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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
168/221

ディナーパーティー

6ー036

  

――ディナーパーティー――

 

「OVISの装備にはしばらくかかりますから、今夜は皆さんをホテルにご案内します、大サービスしますわよ〜。オーッホッホッホッ!」

 

 珍しく大判振る舞いの医院長である、ディナーパーティー付きだそうだ。まあ月面都市は貨幣経済が出来ていないから医院長の懐が痛むわけでもないのだろう。

 そんなわけで、ディナーパーティだから服を買ってこいと言われて全員で街の洋品店に買い物に行く。

 

 

「いらっしゃいませ。当店にようこそ。最高のデザイン、最高の品質、豊富な品揃え。当店は月面都市における最高の店舗となっております」

 先ほど相手をしてくれた店員のカラクリが再び出てくる。

 

「先ほどはどうも、今度はお友達を連れて来たわよ」

「おお、これは大勢のお客様ですね、すぐに別の店員が参ります。今回のお買い物はパーティドレスですか?」

「なんであなたが知っているのよ」

「もちろん!その筋からの情報で御座います。是非とも当店のアドバイスで御揃えください」

「まあまあ、医院長ですよ〜。いつもの事じゃないですか~」

 

 信頼されているのかいないのか?コタロウさんの医院長に対する評価はこんな物らしい。

 

「兔人族の皆様は美しくてスタイルもよろしいですから、腕によりを掛けて見繕わせていただきます」

「わ、私はドレスなど着たことはないぞ」

「リクリアさんは若いしスタイルが良いですからきっとお似合いですよ」

「ワシは乳バンドと言うものを着けてみたいもんじゃな」

 

 女性軍はすでに、かしましくおしゃべりをしている。

 

「男性の皆様は種族がバラバラですね〜。でもご安心ください、私が選べば各方の個性に合わせて選んで差し上げましょう」

 追加で現れた店員のカラクリが男性用の衣類の場所に連れて行く。

 

「おや?竜人族のお嬢さんは女性ではございませんか?」

「ふにゃ〜っ。そうだけど〜?」

 コタロウの頭の上にいたので忘れていた。

 

「私がお選びしても宜しいのでしょうか?お友達の皆様と一緒に選んだほうが楽しいのではありませんか?」

「そっかー、メディナー、一緒に選ぼー」

「カロロ〜、こっちにカロロの服が有るよ〜」

 カロロはコタロウの頭から飛び立つと、パタパタとメディナたちの方に飛んでいった。

 

「ボクに合う服があるかな〜」

「もちろんでございます。現在のカルカロスの流行はシックでございますのでその方向でデザインしてございます」

「は?今なんと?」

「はい、流行はシックと」

 

「いやその前、何処の流行ですって?」

「はい、カルカロスの流行と…」

「いったいどうやって流行を知らんべたんですか?」

「蛇の道は蛇と申しまして、それなりの情報ルートがございます」

 

 あれですか〜?それもやっぱり医院長さんでしたか〜。

 

「もしかしてここにぶら下がっている服のサイズは全部僕らに合わせていません?」

「ど、どうしてその事を…?」

 

 いや…わかっていましたから…そのリアクションは不要です。 

 

 機械であるにも関わらず驚いたような発言をする店員。うん、感情表現プログラムの出来が良いようだ。

 

 ガーフィーは背が高く肩幅が広いのでタキシードスーツを着ると想像以上に格好が良かった。

 髭が長いので中のシャツはフリル付きの物を着てベストは無し、カマーバンドに黒の蝶ネクタイはほとんど見えない。靴はエナメルの黒。スーツの黒と合わせて堂々たる押し出しである。

 

 ガルガスは茶色の縞のダブルスーツで通常のネクタイと縞のシャツ、茶色のカジュアルシューズでラフな感じで決める。

 

 ヒロはタキシードスタイルでヘチマ形の襟、無地の白のワイシャツに黒の蝶ネクタイに黒のエナメル靴でむしろ若々しさが有る。

 

 コタロウは黒の吊り半ズボンに2ボタンのベストにアスコットタイ風のマフラーに靴は無し。腹出しセパレートである。

 

「どうでしょうかねえ、似合いますか?」

「ああ、すごくイメージが変わってしまうよ。コタロウさんの両親に見せたら驚くだろうね」

 

「なんかみんなサイズがぴったりではないか、それにしても動きづらいな」

「狩りをするのではありませんから、あまり動かなくて良いのです。食べすぎるとボタンが弾けますから気をつけてください」

 ガーフィーがガルガスに注意をされていた。

 

