に控えんかね?」

「オホホホ、だってそうしないと私の発言だとわからないじゃないですか~」

 

「「「…………………………」」」

 

「シリアさんの様に交感力フェビルの力の強い人は、感能者フェビリティでない人の心にまで干渉できるのですか?」

「そうですねえガルガスさん、でもそれは感能者フェビリティとしては慎まなくてはならない行為でしょうねえ。お二人とも余程、怒りの琴線に触れる事が有ったのでしょうか」

 

「おふたりとも交感力フェビルが強いがゆえに台地ダリルを追われ、狼人族の村で育てられたのでございます。その村が翼竜ヴリトラの攻撃によって死者まで出したので御座いますから、おそらくリクリア様にも同じような経験が有るのだと思います」

 エンルーの目から涙があふれ頬を伝って流れ落ちた。

 

「ああ、エンルーさん。つらい記憶を思い出したのでしょうね、大丈夫ですよ、コタロウさんがおられます。きっと皆が良いようになることが出来ますとも」

 シリアがエンルーを抱きしめる。

 自分を守って死んだバンカー、そして村の為に自らの死を覚悟したエンルー。このまだ幼い娘が見てきた光景は、決して軽い経験では無いのだ。

 

「だが丁度良いじゃろう、彼らが気を取られている間にドローンでの調査を進められるでのう。出来るだけ彼らの気を引いてもらいたいものじゃ」

「あんたも相当な現実主義者じゃな、リクリアは大丈夫なのか?あんな敵に囲まれた状態なんじゃぞ」

「問題ございません事よ~。コタロウさんがおりますし、後ろにはOVISが控えておりますからね~」

 ガーフィーにとってはリクリアの事が第一で、自分が守る事の出来ない今はさぞストレスの溜まる状況なのだろう。

 

 愛されているな~、リクリアさん。

 

「それにしても情けが無いのう。あの教皇も神殿長も感能者フェビリティとしての能力はティグラ達よりも低いのではないか?エンルーとは比べるべくもない、あんな連中が龍神教の最高司祭なのか?」

「元々台地ダリルシステムは感能者フェビリティの存在が不可欠ですし、能力者を育てる修練の場として存在していた筈なのですがね。龍神の登場で強力な感能者フェビリティを排除する場所になってしまったのですね」

 

「ヒロよ、なぜそんな事になってしまったのだ?台地ダリルの操縦や位置の掌握の為には必要な人材だったのではないのか?」

 ガーフィーの疑問はもっともな物であった。狩人としてみれば個人の索敵能力が高い方がチームを組むうえで有利に働くのは言うまでもない。能力の高い者は喜ばれる資質なのである。

 

「最大の原因は龍神ダイガンドに取り込まれたH型無機頭脳ハルビムが、自分の能力を超える感能者フェビリティに脅威を感じていたからです。感能者フェビリティとは思考能力の有る頭脳に干渉出来る能力の事なのですよ。

 脳内チップはその能力を増幅する装置なのです。ですから自我の弱いM型無機頭脳メルビムH型無機頭脳ハルビムの干渉を簡単に受け入れるのです」

 

「それが黒い巨人にパイロットが必要な理由なのか。だが理解出来ん、いくらダイガンドが望もうと何故人間がそれに従わねばならん。高い能力者は社会にとって必要なのではないのか?」

「オホホホ、社会制度が進化すると、自らの立場を守る為に他人を蹴落とす様になるのですよ。カルカロスの狩猟チームにも全く無いとは言えないでしょう?」

 

「ま、まあ……様々な摩擦は生じるな…そのためのふんどし祭りがあるのだが…」

「狩人としての能力ではなく、喧嘩の強いものが人の上に立つのですか?狼人族にも序列勝負ガントという習慣が有りますが、実際はもっと柔軟に扱われていて、人望の無い人間は寄ってたかって蹴落とされますから」

「そうなの…か?」

「それが無ければ、能力の有る人間ではなく、能力が低くても他人を平気で貶められる人間が上に行くのですよ。これは社会が成熟していくと必ず起きる事で、仕方のない現象なのですよ~」 

