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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
17/221

バルバラ医院長

1ー017

 

――バルバラ医院長――

 

 むふふふ。わたしの名はバルバラ、カルカロスの街に有る聖テルミナ病院の医院長をやっている兎耳族の医師で御座います。

 かつて竜人族のカロロさんが生まれた時は私が取り上げて、2歳になるまで旦那の竜人様を家から叩き出しておきましたので、無事お渡しすることが出来ました。

 

 当時は長男のコタロウさんがおりましたので、丁度良いので育児を手伝っていただきました。

 コタロウさんはそれはそれは喜んで妹の世話をしておりまして、それこそお母さんの手を煩わせることも無く無事妹さんを育て上げておりました。

 思えばコタロウさんは大学の教師と言う事も有りました。2年間の育児休暇を取ったところ学生さんたちからの怨嗟の声が上ったと聞いておりました。

 しかし大学にカロロさんを見せに行くと、学校を上げての誕生祝をされたと言う事で、なかなかコタロウさんも人望の有る方のようです。

 

 カロロさんの同い年の兎耳族のメディナさんが学校に入っている筈ですから、そろそろ私の元にやって来るだろうことは予想していました。

 ええ、メディナさんも私とは浅からぬ縁がありまして、小さな頃からずっと陰から見ておりました。

 いえいえ、ストーカーなどはいたしておりませんよ。陰からそっと見守っておったわけですが……。

 

 今朝はいつもの様に病院の前の広場の掃除をしておりますと、噂をすれば何とやら、周囲を気にしながらオドオドとこちらに向かって来る兎耳族の娘が見えるでは有りませんか。

 おおおお〜〜〜っ、やはり心に悩みを抱えているようです。

 是非是非是非!私が彼女の悩みを聞いて差し上げなくてはいけません。いささか強引にでもです。むふふふふふ〜〜〜っ。

 

「あ、あの~っ…この病院の医院長さん…でしょうか?」

 来た来た、きました~~っメディナさんの困り顔、え〜え、わかっていますよあなたの悩みなどとっくにお見通しですからね〜〜〜。

「おや〜っ♪、メディナさんこんな時間にどうしたのでしょうか?何か私に御用でも?」

 コテッと可愛く首をかしげてにっこり笑ったつもりでしたが…よく考えたら仮面をかぶっているから表情は見えませんね〜。

 いきなり自分の名前を呼ばれて泡を食ったのかもしれません、彼女の顔が引きつっています。

 

「ああ?私はこの街におられれる全員の方々の名前を憶えておりますから、お気になさらずに」

 慌てて付け足しの言い訳をしたのだが、あまりにも怪しすぎたのだろうか?

「ご、ごめんなさい…あたし…」

 いきなりメディナは後ろを向いて飛び上がりました。兎耳族特有の逃亡行動です、可愛いですね〜。

 むふふふ〜、そんな事で逃がす物ですか〜っ。せ〜っかく勇気を振り絞って来たのでしょう、思いっきり歓迎してさしあげますわ〜♡。

 素早く彼女の前に回り込むとメディナの顔がポフンとわたしの巨大な胸にめり込みます。

 

「おおや〜?迷える子羊は何かにお悩みのご様子ですね」

「あ…あ…?」

 背の高い医院長の仮面を見上げると驚愕に目を見開いて後ずさりをするメディナ。

 子供とは言え兎耳族の足である、さっきの場所から20メートル以上離れている。

 いくら兎耳族の大人と言えどもそう簡単にメディナより早く動けたはずはないと考えたでしょうね〜。

 このくらいは余裕ですよ、私の手にはまだホウキすら握られたままですからねえ。

 

「前も見ないで、あまり急いで走ると危ないですよ~」

 再び脱兎のごとく飛び出そうとするメディナをはっしと抱きとめると、そのはずみで仮面がポロンと外れて落ちる。

 おおお〜〜っ、いけない私の物凄い美形の顔を他人に見られてしまうのでは有りませんか〜?

