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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
160/221

黒い巨人の乗っ取り

6ー028


――黒い巨人の乗っ取り――


 黒い巨人は頭の赤色灯を点滅させながらゆっくりこちらに歩いてくる。コタロウはテコテコと巨人の周りを飛びながら言葉をかける。

 

「ヒロさんの黒い巨人さんのお友達ですか〜?お友達の小型のカラクリを壊しちゃったことはお詫びいたしますが、この際是非とも穏便にお話合い出来ないでしょうか~?」

 しかし巨人はコタロウに関心が無いのか?構わず同じ言葉を発しながら歩いてくる。

 

「どうやらこいつの目的は、あのカラクリと同じでワシらをここから追い出すことに有るのではないのか?」

「メディナ、おまえあの巨人と知り合いなんだろう、どんな奴なんだかわかるか?」

「えっと、飛ぶことが出来て、姿が消せて、シールドが張れて…」

「武器は?見たことは無いのか?」

 

 近づいてくる巨人に恐怖を感じながら少しづつ後退をしていく。相手の攻撃手段がわからなければ対処のしようがない。

 

「武器のことはわからないわ、あの巨人が戦ったのを見たことが無いから」

「翼竜が来襲したときは?」

「逃げ回っているのを姉さんも一緒に見ていたじゃない」

「金バッチを取った時は?魔法で魔獣を倒したと聞いておったぞ?」

 

 あの時メディナは下を向いていて魔法そのものは見ていなかったのだ。そう言われればあれは巨人の放った兵器だったんだ。

 

「魔獣の頭を消滅させる位の魔法だったわ」

「竜人殿のファイアボール位の威力か…当たればひとたまりも無いな」

 コタロウはさっきから巨人の周りを飛び回りながら何かを話しかけている。それをうっとうしいと考えたのか?軽く手を振ってコタロウをポーンと弾き飛ばした。

 

「あひえええ~~っ」

 

 弾き飛ばされた拍子に頭に乗っていたカロロは振り落とされて、別々の方向にクルクル回りながら飛んでいく。

 コタロウは建物にぶつかると、それを突き抜けて下に落ちていった。

 この手の景色はずいぶん見たような気がするが、コタロウにとっては大したダメージにもならないnだろう。

 カロロは弾き飛ばされた勢いでクルクル回っていたが、体が軽いのかすぐに態勢を立て直し巨人の方向に飛んでいく。

 

「ふぎゃーっ、何するのーっ!お兄ちゃん死んだら、どうするのーっ」

 カロロの怒りの言葉に巨人の動きが一瞬止まる。


 それを見ていたリクリアはおかしいと感じた。あのカラクリ達はロープを投げてメディナ達を捕えようとした。

 しかしコタロウは手で吹っ飛ばされたものの致命傷となるような攻撃ではない。しかも現在、空中に浮いているカロロは無視をされている。

 どうやら空中にいる者は捕獲対象になってはいない様だ。

 

「このーっ!よくもコタロウさんを!」

「いかん!メディナやめろ!」

 

 リクリアが言葉を発する前に、メディナが怒りに任せて光弾の魔法を巨人に向けて撃ち込んだ。

 光弾は巨人の顔に当たるとそのドクロの顔の部分が割れて下に落ちる。その姿は正にヒロの乗っていた黒い巨人そのものであった。

 

【攻撃を確認。警告、当機に対する攻撃は敵対行動となります。警告に従わない場合は強制捕獲の対象となります。直ちに当機に対する敵対行動を停止してください】

 

 巨人はメディナの方に向き直るとお腹の付近から光弾を発射する。

 メディナの近くに着弾し爆発を起こすと街の瓦礫を吹き飛ばす。風化した砂を巻き上げ爆煙が舞い上がる。

 危険を察知する兔人族の本能は確実に光弾の発射を察知し、その爆発からポンポンとジャンプをしながら逃げていく。

 

「メディナに手を出すな〜!」

 

 リクリアが叫んで巨人に対して光弾の魔法を放つが、威力が弱いのか全く傷もつかない。

 それどころかピコピコと頭の上の赤色灯を点滅させると、リクリアの方を向いて光弾で反撃をしてくる。

 ボカン、ボカンとそこら中で爆発が起きている中で、ピョンピョンと兔人族の娘が飛び跳ねている。

 

「ひえええ〜〜っ!」

「コノヤロ〜〜ッ!何をしやがるんだ〜」

「うわわわっ!お前らそんなに飛び回るな〜!」

 

 周辺で次々と爆発が起きる中で頭を抱えて逃げ回るガーフィー。

 パタパタとカロロが巨人の元に飛んでいくが、黒い巨人はカロロには興味を示さないようで無視をしている。

 

