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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
166/221

ショタロリ登場

6ー033


――図書館のシリア――


「さて、皆が戻ってきたようですから戻りますよ」

 

 医院長がそう言った途端に周囲の景色が街の中に戻る。

 メディナとリクリアがキャッキャッと笑いながらこちらに戻って来る。

 

「ねえ見て、ヒロ〜っ。こんな可愛い服が買っちゃったわよ~」

 メディナが全体にフリフリのついたスカートの服に着替えていた。

 

「おお、メディナ。その服は?あの店で買えたのか?」

「なんかあそこにいたカラクリが、開店記念のお客様だと言って好きなのを選ばせてくれたわ」

 ふたりは紙袋を持っている。着てきた服を入れているのだろう。他にいくつも紙袋を持っている。相当たくさん買ったようだ。

 

『意見具申』

 いきなりOVISがリンクを開いてきた。何だ?何の緊急連絡なんだ?

 

『いつにもましてすごく可愛いよ。とても素敵だ』

 どうやらOVISからの女の子に伝える言葉のアドバイスらしい。そのくらい俺でも言えるぞ。

 

「いつにもましてすごく可愛いよ。とても素敵だ」

 にっこり笑って言ってやると、メディナはすごく嬉しそうな笑顔を見せる。

 どうやらカードも貨幣もここでは必要が無いみたいだ。ヒロの背後で医院長が鼻息荒く胸を突き出しているのを感じる。あんたもたまには違う格好をしなさい。

 

「ど、どうだヒロ?似合うか?似合うか?」

 こちらはメディナと違い、パッツンパッツンで布の少ないドレスを着たリクリアがやってきた。うん、眼福、眼福。下着は相変わらずフンドシかな?

 

『リクリアさんはとても女性らしい格好になりましたね。すごく魅力的ですよ、ガーフィーさんに見せてあげたらいかがですか?』

 またしてもOVISから通信が有る。いい加減にしろ俺は子供じゃないぞ。

 

「リクリアさんはとても女性らしい格好になりましたね。すごく魅力的ですよ、ガーフィーさんに見せてあげたらいかがですか?」

 それでもOVISのアドバイスに従うヒロ、素直な良い子である。

 

『OVIS、貴下の頭脳干渉を受けた最新記録を述べよ』

『10秒前です』

 OVISの返答を聞いてギッと医院長を睨むが、とぼけて明後日の方を見ている。

 どうやらヒロに対する干渉はOVIS経由らしい。確かにその方が安定はするのだろう。

 と言うかヒロとコタロウ以外には驚くほど気を使う医院長である。

 

「見ろ!この店は下着もすごいぞ。こんな品質の良い下着は初めてだ」

 リクリアは紙袋の中から下着を出して、ビヨンビヨンと延ばして見せる。

 

「姉さん!そういうのはこんな場所で見せないものなのよ!」

「そ、そうか?乳バンドもあったぞ。これがあればさらしを巻くより簡単だ」

 紙袋から出そうとするのをメディナが押し止める。

 

「そういうのはガーフィーに見せれば良いから!」

「なんだ、メディナも買ったんだろ。ヒロにも見せるのか?」

 

……後で見せてもらえるんだ。

  

「お姉ちゃんはそういうことを言わな〜い!」

 

『何か不穏な思考が感じられましたが?』

『お前は黙って引っ込んでろ』

 

「おお、ヒロにメディナ、ここにおったのか?なにか良いものは有ったのか?」

 腹をぷくんと膨らませたガーフィーがガルガスと共に舌なめずりをしながらステーキハウスから戻ってきた。

 

「おお〜っ、なんじゃ、なんじゃ!リクリア見違えたぞ〜っ、お前がこんな美人だとは知らなかったわい」

 あんた自分の嫁さんの顔を見たことが無かったんか?まあ種族が違うからいささか好みの感覚ははずれるんだろうが、今回のことで惚れ直したのかな?

