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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
162/221

巨人の整備場

6ー030

 

――巨人の整備場――


 ガルガスの案内で整備されたと言う街に行ってみる事にした。

 

 ドームのトンネルの先には巨大な空間を持った場所があった。そこには先ほどまでみんなを追いかけまわしていた6本足のカラクリが、ガサゴソと走り回っており、上空ではドローンもブンブンと飛び回っていた。 

 大きな空間はひとつの大きな部屋となっており、コタロウが前に出てシールドを張るが、カラクリ達は彼らに興味を示す事もなくせわしなげに何かの作業を行っている。

 

「あ〜っ、これはあれですね〜。このカラクリ達はこの地下都市の整備を行うための仕掛けの一部の様ですね。同じ物を廃墟の警備に回していたのではないでしょうか?」

「すると、やはりここは無人の街という事か?」

 片方の壁には何かの足場の様な物が付いており作業が出来るようになっていた。

 

「あれは?もう一体の巨人がいるわ」

 特に指示をすることも無く巨人はその足場の有る場所に歩いていきその中に納まった。

 最初の巨人の胸にはナンバーが描かれていない。その横に順番に02、03、04と描かれた巨人が入っていく。

 入った途端に操縦者が降りられる様に足場が出て来た。カラクリ達が巨人に群がって来て頭の飾りを取っている。

 

「なるほど〜っ、これはこの巨人たちを整備する為の懸架ラックの様ですね〜。黒い巨人達の格納庫と言ったところでしょうか?彼らはこの場所から出てきたという事のようです」 

 見上げればそこは非常に大きな空間であった。懸架ラックの周囲は大きく空間が取られており、ラックの両側には張り出した壁が作られている。そこには作業用の足場が作られており、それを伝って操縦者は乗降が出来るようになっていた。

 

 ラックの前は巨人がすれ違っても十分なくらいの広さの通路となっており、天井は特に高く巨人の倍以上の高さが取られている。

 その向かい側の壁の高い場所にステージの様な物が作られていた。おそらく作業の進捗状況を見る為のものかもしれない。

 

「もしかしてあのナンバーが無い巨人はヒロの巨人じゃないの?」

「あ、そう言う事になりますね~」

 しかしヒロの巨人も操縦席のハッチは開いており、その姿は見えなかった。

 

「オーッホッホッホッ!皆さん、良くここまで来られましたわね。褒めて差し上げますわ」

 突然けたたましい狂笑が聞こえて、皆が首をすくめる。

 

「あ~、出ました、ラスボスが~」

「ラスボスは、一番強い人ー?それとも悪い人ー?」

「恐ろしいほどの邪悪さが満ちておるの」

「なんか頭が痛くなる。昔からだったけど今日は特に」

「おまえ幼い時からこんな声を聞いて育ったのか?よく正気を保てたな」 

 聞きなれた笑い声はいつものあの人であった。期せずして全員が後ろを向いて耳を塞ぐ。

 

「な、な、なんですか~っ、せっかく皆さんを迎えに出てきたと言うのに~」 

 高い位置にあるステージからみんなを見下ろしての登場である。大見得を切ってみたものの、全員の心には逆の作用が働いたようである。

 

「医院長さ~ん、もしかしてカロロちゃんに変な言葉を教えませんでしたか~?」

「ううむ、頭の中まで腑分けをされているような気になるな」

「ああ〜ら、いつの間に船から降りていらっしゃったのですか?やっぱりご一緒に街を見学をされたいのですか?」

 如何なる状態でも心の揺らがないシリアさん、ある意味医院長以上の無敵である。

 

「あのカラクリ達は、なんなのー?」

「あの作業ロボットの事ですか?彼らはこの施設の整備を行うために作られた連中です」

「廃墟の街ではワシらを襲って来たぞ」

 

「オーッホッホッ!旧市街地区に転送されたので作業ロボットに排除されたのですよ~」

「誰がそんなところに私たちを送ったんですか~?」

「事故ですよ、事故〜!皆さんが暴れるから余計ロボットが集まったんですよ~」

「それじゃー、この巨人はどうして出てきたのー?」

 

「オーッホッホッ!皆さんなら制御できると思って送り出しましたのですけどね~、役にたったでしょう?」

「その為にみんなをあんな危険な目にあわすとは、医者とは思えぬ外道の所作とは思わぬのかですか?」

「ガーフィーさ〜ん、医院長の専門は腑分けですから〜。ボクとしては仲良くしておきたいのですが~」

 ガーフィーの発言に必死で医院長を弁護するコタロウ。

「おにーちゃん、やっぱりサイコパスー」

  

