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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第七章 聖嶺の大地
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地球帰還軌道

7ー001


――地球帰還軌道――


「み、みろメディナ、こんなにたくさんの下着を貰って来たぞ」

「ね、姉さん見せなくていいから~!」

 リクリアさんは相当パンツが気に入ったみたいだ。もうふんどしには戻れないな。

 

「カロロちゃ~ん、沢山お菓子を積み込んだね~♡」

「ケーキにクッキー、他にもたくさーん♡」

「ナイトディナーの余りも全部包んでもらった物も有るし、これで不足気味だった食料が補給できましたからね~」

 大半はコタロウさんが食べたんですけどね。

 

「みろ、ヒロよ。この矛先はすごいぞ、錆びない鉄でできておる」

「ステンレス製の矛先だぞ、いいのかな〜?よく医院長が許しましたね」 

「いいのよ〜っ、もうエルメロス大陸には合金の技術も有るんですよ、どうせ時間の問題なんだから~」 

 

「うっ、うっ、本を持ちだそうとしたら重たくてこれしか持ちだせませんでした。(涙)」

「やはり本は重たいですね〜、でも良かったんですか?図書館から盗み出しちゃって」

 図書館から本を持ちだそうとして悪戦苦闘していたシリアをガルガスが手伝って持ち出したが、半分以上はあきらめたそうだ。


「知識はみんなで共有する物ですよ!(キリッ)」

 

「良いかエンルー、世の中は我々が知りえない知識であふれておる」

「はい、おばあ様!日々研鑽を怠ることなく鍛錬を致します」

「これからワシらは龍神ダイガンドとの決戦に挑まねばならぬ、おまえを守り切る事は出来ぬやもしれぬ」

「私の命の中には翼竜の凶弾に倒れたバンカーさんの魂も入っております。如何なることが有っても私は生き抜く覚悟でございます。竜人様もお守りくださいますから」

 

 ケーキを食べていたコタロウがピクッとなって、冷や汗を流していた。

 

「お主らは状況がわかっておるのか?これから戦になるやも知れぬのに随分のんきではないか?」

 セイラムは子供の姿で偉そうな物言いである。

 

「何を言うておられる?自らの存在を脅かすものとは戦うのが狼人族じゃ。ましてや仲間を殺されて黙って引っ込んでいる者などおらん。

 我が村の者がエンルーを守って死んだ。みな悲しんだが、同時に誉れも感じておる。仲間を守って死んだのであるから、残ったものは村の仲間全員で守るのじゃよ」

 

「あの…ワシはお主の何倍も年上なんじゃが…」

 ティグラにしてみればセイラムはエンルーと同い年位に見えるので、つい頭を撫でてしまうのだ。

 

「ふむ、そうか…狼人族とは互助集団を取る種族であったな、しかし貴下は兔人族ではないのか?」

「エンルーも兔人族じゃ、しかし仲間と認めたのであるから村の者は命をかけて守るものよ。いくらお主が管理者であってもワシらの生態くらいは知っておろうが」

「いや、知識として知っていることと現実に接してみるのとでは、感覚的に随分違うと思ってな」

 

 この人はダイガンドが覚醒するまではマリエンタール管理基地の管理頭脳だったんだよな。

 

  *  *  *

 

「だいぶ地球が大きくなってきたな、何処に降りるつもりなんだ?」

「神都アルサトールの近くの砂漠の予定です。とりあえず情報を収集して作戦を考えようかと思っています」

「しかし全く動いている感じがせんな」

 周囲に動くものが無い宇宙空間である。揺れも加速度も感じなければ速度など感じられるわけも無い。

 

「実は相当に早いんですよ、一秒間に11キロの速度ですから」

「そう言われてもピンとは来ないな、相当な速度だとはわかるのだが。だがどうやって速度を落とすんだ?出発したときは飛び上がった後に加速をしていたようだが」

「減速にはいくつかやり方がありますが、重力制御で減速をすると時間がかかりますし

エネルギーも食います。大気圏で空気抵抗を利用して減速をしようかと思っています」

 

