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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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コタロウのお客様

1ー016

 

――コタロウのお客様――

 

 ボクの名はコタロウ、カルカロスの街に住む竜人族の子供です、子供と言っても今はもう100歳を超えていますけどね。

 

 カルディナーンの王立イエール大学を卒業して、その大学で魔獣学の講義をしながら竜の高速便のシステムを立ち上げたのですけれど、妹が生まれたので引退して妹の育児を行っていました。

 今では妹も高等部の学校に入って勉強をしているので、ボクはカルカロスにある大学で魔獣と人類学の研究を再開しています。

 

 魔獣と言っても基本的な性格や生態は普通の獣とさしたる違いはありません。

 大部分の魔獣は草食であり、臆病でおとなしい。普通の獣は季節ごとの餌を求めて移動する物も多いのですが、魔獣は季節による移動をしません。

 縄張り意識が強く、比較的定住する傾向が強い。その場に固着する性質を持っている様なのだ、この性質により狩人は安定的に魔獣を狩り続ける事が出来る。

 それ故に魔獣を飼育せずとも、狩ってきた方が経済的に割に合うと言う状況が成立しているのかもしれない。

 

 実際は多くの農家で使役用として育てた魔獣を飼っている。体が大きく力も強く、餌もあまり食わない理想的な獣だと言えるでしょう。

 ただ、大型の魔獣を呼び寄せる習性が有るので、街の外周部での大型魔獣の狩猟は欠かせない物となっている。

 竜人族はその大きさ故に街の中で暮らすことが出来ず、たいていは街の中心にある丘の上で暮らしています。

 魔獣は竜人を恐れて近寄らないので、竜の巣を中心にして、その周囲に街が出来ていく傾向があります。

 竜人族は市民が狩れない大型魔獣を常食として街を守り、狩人ギルドは人を派遣して竜人の生活の面倒を見ています。

 

 ボクも初等学校の頃は同級生の友人たちとは種族が違いすぎて非常に悩んだ事もありました。

 同じように妹も様々な悩みを抱えていて、何度か聖テルミナ病院のバルバラ医院長の所で相談に乗ってもらっている。

 あの人は妹を取り上げた後に、ボクに妹の育児を押し付けた人なんだよな〜、お兄ちゃんならお父さん程ガサツじゃ無いから安心できるとか言っちゃってさ〜。

 幼少期の2年間は聖テルミナ病院で僕が一緒に育てたあと巣に戻ってきたんだ。それでも危ないので、カロロ専用の小屋を作ってもらってそこで育てて来ました。今はカロロの勉強部屋になっていますけどね。

 両親はふたりともすごく喜んだけど、お父ちゃんはどうも竜の赤ん坊は最初から走り回るくらい元気なのが普通だと思っていたみたいだ。

 

 なんかカロロは両親よりボクになついている。街に行くときには未だにボクの頭にしがみついてくるもの。

 お母ちゃんもカロロを抱きたがるんだけど、そんな事をしたら潰しちゃうから手のひらに乗せるだけは許してあげている。

 お母ちゃんも人間の母親が子供を抱いてあやすのに憧れていたみたいなんだけど、流石にカロロに対して許す訳にも行かないと言ったら、時々ボクのことを抱いてあやすようになった。

 これにはかなり閉口したが、これもカロロの安全と親孝行だと思って黙って抱っこされてあげることにした。ボクも100年以上生きてはいるが、竜の肉体年齢からすると4歳児程度ということなんだよね。

 

 そんな事もあって、ボクが経営していた竜の高速便事業は、狩人ギルドに委託することになっちゃったんだ。

 そのおかげで妹を育てた後、こちらの街の大学でライフワークの魔獣の研究が出来るようになったから、それはそれでいい事なんだけどさ。

 未だにカロロはボクとのスキンシップを求める。やはり実際に育ててきたボクに対しては親に対する甘えのような意識が有るようだ。

 すっごくかわいい妹なんだけど、学校での友人関係に悩んでいるのかもしれないと考えると少し不安になってしまう。

 それでカロロと一緒にバルバラ医院長に相談をして、徐々に学校内の友人関係というものに折り合いをつける様に努力をしている。

 

