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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
169/221

オールナイトフィーバー

6ー037

  

――オールナイトフィーバー――

 

「レディース・アンド・ジェントルマン。今宵のナイトパーティにご来場いただきましてありがとうございます。今宵は月面都市最後の夜を、皆様心行くまでお楽しみください」

 全員が医院長に拍手を送ると、衣装に取り付けられたイルミネーションが一層派手に点滅をし、更にその後ろにあるバックステージの大型スクリーンに派手な模様が表示される。

「何やってんだ?あいつ」

「ディナー・ショーじゃよ、音楽を聴きながら食事をするんじゃ。だから音楽を聴かせること自体がショーじゃからな」

 

『医院長がここまで来られた皆さんを歓迎しようと思っておられるのですよ』

『なんの歓迎だ?』

『大丈夫です、パイロットは医院長のゾーン外だと思いますから』

『恐ろしい事を言うな』

 

「カルカロスの街にも有るのですか?」

「おお、女性と食事や酒を飲んだあと一晩すごせる店が有る、結構値が張るのでそう簡単には行けんのだがな」

「わ、私はまだ行ったことがないぞ」

「お前は怪我をしていたではないか、帰ったら連れて行ってやる」

 リクリアは嬉しそうににっこりと笑う、メディナは期待に満ちた目でこちらを見ている。


『一晩過ごすというのはその店で一晩一緒にいるということなのか?』

『通常はホテルにあるレストランで食事をし、その晩はホテルに二人で泊まるということです』

『つまりナニか?ナニがナニしてナニをするのか?』

『パイロットの語録の貧弱さには絶望的な思いですが、おおむねそういうことです』


 要するに大人のデートスポットということらしい。ヒロは大人の階段を上る前にメディナと結婚したので行ったことがなかったのだ。

 今回のことがすべてが終わったら是非メディナと一緒に行ってみようと決心するのであった。

 

「それでは今夜皆さんを歓迎いたします、バックバンドを皆さんに紹介いたしますわ~。ルナティック・ドローンの皆さんでーす」

 10人ほどのロボットバンドが演奏ブースに座っていた。もっとも足があるのかどうかは見えないが。

「そしてピアノ担当、のPORNタイプ2さんでーす」

 ボロボロボロ~ンと鍵盤を叩くPORN。よく見るとローラーをつけた椅子のようなものと一体のボディであり、椅子の途中から足が出ていて、その手には細くて長い指がついている。

 胴体にはスーツに蝶ネクタイの様な模様が描かれており、ピアノを弾くためだけに作られたロボットのようだ。

 

 しっとりとした感じのピアノ演奏が始まり、配膳ロボットが食事を配り始める。

「最初は前菜ですわ~、ナイフ、フォークは外側からお使いください。今回は一番左のフォークをおつかいくださ~い。手づかみの場合は手元のボウルの水で手を洗ってくださいね~」

「なんじゃ?なんでこんなにたくさんのナイフやフォークがあるんじゃ?」

「おばあ様、これが月神ムー格式マナーなのでしょうか?」

「まあ、国や時代が変われば格式も変わるさ、相手に合わせるのも格式のひとつじゃよ」

「わかりましたわ、おばあ様」

 

「これまで月面都市で皆さんにお食事していただいた感想とデーターを元に味を再現しておりますが、なにぶんにも食べられた食材が少ないので多少の違和感はご容赦くださいね~。なお肉にはすべて魔獣細胞は含まれていませんので安心してお召し上がりください」

「ふむ、肉がどうなっておるのか非常に楽しみじゃな」

 

 ワイングラスに食前酒が注がれるが、スパークリングワインのようだ。

「これは良い香りですね、アッカータでもこんな酒は造れませんよ」

「ブドウの実を使った辛口の果実酒ですね、文献ではシェリー酒と呼ばれるもののようですが、ランダロールでもなかなか再現が難しいらしいですね」

「おばあ様とてもおいしい飲み物ですわ」

 エンルーは子供にもかかわらず平気で飲んでいる。やはり兎人族のせいか酒に酔うことはないようだ。


「子供にアルコールはちょっとねえ」ティグラが渋い顔をする。

「エンルーさんのはノンアルコールですからね~♡」

 医院長がちゃんとフォローをしている、一応は教育者だからな。


『あなたは普通の人間ですから過剰なアルコール摂取は控えてください』

『わかっている、連中は魔獣細胞があるから酔わないんだろう』

『いえ、酔いつぶれて寝てしまえば、最初の夜の二の舞ですから。今回は前から後ろからメディナさんの姿を目に焼き付けてください』

『絶対に覗くんじゃないぞ』

『今回は亜空間に入っていませんので、記録はできません。おひとりで頑張ってください』

 