「タイキのクウキテイコウ?」

「風が強いと体が吹っ飛ばされるでしょう。自分が速く移動していると風がその邪魔をするのはわかりますよね」

「うむ、高速で走っていると風の抵抗が強い、あれを利用するのか?」 

「そうです、でもこれをやると摩擦熱でこの船では溶けてしまいますから、シールドを張って大気圏に突入します」

「シールド?神殿で糞を掛けられたあいつか?」

 ガーフィーには嫌な覚え方をされてしまったようだ。

 

「そうです、空気の断熱圧縮を機体から離れた場所で起こせば熱は伝わりませんから」

「良くわからんが、そうだとするとコタロウ殿も肉体だけで減速が可能なのか?」

「いやなフラグを立てないでください。いくらコタロウさんでも無理でしょう」 

 まあ、シールド内に空気が無ければ熱は伝わらない、月面で見た戦争に出た竜人達はそうやって地球に帰還したのかもしれないな。それでも輻射熱で背中は焦げたんじゃないかな〜?

 

 月を出発してから女性陣は修行を行っていた。元々能力の高いティグラ達に比べて劣っていたメディナは相当に能力を上げており、すでにティグラ達と遜色がない位になっていると言う。

 無論エンルーは別格に能力が高いとも言われている。彼らをどのように戦略に取り入れるべきか?考えてはいるが、実は全く見当もつかない。

 当たり前だ、士官学校を出たわけでもない一兵卒に戦略的な思考が出来るわけも無い。皆の手前わかったような顔をしているが所詮そのレベルなのだ。

 

『おまえは何か良いプランがあるか?』

『とある方からの提案でよろしければ』

『………………………』

 

 まあ、そうなるよな。

 

「オーッホッホッホッ!そろそろ大気圏突入じゃ御座いません?ヒロさん、何か良い作戦は出来ましたこと?」

 

 ああ〜っ、蹴飛ばしたい。

 

「シールドを展開して大気圏突入を行います。アルサトール近くの砂漠に着陸をして周囲の村の状況を調べます」

「おやそうですか~?私は一度ランダロールに寄った方が良いと思うのですかねえ~」

「あそこの市長ですら、武器を手に入れられると思ったらその力に酔う様な人でしたからね。迂闊にあそこには行けませんよ」 

 煽ったのはロージーさんかもしれないが、煽られる方も情けない。ビジョンと信念が無いからだ。

 

 大気圏突入時の人類宇宙軍の安全規定通りに、各自に与圧服を着せヘルメットを付けさせる。無論コタロウとカロロは別だ。

 

『大気圏突入10分前、各自座席についてシートベルトを装着してください』

 船内コンピューターの声が聞こえる。月面都市で戦艦は改修を受けたらしく、指令室の片隅にコタロウ専用のベルトが設置されていた。カロロは普通の座席に座っている。

 どういうつもりか知らないが、『管理頭脳エヌミーズ』は本気でヒロ達の支援を行うつもりらしい。本当に龍神ダイガンドを討つつもりなのだ。

 そうは言っても何の策も考えられない、出たとこ勝負で何とかなるのだろうか?敵戦力すら把握してはいないのにだ。

 

『まもなく大気圏突入です各自シートベルトの再確認をお願いいたします』

 コタロウは専用のシートベルトを、カロロは乗員席に座ってシートベルトをしている。

 カロロもコタロウも多少の事で怪我などすることは無いだろうが、あんな人間が事故の際に艦橋を跳ね回ったら内部機器が持たない。ベルトがその役割を果たしてくれる事を祈ろう。

 コオオオオ………。と言う音が聞こえ始めるとすぐにグオオオオオーーーと言う音に変わる。

 

『現在大気圏突入中、席から離れないでください』 

 正面のスクリーンに大気の圧縮による炎がシールドに当たって燃え上がっているのが見える。戦艦本体が100メートル以上あるのでシールドの直径は150メートルはある。そこに大気がぶつかるのであるから地獄の様な炎が生まれる。

 

『船体外部温度上昇、シールドの回転が始まります』 

 まともに正面から大気を受け止めると輻射熱だけで船体に被害が出かねない。そこで重心を少しずらしてやることにより、シールドは回転を始め船の周りに炎の帯を発生させる。

 圧縮された大気を後方に逃がすことにより熱被害を防止するのだ。

 無論その分抵抗は減殺され、同時に揚力も発生し弾道計算より遠くに降りる。ボールが回転しながら飛んでいる様な状態である。

 

