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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
174/221

外周都市警備部隊本部長

7ー005

  

――外周都市警備部隊本部長――


「コタロウ殿、あれは親戚か何かか?」 

「やめてください、リクリアさん。あの人はただのデブじゃないですか?」

「鍛えておらん狼人族の男はただの豚じゃ。醜悪この上ないのう」

 明らかに仕立ての良い服を着た男はにこやかな笑みを満面に浮かべてコタロウ達の所にやってくる。

 機会があったらこの服屋で新しい服を仕立ててもらおうかな、と考えるコタロウである。

 

 分隊長に向かって手で来るように合図されると、すたたたたっ、と腰を低くし小物感満載でデブに駆け寄る。

 ひそひそ話で状況を伝えているのだろう。へこへこと頷いて報告をしていたようだが、いきなりボカッと殴られて頭を抱えてうずくまる。

 このデブの服装のデザインは、背後に展開する兎人族の警察機構の人間とは明らかに違うようで、街の中に常駐している外部都市警備部隊の狼人族なのだろう。

 

「竜人様におかれましては、ようこそ聖都アルサトールの街へ。私は外部警備部隊の総司令長のゾンダレスと申す者でございます」

 人の好さそうな顔で、にこやかに自己紹介を行うゾンダレス。出ました年貢中抜きの親玉、悪の中ボス。

 コタロウと向かい合って対峙するとその体形の相似が際立つ。何かやだな~、と感じるコタロウに、親近感を感じるカロロである。

 

「私の名は竜人様の巫女、ティグラと申す」

「同じくリクリアである」

 ふたりそろってズンと胸を突き出す。残念ながらゾンダレスの腹の厚みに比べると完全に見劣りする。

 

「こちらにおわすのは、竜人族の御子息のおひとりであられるコタロウ様、及び妹御のカロロ様であられる。貴下の部下による不敬なるふるまい、誠に遺憾である」

「警備部隊の連絡の不手際で不快な思いをさせてしまったようでございます。私が直接連絡を受ければこの様な事は御座いませんでしたものを、誠に申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げるゾンダレス。うん、悪党はこのくらい心にも無いことを、平気で口にできる様でないとね〜。

 

「われらは龍神ダイガンド様にお目通り願いたく、この地を訪れた。貴下の不敬に関しては不問に付す故に、早急に手配されよ」

「誠に申し訳ございませんが、龍神ダイガンド様に関しての全ての権限は、龍神教総本山の管轄で御座いまして、我々にはその権限がございません」

 慇懃に頭を下げる。身長は他の狼人族に比べて少し低いが幅は倍ほどある。軍人と言うより正に商人といった風情である。

 

「それでは直ちに連絡を取り、その様に手配せよ。竜人様がわざわざ足を運ばれておるのだぞ」

「御意にございます」

 そう言って後ろに控えていた兎人族の男に伝言を伝える。


「龍神教総本山に連絡を付けるように伝言いたしてございます。しばらく時間がかかると思いますのでどうぞ警備部隊本部でお待ちくださいますようお願いいたします」

 

『見えるか?エンルー』

『はい、おばば様。みんなでそちらの様子は見えています』

『そうではない、ワシらの周りに何か異質な物を感じないか?』

『その付近にシャーマンはおりません。異質な物も感じませんが?』

 

 ゾンダレスは車のドアを開け、乗車を促す。車はリムジンタイプでかなり大きく全員が向かい合って座る事ができた。

 この大きさの街で、こんな自動車が作れるわけがない。どうやらランダロール同様に管理基地の工場が製造しているようだ。

 

  *  *  *

 

「やれやれ、あんな物まで供給しておるのか?」

 セイラムがため息をついている。 

「なにかまずいのでしょうか?ランダロールではあのような乗り物は普通に有りましたが?」 

 シリアにしてみればこの程度の物は見慣れていただろう。人工知能付きの無人乗用車に乗っていたくらいだ。

 

「道具を使うのと、作るのとでは大きく意味が違う。高度な製品を作る為には大きく広がった工業的すそ野が必要なのだ。工業のすそ野無しに製品だけ与えられても、自分達ではその製品を作れない。我々がダイガンドを倒すのは良いが、倒してしまえばその後工業製品の供給を絶たれた彼らはどうやって生きていくのだ?」