「こらーっ、みんなをいじめるなーっ」

 カロロが巨人の頭の近くで怒鳴ると、巨人は砲撃を止める。

「あら、止まったみたい」

「何でしょう?素直な巨人さんですね〜」

 

「おどれらーっ、調子こくと、いてこましたるどーっ!」

 

 巨人の正面に回って啖呵を切ると、巨人は一瞬カロロと目が合い動きを止めて見つめ合う。

 それをハエでも払うように腕を振り回して追い払う巨人。

 

「ふぎゃーっ、ぶつかったーっ!」

 

 腕にぶつかったカロロが、再びクルクル回りながら飛んでいく。すると崩れた建物の間で瓦礫が吹っ飛び饅頭が飛び出してきた。

 日頃からは想像ができない速度でコタロウがカロロの所に飛んでくるとカロロをキャッチする。

 カロロを抱きしめるとぱっとシールドを張るが、それを見ている巨人はふたりを攻撃しない。

 やはり飛行する物は捕獲対象外の様である。

 

「あの〜っ、巨人さん。妹がご迷惑を掛けております〜。ほかの皆さんも迷惑になりますので〜、もう少し穏便な対処をお願いできないでしょうか〜?」

 相変わらず腰の低いトカゲである。決して争いを望まないのはこの世界最強の生き物だからであろうか?

 

「てめーっ、歌わせたるから、そこ、うごくなーっ!」

 

 一方、カロロの方は親友のメディナに攻撃をされて、頭に血が上っているようだ。コタロウに抱きかかえられたまま中指を立てて挑発を行う。

「カロロちゃ〜ん、そんな言葉を何処で覚えたの〜?」

 これはお母ちゃん以上のヤンチャになりそうだと、内心冷や汗物のコタロウは、シールドを張ったままメディナ達の所にゆっくりとおりていく。

 

「姉さん、ガーフィーさん、コタロウさんの所に集まって、シールドがかかっているわ!」

 メディナの呼びかけにコタロウの元に集まり、全員がシールドの中に取り込まれる。

 巨人はコタロウに向かって一発の光弾を撃ち込むが、それがシールドに阻まれて効果がないことを確認するとゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 

「どうする、コタロウ殿。隣のドームに避難するか?あいつを破壊する手段がなければ逃げ回るだけだ」

 ドームを跨げばカラクリは追ってこなかった。あの巨人もそういう性質であれば逃げた方が良いのだが。

 

「メディナ、感じたか?」

「はい、カロロちゃんが話しかけたら一瞬巨人の動きが止まったわ」

「ふにゃー?どういうことー?」

「戦艦に対するリンクを思い出せ、ヒロも巨人とリンクをしていると言っていた。巫女であればあの巨人にリンクできるかもしれない」

 

「あ〜っ、はい!その通りです、ヒロさんの頭にもチップが入っているそうですから、みなさんもあの巨人とリンクできる可能性があります。ボクがシールドを張っていますから〜、その間に皆さんであの巨人にリンクを行ってください」 

 そこで、3人が円を組んで瞑想ウタキに入る事にした。

 

【ドームから退去してください。当機の指示に従わないと判断し全員の強制退去を実行致します】 

 その間にも巨人たちは何かを言いながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 ガーフィーは4人の前に立ちはだかり、万が一の場合に備えヘル・ファイアを発射しようと構えている。

 

『巨人さん、巨人さん。カロロの言葉がきこえるー?』

『ただ単に呼びかけても駄目だ、瞑想ウタキの中で、皆とは違う「心」の場所を感じろ、それが巨人の物だ』

『だめ、姉さん何も感じないわ』

『お前たちではまだわからないだろう。私が探すから私の「心」を包み込め、見つかればお前たちにもそれがわかる』

 

『…………………………』

 

『見えたわ、なにか歪んだような物が2つ有る…』

『そうだ、メディナ。見えるか?カロロ』 

『いやーっ?よくわからないーっ。影か幻みたいな物が感じられるんだけどー』

 交感フェビルの中では滑舌の悪さは起こらない、カロロは普通に話せるのだが、普段の話し方が癖になっているようだ。

 

『カロロはそこまで感じられれば大したものだと思って良い』

『どうすれば良いの?』

『船へのリンクと一緒だ。片方は私が、もう一つはメディナがリンクを行う』 

『カロロちゃんは?』

『私にはお兄ちゃんがいるー。ふたりの安全が何より大事ー、だから早くリンクしてー』

 そう言っている間にも巨人は近づいて来る。

 

「コタロウ殿!もう間に合いそうもない。みんなはどうなんじゃ?」

「わかりませんよ、みなさん大丈夫ですか〜」

「うにゃーっ、いまやってるとこー」

 カロロが答える。どうやらリクリアとメディナがリンクを行っているようだ。

 