「ヒ、ヒロよ、炎の渦に囲まれているというのは恐ろしい光景だな」 

 ガーフィーが艦長席に座りながら体を固くしている。やはり炎を恐れる祖先の本能が強く出るのだろうか?肘当てを握る手に力が入っている。潰さなきゃいいんだがな。

 

「む、ヒロさん!何かおかしいですわ。気を付けてください!」

 シリアが何かを叫ぶ、その瞬間大きな衝撃を受け船体が揺れる。

 

「な、何があった!」 

 警報が鳴り艦内頭脳コンピューターが警告を発する。

 

『シールド消失、外壁温度上昇!各自耐ショック姿勢!』

 機体はコントロールを失いガタガタと激しく揺れ、船体が不安定な動きを始める。

 

船内頭脳ムーリアさん、一体何があったの?」

『地上からのレーザー攻撃を受け、シールド装置に被害。船体温度が上昇を始めました』

「ど、どうなるんだヒロ!船体が燃えておるぞ!」

 正面スクリーンに映る地上の風景が回転を始める。空力的突入形状をしていない戦艦はクルクルと回転を始めているのだ。

 

「シールド復元、全エネルギーを回せ!」

『不可、シールド機構の再起動できません』

 船内の温度も急激に上昇を始めた。このままではまずい、船体が焼けてしまう。

「うわわっ、ヒロさんどうしたら良いんですか?」

『危険度が規定値を超えました。スタグネイション・フィールドを展開いたします』 

 

………………………………………………

 

 船内頭脳コンピューターが宣言し終わる前に、突然スクリーンの景色が変わり、炎の輪舞ロンドは消失して岩の壁が現れた。

 

「な、なんじゃ?何が起きた!」

「ヒロさん!何か攻撃を受けたような感覚が有ったわ、なにがあったのかしら?」

 船内頭脳コンピューターをモニターしていたシリアさんが尋ねてくる。もっとも全ては終わったあとなんですけどね。

 

「シールドの消滅を受けて時空遮断力場スタグネイション・フィールドが起動したようです」

『大気圏突入中に地上からのレーザー攻撃を受け、シールド発生装置に異常が発生し、シールドが消滅しました。緊急避難処置として時空遮断力場スタグネイション・フィールドを起動しそのまま地上に墜落いたしました』

 船内頭脳コンピューターが報告してきた。要するに数千トンの質量の戦艦が、コントロールを失って外宇宙速度で地表に激突したのだ。

 地上には相当な被害が出たはずなので近くに町が無かったことを祈るしかない。

 

「現在の状況と本艦の被害を報告しろ」

『本艦は地上に激突し、現在は直径500メートルのクレーターの底にあります。船体外壁の一部に損傷がありシールド発生装置が停止しています』

 外部監視カメラの映像を見る限り砂漠のシャポワールの時のように頭から突き刺さってはいないようだ。

 

「近くに町が有るのか?」

現在天上神ヘイブの観測により状況を確認中』 

「本艦の墜落位置はわかるか?」

『目標地点より100キロ程ずれておりアルサトールから250キロの位置です。宇宙からの観測ではもっとも近い街までは100キロ程の距離が有ると推測されます』

 艦橋の大型スクリーンに現在の艦の俯瞰画像が表示される。天上神ヘイブからの映像なのだろう、大きなクレーターの中心に戦艦が横たわっており、煙を上げている。

 

「地上に激突と言っていたが何故ワシらは何とも無いんじゃ?」 

「どうやらこちらの動きがダイガンドに筒抜けだったようですね、地上からレーザー攻撃を受けたようです」

「それは仕方のない事じゃ、現在地球を監視しているすべての機器は衛星軌道上の『管理頭脳エヌミーズ』がリンクを行っているが、同じ事が龍神ダイガンドにも出来るのじゃからな」

 こちらの突入軌道がわかっていたからこそ、地上から強力なレーザー砲で討ち抜けたという事か。

 