「あなた達、船でシャワーを使ってないでしょう。かなり匂いますわよ」

 医院長がやってきて、女性たちの衣装選びはまだまだ時間がかかるので、先にホテルに行って身だしなみを整える様に言われた。

 ホテルに案内されると部屋があてがわれる。

 

 ヒロとメディナ、ガーフィーとリクリア、ティグラとエンルー、コタロウとカロロが同室でガルガスとシリアは個室になっていた。

 ホテルのフロントは洋服屋でも見かけたロボットの派生型であろう。顔の部分に表情が作れるモニターがあり、手は2本で胴体の部分に黒のスーツに見える模様が描かれていた。

 

「本日は当ホテルをご利用いただきありがとうございます。本ホテルは立地は最高、サービスも最高、料理も最高で皆様のご利用をお待ちしております。こちらの宿帳にご記載ください、ポーターが荷物を部屋までお届け致します。

 なおバルバラ医院長様からのご伝言で大浴場で体を洗ってくるようにとのことでございます」

 そこで大浴場とレストランの場所を教えられ、部屋に荷物をおいたらみんなで風呂に入ることにした。

 

「おお~っ、これは結構立派な浴場ではないか」

 ガーフィーが嬉しそうな声を上げる。

 

 筋骨隆々たる体を見せびらかすかのように、すっぽんぽんで堂々と入ってくるが、ヒロはいささか気圧される様に前を隠す。

 カルカロスにも共同浴場は有るが大体はサウナである。毛深い人間が多いので、お湯に浸かるのはかなり問題が多いのである。

 だからお湯に浸かる共同浴場の使用料はかなり高いのだ。

 

「「皆さま入浴前にシャワーを浴びてくださるようお願いいたしま~す」」

 胴体に前掛けを掛けた模様の付いたロボットが2体声を揃えて出迎え、シャワーブースに誘う。

 

「あの~、ボクのお腹じゃ入りませんが~」

「「はい、コタロウ様は私たちが洗って差し上げま~す」」

 コタロウの腕では背中どころかお腹の前にも届かない。ただ意外と器用な尻尾で大体の事は出来ると言う特技があるのだ。

 大きなブラシを持った2体がホースでコタロウにお湯をかけ、デッキブラシでこする。

 

「おおい、これは石鹸らしいが、こっちの瓶は何に使うんじゃ?」

「シャンプーで御座います。毛を洗う石鹸ですので毛の濃い部分はそれを手に付けて擦ってください」

「殆ど全身じゃな…うおおお~っ、これは泡立ちが良いぞ~」

 ガーフィーは瓶からシャンプーを手に付け、使い始めると全身が泡に包まれる。コタロウもボディソープを付けられてブラシでゴシゴシと擦られる。

 

「は~い、手を上げてくださーい、擦りますよ~」

「くすぐった~い」

 コタロウも時々湖に行くと竜僕達が体を洗ってくれる。特にコタロウの場合脱皮が近くなると洗う回数が増える。

 

 まだ若いので全身脱皮が起きるので、脱皮した皮は高級防具の材料となるのだ。年に一度しか取れないので実用品と言うより、コレクターズアイテムのようになっている。

 無論竜の皮で有るから実用的な丈夫さも有るが、大型魔獣の皮の防具でもそれ程強度に差が有る訳でもない。

 

「お腹を擦りま〜す。顎を上げてくださ~い」

 デッキブラシでお腹から顎の下までゴシゴシと擦ってくれる。

「うう~ん、きもちいい~っ」

 全員で湯船に浸かっていると女性軍達がキャッキャと言いながら入ってくる。もちろん全員タオルなど巻かずに前など隠してはいない。

 

「お先に入っていま~す」

 コタロウは全身が浸からないので湯船の中で伸びていて、お腹がこんもりと頭を出している。

「なんと立派な浴槽じゃな、台地にもこんな物は無かったぞ」

 シャワーで体を流すと皆で浴槽に浸かる。

 

「おにーちゃーん」

 カロロがパタパタと飛んできてコタロウのお腹の上に降りる。エンルーが何やらうらやましそうに見ている。

 あらためて思うが、女性全員がマッチョではないが引き締まった体をしている。

 無論ティグラやリクリアは魔獣の肉を食って大きな体を得ているが、メディナも無駄な肉は無く腹筋が割れている。

 

 ベッドの中以外で裸を見る機会もあまり無いので、この際しっかり見ておこうと考えるヒロである。

 

『注意、不穏な思考が漏れています。高次の巫女がいる事を忘れないでください』

 OVISの通信が入ってくる。まさか風呂にまでついてきていないよな。

 