 

「リクリアさん、すごく挑戦的な格好ですね〜、メディナさんはとても可愛いですよ〜」

 ガルガスに褒められてふたりとも悦に入っている。リクリアしか見ていないガーフィーのフォローをちゃんとやるところは如才がない。

 

 ガーフィーさん、リクリアさんの太ももを凝視するのはおやめなさい。ふたりきりになってから、たっぷりとご覧になってくださいね。

 

「皆さんこの街を楽しんでいらっしゃるようですねえ。お食事はいかがでしたか?」

「おお、あれも合成肉と言う物なのかな?魔獣の肉ほどではないがそれなりに食べられたぞ。肉の質も大事だが、調理方法が良いとそれなりに美味しく食べられる物じゃな」

「アッカータでは魔獣でない獣の肉は有りませんから、お腹いっぱいステーキを食べられたのは初めてでしたよ」

 

「それは良かったですね〜。カラクリと戦ってお腹が空いたでしょうから」

「あそこにいたカラクリと同じ物がここにはうようよしている様じゃが、やはり人間はいないらしい。人のいない町は寂しいものだな」

 

「ステーキハウスには犬型の配膳機がいましてね、語尾に必ずワンをつけるのが面白かったですよ。当時の月の人は、あれがセンスなのでしょうか?」

「そうだな?見ていて結構笑えたぞ」

「犬だからワンと言うのは、ずいぶん短絡的だと思いますがね」

 

 すると兎型の配膳機は”ぴょん”をつけるのかな?狼人族のガルガスからすればいささか微妙な感覚が有るのかもしれないな。


「しかし人が全くいなくてもそれなりに歓迎してくれるのはすごいと思いますね」

「まあ品揃えをしているのはこの辺の店だけなんですけど、みなさんにも月面都市の観光を楽しんでいただこうと思いましてね~」 

 空港同様に段取りをして待っていたらしい。ラスボスにしては良い心がまえだ、次はいったい誰を迎える事になるのだろう?

 あっちの方からコタロウがカロロを頭に乗せてテコテコと飛んでくる。カロロもコタロウも何か紙袋を握りしめている。

 

「コタロウさんはどんなお店に行かれたのですか?」

「は〜い、ケーキを売っているお店に行って来ました。代用品で作ったと言っていましたけれど、とても美味しいケーキでしたよ、ケーキ以外にも色々売っていましたので少しお土産にもらってきました」

「猫の配膳機の店員がいたーっ」

「そちらは猫でしたか、ステーキハウスは犬の配膳機でしたね」 

 いずれも無人店舗なのだ。空港でやり方を覚えたとはいえふたりとも順応が早い。

 

「ケーキは切り分けて出てくるので、あまったケーキは全部包んでもらいました。他にもクッキーやハンバーガーも置いてありましたね。皆さんで召し上がってください」

 大きな袋をドサッと机の上に載せると中からお菓子を出して見せる。 

「ケーキは残っても捨てるしかないようなので残りを全部貰ってきました」

 流石コタロウさん、食い意地が…いや、食料を大事にするのは大切な事ですから。

 道の脇に置かれていたテーブルに腰掛けて皆で食べることにした。


「おお~結構うまそうではないか」

「いや、流石に私はお腹がいっぱいで」 

 ガーフィーはケーキをつまみ上げると一口で口に入れた。まあ、身長2メートルの大男ですからこの辺はコタロウと一緒である。 

 しばらくするとティグラとエンルーが戻って来る。

 

「いや〜っ、図書館を見つけたらシリアが舞い上がって、全くそこを動こうとせんでな。仕方なくとりあえずワシらだけ皆の所に戻ってきたんじゃが」

「エンルーちゃんお腹空いてない?この街の食べ物は魔獣細胞が入っていないから安心して食べられるよ~」

 そう言ってハンバーガーを渡すコタロウ。リクリアとメディナは早速ケーキに手を伸ばすがエンルーは少しためらう。

  

「エンルー、クッキーもあるー♪」

「おばあ様?」

 エンルーがティグラの顔を見る。黙って手を出すことはない。躾が良いともいえるが、ずっと他人の顔色を窺って生きてきたのだろう。

 