 

 人類が『エヌミーズ』と互して戦えたのは、彼らの技術を盗み、改良を加えられるだけの、工業的、科学的基盤が十分に有ったからだと言える。その様な技術的なすそ野が無ければ、如何なる技術を教えられようと魔法と変わる所がない。

 

「それではランダロールはどうなるのでしょうか?ランダロールは進んだ製品を使っておりますが、その修理は出来ますが製造できる能力は有りません。龍神を倒してしまえばランダロールは存在して行けるのでしょうか?」

「いずれの場合もその将来を考えておかなければならない問題であってのう、両者ともに最終的には大きな決断をせねばならなくなるじゃろう」

 

「医院長、あんた達はエルメロス大陸の将来をどのようにするつもりだったんだ?」

「一部にだけ極端に偏った工業製品が作られるのは非常に危険なのですよ。全体にゆっくりと底上げしていかないと、一部の国が世界全体を支配することになってしまいますから」 

「それを裏から画策して管理していきたいのか?」

「仕方ないでしょ〜、一度滅びちゃった文明の再興ですよ〜。遺跡とかもありますからね~、勝手にやらせたらとんでもない事になっちゃうじゃないですか~」

 

「その割にホイホイと自動馬車やミサイルを使っていますね~」

「い~のよ~、頭のおかしな連中が魔法を使っていると思わせておけば、結構信じちゃうくらいみ~んな素直ですもの~」

 

 埋めてやろう、いつか絶対に穴を掘って埋めてやろう。

 

「高度に進んだ技術文明は魔法と区別がつかないとよく言われるが、魔法だと言っておけばその便利さをまねる製品を欲しがる人間が出るもんじゃ。様々な工夫をして魔法を現実にする為に努力するからな。あれとて単に無駄を行っている訳では無いのじゃぞ」

「誘い水という訳か、だがどうなのだ?エルメロス大陸では良いとして、こちらの大陸ではセオデリウムの除去には相当な時間がかかるんじゃないのか?」

 

「そうでもないな、あと2千年位と試算されている。その間に起きる大陸とエルメロスの技術格差をどうしていくのかが大きな問題だろう。

 しかし海辺の固定都市ベルファムでの造船技術はエルメロスを上回っておる。嵐を突破できる船が出来てからどうなるかの問題じゃが、固定都市ベルファムの経済力では、エルメロス大陸の経済力には太刀打ちできんじゃろう」

 

  *  *  *

 

 こんな事を話し合っているうちにコタロウ達は警備本部に着いたようである。

 船での話し合いは全てエンルーを通じてティグラ達には伝わっている。コタロウだけが蚊帳の外である。

 

「案外と近いのですね」

「街そのものがそれほど大きくは有りませんからな、それでも町は最先端の技術で作られてございます」

 

 街はランダロールの様な近代技術で作られた建物で、7~8階の中層の建物が多く建っていた。デザインとしては月面都市の物に近いような気がするが、ランダロールは地下であるためにせいぜいが3階建てである。

 道は舗装されており、街灯が設置されていた。行きかう人々は兎人族の市民コモンばかりである。

 一方基盤整備を行う作業員は狼人族ばかりで外周都市の住人らしい。何でも朝に駐車場に集まって作業所まで車で運ばれるそうだ。

 

 アルサトールの外周の都市部に住む者と、その外側に出来る外縁村の農業区画に住む狼人族がこの街の生活を支えているのだ。狼人族無しにこの街は成立しないが、同時に周辺に住む狼人族もまたアルサトールなしには成立できない。

 台地ダリルの巡回によってもたらされる耕地は作物だけでなく森も作り出し、豊かな猟場も提供してくれる

 無論支配を嫌って村を出ることも出来るが、一定の年貢を納めることにより移動せずとも生活できるメリットはそれよりはるかに大きいのだ。

 支配しているのは兎人族の方であり、従属しているのが狼人族であるという現状の支配体制は結局変わらない。


 人種間の分離はかなり行われており狼人族の使用できる施設は少ないようである。

 ある意味当然と言える、身長が1,7メートルの兎人族と3メートルの狼人族が同じ施設を使える訳もない。

 外部警備本部はスタッフも狼人族と兎人族が混在しており、流石にこの施設は狼人族と兎人族の両方に対応しているようで天井は4メートル近くある。

 