「なーに勝手な事言っているのですか〜?カルカロスの街で病院を開いて後進の育成を行い、孤児院を作って子供の貧困を無くし、学校を作って教育水準を上げている。聖テルミナ病院の、私はそこの医院長ですよ~」

「そう言われてみれば、そんな事もやっておったな。それなりに人の役には立っておるんじゃな~」

 

 一応、それだけ聞いていれば聖人君子のようにも聞こえる。

 

「そうですよ~、悪い事ばかりやっている訳じゃないんですから~」

「なんですか、コタロウさん。私は悪い事なんかひとつもやっていませんから~」

「おにーちゃんにだけ、厳しいのー?」

 

 それだけは否定できない。

 

「医院長先生!本当は、私たちがアタフタするのを見て喜んでませんでした?」

「んん〜、そうね〜。多少はあったかしらね~♡オーッホッホッ!」

「これが無ければ、街の人の全員から尊敬される存在なんだけどな~」

 高笑いする医院長の背後にすっと人影が迫る。

 その気配に気がついた医院長が振り返る刹那、その人影に蹴飛ばされて10メートルの高さから真っ逆さまに落下してきた。

 

「ああれええ~~~っ!」

 グシャッという音と共にみんなの目の前の床に叩きつけられる。

 

「わわわっ、大丈夫ですか〜っ?いくら医院長でも死んじゃいますよ~」

 コタロウが慌てて駆け寄るが、床に伸びている医院長はピクリともしない。

 

「あら?ヒロさん。今までどちらにおいででしたの?」

 全く動揺すること無く、にこやかに挨拶をするシリア。どうやらヒロだけはみんなと一緒に転送をされなかったみたいだ。

 医院長を蹴飛ばしたのは今まで姿を見せなかったヒロであった。

  

「ヒロー、無事でよかったー♪」

 カロロがパタパタとヒロの方に飛んでいく。

 

「やあ、カロロちゃん、皆さんにも心配をかけたようですね。ここに来て全ての謎が解けました」

「アンタが医院長を蹴っ飛ばしたのか?」

「はい、いや、まあ医院長はアレな人だから心配することはありませんよ」

「いやいや、医院長さんだって人間ですから早く病院に運ばなくては」

 

 船にいたはずの医院長がなぜここに来ているのかという疑問はとりあえず無視されていた。

 ところが倒れている医院長の回りに周囲で作業していた六本足の作業ロボットがガサゴソと集まって来る。

 何をするのかと思ったら医院長を担ぎ上げて、ガチャガチャと音を立てながらどこかに運び去って行った。

 

「い、医院長を何処に連れて行くのかしら?」

「ほっとけばそのうち復活するさ。それよりここは月面都市の中にあるOVIS用の整備ラックだ。この奥には外部搬出用のエレベーターとエアロックが有る」

「そこにいる黒い巨人はヒロの黒い巨人なの?船にくっついていたんじゃなかったっけ?」

「医院長が外してこっちに持ってきたんだよ。他のやつはOVISの複製品で全く同じ性能の機体だ。本当はそれぞれにパイロットを決めるはずだったんだが、医院長のオチャメであんな茶番をやったんだ」 

 ヒロの言葉になんとなくみんなが納得してしまう。日頃の医院長の人望がよく現れていた。

 

「あの場所は何だったんじゃ?」

「月面都市は2万年前に放棄されたからね、あそこはその未整備地区ですよ。そっちの横にあるのが街に通じるドアだ。入ってきてくれ俺もすぐ下に降りますから」

 ヒロに言われたドアを通って少し歩くとエレベーターホールに出る。一基のエレベーターからヒロとカロロがおりてくる。

 周囲の様子は廃墟と違って、造られたばかりの真新しさであった。

 

「ヒロ、なんなの?なんで医院長さんにあんな事をしたわけ?」

「そうじゃ、いかな医院長と言えどもあれではただではすまんぞ」

「あんな人間離れした人間がいてたまるか?」

 まるで人間ではないかのような口ぶりである。まあ、そのことはみんななんとなく感じてはいた事だったのだが。

 

「なんじゃ?そちらの大陸の連中はあの程度で死んでしまうのか?」

「竜人族なら、死ななーい」

「200メートルの高さから落下して、頭をぶつけた岩を二つに割って、コブだけで済む様な種族と一緒に考えるのもどうかと思うがな」

 コタロウがそんな事有ったかな?と首をひねっている。落ちたときの事は覚えていないのか?あるいは何度もあって覚えきれないのか?