 前菜に続いて。今回の配膳は月面都市の猫型と違いちゃんとした人型で胴体にはスーツの模様が描かれている。

 コタロウとガーフィーは他に比べて体の大きさが違うので食器の大きさも一回り大きい。

「おにーちゃん、一口で飲んじゃだめだよー」

 大きく張り出したお腹は食事のマナーをするのには難しいようだ。前菜もスープも食器を持って一口だ。

 スープを飲んだ途端にお腹が大きな音を立てる、流石は無限胃袋のコタロウである。

 

「続いて魚の料理でございます。かつて地球から送られてきた冷凍された魚の卵を解凍してふ化させたものです。切り身を時間をかけて焼き、ソースをかけたものです。皮のままお食べ下さい」

「美しい仕上がりですね。ランダロールに持ち帰りたい一品ですわ」

「そうですね、こういった料理はアッカータにもありますが、ここのは随分洗練されていますね」

 一生懸命飾り付けられた料理をコタロウは一口で食べてしまう。料理人が泣くぞ。

 さすがにカロロちゃんは優雅に食べている。こんなことが出来るのも一生のうちでこの大きさの時だけなんだろうな。


「ねえ、給仕さん。このお魚は月面都市で育てたんですか?」

「左様でございます。哺乳類と違い魚類は養殖がしやすいですから」

「僕たちが帰ったらその設備やお魚はどうなるの?」

「次のお客様が来られるまで設備は休止し、残った魚は破棄されます」

「あ、そう~。それじゃさ、お願いがあるんだけどさ~♡」

 コタロウのいつものお願いが始まった。

  

「さ~~てピアノ演奏はいかがだったでしょうか~?続いてトランペットの演奏をお聞きいただきますわ~、奏者はPET=21さんで~す」

 トランペットを持ったロボットが現れてお辞儀をするとトランペットを口に咥えて吹き始める。

 

「お口直しにイチゴのシャーベットでございます」

 その間に小さなシャーベットが出てくる。

「ガーフィー、あのトランペット奏者はなぜあんなに体を前後に振るんだ?」

 ロボットにも拘わらず、唇の両側の頬が大きく膨れて空気が溜められている事がわかる。

 

「おお、あれはな息を目いっぱい吸い込んで最後まで吐き出すからなんじゃ」

「カルカロスにもあんな楽器があったのか?」

「残念ながらワシらには吹けん、唇の形が違うので空気が漏れる。犬耳族の警備部隊が起床の合図に使用しているようだな」

 ロボットに肺が有るのか?という野暮な考えは置いておいて、トランペットの響きは強く、高く響き渡っていた。

 

 コタロウは余ったシャーベットをボウルのまま持ってきてもらって口に放り込んでいた。もう少し旧人類の文化に敬意を払えよ。

 

 料理は時間をかけて出されており、その間音楽を聴いたり歓談をしたりして食事を楽しんでいる。

 

「次はメインディッシュですが、残念ながら月面都市には生きた哺乳類はおりませんので、皆さんのお口に合えば良い事を願ってスタッフ一同頑張って作っております」

 メインディッシュはハンバーグであった。湯気を上げるハンバーガーが温野菜の添え物とともに出てくる。

 

「続いての演奏はサクソフォンで~す、奏者はSAKKU=Jrさん」

 今度の音楽はスウィングの様な感じの物であった。奏者のロボットは音楽に合わせて体を左右に振っている。

「かなり陽気な感じの音楽ですね。おばあ様、台地の上では余り聞いたことのない演奏ですね」

「そうじゃな、しかしこの音楽は狼人族には結構刺さるかもしれんな。旧世界の人間はかなり多様な音楽を持っておったのじゃな」

「はい、いずれは私たちの世界でもこれらの音楽を再現したいと思いますわ」

 

「おお、この肉は月面都市や空港で食べた物より格段に肉の質が上がっておるな」

「そうか?それでは私も食べさせてもらおう」

「リクリアはこちらの世界に来るまでは肉を食っていたのだな」

「あまり食いすぎると僧兵のようなウサギ顔になってしまうからな、その前にこちらに来れて良かった」

 ライオン顔のガーフィーと人間顔のリクリアは、顔を見合わせてクスリとわらう。

 リクリアとガーフィーもすごく親密そうだ。ヒロはメディナとこんな時間を過ごしたことが無かったな~と思い直す。


 他のみんなも楽しそうに歓談をしながら食事を続けている。

 シリアさんとガルガスの話が思いのほかはずんでいるようだ。あの二人は何時からこんな関係になったのだろう。これを見越していたとすれば医院長おそるべし。

 コタロウさんは外部の一切の情報を無視して料理を口に放り込んでいる。実に幸せそうである。

 エンルーはティグラさんに親子の様になついている。祖母と孫と言ったら電撃ライデンが飛んできそうだ。

 

 メインディッシュの後には生野菜とチーズの添え物が出てきた。小さなラスクが付いていてその場で給仕がチーズを切ってくれる。

 コタロウの行動を予測したのだろう、最後に回って残ったチーズを積み上げている。


「さ~て、お腹も膨れたことと思いますので次はバイオリンによるストリングスで~す。よろしければ皆さんでダンスなどいかがでしょうか~?」

 バックオーケストラによるバイオリンによる穏やかな音楽が流れ始める。


「お願いできますでしょうか?」

 ガーフィーが立ち上がると背筋を伸ばしてリクリアをダンスに誘う。

「よろこんで」

 手を取って立ち上がるリクリア、いつの間にか給仕ロボットが後ろに来ていて椅子を引く。

 なにあれ?ガーフィーがやたら格好が良い。いつものワイルドさはどこに行った?

