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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
176/221

聖都の教皇

7ー007

  

――聖都の教皇――


 龍神教総本山のカードチェックを受けるとゾンダレスは、案内に出てきた僧侶を無視してコタロウ達を本堂の奥に案内をしていく。

 

 本堂はかなり天井が高く、大きく立派な建物で周囲には多くの絵画が描かれていて、天井には細緻な天井画も描かれている。

 その本堂の周囲には僧兵がズラッと並んで立っており、竜神教の権力の大きさを示している。

 単にコタロウに対して用心をしているだけなのかもしれないのだが。


 正面に龍神のイメージの透かし彫りの彫刻が壁一面に彫られていた。おそらく龍神教の教えを表しているのであろう。その中に大きな光る玉が鎮座されている。あれがご神体なのだろう。

 宗教施設の荘厳さの中にその持てる権力の大きさが表現されていた。 

 天井画にはカラフルで綺麗な画が描かれており、その中に水色の竜人族が口から光を発して山を砕き、その中から龍神ダイガンドが誕生した事を示唆する画になっていた。

 間違いない、あの絵の竜人はお母ちゃんだ。コタロウの胃の中にズシ~ンと重いものを感じる。

 

 お母ちゃ~ん、昔のヤンチャがこんな所で花開いていますよ〜。

 

「おにーちゃん、あれ、おかーちゃんじゃなーい?」

「しーっ!目を合わせちゃだめだよ」

 カロロにそっと囁くコタロウ、冷や汗ものである。

 

  正面には椅子が置かれており年取った兎人族の男が座っている。その横には中年の男が立っていた。

 僧侶に先導され、ゾンダレスが前を歩きコタロウが続く。その後ろにティグラとリクリアがついてくる。カロロはまだコタロウの頭に掴まったままである。

 

「教皇様、竜人様をお連れ致しました」

 案内の男が報告を行う。ゾンダレスは男の前に出ると、案内してきた僧侶を差し置いて頭を下げて挨拶を行う。

 

「教皇様に置かれましては御壮健にお過ごしの所、お騒がせして申し訳御座いません。伝説となっておりました竜人様であられるところのコタロウ様の訪問をいただきましたので、教皇様の元にお連れいただきました」

 タテヨコに大きいゾンダレスが挨拶をすれば、市民コモンである僧侶が周囲をウロチョロしても全く目立たず無視をされることになる。

 案内してきた僧侶は憮然とした顔をしていた。

 

 正面に座っているのが教皇と呼ばれる人間らしい、だらしなく太った年寄りで、物凄く偉そうにふんぞり返っている。

 多分龍神教で一番偉い人なのだろうな~とコタロウは思った。

 

「こちらにおわすのが龍神教の教皇カルビナ様でございます。私は神殿長を拝命しているエグゼロスと申します。」

 神殿長と名乗った男が紹介を行う。正面に座るのは教皇で、横に控えるのは神殿長だそうである。

 神殿長と名乗った男は初老ではあるが、かなり年を取った教皇と比べるとエネルギッシュな感じを受ける。

 本堂の周囲には、何人もの僧侶たちが立っている。僧兵は教皇の左右に少し距離を置いて配されており、僧兵の腰には拳銃のような物で武装していた。

 

 まあ僧兵であればそれなりに強力な魔法が使えるはずだし、武器のたぐいは必要がない、通常は威嚇のためのものである。

 教皇たちに何かが有れば一瞬で飛び込んできてガードをするか、賊に対して攻撃をするのだろう。

 無論コタロウに取っては全くの脅威ではないが、この教皇さんそんなに市民に嫌われているのかな〜?と思うコタロウである。

 

 ゾンダレスがすっと下がって頭を下げると、コタロウが矢面に立たされるが、ティグラが前に出て、同じ様に頭を下げ挨拶を行う。 

「こちらは竜人族のコタロウ様と妹御のカロロ様であられます。我々はコタロウ様付きの巫女で私はティグラ、そちらはリクリアと申します」

 

「……リクリア?」

 神殿長が小さくつぶやくのをリクリアは聞き逃さなかった。兔人族の聴力を忘れないでもらいたいものである。

 追放者としてのリクリアの名前は既に回状として回されているのだろうか?台地ダリルでは結構派手に暴れたことがある、手配をされていてもおかしくは無い。

 

 へりくだるべきか?強気に出るか?コタロウは竜人族と龍神教の力関係を測りかねていた。

 とりあえずカロロが空気を読んでコタロウの頭から床に飛び降りてくれたのは助かる。相手は一応最高権力者なのだから頭の上は流石にまずいだろう。 

  