 

「まあ見てろよ、すぐにピンピンして姿を現すから」

「ヒロ、何があったの?物凄く怒っているみたい」

「いや、この世界の成り立ちと医院長の事を考えると、なかなかに心が擦り切れる思いがあってね」

「だいじょうぶよヒロ、医院長さんはだいぶおかしな人だけど、悪人じゃないから」

 

 いや、アッカータの事を考えても十分悪人に見えると思うのだが。

 

「しかしこの部屋だけを見ても素晴らしい作りだな、ワシらの街とは大違いだ」

「月面都市は大部分が廃墟のままだが、その中の一部は整備されているんだ。みんなも見ておくと良い」

「素晴らしいです、2万年以上前の古代文明はすごい水準に有ったのですね。今でも稀に遺跡は発見されますが、その分野の研究はまだまだですからねえ」

「あら、アッカータでは遺跡が発見されるのですか?大部分の場所は台地ダリルが耕してしまいますからねえ、大地ではあまり遺跡は見つからないのですよ」

「はい、山沿いの場所には台地ダリルが来ませんから、多少残っているようです」

 

 何やらシリアとガルガスが遺跡論議を始めた。ガルガスもシリア同様に文化に対する見識は高いようだ。

 エントランスホールを通って外に出るとそこには医院長が杖にすがって立っていた。

 

「あ、あなた!何てことするんですか?危うく死ぬところでしたわよ~!」

 全力で瀕死の状態を演じる医院長がヨロヨロと歩きながらこちらにやってくる。

 

「「「………………………!」」」

 

「な、なんですか!皆さん。私がこんなひどい目にあっているのに無視ですか~?」

「い、いえ……医院長ならこの程度では死なないかな〜と思って…」

「医院長さんー、ふじみーっ」

「不死身じゃありませんわよ、死ぬかと思いましたわよーっ!」

 いやいや十分不死身を体現していると思うんだけどね。

 

「それより医院長さん、、みんながひどい目にあったのは未整備地区だったんだよな。整備済み地区の街をみんなに見せてやって欲しいんだけど」

「オーッホッホッ!そうですか?見せて欲しいのですか〜?」

 医院長は額の上で杖をクルクル回して胸を張っている。コイツ…死にかけの設定は何処に行った?

 ズカンと杖を下ろすと床にヒビが入る。前から思っていたのですが、その杖は何で出来ているんです?

 

「よろしいですわよ~っ、この世界の奇跡を御覧なさいな!」

 大きく腕を広げて誇らしげに胸を張る医院長。

「あらあら、素晴らしい町並みですね〜。ランダロールと違って随分天井が高く出来ていますこと〜」

 全く物怖じすること無くホイホイと外に出ていくシリア、彼女にとっては見慣れた景色なのである。

 

「あ、ちょっと。私を無視しないでくださいよ。せっかくこの街の案内を頼まれたんですから〜」

「確かに豪華な街じゃな、木がほとんど使われておらず、高価なガラスがふんだんに使われておる」

「廃墟に有った建物の原型がこれのようですね」

「見ろよメディナ、窓の中にフリフリの服が飾ってあるが、あれは店なのか?あの可愛い服はおまえに似合うかもしれない」

 窓の中にフリフリの服を着た人形が立っているのが見えた。

 

「お店かしら?」

「多分そうだろう、行くぞメディナ」

 どうやら服に興味が有るのはリクリアの方の様だ。リクリアに引っ張られてふたりでその建物に入っていく。

 

「おにーちゃん、あそこのお店、ケーキの絵が描いてるー」

「行ってみようか?空港みたいに作ってくれるといいね~」 

 コタロウはカロロを頭に乗せたまま、テコテコとコーヒーショップに向かって飛んでいく。

 

「おお、ガルガス!あの店を見ろ、うまそうなステーキが飾ってあるぞ」

「いやいや、あれはただの作りものじゃないですか?」

「本物も売っているんじゃろう。行ってみよう、食えれば儲けもんじゃい」 

 ガーフィーとガルガスはお肉を求めて店まで一直線である。

 

「エルラーや何か興味のある物は有るかね?」

「いえ、ティグラおばあ様、私はまだ修行中の身ですから」

「良いじゃないですか?人は好きな事をやって成長していくんですよ。エルラーさんはもっと様々な経験をしましょうね」

「はい、シリアおばさま」

 

 街の景観に魅せられたみんなは医院長を無視して街の中に出ていく。医院長の杖が寂しそうにドスンと音を立てて倒れた。


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