 慌てて仮面をかぶり直すバルバラを不思議な表情で眺めるメディナ。

 

「大丈夫ですよ~、悩みは人と共有することが出来れば、悩みでは無くなりますから」

 何ででしょうね〜?この娘は私の事がそんなに嫌いなんでしょうかね〜?せっかくカロロちゃんに紹介してもらったのに。 

「そうですねえ、こんな所では話しにくいでしょう、病院の診察室で伺いましょう、どうせいつも暇ですから」

 グワシッと手を掴むとかなり強引に病院の方に引っ張って行く。

 

「私の事はバルバラとか、医院長とか呼んでください。…どうされました?いらっしゃらないのですか?」

 メディナは恐怖に満ちた目で私を見上げると泣きそうな顔で頭をフルフルとふる、なんですか〜?取って食いやしませんて〜。

 あ、そうかと気が付いて、もう一度仮面をたくし上げて素顔を見せるとニコッと笑う。

「は、はい……」

 美人でグラマーな医院長には逆らえない女心である…と思う。

 病院の中には待合のベンチがずらりと並んでおり、その先には診察室の扉がある、その並びにある扉をくぐるとそこは小さな個室でテーブルと椅子が置いてある。

 

「この部屋では個人の悩みを聞く部屋になっています、ここでは個人の悩みや人生相談などを主に受け付けている部屋で~す♪」

…いや〜ね〜っ、この子ものすごい猜疑の目で私を見てる〜。 

「今日ここでお話したことは、他では一切話すことはありませんし、あなたの秘密は絶対にお守り致します、それがセラピストの盟約ですから」

「……ん?」

 メディナは首をかしげる。あはああ〜っ、こんなこと言っても子供にはわからないわよね~。

 そうそう、きっと仮面が怖いのよね〜、外してニッコリ笑えば子供なんてイチコロよ〜。

 

「カロロちゃんはね~、生まれた時に取り上げたのが私で、最初の2年間位わたしとコタロウさんが面倒をみたんですよ~」

 メディナが驚いたような顔で私を見る。ヨッシャ〜、こっちに気を引いた〜!

「医院長さんは何故仮面を付けているのですか?」

「オーッホッホッホッ!ほら〜っ私って美人でしょう。あんまり美人が病院の医師をやっているとあまり信用されないのよ~」

「先生…見かけより年寄りなんですね…」

 

 …おお~~っ、上等だ~~このガキ〜、シバいたろか~~い。…などという気持ちはおくびにも出さずニッコリわらう。

 

「本当よ~、ほらカロロちゃんは生まれたばかりの時は人間の赤ん坊とあまり大きさが変わらないのよ~」

「本当ですか?竜人様はあんなに大きいのに」

「そうよ~、だから子供の世話なんかしたらものすご~く危険だから、私達がしてあげるの、間違って踏みつぶしたら大変でしょ~」

 あらら、顔がひきつっている、なんとなく恐ろしい話をさらりとしたような気がするが、気にしない気にしない。

 

「だから竜の巣から旦那を追い出してから育てたのよ〜、幸いお兄さんがまだ小さかったから〜。お兄さんと一緒に2歳になるまで育てていたの」

「そ…そうなんですか?」

「そうよ〜、だからカロロちゃんはね私の娘同然なの、その娘のお友達の悩みは聞いてあげなくちゃいけない物ね~」 

 ニッコリと笑うバルバラ。既に完全に逃げ道を塞がれた感の有るメディナであるが、ぽつり、ぽつりとこれまでの事を話し始める。

 順序もバラバラで支離滅裂な言葉の羅列となるような話にしかならない、いいのよ〜っ、他人に話すことが出来れば悩みの半分は無くなったものなんですからね〜。

  

「ふうむ、あなたは兎耳族にも関わらず非常に強力な魔法が使えると、そういう事なのですか」

 最初は面白くてみんなに自慢して見せびらかしていたものが、逆にみんなから気味悪がられる事になってしまったということのようだ。

「貴方のお父様は犬耳族でしたね~、普段の食事で貴方は肉を食べるのですか?」

「いいえ…肉は…嫌いですから…」

 そうだよね〜、この子の魔法力が強いのは別にお肉のせいじゃないものね〜。

 

「最近何か印象的な事件は有りませんでしたか?」

 明らかにうろたえた顔をする。いじめ以外の事件が何かあったことは明らかのようだ。

「はい…実は……」

 再び話を進めるがこれも支離滅裂なままである。どうやらカロロを助けようとして使った魔法で級友を傷つけてしまった事で、ますます孤立してしまったとの事のようだ。 

「それで?あなたはもう魔法を使いたくないと思っているのですか?」

 全ては魔法の力が原因だった、魔法が使えなければそれでもいいとすら思っているように見える。

 