「間に合わなければワシがヘル・ファイアで足止めをするから、コタロウ殿はみんなを抱えて脱出してくれ」

 既に、ガーフィーは即席の槍を地面に突き立て足をふんばり、開けた口の中に粒子が浮かんでいる。

 

 2体の巨人がコタロウの前まで来ると動きを止める。そのまま何もせずに対峙しているといきなり巨人はひざまづいて片手を下に降ろした。 

「おお、間に合ったのか?」

 

 カロロがパタパタとコタロウの頭に飛んでくる。

「おふたりともリンクが出来たのですか?」

「ああ、大丈夫だ。この巨人はもう我々の味方だ」

 その言葉を聞いてコタロウがシールドを解除すると巨人の腹のカバーが開いた。

 

「なんじゃ?こんな所に人間が乗れるようになっているのか」

「ヒロはあそこに乗っていたわ」

「ガーフィーじゃ乗れそうもないわね」

 2メートルを超えるガーフィーではコクピットに入り切らないだろう。逆にカロロでは小さすぎて椅子に座れない。

 

「しかしどうすれば良いのだ?乗ったとしても私には操縦なんか出来ないぞ」

「大丈夫ですよリクリアさん。戦艦だって誰も操縦していないでしょう。彼らは自分で勝手に動いてくれるそうですよ〜」

「それはどういうことだ?自分で動けるのなら乗員は必要ないではないか?」

 

「なんでも巫女が乗っていないと、この巨人や戦艦が敵に乗っ取られるそうなのです。今でもお二人の巫女さんによって巨人を乗っ取ったのでしょう」

「なるほど、そういう理屈か」

 なんとも便利なような、そうでもないようなシステムである。なぜこんな物を兵器として使っているのだろう、と不思議に思うリクリアである。

 

「あら?ティグラさんからの交感フェビルだわ」

 メディナ達にはティグラの声が聞こえているようだが、コタロウやガーフィーには聞こえていない。ささやかな疎外感を感じるふたりである。

 

「なんかあちらでも巨人が現れたので操縦者登録をしたみたいよ、こちらの場所も把握しているから、今からこちらに来るそうだわ」

「そうですか、ようやく皆さんの行方がわかって安心しました」

「おや?あれはガルガスではないのか?」 

 ガーフィーが隣のドームのトンネルの方から走ってくる人影を見つける。手を振るとガルガスも答え、すぐに皆のところにやって来た。

 

「無事で良かった。良く奴らのところから逃げて来られたな」

「いや〜っ、もう駄目かと思いましたよ。格子のある部屋に放り込まれまして、やっとの思いで絡みついた縄から脱出して逃げようと思ったら、部屋の反対側の壁が崩れて穴が空いていたのです」

「なんじゃそりゃ?」

 

「結局あの怪物はこの街が廃墟なので追い出したのでしょうが、捕まえておく場所まで壊れているという認識がなかったのではないかと」

「まあ、なんとなくそんな感じはしておったのだが、やはりなのか」 

「それよりこの巨人はどうしたのですか?ヒロさんのものと同じようですが?」

「あの怪物の仲間らしい。リクリア達がそれを支配下に置くことが出来た。ティグラ達は別の巨人を乗っ取ったらしい」

 

「ヒロさんはどうしました?まだ合流していないのですか?」

「うむ、残念ながらまだ見つかってはいない」

「む、あれは?」

 ドームの反対側からもう一体の巨人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。その胸には04と描かれていた。近くまでやってくると腹

のハッチが開いて操縦席にティグラが座っている。

 

「ティグラ殿、そちらでも巨人の捕獲に成功したようですな」

「3人でこの巨人に対して交感フェビルを行ってみたら言うことをきくようになったんですよ」

 巨人の手の上に乗っているシリアがニコニコしながら答える。

 ランダロールでは戦艦の頭脳にもぐりこんでいた人間である。感能者フェビリティとしての能力は非常に高いようだ。

 

「エンルーさんの能力が高かったのが一番の原因ね。やっぱりすごいですよ〜、この子は」

「そうなんですか〜。エンルーちゃんは本当にすごい巫女能力を持っていたんだね〜」

「それでティグラが操縦者登録を行ったのか?」

「おお、万が一戦闘になった時、女子供に戦闘をさせる訳にはいかんじゃろう」

 

「ふにゃー?ティグラさんは、女子供じゃないのー?」

「カロロちゃ〜ん、その話は今度にしようね〜」

 コタロウは素早くカロロを懐に隠す。

 

「それよりみなさん、私が逃げ出して周囲を探していたときに廃墟でない場所を見つけました」

 

 ガルガスが整備された街を発見したとの話であった。


『歌わせる』とは相手をボコボコにして呻いている様子を、歌っていることに見立てるという、西のほうでたまに使われる非常に下品な表現である。カロロがどこでその様な言葉を知ったのかは永遠の謎としたほうが安全であろう。

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