「セイラム、あんた達は『管理頭脳エヌミーズ』なんだろう、この程度の予想は出来なかったのか?」

「お互いに偽の情報を出し合っての騙し合いがずっと続いておるのじゃが、今回は向こうの方が我らを上回ったようじゃ」 

 2000光年彼方で戦って来た身としては理解はできる。それだからこそ騙し勝ってほしいとも思うのだが。

 それにしてもこれだけ強力なレーザーを打ち上げたんだ。アルサトールから見えているはずで、街はさぞ混乱しているだろうな。

 

艦内頭脳コンピューター時空遮断力場スタグネイション・フィールド起動から外部時間でどの位経った」 

 乗員にとっては瞬間的な出来事であっても外部とは隔絶した時間差が生じるのが時空遮断力場スタグネイション・フィールドなのだ。艦内時間の一千万倍の速度で外部時間は過ぎ去り、艦内の1秒が外部では4カ月に相当する。

 それ故にヒロは故郷の時間から500年未来に流されてしまい戻る術は無い。

 

『フィールド起動から外部時間で30時間経過』

 

 その言葉を聞いてヒロはほっと胸をなでおろす。この程度であれば大したことはない。

 コルボロック第4惑星侵攻作戦では、惑星規模の縮退物質同士の衝突に際して多くの艦がフィールドを起動し、その間にやすやすと『エヌミーズ』の戦艦の接近を許してしまい多くの仲間が破壊された。

 

『この星の原住民と思われる者が本艦に接近してきています』

「なに?スクリーンに拡大しろ」 

 艦橋の大型スクリーンにクレーターの縁からこちらをうかがっている狼人族の姿が見える。装備から見て狩人のようだ。

 これだけの質量が地面に衝突したのだ、アルサトールでもかなり揺れただろうしな。

 

「どうするヒロ、さっさと逃げ出すか?」

艦内頭脳コンピューター、飛行は可能か?」

『問題ありませんが、シールドの展開は不可、外壁に亀裂が有ります、高高度飛行は避けてください』

「丁度良い機会じゃ、彼らとコンタクトを行い情報収集をするべきじゃ」

 ティグラがずいっと前に出てくる。

 

「よろしい私が行きましょう」

 医院長がそれを制してズガンと胸を突き出してくる。これは…どうも良い事にはなりそうもない。 

「あの…ヒロさんボクではどうでしょうか?(アルサトールと言えば母さんが山麓をぶっ飛ばした街でしょう。もしかしたらボク姿を見て竜人だと気が付くかもしれませんし)」

 ヒロが渋い顔をしているのを見て。小声で自分が行くと提案をする。

 

「そう…ですね。このさいコタロウさんに行ってもらいましょうか?」

「左様でございます。私もコタロウ様を拝見したとき一目で竜人様だと気が付きましたから」

 エンルーがものすごく嬉しそうな顔をする。龍神教に裏切られたので竜人族に宗旨替えをしたわけでは無いだろうとは思うが。

 それにしてもタペストリーとは全く体形の違うコタロウである。エンルーはあのお母ちゃんの絵からボクが竜人だとよくわかったな~。と感心するコタロウである。

 

「リクリアさんはアルサトールに行った事は有るのですか?」

「いや、私は行っていないから様子はわからないのだ」

「ワシとコタロウで行くよ。シリアとエンルーがこちらにいれば連絡はつくしな」

 いつの間にかティグラは先日のイブニングドレスに着替えていた。あれ以来髪の毛も毎日洗っているのでツヤツヤである。

 長い髪は後ろにまとめ上げており、意外とランダロールの女神とイメージが重なる。少し老けた感じはあるが、それはそれで女盛りだと思えば許容範囲だろう。

 

「それじゃボクが先に出ますからティグラさんは後から出てきてください」

「カロロもいくーっ」

「いいけど今回は竜人であることを示すんだから、頭に乗っちゃだめだよ。翼を出して飛んでいくんだ」

「わかったー♪」

 

 コタロウは自分が竜人族であることがわかりやすいように服を脱いで艦橋から外に出て狼人族の方を見ると、既にクレーターを降りて戦艦に向かってきている。

 パタパタと目立つ様に翼を動かしながら、彼らの方に向かって飛んでいく。カロロはその後ろからピコピコとついて来る。


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