「いいともさ、うんとお食べ。育ち盛りの子供はいくら食べても良いのだからね」

「はいっ♡ありがとうございます、竜人様」

 嬉しそうにケーキに手を伸ばす。

「台地には似たようなものは有りましたが、神殿本館周辺の店にしか置いていませんでしたから、私は滅多に食べられませんでした」

 

 ヒロはランダロールでシリアさんの手作りクッキーを御馳走になった事を思い出す。

 人類統合政府でもお菓子を食べられたのは上級市民だけだった。ところが、カルカロスではお菓子の文化もちゃんとできていた。

 人口の問題も有ったであろうが、ランダロールはあまりお菓子の文化が育たなかったようだ。

 人類の科学技術は継承出来ていても文化はあまり進歩しなかったという事なのだろう。

  

「カロロさんはこれを飲んでおきなさい」

 医院長がカロロにゼリーの様な物を渡す。

 

「なにー?これー?」

「魔獣細胞を濃縮したゼリーですよ。月面都市には魔獣の肉は有りませんからね。カロロさんは体が小さいですから、すぐに魔獣細胞が枯渇してしまいますから」

「ありがとー♡」

 コタロウはカロロがゼリーを飲み込むのを興味深そうに見ていた。

 

「トロリとしてあまーい。それだけー」

「コタロウさんはここに1年位いた方がダイエットになりますけどね~」

 どうやらコタロウさんの腹の中身は全部魔獣細胞だったらしい。

「ハハハ、いやだな〜。そんな事ないですよ~」

 笑いながらも顔が引きつっているコタロウ。やはり気にしているのだろうか?

 

「カロロは、太めのお兄ちゃんがすきー♡」

「か、カロロちゃ〜ん♡」

 その言葉に、コタロウは感涙に咽びながらひしっとカロロを抱きしめる。 

「ふにゅうう〜~~っ!」

 カロロが完全にコタロウのお腹にめり込んでいた。

 

 しばらく待ってもシリアさんは帰ってこないので、みんなでその図書館に行ってみる事にした。

 

「ほう?これはすごいな、台地の神殿にもこんなに本は無いぞ」

「なに?姉さん。何でこんなにたくさんの本が有るの?」

「いや図書館は本を所蔵してみんなで閲覧する施設だからな、メディナは見たことは無いのか?」

「うん、カルカロスには無いからね」

「有りますよ〜っ!学校には必ず図書室を設けてありますから~」

 

 医院長さんが涙目で抗議をしている。どうやらメディナは図書室に行った事が無かったらしい。これでも一応、医院長は医師で教育者なんだよな。

 本来は素晴らしい人格者としての資質が備わっているのに、なんでこんな残念な性格をしているんだろう?

 

『他にも孤児院を経営していて、貧困対策活動も行っています』

 OVISが補足とばかりに付け加えてくる。

『OVIS、頭脳干渉を受けた最新記録を述べよ』

『3秒前です』

 

『医院長さんOVISに頭脳干渉を行わないでいただけます?』

 くそう、背中を向けてVサイン出してやがる。

 

 図書館は驚くほど大きく、室内に設けられた沢山のラックのほかに、吹き抜けの2階の壁にも多くの本が収納されていた。

 閲覧用のテーブルの上には分厚い本が何冊も積み上げられており、その中でシリアさんが本を読んでいた。

 

「シリアや、あんた飯も食わずにここに閉じこもるつもりじゃないだろうな?」

「え?あらあらティグラさん、他の皆さんも。どうしました?何かあったのですか?」

「いや、シリア殿。お主が戻って来ないので心配になって来てみたのじゃが?」 

「あら、ごめんなさい。本を読んでいたら時間を忘れてしまって、素晴らしいですよ、ここの図書館は。ランダロールの戦艦から復元した本の何十倍もの数が蔵書されている上に、あの時代よりはるか前の本も大量に存在していますよ」

 

「確かに素晴らしい蔵書数ですね〜、王都にあるイエール大学の図書館の蔵書数よりはるかに多いと思いますよ〜」

「あ、あの医院長さん。ここの本を持って帰る訳にいきませんか?それがだめなら私をここの司書に雇っていただくとか」

 興奮気味にまくしたてるシリア。

 