 医院長の言葉にガーフィーは不快な感情を示す。能力主義の狩人には唾棄すべき人間関係なのである。

 

「仕方のない事では無いと思うのだがのう」

「いずれにせよ状況は逼迫していておる。ヒロとメディナは直ちに発進し3人の脱出の支援に当たれ。出来得る限り人的被害は抑えるようにな」

「「了解」」

 

 2機のOVISは戦艦を離れマリエンタールに向かって飛行を始めた。

 

  *  *  *

 

「成程、教皇殿は自分の意に沿わない狼人族の村を、翼竜ヴリトラを使役して襲ったと言われるのですな」 

 ティグラとリクリアは強い威嚇オーラを発しながら話を続ける。 

 教皇も神殿長もそれなりの能力は有る様で、威嚇オーラを当てられながら平然としている。

 護衛の衛士や周囲の僧侶は一瞬は威嚇オーラに怯んだもののすぐに立て直して手を前に出して、魔法による反撃の意思を示している。

 

「どうするの?おにーちゃん。あいつらぜんぶ、ぶっ飛ばしていーい?」

 やめてカロロちゃん、お願いだからこれ以上過激にならないで。 

「対応はティグラさん達に任せましょう。何かあれば僕や巨人さんのシールドも有りますから~」

 完全に手詰まりで動くに動けないお兄ちゃん、あっさりと対応を放り投げる。

 

「いや、我らはダイガンド様の僕であり、その意志によって動くのが、我らの生き方である」

「その為には、あなたよりも優秀な巫女候補の多くを台地から放逐させ、あまつさえ直接殺そうとすらしたのではないのか?」

「全ては龍神ダイガンド様の意志である。国を統べるのは統治能力であり、優れた感能者フェビリティが優れた統治者では無いことは、貴殿も承知しておろう」

「無論である。しかしそれは幼い巫女候補の殺害を容認する理由にはなるまい」

 

「おにーちゃん、セイラムさんからの連絡でー、ティグラさん達をひっつかんで逃げろってーっ」

 耳元でカロロが囁く。状況がなにかしら進展したらしい。

「今ですか?」

「合図するってー、方向はカロロが指示するーっ」

 

「貴殿は龍神様との直接に交感フェビルを行った経験が有るのか?」

「いや無い、だが天上神ヘイブとは会っておるでな。彼らの依頼によって今私はここにいるのだ」

「ほう?天上神ヘイブに会ったとな、出鱈目を言うでない。そんな物は神話、伝説の類でしかない」

「龍神教の祭司とも思えぬ発言じゃな。我ら巫女は天上神ヘイブとの繋がりによって巫女たりえるのだぞ。わかっていて言っておるのならば、不遜そのものではないのか?」  

「貴公に龍神教の教義を聞くつもりは無い、龍神教においては龍神様こそが絶体神であり、全ての生きとし生けるものは龍神様の庇護下に有るのじゃ」

 

「お、お待ちください、一体何が起きているので御座いますか?と、とりあえず落ち着いてお話を…」 

 ゾンダレスは腰が引けてコタロウの影に隠れるように少しずつ移動していく。なかなかに危機管理の出来る狼饅頭である。

 

 その時教皇の後ろに鎮座していた玉が光を放つ。

 

「異教徒じゃ!その者達を異端審問会に掛ける、全員捕縛せよ!」

 教皇が叫ぶと僧侶たちが一斉に手を上げ、僧兵は教皇の前に立ちはだかる。

「ひええええ~っ、私は関係御座いませ~ん」

 素早くコタロウの後ろに回り頭を抱えるゾンダレス。恥も外聞もなく自らの安全だけを考えるその姿は、いっそのこと清々しい。

 

「おにーちゃん、ふたりを掴んで!」

 カロロがそう叫ぶのと、コタロウがシールドを張るのは同時だった。 

 手をかざした僧侶から一斉に魔法が放たれる。炎弾フィア衝撃波バルンガカマイタチ等雑多である。兵士では無いので統制が取れていないのだろう。

 しかしそれらの魔法はコタロウのシールドの外で阻まれる。あっ?と思ったコタロウは背後にいるOVISの事を思い出す。

 すぐにティグラとリクリアは、コタロウに体を寄せて来るのでふたりをひっつかむと、シールドを張ったまま飛び上がる。

 