「私は竜人族のコタロウと申します。この度はお会いできて光栄に存じます」

 とりあえず胸を張って腹を突き出す。彼らの習慣もわからないのでそれ以上の動きは控える。頭を下げるのは下位の者だとの意思表示と取られるのでやめる。 

「妹のカロロです」

 カロロが隣に立ってコタロウの真似をして、胸を張ったままスカートの裾を持ち上げる…が全く迫力はなくて…とても可愛い。


「皇王様の御前です、頭をお下げください」

 神殿長のこの言葉は、竜人族を自分たちの下位の存在として認識しているという意思表示である。コタロウの判断は正しかったようである。

 

「これは教皇様、龍神ダイガンド様を誕生させた竜人族は、いつから龍神教の下僕になり下がったのですかな?」

 神殿長の言葉に強気に出るティグラ。元は台地の巫女候補であったから龍神教の教義は一通り学んでいる。竜人族は天より降臨し人々の諍いを鎮め、龍神の誕生を促したとされている。

 解釈によれば、ダイガンド、竜人、天上神ヘイブは三位一体とされているのだ。

 

「それは、そこに居る者が竜人様と同族の者であるとわかった時の話でありましょう」

 要するにコタロウを竜人族とは認めていないという発言である。

 

「これは異なことを、竜人様の存在を認めないと言われるのか?」

「天井を御覧なさい、竜人様とはあのように美しく優美な姿をしている者、しかるにそこに居る者は姿も小さく、色も薄茶色で優美には程遠いではありませんか」

 要するにチビでデブと言いたいのね、ついでに言えば頭には一本も毛が生えていませんからハゲという事ですか〜?

 気にしてはいないけど、そう言ってあからさまに突っ込まれると、やはり心の中で涙が出そうになるコタロウである。

 

「うにゃーっ!お兄ちゃんもカロロもまだ子供なのーっ、大人になればあの絵みたいにかっこよくなるのーっ」

 カロロが怒って飛び上がるとパタパタと付近を飛び回る。

 

「あれ?これは何だろう?」

 天井に描かれた絵の近くまで来て気がついた。そこには大きめの昆虫の様な物がくっついていた。捕まえようとするとカサコソと逃げ出す。なんとなく月面都市のガチャガチャ動く作業用機械を思い出す。

 

『カロロや、それに触ってはいかん』

『ティグラおばーちゃん?』 

 

「カロロちゃ〜ん、こんな所で飛んじゃだめだよ〜、降りてきなさ〜い」 

 なんだか良くはわからないが言うことを聞いたほうが良さそうなので降りてきてコタロウの頭に掴まる。やはりここが一番落ち着く。

 

  *  *  *

 

「やれやれ、カロロに掴まれたら潜入がバレてしまうところであった」

 

 艦橋でセイラムがスクリーンを見ながら呟いた。カロロが見たのはセイラムが送り出したドローンの一体である。

 兔人族の住む世界の神殿である。音を立てれば聞かれる危険性が有る。

 極力音を立てないドローンを何種類も放っていたのだが、その一つがカロロに見つかってしまったのだ。

 

『天井に描かれた竜人はコタロウのお母さんに生き写しだ、本物を見た人間が描いたとしか思えない。というかこれは絵なのだろうか』

 OVISを通じて状況をモニターしていたヒロが絵を見て驚いていた。


『写真印刷と推測、管理基地による製造品と思われます』

『ヒロー、それはどういう意味なのー?』

『管理基地のデーターバンクからの映像を加工して印刷したのだろう、500年前のお母さんの映像だよ』

『わーっ、それじゃお母さんに見せたら喜ぶかもー』

『いや、黒歴史になるからやめたほうがいいだろうね』

 

「この絵はどうやって描かれたのですか?とてもよく出来ていますね~」

「まあ写真技術じゃからのう。人が見て絵を書いている訳ではないからな」

「あらあら、写真技術でしたか、ランダロール以外にもそんな技術が有ったのですね〜、それじゃあれがコタロウさんのお母さんの姿なのですか?」

「まあ、そういうことのようじゃな」

 