 ティグラとシリアが同時にヒロの方を見る。いかん、この二人には以前リンクを繋げられている、思考が駄々洩れになったら完全に読まれる。その横で何故かエンルーが頭をひねっている。

 しかしOVISは勝手に通信をしてくるな、これからはOVISの通信は医院長の通信と考えた方が良いのかもしれない。

 

『そんな事はありません、現在私の最優先事項は貴官の生命の保護にあります。医院長との良好な関係は貴官の安全に非常に大きな条件となっております』

 医院長と喧嘩をするとヒロの命に危険が及ぶらしい。出来るだけお付き合いは遠慮したい状況だがOVISの意見はそうでもないらしい。

 

 風呂から上がると更衣室にドライルームがあった。全身が温風に包まれあっという間に乾燥してしまう。


「すごい設備ですね、いずれは私たちもこんな世界を作りたいものです」

 ガルガスの目的は見分を広げる事であり、その為に嵐の海を越えてエルメロス大陸にやってきた。そして自ら望んだ以上の知見を得る事となった。

 

「いつか故郷に戻ってこの知識を広めたいものです」そう考えるガルガスである。

 

 ディナーの時間になり、皆で着替えてレストランに集まる。女性たちは着付けが有ると言われ一足先に出て行った。

 部屋割ごとのテーブルが用意されており、男たちが先に座って待っていると女性陣が到着した。

 

 最初に現れたのはリクリアであった。紫のマーメイドドレスで胸の切込みが腹まであり、紐で押さえられている。歩くたびにスカートの前の切込みから足が見えて驚くほどセクシーであった。

 背中に全然布が無いじゃないか、寒くないのか?一体誰がデザインしたんだ?あいつか?やっぱりあいつか?

 元々髪の毛は長くは無いが綺麗に撫でつけられ、化粧も施され全くの別人に見えた。

 

「おおお~~っ、これはリクリアか?見違えたぞ、なんて美しいのだ」

「ガーフィーもすごく格好がいいわよ」

 ライオンの顔に、ビッタ分けに整えられた髪と髭が驚くほどスーツに合っている。

 そのすぐ後ろからメディナがやってくる。紺のフレア袖のロングのパーティドレスで清楚ながらメディナの美しさを際立たせている。

 

「メディナ、今夜はまた一段と可愛いね」

「ふふっ、ヒロも素敵よ」

 日頃狩人服の姿しか見ていないふたりである。こんな非日常はそう何度も有るものではない。ヒロはそっとメディナの手を握ると、メディナも握り返してくる。

 次いでカロロがピョコピョコと飛んで来る。袖なしのピンクで、フリルが沢山ついたひだの多いワンピースをきており、まるで人形のようであった。

 

「うーん、翼を出せないので飛びにくいー」

 コタロウもカロロも上着を着ると翼が出せないので、飛んだ時に姿勢制御が難しいらしい。

 カロロはコタロウが受け止めて椅子に座らせる。

 

 ティグラはエンルーを連れて入ってくる。ティグラは袖のあるフォーマルな感じの白のロングドレスであった。デザインはおとなしい感じで有るが巨大な胸がそれを全てぶち壊している。

 村ではボサボサだった長い髪が綺麗に頭の上にまとめられていて、濃いめの化粧で本当の年齢より10歳以上若く見える。

 

 そう考えた途端にティグラがヒロを見る。いかん、心を読まれたのか?

 

 エンルーはピンクでフリルの付いた7分袖のワンピースで、膝までの大きく膨らんだスカートはゴスロリを思わせるデザインであった。

 長い髪の毛はカールして整えられており、ドレスの雰囲気に良く合っていた。

 

 これは…うん、絶対にあいつの趣味だな。

 

 最後に現れたシリアは銀色に大きな赤い花柄が入ったチャイナドレス風で片スリットが食い込んだデザインであった。小柄ではあるもののスレンダーなシリアには良く似合っているが、意外なほどに足が綺麗なので全員が驚いていた。

 長い髪の毛は編んで頭に巻いており若々しさよりも落ち着いた女性の魅力が出ている。

 

「こ、これはシリアさん、今夜はまた一段とお美しい」

「あら、お世辞でも嬉しいですわ、ガルガスさんも今夜はとても凛々しいですわよ」

 ふたりとも日頃からは想像もできないほどに格好が良い。細身でありながら鍛えられた体はふさわしい服を着ると真価がわかるというものだ。

 

「オーッホッホッホッ!皆さんお揃いですか〜?本日は月面都市一同が皆様のためにパーティを用意してくださったので、私が司会を務めさせていただきますのよ〜」

 

 けたたましい声の方を見ると、医院長の服に取り付けられた、各色のイルミネーションがチカチカと瞬いていた。


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