「「「はあああ~~っ」」」

 全員がため息をつく、医院長さんよりも異常な人がここにいた。

 

「よろしいですかシリアさん。本と言う物は多くの人に読んでもらってこその本です。こんな誰も来ない場所で図書館を開いても仕方が無いでしょう」

 珍しくまともな事を言う医院長、少しだけ見直した。

 

「医院長さんはこの月面都市を復元してどうするつもりなのですか?もしかしてランダロールの人間の受け入れ先にするつもりなのでしょうか?」

 シリアさんは期待を込めた目で医院長を見ている。この人絶対にランダロール人と一緒に来て図書館の司書に収まるつもりだな。

 

「この船であれば1度に100人以上乗せる事が出来ます。ランダロールの人口が3千人程度ですから、半年ほどかければ月への移住は出来るでしょう。しかしここはランダロール以上に閉鎖的な場所だと思います。

 考えてみて下さい、この都市の外は真空でランダロール以上に外に出ることが出来ません。そんな場所で人間は生きていけるでしょうか?」

 

「オーッホッホッホッ!シリアさんはランダロールに大陸一の図書館を作る野望をお持ちでは有りませんでしたの?」

「そ、そうでした。でも、本は人類の知恵、至宝なんですよ。ここを離れたらいつまた戻ってこれるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ。ここにある本の全ては登録してありますから、いつでもランダロールの戦艦で見る事が出来るようにしてさしあげますから」

 

「ほ、本当ですか?これだけの本を読むことが出来るのですか?」

「紙媒体にはなっていませんから本にするのはあなたの仕事になりますけどね」

「あああ〜っ。月神ムーに感謝を!そ、それじゃすぐに帰りましょう、早速本造りを始めなければ」

「いやいや、ここに来た目的を忘れないでください。それが終わってからにしましょうね」

「え、目的?昔の人間の知識を得る為ではありませんの?図書館を見つけたことでその目的は果たせたんじゃないんですか?」

 

 あ〜っ、この人もコタロウさんと同類なんだな〜、手段の為なら目的を厭わないタイプの人間なんだ。

 コタロウの方を見るとヒロの考えを見抜いたのか?イヤイヤと頭を振っている。

 

「シリアのおばさん、お兄ちゃんそっくりー」 

 無垢なる子供の目は誤魔化されない様だ。え?カロロはヒロと同い年?知らんわ。

 

「のうヒロよ、エルメロス大陸へ人族の移住はやはり難しいのか?」

「竜人殺した過去もありますからねえ、不用意に武器なんか持ち込まれたらシャポワールの二の舞ですから」

 実際の所、医院長はどう考えているのだろう?我々をここに引っ張ってきたのだからそれなりの計画は有るのだろうが……どうにも考えている様には見えないが。

 器用にフォークで鉛筆回しを行う医院長を見て、ヒロはそう思った。

 

 人類がもっと謙虚に行動できればあんな悲劇は起きなかっただろう。どうにも人類は、武器を持つと自分が強くなったと言う妄想に取りつかれやすい種族だから。 

 エルメロスに来たとしても果たして状況を受け入れられるのだろうか?ダリア市長ですら兵器の魅力には勝てなかった様だし。

 その前に龍神ダイガンドの問題が有る。ダイガンドを倒すことが果たして正しい事なのだろうか?それをどうやってみんなに説明した物か?

 

「のう、ヒロよ。あの4体の黒い巨人が我らの配下になったのじゃが、天上神ヘイブはワシらに何をさせたいのじゃろうか?翼竜の襲撃から天上神ヘイブはエンルーを守り、この月神ムーへといざなった。

 我らはずっと龍神ダイガンドと天上神ヘイブは近しい物と考えておった。だが今はどうも敵対しているようにすら感じるんじゃ」

 ティグラさんが割とストレートに聞いてくる。流石に狼人族のシャーマンだけあって状況判断能力は高い様だ。

 

 OVISを何故新たに3機も増やしたのだ?龍神ダイガンドだけであれば戦艦とOVISが1機あれば完遂出来るだろうに?

 

 まさかそれが必要なほどに強力な敵勢力がアルサトールに存在すると言うのか?


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