「祭壇の右側ーっ、入るとトンネルが有るーっ」

 大きな扉の付いた通路が見えたので、その入り口をくぐるとそこはトンネル状の車路の旋回広場であった。ランダロールの乗用車と同じ物が数台置かれている。

 一瞬躊躇したが、追手に使われるのも上手くないのでティグラとリクリアをそれに乗せコタロウは屋根にしがみついて走り始める。

 カロロが口から炎弾ファイア・ボールを吐き、停まっていた車を破壊していく。なかなかに気が利く妹であるが、コタロウの心中は穏やかではない。

 

 コタロウは前を警戒し、カロロはコタロウの背中に取りつき後方を見張る。

 全自動なので運転する必要は無いのだが、流石にコタロウは重いのか?動きが緩慢だ。

 走っていくと何処からか回してきたのであろうか、数台の車が追ってくる。

 

「おにーちゃん、追いついてくるーっ」

「ボクが乗っているせいか、この車スピードが上がらないみたいだね~」

「おにーちゃんの炎弾ファイア・ボールを地面に転がしていくーっ、後ろの車に当たれば爆発するーっ」

「大丈夫かな~、死人が出ないかな~?アッカータでもやった気がするけど~」

「気にするな、コタロウ殿。兎人族は逃げるのだけは天才じゃからな」

 ティグラに言われてコタロウは車のうしろに向けてボロボロと炎弾ファイア・ボールを吐き出して行く。

 

 先頭の車が火の玉に接触するとボンッと爆発を起こし車がひっくり返り通路を塞ぐ。確かに爆発直前に乗員は飛び上がって逃げているのが見える。天性の危機回避能力のなせる業である。

 安全装置セーフティーが発動したのか、車はそれ以上追ってこなかった。

 

「あの~、カロロちゃ~ん。このトンネルは何処に通じているのでしょうか~?」

「龍神の格納庫ー、あの掩体壕のなかーっ」

「龍神さんにお目通りですか~?」

「そうじゃな~、いよいよ龍神本体を拝めるじゃろう」

「コタロウさん前から何か来ます!」

 慌ててシールドを展開するとコタロウの周囲でバシッ、バシッと何かが爆発をする。

 

「小型の自爆用の飛行ドローンのようじゃな、向こうさんもこちらを阻止しようと必死なようだ」

 バンッ!バンッ!と爆発が大きくなってくる、コタロウは平気だが、OVISはこんな狭い場所では亜空間から出られない。車に当たるとティグラ達が危ない。

 

「待っておれ、今連中のコントロールを狂わしてやろう」

 車の中でふたりが瞑想ウタキを行う。走っている車に近づいて来るドローンがコントロールを失い壁に激突する。

「こう言う事はエンルーの方が得意なんじゃがな~」

 大型の自爆型ドローンと思われるものまで現れる。コントロールを失っても近くで爆発されたらただでは済まない。龍神は本気でコタロウ達を殺しに来ている。

 

 コタロウは小型のヘル・ファイアを連発しドローンを撃ち抜く。安全装置が有るのだろう撃ち抜かれたドローンは爆発することなく地上に落ちる。車は自動でそれを躱していく。

 攻撃側と防御側が同じシステムを使用しているので行動上の矛盾が生じているのだが、コタロウ達には全く理解できていない。それでも問題なく事態は進行していく。

 

「あれ~?なんかトンネルの先が見えてきましたよ~」

「いよいよダイガンドに会える様じゃな」

「いや~っ、会うのは良いんですけど~、直接会ってどうすれば良いんでしょうね~」

「何を言っておる、我らには黒い巨人が付いているではないか」

 

 たとえダイガンド本体に出会えたとしても、相手は戦艦をもしのぐ大きさの怪物ですよ~。OVIS程度で何とかなる物なのでしょうか~?


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