 それが少し落ち着いてきた頃に、いきなり巣に友達を連れて来たんだよ。 

 何でも兎耳族の女の子の魔力が異常に強力なので、相談に乗って欲しいと言われたんだよね〜。

 兎耳族は肉を食べないから殆ど魔法は使えない筈なんだけど、それが強力な魔力を持っているとなると…もしかしたらボクの研究対象かもしれない…ムフフ。 

 いかん、いかん!カロロの友達の悩みに親身に向き合ってあげなければ…。

 と言う訳でカロロが友達を連れてきたら、いきなりお母ちゃんの顔を見て失神したらしい。なにしろ身長が11メートルもある竜のお母さんである。その迫力たるや半端なかったようだ。

 慌てて支えてあげたけど、お母ちゃんは歯をむき出して笑っちゃダメだって。

 

「ああら、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら~?」

 とか言って、そそくさとあっちへ行ってしまった。この子広場で寝ている父さんを見ていないのかな~?結構子供たちが登って遊んでいるみたいだけど。

 倒れたメディナをカロロの部屋に連れてきて寝かせる、この家でベッドが有るのはここだけだからだ。

 

「メディナー、大丈夫ー?」

「な、何か恐ろしい物を見た様な気が……」

 カロロが持ってきな濡れた布を頭に当てられて気が付いたメディナがつぶやく。

「ここはカロロの部屋ー、メディナ倒れたー」

 部屋には大きな入り口が作られていて、お母さんの顔が半分だけ覗いているので、シッシッと手を振ってあっちに行く様に合図を送る。

 

「あらあら、ごめんなさいね〜」

 そう言ってすぐにお母さんの顔が消えた。

「脅かしてごめんね、あれはボクらの母さんですよ。ボクはカロロの兄のコタロウって言います」

「りゅ、竜人様?」

「そうですよ~、僕はまだ子供の竜だけどね」

 メディナの顔をのぞき込んでニッコリ笑う。カロロがボクの頭によじ登ってメディナを見ていた。

 

 竜人の笑顔は難しいんだ、どうしても歯をむき出しにしてしまうからね。

 幸いというか、ボクの場合普通にしていても笑っているような顔になっていて、出っ張った腹と一緒に非常に愛嬌が有るように見えるらしい。

 自慢じゃないが大学で教鞭を取るようになってから、結構学生たちには人気が有るんだよね。

 まあそんなこんなでようやく落ち着いたので、メディナの悩みを聞くことにした。

 

「相談というのはねー、この子魔法が使えるんだけどすごく威力が大きいのー」

「ほう?兎耳族の女の子が威力の高い魔法を使えるのですか?ずいぶん珍しいですね〜」

「だからクラスの中で友達が出来ないのー」

「あ~っ、何となく身につまされる話ですね~。ボクにも同じような所が有りましたからね~」

 少し前にその事でカロロに悩みを相談されたばかりだからな~。

 

「お兄ちゃんたちなら何かわかるかと思ってー、連れて来たのー」

 カロロ自身まだクラスの中でもうまくいっている訳でも無いらしいけど、魔法のせいで孤立しかかっているメディナを自分自身の問題として心配しているのだろうな。

 ボクはカロロのその心遣いがひどく嬉しいと思っている、自分以外の人間に思いやりを持てるのはすごく大事なことなんだよね。

 ボクの友達だった人たちは既に寿命が尽きて死んでしまった。それでも彼らとの生活はボクの大切な思い出だし、新しい友人を作るための良き経験となっている。

 

 竜人族が人間と共に生きるのはとても難しいのだ。それはその能力とともに寿命という異なる時間の中に生きなければならない宿命が有るからだ。

 カロロは竜人族であり、大人になればその存在そのものの為にどうしても周囲の人間から浮いてしまう。

 結局その折り合いをどうやって付けるかという問題であるが今はまだ幼い。寿命の事など気にせずに友人関係を築いてほしいと思うコタロウの親心である。

 

 竜の巣は街の中心にある小高い丘の頂上に、学校のグラウンド位の大きさの石畳の場所が造られており、そこに台所と木々に囲まれたトイレが作られている。

 何しろ両親は10メートルを超える竜なので巣の上に屋根は付いていない。

 雨が降ってもその石畳で寝るのだが、別に風邪を引くことも無い。竜はそんなに脆弱では無いのだ。

 台所の周囲には屋根も一部付いていて、周囲にはいくつかの小屋が作られている。

 この巣の清掃を行う為の道具小屋と、カロロが学校に通う為の勉強部屋である。

  