「なぜお友達はあなたの事を避ける様になったとお考えですか?」

「やっぱ…兎耳族なのに…魔法が強いから…かな?」

「犬耳族や獅子族の女の子のお友達も同じなんですか?彼女たちも十分強い魔法を使えると思いますが」

「女の子は…自分の仲間だと思えば仲良く出来るけど…違う子は避けるから…」

 あ〜〜〜っ、女の子の仲間意識というやつね〜。

 

「まあ、自分より下だと思っていた子から、自分より上の能力を見せられるとやはり嫉妬する様かもしれませんね~、それでカロロさんがあなたの事を竜のお兄さんに相談したと?」

「すごく心配してくれて…お兄さんに話してくれて…それで医院長さんに…」

 まあ、コタロウは完全なシスコンだからね〜、カロロの言う事ならなんでも聞きそうな気がするしね〜。

 

「成程わかりました、解決は簡単な様ですね」

「やっぱりみんなの前で魔法を使わないようにすればいいのかしら?」

「あなたの魔法の力は天から与えられた力なのです。大事にしてより訓練を積めば必ず役に立つ時が来ます」

 この町ではこの子は異質なものとなってしまうのは仕方がない、しかし魔法は才能であるからそれを潰すことはこの子に取っては損失に過ぎないのだ。

「そもそも大きくなればそれで稼ぐ事も出来ますよ」

「え?お金を稼ぐことが出来るんですか?」

 むふふふっ、よしっ!食いついたわ、やっぱり子供とは言ってもお金の話が一番効くわね〜。

 

 元々兎耳族の魔法力は弱く、それを利用した職業と言う考え方そのものが希薄だったのだろう。

 普通の家庭は生活するだけで精一杯のお金しか稼ぐことはできない。畑と狩人をやってようやく暮らしているのだ。

 そう言った生活を見て来たこの子に、魔法力と言う物は金になると言う事を吹き込んであげれば食いついてくるのは当たり前のことですものね。

 そうすれば大事に、大事に魔法力を育てて行くでしょう、それはとても重要な事なのですよ〜、むふふふふ。

 

「あなたはすごく魔法の才能が有ります、ですからそれは出来るだけ伸ばした方が良いでしょう。ただし他の人には大きな魔法は見せない方が良いでしょうねえ」

「やっぱり兎耳族は魔法を使えちゃいけないの?」

 いずれはこういう時期が訪れる事は予想してはいたのだが、自分が魔法を使う事によって友達が離れていく事に心を痛めている。 

「まあそんなに気を落とすことはありませんよ、それよりみんなで魔法を使って遊べば良いのですよ」

「……は?」

 つまり発想を変えて、魔法を遊びの一つとしてみんなで使うようにすれば良いのである。

 

 実はカロロにも同じような事を教えたのだが、どうもカロロは斜めにズレてしまったらしい。何しろ竜人族の魔力は他種族に比べて極端に大きすぎてしまったからだ。 

 弱い魔法力でも出来る魔法を使った様々な遊び方をメディナに教えてあげる。同時にこれはその遊びを使って魔法のコントロール能力を上げる訓練になるはずだ。

 この子と一緒に魔法の練習をすればカロロも魔法のコントロールがうまくなるだろう。他の子供達もそれが出来るようになれば、みんなの魔法の威力の底上げになる。

 

「こうやって魔力のコントロールを良くしていけばいいのよ、友達と一緒に遊んでいればすぐ打ち解けてしまいますからね」

 何となく納得できたような顔をしている。よしよし、子供は素直で良いですね〜。

「あなたが大きすぎる魔法を使わなければ、そのうちみんなの魔法力が上がって目立たなくなりますよ」

 木を隠すなら森の中、要するに友達みんなの魔法力を上げてしまおうと言う事だ、朱に交われば赤くなるのよ、むふふふふ。

 

「どうして私にはこんな魔法力が強いのかしら?」

「その理由はね~、あなたがもう少し大きくなったらお話してさしあげましょうね、15歳になったらもう一度私たちを訪ねていらっしゃい」

「…?」

「15歳と言うのはあなたが大人になる時ですからね、その年になれば魔法を使った職業や狩人の仕事にも就けますから」

 この子が納得したかどうかはわからないけど、こう言っておけば必ず私の言ったことを実行するでしょう。

 

 子供の頃から魔法のコントロールを続けていけば、必ず役に立つ日が来ますからね、むふふふふ。


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