 応接室は絨毯が敷かれており椅子は無い。身長差のある来客が混在する場合の対処としてはこの方式が良いのだろう。

 出入り口の幅も所長に合わせて有るのだろう、コタロウでも引っかからずに使えるし、カロロを頭に乗せたまま潜り抜けられる。

 

「どうぞお座りくださいませ」

 満面の笑みを浮かべて座るように勧める。

 両脇にリクリアとティグラが座り、真ん中にコタロウが座るとカロロはコタロウの横に降りてくる。

 対面にゾンダレスが腰を下ろすと兔人族の女性がお茶を持って入ってくる。

 

「粗茶で御座います」

 茶台の上に載せた茶碗にお茶を注いで行く。コタロウとゾンダレスは体に合わせた大きな茶碗である。

「お茶請けで御座います」

 お饅頭の様な物が同じような台に載せられ各自の前に出される。

 

「オチャウケって、なーに?」

「お茶を飲む前に食べる菓子の事で御座います。それによってよりお茶を美味しくいただくことが出来ます」

「ふ~ん、そんな習慣が有るんですね。コーヒーと一緒に食べるケーキと同じ事なのですね~」

 

「はい、地域を問わずお茶を飲むという行為は心身をリラックスさせる効果が御座いますから。この菓子は豆の砂糖煮を小麦の皮で巻いたお菓子で御座います。お口汚しにどうぞ」 

 カロロがチラリとコタロウの方を見る。

 

「どうぞカロロ様ご遠慮なくお召し上がりください」 

 空気を読んだゾンダレスが、すかさずお菓子を勧める。カロロを最初にターゲットにする当たり、なかなかに如才ない。

「カロロちゃん、いただきましょうか」

「わーい♡」

 コタロウの許しが出たので喜んでお菓子に手を伸ばすカロロ。パクパクと食べてお茶を一口飲む。

 

「おいしーっ♡」

 とても嬉しそうに顔を輝かす。

「おお、お口に合ったようで、ようございました。よろしければこちらもどうぞ」

 あっという間にお菓子を食べてしまったカロロに対して自分の菓子を勧める。まずは妹から篭絡を図る戦略家でもある。

 ティグラも手を伸ばして菓子を一つ、つまみ上げると口に運ぶ。

 

「うん、なかなか美味しい菓子ですな、コタロウ様もいかがでしょうか?」 

 コタロウが爪の先でお菓子をつまむと口に放り込むが、コタロウの口にしてはいささか小さい。  

「このお茶はなかなか香りが独特じゃな、何より良くこの様に緑色に淹れる事が出来たものですな」

「はい、この緑色にする為に多くの先人の努力が御座いましてな、この街の自慢なのでございますよ」

 

 にこやかに場を取り繕う、柔らかな態度を取る商人らしさが強く感じられる。

 大きなお茶碗に淹れられたお茶をゆっくりと飲み干すコタロウ。口からブレスを吐く竜人族である。熱い訳では無く何となくこうした方がおもむきがあると考えたのだ。伊達に100年生きてきてはいない。

 

「さて、竜人様におかれましては、500年ぶりの訪問という事になるのでしょうか?いかなるご用件で御座いましょうか?」

 ゾンダレスはにこやかさを崩すことなく話を進める。総本山に行く前に少しでも情報を得たいのだろう。

 

「うむ、最近各地での翼竜ヴリトラの目撃例が増加しておっての、知っておろうが翼竜ヴリトラが成長し瘤翼竜ギガンドーグとなる。そのコントロールを行っているのが龍神教の筈であるのだが、個体の大きさが大きい分だけ環境に対する負荷が大きくてな、寿命もかなり長いので長期的な危険が継続することになる」

 

「左様でございますか?その翼竜ヴリトラの増加と言うのはどの様な場所からの情報で御座いましょうか?」

「我ら竜人様に仕える巫女の力を甘く見るでない、世界をめぐる巫女のネットワークが教えてくれるのじゃ」

 

 大見得を切るティグラである。


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