 ボクもカロロも街に行くときは服を着る事にしている。両親は流石に着れる服が作れないから無理だけど、着れるうちは人間と同じ習慣で生きていたいのだ。

 もう一軒は少し大きな倉庫位の家で僕の自室だ。ここにはこれまで研究をして来た資料や文献がおさまっている。

 いずれボクの身体が大きくなって使えなくなったら、資料は全部街の大学の研究室に持っていく事になるだろう。

 

「そうだねえ、一度どの位の魔法が使えるのか見せてもらえますかね〜?ああ大丈夫ですよ、ここには誰もいませんからね〜」

「うん、わかったわ」

 メディナは小屋から外に出ると手のひらに小さな炎を作りだした。 

「それだけ?もっと大きくできますか?」

 メディナは精神を集中して炎を極限まで大きくすると炎は大きな塊となって10メートル近く吹き上がった。

「あちちちっ!」

 髪の毛が少し焦げたので慌てて炎を消す。

 

「大丈夫?やけどはしませんでしたか?」

 びっくりしてメディナちゃんの顔を覗き込む。あ、少し目が裏返ってる?

「お兄ちゃん、顔近すぎーっ」

 いかんいかん、子供には僕の顔は刺激が強すぎるのかな?

 

「だ、大丈夫」元気なくメディナは答えた。

「これは確かに兎耳族の能力を超えている様ですね~、カロロと同じくらいの魔力が有るのかもしれませんね〜」

「これはねえ、聖テルミナ病院のバルバラ医院長さんに相談してみた方が良いかもしれません」

「医院長さん?」

「竜の寝ている広場の端っこに、少し背の高い建物が有るのを知っていますか?」

「ああ、みんなは集会所とか病院とか言っている建物の事ね」

 

「そうですよ、もっとも病院と言っても日曜日には説教をしているそうですけどね」

「説教?病院で?」

「農業指導とか、衛生観念とか、生活環境改善とかそう言った説教をしているみたいですけど、行った事無いのですか?」

 その様な話は聞いたことが無かったらしく、両親はあまりそのようなことに興味が無かったようだ。 

「まあ、行きたい人が行くだけの様ですが、それなりに人が集まるみたいですよ。医院長さんの格好はかなり怪しいんですけどね〜」

「そう言えばうんと幼い時に熱を出して連れて来られた様な気がします。その時に会ったのが町を歩いていると時々出会う怪しい人なんだけど、あれが医院長さんなんだ?」

 見た目は黒いシスター服に仮面ですからね、間違いなく怪しいですよね~。

 

「その医院長さんが?」

「人生よろず相談もしてくれるそうですよ」

 にっこり笑って見せるがメディナの顔はいささか引きつる。

「うさんくさ~~~っ」

「いやいや、馬鹿にしてはいけませんよ。信じられないほどの博識で、都市計画や農業相談にも乗ってもらえるし、街でなにか困った事が有る時は街の人は必ず相談しに行くそうですからねえ」

 要するに町の知恵袋みたいなものである、なんでそんなに博識なのかは100年生きているボクにもわからない。

 

「メディナ行くー、何かいい考えを教えてもらえるかも知れないー」

 その人に相談すればメディナの魔法の事も何か教えてもらえるかも知れないと言って勧めておいた。

 そんな話をしているうちにだいぶ遅くなったので家まで送って行く事にした。

「いえ、そんな事をしたらお母さんたちが驚いちゃうから」

 確かに竜の背中に乗って帰るのは目立ちすぎる。今度は近所から仲間外れにされたらたまらないだろう。 

「大丈夫ですよ、ボクが近くで降ろしてあげますから、僕なら目立ちませんからね」

「お兄ちゃ〜ん、お願〜い」

 お兄ちゃんがメディナを抱きかかえるとカロロがコタロウの頭にしがみ付き、家の近くの林の中まで飛んで行ってそこで下ろした。

 

「誰にも見られていないと思います、気をつけてお帰りなさい」

「ありがとう、それじゃカロロちゃん明日学校でね」

「メディナー、元気になるー」

「学校ではカロロと仲良くしてあげてくださいね、カロロもそのほうがうれしいですから」

「うん、カロロちゃんとはうんと仲良くする」

 

「カロロ、メディナと仲良しー」

 その声を背に受けてメディナは家に向かって跳ねて行った。早く元気になってほしいとボクは思った。


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