 

「あたし達も踊ろうよ」

「お、俺、踊った事なんかないよ」

「大丈夫よ~、あたしがリードするからほらこうして手を取って…」

「き、君、踊れるの?」

「カルカロスじゃみんな学校の授業で習うのよ。デートしたときは、ダンスホールで食事をしながら踊るのよ」

 

 そこいら辺全部すっ飛ばして結婚しちゃったものな~、それにしても思った以上に文化が進んでいるんだ。

 こうしてみると人類統合政府は、戦争以外の文化をすべて破壊して存在している政府だったんだな。上級市民はどんな生活をしていたんだろうか?

 

「シリアさん、いかがでしょうか?」

「まあ、ガルガスさん。嬉しいですわ」

「おばば様、わたくしたちも」

「そうですね、エンルーが年頃になった時の為に練習をしましょうね」

 ニッコリ笑って席を立つティグラ、この人のドレス姿も姿勢が良くて思った以上に恰好が良い。

 

「おにーちゃん、あたし達もー」

「駄目だよ~、ボクが踊ると尻尾を振り回して周り中の人間を弾き飛ばしちやうから~」

「やった事あるのー?」

「うん、卒業パーティやらなんやらで…」

 なかなかに壮絶なエピソードをお持ちの様だ。

 

「それなら空中でおどるーっ」

「良いのかな~、エチケットに反さないかな~」

「給仕さん、どうなのー?」

「はい、天井高が高いので大丈夫ではないかと思いますが」

 というわけでふたりは上空で踊ることになりました。もっとも空中ではステップが効かないので、コタロウの周りでカロロが振り回される格好になってしまった。

 服の隙間から翼を出して踊るふたりは、身長差もなくなり、実に自由に踊りまわっていた。

 

 ダンスが終わり、デザートとコーヒーで喉を潤していると医院長が衣装を変えて出てきた、

 いつもの仮面を取り、顔の上半分を隠す蝶の仮面に変え唇に真っ赤なルージュを塗っている。

「ダンスをお楽しみいただけたでしょうか?デザートのケーキとコーヒーをご賞味ください。その間わたくしの美声をお聞かせいたしますわ~」

 

 給仕がケーキを配りコーヒーを注ぐ。コタロウはいつもの通りジョッキのコーヒーにデザートの残りを積み上げていた。 

「おにーちゃん、ずるいー」

「はいはい、半分ずつ食べましょうね~」

 ふたりはコーヒーとケーキを分け合って食べていた。カロロちゃんのお腹が既にぷくーっと膨れている。

 

 医院長がマイクを取り上げる。ちゃんと小指も立っている。

「月にやってこられた皆様にふさわしい曲を歌いたいと思います」

 

 

 Fly me to the moon~

 

〽私を月まで連れて行って~星々の間で遊びましょう~

 

〽木星や火星の春はどんな景色なのかしら

 

〽でも本当はわたしの手を握って、愛するあなたに口づけをして欲しいの

 

 

「あらあら、こんな歌が本当にあったのですね~」

「はい、シリアさん。今回の旅にふさわしい歌のように思えます」

 医院長の声は普段の腹黒さとちがい、とても澄んでいて美しい歌声であった。

 

「すご~い、医院長さんてこんな綺麗な声が出せるんだ~」

「まあ…医院長であれば、どんな声でも出せるから…」

「なにそれ?どういう事?、?、?」

 素直すぎるメディナの心に響く歌声はそんな疑問すら押し流してしまう。



〽私の心を歌で満たして永遠に歌わせて欲しいの


〽私の求めるすべて、あなたを心の底から愛しているから


〽でも本当は、わたしの事を心から愛して欲しいの、あなたが本当に好きだから



「ブラボー!医院長殿ー」

「素敵な歌だったわー♡」

 医院長の歌が終わると全員が惜しみない拍手を送っている横で、お腹をぷっくりと膨らませたカロロがテーブルの上で伸びていた。

 

 パーティーが終わり、その夜はそのままホテルの部屋に戻る。

 薄暗がりの中のメディナはとても美しかった。前から後ろからしっかりと記憶に焼き付けたヒロは、彼女をとても愛おしいと思った。


 

――いかんな~、まるっきり医院長に良い様にもてあそばれている――後日ヒロは深い嫌悪感に襲われた。


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