「翼竜に比べてずっと格好が良いですね〜、すごく理知的な感じを受けますわ〜」

「コタロウを知っておるからそう感じるだけじゃないのか?人が描いたものでは無いからのう、その内面までは描けてはおらんで」

「あらあら、セイラムさんは管理頭脳エヌミーズなのでしょう?人間の芸術を理解しておられるなんて素晴らしいですわ~」

 シリアさんの指摘はいつも的の斜め上に行っている、それはそれで良い所なんだが。

 

「わらわとて、人間とは少なからずの時を過ごしておる、データーではわからぬ感性くらい多少はできるものじゃ。なあバルバラ医院長」

「オーッホッホッホッ!長い間人間の中で過ごしていると、だんだん人間臭くなれるのですよ~」

 

『あんたの場合悪い方向に振れているだろう』みんなはそうツッこまずにはいられなかった。 

 

「妾の居った時はあの山中の地下に管理基地が有り、その地上部分で瘤翼竜ギガンドーグを製造しておった、当時はアルサトールとの連絡通路は無かった。しかし噂の通り3000メートルもの翼竜が存在しているとなると、アルサトールの人間が支援している可能性が高いのう」

「たしかに、龍神教の総本山は山腹に接して建てられている、その可能性は十分に高いと考えられるな」

  

「だが、今回は強力な巫女2名とOVISが龍神教総本山に入っおるんじゃ、もう少し時間を稼いで貰えればトンネルの位置がわかるじゃろう」 

 セイラムは嬉しそうな顔でニヤリと笑った。

「見つかったらどうするんじゃ?トンネルをぶっ壊すのか?」

「できれば中に入ってもらって、掩体壕の中にいる龍神の状況を探ってもらいたいと思っておるんじゃがのう」

 

  *  *  *

 

「ボクはご先祖様が関わった翼竜さんの様子がおかしいという事で様子を見に来ました。ボクとしては龍神さんに直接お会いして翼竜ヴリトラの事をお聞きしたいのですが?このままでは各地に被害が出る恐れが有りますから」 

「竜人様がダイガンド様にお会いして、何か具体的なお話が出来るのでしょうか?」

 神殿長がもっともな事を言う。いかな竜人といえども日頃から通じ合っていない相手となにほどのことが出来るというのか?そう考えるのも無理はない。

  

「出来るとは思いますが…なにか龍神ダイガンド様に問題でも有るのでしょうか?」

 実際は全く何の用意も出来てはいない、そもそも話が通じるかどうかすらわからない。その手の事はティグラ達に任せようと考えるコタロウである。

 コタロウとて子供ではなく、100年以上生きてきて十分に理知的な行動を取れる知恵が有る。

 しなびた教皇よりも遥かに歳上なのであるが、どうも医院長の悪い部分の影響を受けてしまっているようだ。

 

「コクラム台地に出現した竜人を名乗る者に関しては聞き及んでいる。我が種族の娘を拐かし、狼人族の村に連れ去ったとの事である」

 それまで黙って聞いていた教皇が口を開く。 

「その竜人を名乗るものは饅頭のような丸い体をし、台地の僧兵をその強力な爪で切り刻み、娘を籠に押し込んで逃亡したと有る」

 いや〜っ、まるで悪鬼の様な存在ですね〜。一体誰のことでしょうか〜?尻尾でひっぱたいた覚えはありますが…。

  

「おにーちゃん、まるで大悪人みたい」

 たのみますよ〜っ、カロロの教育に悪いデマを流すのはやめてくださ〜い。両親にそのデマが知られたら、この街が消えてなくなりますから〜。

  

「犯罪を犯した村は龍神様の怒りに触れ、翼竜ヴリトラにより天誅を与えられ全滅したそうじゃな」

 その言葉を聞いた途端にティグラから怒りの威嚇オーラがブワッと広がったような気がした。コタロウはあまり感じなかったが、カロロは頭を抱えていた。

 周囲に立っていた僧侶たちもそれを感じたのか、衝撃を受けたような顔をしており、教皇と神殿長もいささか動揺を隠せなかった。

 ティグラの強い怒りの思考が周囲の感能者フェビリティに影響を与えたのであろう。感能者フェビリティで無い者にも少なくない影響を及すらしい。

 そう言えばさっき広場で威嚇オーラを出して兵士を脅していたんだよな~

 

「きょ、教皇様、何が起こったので御座いましょう?皆様お気を確かに」

 なにかの異変を感じ取ったものの、ゾンダレスには何が起きたのか理解ができず周囲をキョロキョロと見回すだけであった。この男も十分鈍感らしい。

  

 同じ様に周囲に起きた異常を察知した僧兵達が教皇を守るように位置を変える。


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